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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

2022年の建設スタートアップトレンド

昨年2月、IDATEN Venturesから「2021年以降の建設スタートアップトレンド」というブログを公開し、日本と世界の建設スタートアップのトレンドをそれぞれご紹介しました。


あれから1年以上経過しましたので、情報をアップデートしたいと思います。今回は、IDATEN Venturesが毎週公開している「ものづくり・ものはこび系資金調達関連ニュース」を参考に、2022年に入ってから資金調達を実施した建設スタートアップをピックアップし、どのようなトレンドがあるのか考察してみることにしました。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/建設現場-労働者-建設労働者-4686908/)



まず、2022年1月〜3月に資金調達を実施した建設スタートアップを「ものづくり・ものはこび系資金調達関連ニュース」の中から27社リストアップし、ビジネスモデルごとに簡易的にグループ分けを行いました。


そのうえで、それぞれのスタートアップについて、地域、創業年、累積資金調達額、マクロトレンドや解決しようとしている課題、そして事業内容をご紹介します。


なお、大きなトレンドを掴みやすいようにグループ分けは行いますが、それぞれのグループにまたがるような場合も、同じグループ内でも違う課題を解決しようとしている場合もありますので、あくまで目安程度にお考えいただければ幸いです。



フィンテック系


Flashtract
  • 地域 アメリカ

  • 創業年 2018年

  • 累計資金調達額 ​​1,500万ドル(≒17億円)

  • マクロトレンド、課題 建設業界では、請求・支払い業務がスプレッドシートと小切手で行われるケースが多く、支払いの計算ミスや遅延が発生している。多重下請け構造ゆえに、受発注・支払いの書類管理・納期管理が煩雑になりがち。

  • 事業内容 請負業者の請求・支払いのプロセスを簡素化するクラウドソフトウェアを提供する。顧客はFlashtractを用いて、決済・先取特権放棄管理・書類管理を行うことができる。 2020年1月にサービス提供を開始し、Flashtract上で申請される請求額が2021年には対前年比300%で増加しているとか。


Curbio
  • 地域 アメリカ

  • 創業年 2017年

  • 累計資金調達額 1億ドル(≒120億円)

  • マクロトレンド、課題 アメリカの住宅の80%以上は15年以上前に建てられたものである一方、新規住宅購入希望者の半数以上が、モダンなレイアウトとデザインを求めるミレニアル世代。また、デザインだけでなく、環境を意識したエネルギー効率の良い住宅が中古住宅市場で高く評価される傾向がある。

  • 事業内容 住宅所有者が自宅を売却する時、住宅が市場から高く評価されるための改築を支援するサービス。Curbioは、バスルームやキッチンのリフォーム、エネルギー効率を意識した住宅機器の導入等、市場で評価される住宅にするための改修資金を住宅所有者に提供し、住宅が売れた時に対価を受け取る仕組みを構築。 顧客がCurbioに問い合わせると、Curbioのスタッフが3次元カメラで家のデジタルデータを取得し、独自のソフトウェアを用いて最適なリフォーム提案と見積もりを数日以内に算出する。実際に売却が完了するまでCurbioや請負業者には売上が入らないため、全ステークホルダーが早くプロジェクトを完了させるインセンティブ構造を作っている。Curbioの利用者は、平均して販売価格が20%上昇し、リフォーム期間が50%短縮されているとのこと。


Cosuno

KP technologies
  • 地域 日本

  • 創業年 2020年

  • 累計資金調達額 5,000万円

  • マクロトレンド、課題 日本では、労働人口の減少に加えて、2024年に施行される働き方改革法案、電子帳簿保存法等、建設業を取り巻く規制が強化されている。

  • 事業内容 KP Technologiesは、契約・受発注・請求等、建設取引に特化したクラウドソフトを提供する。デジタルをベースとしたやりとりに移行することで、取引書類・業務の標準化と効率化を図る。


CoFi

Handle


デジタルツイン・BIM系


PassiveLogic

SiteAware
  • 地域 イスラエル

  • 創業年 2015年

  • 累計資金調達額 2,600万ドル(≒30億円)

  • マクロトレンド、課題 建設プロジェクトが世界で増加する中、計画通りにプロジェクトを進める必要性が以前にもまして高まっている。

  • 事業内容 SiteAwareは、デジタルツインを活用したDCV(Digital Construction Verification)ソリューションを提供 施工状況を、ドローン・オンサイトカメラ・ロボットが撮影し、ソフトウェアプラットフォームに自動でアップロード。AIがデジタルツインモデルと比較し、計画に対する施工実行状況を管理。同社によると、過去1年間で収益が3倍に増えたとのこと。


迅威

DataLabs


ロボット系


One Build Technology

建ロボテック

Rugged Robotics


デジタルゼネコン系


Homebound

Veev
  • 地域 アメリカ

  • 創業年 2008年

  • 累計資金調達額 5億9,700万ドル(≒650億円)

  • マクロトレンド、課題 同社が中心的に事業展開するアメリカ中西部では住宅不足が続いており、素早く住宅を建設するニーズが高まっている。

  • 事業内容 従来の手段より4倍高速で、低コストで、二酸化炭素排出量がはるかに少ないプレハブ住宅を提供する。 住宅を構成するパネルは、同社が保有する工場で製造され、現地で組み立てられる。また、購入者には住宅をデジタル管理できるソフトウェアも併せて提供され、リアルタイムで住宅の状況が把握できる。



プロジェクト管理系


StructionSite

Eyrus

OpenSpace


マーケットプレイス系


EYT

ArchiPro

Boom & Bucket


その他


ICON

クェスタ
  • 地域 日本

  • 創業年 2012年

  • 累計資金調達額 5,000万円

  • マクロトレンド、課題 大手ゼネコン等ではDX推進専門の部署が設立されるなど業務効率化や安全に対する意識が高まっている。一方、本社で議論・決定された情報が作業員全体に共有されているかどうかは現場に委ねられている。


LEKO Labs

吉工家

3つのトレンド


あくまで簡易的なグループ分けではありますが、27件はビジネスモデルごとに、フィンテック系7件、デジタルツイン・BIM系4件、ロボット系3件、デジタルゼネコン系2件、プロジェクト管理系3件、マーケットプレイス系4件、その他4件に分けられました。


こうしたアプローチの課題提起として通底するトレンドを3つ挙げるとすれば、①請負業者のキャッシュフローサイクル改善、②住宅建設の高速化、③エネルギー効率向上ではないかと思いました。


①請負業者のキャッシュフローサイクル改善

建設業界は、国を問わず、DSO(売掛金回収期間)が最も長い業界の1つであると言われています。請負業者は、作業員の給与や資材購入のために支払いを行いますが、その費用を投じて実行した工事の対価が支払われるのは、数ヶ月先となります。


建設業界の慣習として、プロジェクト完了、あるいは工事完了時点で支払いが行われるためです。また、発注元と請負業者との間には多重下請け構造が存在し、元の発注者が支払った資金の循環が遅くなりやすいことも関係しています。


一方、金融機関も小〜中規模で経営が安定しづらい請負業者に対する融資は回避する傾向があり、請負業者の中にはキャッシュフローが回らず、黒字倒産する企業も少なくありません。


元々DSOが長い傾向にある建設業界ですが、ここ数年アメリカでこの数値が急増しつつあることが注目すべき点かと思います。


こちらのサイトによれば、アメリカの施工業者のDSOは、2019年が38日だったところから、2020年51日、2021年83日と、急速に増加しています。

(Source: https://www.readyratios.com/sec/industry/15/)



DSO増加の背景として考えられるのが、アメリカで起きている住宅不足です。日本総研から公開されている以下4つのグラフをご覧いただくと2021年半ばごろから住宅需要が伸び始めていることが窺えます。

(Source: https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/research/pdf/13129.pdf)


直接的な因果関係に言及している記事や論文を見つけることはできなかったのですが、住宅需要とDSOの間には、相関性があると考えられます。住宅需要が増えても、施工開始〜完工のリードタイムが大幅に削減されることはない一方、複数プロジェクトを掛け持ちすれば先行支出が増える可能性があるからです。



2022年1〜3月に、資金繰りの改善を支援する建設スタートアップが続々と資金調達を成功させたのは、こうした背景と関係があると考えられます。


請負業者のプロジェクト進捗をデジタルツールを用いて可視化し、金融機関や発注者にリアルタイムで情報共有を実施。これによって、金融機関の融資を円滑にしたり、発注元からの資金回収を早めたりしています。進捗管理のスピードや精度を高めるために、ドローン・ロボット・AI等、テクノロジーが活用されています。


②住宅建設の高速化

住宅需要の増加に対応するため、既存の業者をエンパワーするアプローチもある一方で、自らがゼネコンとして「既存のゼネコンより早く安く住宅を提供しようとする」という動きを見せるスタートアップもあります。


土地探しから住宅完工までのプロジェクト管理を全てデジタル上で進めるデジタルゼネコンスタートアップ、3Dプリンターを用いて住宅を高速で建築するスタートアップ等が、こうしたアプローチをとっています。


③エネルギー効率向上

もう1つの大きなトレンドが、建築物のエネルギー効率向上に対する意識の高まりです。BIMやデジタルツインを活用し、どのような素材を使い、どのような構造にすると、エネルギー効率が向上するのかをシミュレーションする動きが進んでいます。例えば、これまで鉄骨とコンクリートを用いていた部材を木材に変更しようとすれば、構造強度計算も変わってきます。また、断熱性・気流等も計算前提が変わるため、変数が多くなり、コンピューターシミュレーションの果たす役割が大きくなります。



なお、こうしたトレンドは、それぞれが有機的に絡み合っています。例えば、フィンテック系のところでご紹介したCurbioは、環境意識・デザイン意識の高いミレニアル世代が望む住宅と、それ以上の世代が保有する既存住宅のギャップに注目し、デジタルを活用したファイナンス支援を行っていますが、まさに複数トレンドの交差点に位置付けられるようなサービスだと思います。



今回はこれで以上になります。2022年の建設スタートアップのトレンドを探る、という趣旨で調べてみましたが、まだ2022年の終わりまで半年以上ありますので、引き続き最新の動きを追っていきたいと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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