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  • Shingo Sakamoto

注目の製造業×見積もり領域のスタートアップ:Paperless Parts

近年、製造業×見積もりの領域では、サービスが次々と誕生しています。例えばこちらの記事では、CADDi、Meviy、Kabuku MMS、TerminalQというサービスが紹介されています。また、インターネット検索すると他にも、Orizuru 3Dぱっと見積比較ビズ、のようなサービスがヒットします。こうしたサービスは、顧客ターゲットが発注側か受注側か、見積もりに必要な情報がCAD図面だけでよいか、あるいはより細かなインプットが必要か等の違いはありますが、いずれにせよ、製造業×見積もりサービスには注目が集まっているようです。


これまでIDATEN Venturesでは、販売方法が売り切り・レンタルであるかを問わず、B2Bの受発注に関連するスタートアップの調査をいくつか行ってきました(金属材料マーケットプレイス加工委託のXometry重機販売のMachinery Partner高所作業車レンタルのZhogneng United、etc)。こういったスタートアップを調べていくと、B2Bの受発注領域において、見積もりを起点に巨大なプラットフォームを構築していくパターンが多い、という傾向があるように思います。ブログでピックアップした上記のスタートアップ以外にも、世界のB2B受発注スタートアップには、見積もりの精度・スピードを上げることで初期のトラクションを生み、そこからさまざまな経営支援につなげているケースがいくつもあります。


そんな中、2021年9月にシリーズBラウンドという位置付けで、Paperless Partsというアメリカのスタートアップが、3,000万ドル(≒35億円)の資金調達を成功させたというニュースが目に入りました。2017年創業のPaperless Partsは、まさに製造業×見積もりの領域で事業展開しており、ホームページでは「The Most Advanced Estimating & Quoting Software For Manufacturing」と謳っています。


今回は、Paperless Partsが、製造業×見積もり領域で、どんな点においてユニークなのか、見積もりからどのように事業展開しているのか調査を行い、それを通じてものづくりに限らず「見積もり」を起点とするB2Bプラットフォーム戦略に関する考察を行っていこうと思います。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%e4%bc%9a%e8%a8%88%e5%a3%ab-%e4%bc%9a%e8%a8%88-%e9%a1%a7%e5%95%8f-1238598/)


Paperless Partsの機能

Paperless Partsは、2017年にアメリカ・ボストンで創業されたスタートアップです。中小カスタム受注製造事業者、小ロット試作事業者、契約製造事業者を主な顧客として、クラウドベースの見積もりプラットフォームを提供しています。いずれの顧客層にとっても、見積もりは手間と時間がかかり、かつ誤って算出した時の損失が大きい作業です。Paperless Partsは、見積もり算出時間の削減・見積もり精度の担保をベース価値として顧客に訴求しつつ、それにとどまらない経営改善機能を提供しています。


以下、Paperless Partsの見積もりプラットフォームで利用できる機能をご紹介します。

  • 2D&3D CADファイルビューワー 元のCADソフトのライセンス料を支払わずに、スマートフォン・タブレット・パソコン等のあらゆるデバイスから、2D・3DのCADファイルを見ることができます。

  • 過去に生産した部品の検索とマッチング 図面を解析し、過去に製造した部品あるいは類似部品の索引を行います。これは、重複した見積もり作業を減らすことが目的です。この点、過去の履歴がデジタル保存されずに、熟練者の頭の中や、紙の状態で倉庫に眠っていたりすると、遠い昔に行った見積もりを繰り返すという無駄な作業が生じ得ます

  • カスタム設定可能な価格算出エンジン 恐らく、この機能がPaperless Partsにとってのコアバリューとなる部分です。当然ながら、同じ部品でも製造事業者ごとに見積もり額は異なります。それぞれの事業者が保有する設備、製造プロセスに応じた見積もり額が算出されるよう、算出アルゴリズムが組まれています。そして、そのカスタマイズは製造事業者側で簡単にできるようになっているようです。

  • 製造に関する事前のイシュー検出 Paperless Partsのアルゴリズムが、CAD図面の解析および製造工程別(CNC機械加工、板金加工、積層造形など)のシミュレーションを行います。この際、製造事業者にとって製造が「難しい」ポイントを検出します。例えば、穴が特別に深い、角が通常よりも鋭角である、等のケースです。ちなみに、この「難しい」という基準は事業者によってまちまちであるため、カスタマイズ設定できるようになっています。

  • 発注者管理 発注者ごとに、製造事業者が過去に提示した見積もり額、そして実際の受注額に関するデータを一元管理します。これは見積もりに基づいたCRM(Customer Relationship Management)になります。 見積もりの送信後、プラットフォーム上で顧客が見積もりを閲覧したか確認することができます。セールスチームは、即座にフォローアップを行い、受注までのリードタイムを管理します。

  • デジタル完結の決済フロー 発注側にとって、見積もりの閲覧、部品の3Dプレビュー、注文書の送付までのフローは全てデジタルで完結しています。よくあるのは、メールに見積書と3DイメージのPDFが添付されており、それを確認してから発注書をエクセルで作成し、またメールで送る、というプロセスですが、これらが全てプラットフォーム上で行われます。

  • コラボレーションとコミュニケーション 部品の製造にあたって、注意すべきポイントを図面上でハイライトし、コメントを書き加えることができます。この点、以前執筆したハードウェア設計コラボレーションソフトに通じるところがあります。興味深いのは、受発注という「発注者」↔️「受注者」のやりとりの場が、シームレスに製造事業者内のコミュニケーションの場につながっている点です。製造にあたってのボトルネック発見と、タスクアサインまでを同じプラットフォーム上で実施できます。

  • ダイナミックプライシング これも面白い機能です。先ほど、同じ部品でも製造事業者によって見積もり額は異なると書きましたが、同じ部品×同じ製造事業者でも「事情によって見積もり額が異なる」という事態が起こり得ます。 このダイナミックプライシングには、変数が多く関係しています。例えば、過去に提示した見積もり額で受注に成功した比率、どんな部品であれば受注に成功しやすいのか、いまは繁忙期なのか閑散期なのか、など経営上のさまざまな事情を考慮して見積もり額を提示する必要があります。


見積もりにまつわる大きな課題が、「算出に時間がかかる」のに「失注リスクがある」というものです。この課題に対する解決策の1つとして、マッチングプラットフォームの運営側が発注を一括集約し、最適と思われる受注先に分散発注していく、というアプローチがあります。まさに、以前ご紹介したXometryはそういったアプローチを採用しています。一方、Paperless Partsは、注文の集約・分散機能は持たず、受注側の見積もり業務を改善することにフォーカスしてプロダクトをつくっている点が特徴的です。


価格体系とプラットフォーム価値

Paperless Partsは見積もりソフトウェアを他システムと連携させることで、見積もりを基軸にした経営改善プラットフォームとしての地位を確立しようとしています。


ホームページを見ると、2022年2月時点で17種類のシステムとAPI連携できるようになっています。製造スケジューリング、管理会計システム、在庫管理システム、サプライチェーン管理、メールマーケティング、フルフィルメントサービスなど、製造事業者の「顧客をみつける」「つくる」「とどける」という一連の企業活動を支えようとしています



価格体系については、Growthプランが月300ドル(≒3万円)、Professionalプランが月750ドル(≒8万円)、Enterpriseプランが要問い合わせです。


Growthプランは、他システムとのAPI連携が使用できない、製造に関する事前のイシュー検出ができない、など一部機能が制限されています。Professionalプランは専属のカスタマーサクセスがつかない、KPIアナリティクスが見られないなど、依然として一部機能制限はありますが、API連携は利用できるため、中規模の企業にとっては十分かもしれません。Enterpriseプランは、全ての機能を使うことができます。


日本では、もちろんPaperless Partsと実装機能は少し違いますが、月井精密という企業が提供している「TerminalQ」というサービスがあります。Paperless Partsに似ているのですが、価格はPaperless PartsのGrowthプランの1/6で基本使用料金は月額5,000円です。


日本と海外では、もちろん商習慣が異なるケースもありますが、製造業×見積もりで顧客が感じている課題としては、一定の共通性がありそうです。そんな中、なぜ価格設定に差が生じているのでしょうか。


少し気になってアメリカと日本の「中小製造業」の数にどれくらい差があるのか、調べてみました。2010年のJETROの資料を参考にしていますが、2022年現在とはかなり数値が変わっている可能性がありますので、その点はご了承ください。資料内では「アメリカの中小製造業」は従業員数500名以下、「日本の中小製造業」は従業員数300名以下、と定義されています。


資料によると、アメリカの中小企業2,800万社のうち、製造業の比率は4.7%で、約132万社。一方、日本の中小企業はアメリカの1/7である約400万社で、製造業比率は10.1%なので、約40万社アメリカの方が約3.3倍多いことになります


ここから、1つの仮説として、「中小企業の数が多く、競争が激しいため、見積もりの算出負荷や失注リスクが大きいため、同じ課題でも"深さ"が深い」ということが考えられます。



「中小製造業」と括るにはあまりにも多種多様な企業が存在していますが、そういった複雑性を無視して、日本でアメリカと同じように中小製造業者向け見積もりサービスをそれぞれの国内で展開しようと考えると、TAMに約3.3倍の差があることになります。この差を埋めようとすると、単価を上げるか、あるいは日本の外に出て顧客獲得していくことが必要になりそうです。もちろん海外展開も重要な戦略の1つですが、まずは見積もりを起点に顧客の懐に入り込み、どこまで単価を上げられるのか(=顧客がお金を払って解決したいと感じている課題の深さ)を深ぼってみることが重要なのかもしれない、と感じました。



製造業に限らず、見積もりのDXがB2B受発注の鍵

今回は、作り手の見積もり支援、というところにフォーカスしたPaperless Partsを調査してみました。


一物一価(=誰が、いつ、どこで、どれくらい買っても、価格がおよそ同じ)の世界では見積もりの必要性はそれほどないかもしれませんが、一物多価(=誰が、いつ、どこで、どれくらい買うかによって、価格が変動する)の世界では、最終的にどこに発注すべきか判断するために、相見積もりを行うケースが多くなります。発注側の立場に立ってみるとこれは当然で、早く、安く、高品質なものを手に入れたいと思うからです。


これは今回ご紹介した製造業に限らず、IDATENが製造業と並んで注力領域とする建設業・物流業でも同じことが言えます。この建設工事をいくらで請け負ってくれるのか、この建設機械を1ヶ月レンタルするとしたらいくらで貸してくれるのか、この荷物をいくらで目的地まで運んでくれるのか、発注者はできる限り早く知りたいでしょう。


一方で、Paperless Partsの機能にもあった通り、受注側で「最適な見積もり」を算出するのは、非常に難しい作業です。そもそも受注側にとって、顧客・市況・経営状況によって「最適な見積もり」が変わり得るからです。


受注生産となりやすいビジネス(例えば、航空機・船舶の製造、注文住宅の建築、etc)は特に、見積もり業務のDXが今後ますます求められていくと思われます。今後、「つくる」「はこぶ」に関わるような領域で、見積もりを軸とするプラットフォームの展開を考えていらっしゃる方は、ご連絡いただければと思います。今回の記事が、見積もり×〇〇領域のビジネスの参考になれば幸いです。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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