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  • Shingo Sakamoto

重機のマーケットプレイスについて:Machinery Partnerを参考に

ここ数ヶ月、マーケットプレイスを運営するスタートアップの資金調達を多く目にしている気がします。IDATEN Venturesで追いかけている海外資金調達ニュース(Facebookをフォローいただけると毎月逃さずチェックいただけます!)で追っている範囲だけでも、以下のスタートアップが資金調達を行っています。


【7月】

・Vanilla Steel:金属材料(ドイツ)

・PartsSource:医療機器・メンテナンス部品(アメリカ)


【8月】(前半のみ)

・Infra.Market:建設資材(インド)

・Refurbed:再生電子機器(オーストリア)

・Knowde:化学品(アメリカ)

・XpertSea:養殖エビ(カナダ)

・Machinery Partner:重機(アメリカ)


パッと見ると、扱っているモノもバラバラ、国もバラバラです。一方で、(なんとなくですが、)自分が需要側として調達しようとすると、「あれ、どこから、どんな風に買ったり借りたりすればいいんだっけ...?」「この業者から購入して、割高じゃないかな...?」と疑問を持ってしまいそうな領域という共通性がある気もします。各地に分散した卸業者やディーラーが情報を握っており、エンドユーザーからすると、バリューチェーンが不透明に見える、という特徴があるかもしれません。


また、最近はマーケットプレイスが増えすぎて、逆に「何が差別化要素になるのか?」という点が気になります。同じテーマのマーケットプレイスが乱立すれば、リアルな世界で乱立するディーラーや卸業者がインターネット上に移動するだけで、エンドユーザーは「どのマーケットプレイスを使うのがいいんだっけ...?」と迷ってしまいます。


そんな疑問を持ちつつ、マーケットプレイスビジネスに関する自分の勉強がてら、今回は、上記の中で特に気になった重機のマーケットプレイス「Machinery Partner」について調べてみます。まだ日本語での情報はほとんどなさそうなので、この領域に興味を持っていらっしゃる方の参考にもなれば幸いです。

(Source: https://pixabay.com/photos/machine-industry-heavy-equipment-3023887/)



Machinery Partnerの概要

Machiner Partnerは、2018年にアメリカ・ボストンで創業された企業です。企業のステージとしては、冒頭に挙げた450万ドル(≒5億円)のシードラウンドを2021年8月に終えた状態です。その前には、プレシードラウンドとして、2020年11月に資金調達を行っています(金額不明)。


シードラウンドでリードインベスターを務めたのは、One Way Venturesという2017年に創業されたベンチャーキャピタルです。One Way Venturesは、移民の創業者に特化してスタートアップ投資を行っているのが特徴です。Machinery Partnerは、現CEOであるCiaran Gillenがアイルランドで設立し、ボストンに本社を移転する形でOne Way Venturesの出資を受けています。ちなみに、共同創業者であるClement Cazalotは、プレシードラウンドでMachinery Partnerに出資しているTechstars Bostonの元マネージングディレクターです。


ビジネスモデル

Machinery Partnerは、中小企業がオンラインでメーカーから直接重機を購入できるマーケットプレイスを運営しています。


シード資金調達時のニュースによれば、CEOであるGillen氏は「現在の中小企業向けの重機調達モデルは壊れていると言っても過言ではありません。... ディーラーネットワーク、サービス、リース、ファイナンスなど、経済を支える中小企業にとっては、すべてが難しく、コストがかかり、効率が悪いものになっています。私たちは、米国および世界中の中小企業のために、重機へのアクセスを民主化することを使命としています」と述べています。


製品ラインナップは、バケットクラッシャー(粉砕機)、スクリーナー(岩石・コンクリートなどの選別機)、コンベア、フィーダー(粉粒体の供給機)、ブレーカー(ショベルの先端につけて岩盤掘削や、建造物解体に必要なアタッチメント)など、細かい分類も合わせると約20種類から構成されています。

(Source: https://www.machinerypartner.com/)



サイトの構成はかなりシンプルで、サイトを開いて、製品の中から希望するものを選び、会社情報を入力して、サイト運営者に問い合わせることになります。

(Source: https://www.machinerypartner.com/)


ある意味マーケットプレイスとしては「普通」のビジネスモデルで、インターネットを使えば誰でもできそうなビジネスに思えます。いったい何が差別化要素になるのか、と疑問が湧きます。もう少し調べてみると、単なるマッチングではない、サービス設計が浮かび上がってきます。




重機調達の課題とソリューション

まず、アメリカにおける重機調達においては、何がそれほど課題なのでしょうか。


これまでアメリカでは、中小規模の建設関連業者は、重機ディーラーのところへ行き、在庫状況に応じて購入していたそうです。もしその場でいいものがなければその日は諦めたり、違うディーラーの元に足を運んだり、スムーズな購入が難しかったと言います。


また、欲しい重機が見つかったとしても、高価な重機を一括で購入することは難しく、多くの業者が金融機関から融資を受けることになります。中小業者の場合、所有資産や過去の決算成績が十分でなく、高い金利を設定されてしまうことがペインになっていました。そこで、Machinery Partnerのチームは、重機を活用した事業の将来性を、競合分析・経営者の経験を含むさまざまな観点から分析し、提携する金融機関に情報を提供することで、低金利融資を獲得するサポートを行ってくれるようです。これが、Machinery Partnerのユニークなポイントの1つである、顧客の資金調達支援です。これによって、Machinery Partnerは、顧客が次に重機購入するときに当サービスを利用するインセンティブを生み出しています。


もう1つのユニークなポイントがIoTサービスです。市場で販売されている重機は、必ずしもセンサーなどのIoT機能が搭載されておらず、仮にそういった重機があっても、最初から組み込まれているものは高価である場合が多いようです。Machinery Partnerは、中小業者のニーズに応じて、後付けのIoTセンサーを提供し、加えて重機パフォーマンスをリアルタイムで管理できるダッシュボード型のSaaSを使えるようにしています。これによって、Machinery Partnerは顧客と継続的に接するタッチポイントを創り出し、重機のライフサイクルを把握することができるようになります。


繰り返しになりますが、ホームページだけ見ると単なる重機購入のマッチングにしか見えませんが、導入検討から運用開始までのサービスがきめ細かい点が印象的です。


まだシードラウンドを実施した段階で、あまり情報が多くありませんが、こちらのサイトによれば、サービス開始からわずか半年で売上が100万ドル(≒1億円)を突破しています。



マーケットにおける強み

どうやらMachinery Partnerが持つポテンシャルには、前章でご紹介したようなサービス設計だけでなく、創業者やロケーションも関係しているようです。


CEOのGillen氏は、Machinery Service創業以前、重機業界で働いた経験を持っています。例えば、前職のAnaconda Equipmentは、まさにMachinery Partnerが扱うクラッシャーやスクリーナーの設計・開発・製造を行うイギリスの企業です。さらに、その前はRiverside Machineryという重機メーカーで、セールス・マーケティングの責任者を担っています。


グローバル規模のセールスに関わる中で、Gillen氏は、「ディーラーが、重機のライフサイクルを考慮せずに、販売して終わりになってしまっている」ことに危機感を持ったそうです。そこで、調達の前から顧客に寄り添って(=資金調達支援)、重機のライフサイクル全体を通して顧客と付き合うことのできる(=IoT利用によるライフサイクル把握)ビジネスモデルを考え、行き着いたのがいまのMachinery Partnerです。


また、創業の地であるアイルランドに拠点を持っていることも、強みとして挙げられます。こちらの記事によると、世界で稼働するクラッシャーやスクリーナーなどの重機は、約70%がアイルランドで製造されているそうです。確かに、アイルランドは世界でも有数の鉱業国家であり、鉛・亜鉛などの採掘は欧州最大規模。そういった背景もあり、そもそも移動式スクリーナーの発祥地はアイルランドであり、世界中の鉱山でアイルランド産の鉱山機械が稼働しているというレポートもあります。


マーケットプレイスの片側であるサプライヤー(重機メーカー)との関係構築において強みを持ちつつ、もう片側である中小規模の業者とも継続的な関係を築く、ということを心がけているようです。



類似サービスと成長の鍵について

世の中にはこういった建機(および重機)のマーケットプレイスやECがいくつもあります。例えば、レンタルという切り口では、以前IDATENブログでもご紹介した中国のZhongeng Unitedは巨大プラットフォーマーになっていますし、中古品売買では、日本のSORABITOが運営するALLSTOCKERもあります。ちなみに、日本発ではKENKEYという会社も、BIGLEMONという中古建機マーケットプレイスを展開していたり、2017年創業のGROWTH POWERという会社も類似サービスを運営していたり、このあたりはちょっと混み合ってきた印象です。


新品・中古どちらも扱うマーケットプレイスもあり、中東・アフリカ地域で最近大きくなり始めているのが、Plant&Equipmentというドバイ発のスタートアップです。それ以外の地域でも、地域に特化してマーケットプレイスを運営する企業がかなりの数あります。


こういったマーケットプレイスが差別化を図る場合、「地域」「顧客層」「新品 / 中古」「品種」などの観点でフォーカスし、強みを出していくことが一般的です。例えば、今回ご紹介したMachinery Partnerは、「アメリカ(サプライヤーは主にアイルランド)」「中小事業者」「新品」「クラッシャー・スクリーナー他」というフォーカスで差別化を図っています。一口に建機・重機といっても、品種によってサプライヤーの数が多い国も異なり、いかに他社と被らないようにマーケットを見つけ、サプライヤー・ユーザーと関係を作っていくかが重要になります。


もう1点、決定的に重要だと感じるのが、マーケットプレイスが増えてくる中で、もはや「取引機会の拡大」だけでは、インパクトの大きい価値を顧客に提供できにくくなっている、ということです。マーケットプレイスの場合は、売り手・買い手、あるいは貸し手・借り手の困りごとを総合的かつ継続的に解決できるようなサービスプラットフォームが成長を続けると思われます。その一例が、Machinery Partnerがやっているような資金調達面のサポート、購入後の運用サポート(ライフサイクル管理)になります。さらに、その先にあると考えられる、重機を利用した工事案件の獲得サポートや、中古品の売却・レンタルサポートなど、経営全体の改善につながるサービスをいかに増やしていけるかが、成長の鍵になるのではないでしょうか。



最後になりますが、マーケットプレイスで扱うものによっては、輸送が重要課題の1つになります。標準的なダンボールに入れて輸送できるものであれば問題になりませんが、例えば、重量が非常に大きい特殊な重機、温度管理が厳格な食品・薬品、爆発リスクのあるもの等は、運び手が限定されたり、輸送許可申請が必要になったりすることがあります。あらゆるものがマーケットプレイスやECで売買されるような時代を見据えて、「特別な輸送」の効率化が重要になりそうです。このテーマについては、またどこかで執筆してみたいと思います。


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