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  • Shingo Sakamoto

止まらない電動化の波:船舶の電動化とスタートアップ

近年、世界で急速にさまざまなビークルの「電動化」が進行しています。まず、その代表例がEV(Electric Vehicle)です。2021年3月にIDATEN Venturesから、注目のグローバルEVスタートアップをリストアップしたブログを公開しましたが、そのリスト更新が間に合わないほどのスピード感で新たなEVメーカーが増えているように思います。


東京電力が公表しているレポートによると、世界全体のPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、外部から充電可能なバッテリーを主動力源とするハイブリッド自動車)とBEV(Battery Electric Vehicle、バッテリーだけを動力源とする自動車)を合わせたEVの保有台数は、グローバルで2018年に約500万台、2019年に約700万台だったところから、2020年には1000万台を超える水準まで成長しています。さらに、こちらのレポートは、2021年はさらに市場が急成長し、2021年単年で販売台数が800万〜1,000万台となる、と推定しています。

(Source: https://evdays.tepco.co.jp/entry/2021/09/28/000020)



また、人間や物資を電気の力で輸送しようとする動きは地上だけにとどまりません。空の世界にも電動化のトレンドが押し寄せています。その代表例がeVTOL(electric Vertical Takeoff and Landing)です。eVTOLについては、2021年10月にeVTOLの概要やスタートアップの紹介を行う記事を公開したので、もしよろしければご参考ください。


eVTOLは、EVに比べると、まだ私たちの日常生活に近いところまでは浸透してきていませんが、日本を含む各国で法整備や技術革新は進んでおり、ここ数年で大きく花開く市場となるかもしれません。




そんな「電動化」が、陸や空以外でも進みつつあります。それが水上です。ここ最近、船舶の電動化を進めるスタートアップの資金調達が進んでおり、IDATEN Venturesが毎月公表している海外スタートアップ資金調達ニュースの中でも、2021年11月だけで3社がリストアップされています(Arc Boats、Pure Watercraft、ePropulsion Technology)。

今回は、そんな船舶 × 電動化という市場に焦点を当てて調査していきたいと思います。構成としては、なぜ船舶の電動化が求められているのか、電動化のアプローチにはどういったものがあるのか、そして電動化に取り組むスタートアップはどんなところがあるのか、という形で進めていきたいと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%88-%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%E9%81%8B%E6%90%AC-%E5%AE%B9%E5%99%A8-%E8%BC%B8%E9%80%81-4839584/)



なぜ船舶の電動化が求められているのか?

船舶の電動化が進められる背景には、陸(自動車)や空(航空機)と同じように、環境配慮に対する社会的要請が高まっているということが挙げられます。まずは、船舶と環境の関連性をイメージしやすくするため、海運に注目してみましょう。


そもそも海運は、トラックや飛行機といった他の輸送機関に比べて、一度に大量の人間や物資を輸送することができるため、単位あたり(1トンの重量物を1キロメートル輸送する)のCO2排出量が小さいと言われています。

(Source: https://mol.disclosure.site/ja/themes/103)


図の中で最も単位あたりCO2排出量の小さい18,000TEU船(Twenty-foot Equivalent Units、1TEUは20フィートコンテナ1個分)は、CO2排出量がトラックに比べて約1/27、飛行機に比べて約1/145となっています。


一方で、2018年の国際海運によるCO2排出量は約9.2億トンで、世界の全CO2排出量約335億トンの2.7%を占めており、(2016年のデータですが)国際航空輸送の約5.6億トンに比べると、大きな割合となっています。


また、国際海運のCO2排出量は年々増加しています。2018年は約9.2億トンでしたが、2012年には約8.5億トンでした。この背景には、海上荷動き量の増加が関係していると思われます。大陸間の荷動き量を比較した以下の表からは、世界で海上輸送が増えていることが窺えます。

(Source: https://www.jpmac.or.jp/file/1631201289811.pdf)


これからの時代、環境に配慮していきなり荷動きが減るとも考えづらく、長期的に見れば逆に人・物資の動きはさらに増加していくのではないでしょうか。そういう意味では、船舶を電動化してCO2排出量を削減することは、重要な取り組みの1つであると考えられます。


ちなみに、船舶から排出される物質のうち問題視されているのはCO2だけではありません。むしろ船舶の動力機関として用いられることの多いディーゼル機関は、普通自動車に用いられるガソリン機関に比べるとCO2排出量は少なく、代わりにPM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)の排出が問題になります。こちらのサイトに、ディーゼル機関とガソリン機関の違いやメリット・デメリットなどがまとめられているので、ご参考ください。




電動化のアプローチにはどういったものがあるのか?

既存方式の分類

一口に船舶といっても、サイズや用途によって、動力機関は変わってきます。以下の図をご覧ください。

(Source: https://www.edu.kobe-u.ac.jp/gmsc-fukaemaru/data/Koza_Engine1.pdf)


まず、歴史的に、船舶の動力源は蒸気タービン機関から内燃機関への移行が進んできましたが、現在でも多くの巨大なLNG船は蒸気タービン機関を採用しています。この理由としては、外気から侵入する熱と船体運動により貨物(LNG)の一部がボイルオフガスとなって発生し、それをボイラー用の燃料として使用することで無駄を防いでいるためです


小型ボートにはガソリン機関が、そして大型ボート・一般商船にはディーゼル機関が用いられることが多くなります。また、図には旅客船にガスタービン機関が用いられると書いてありますが、この場合、ガスタービンで直接プロペラを回転させる方式と、ガスタービンを用いて発電した電力でプロペラモーターを駆動させる方式があるようです。


最後に、大型旅客船は、上記のガスタービンと発電機の組み合わせに似ていますが、ディーゼル機関で駆動した電気モーターで、「ポッド」と呼ばれるプロペラを回転させる方式が多いようです。ポッドを用いることによって、主機関からプロペラまでの推進軸が不要となり機関室設計の自由度が増す、騒音が減少するなど、旅客船に適した利点をいくつか得ることができます


電動化の種類

こうしてみると、「船舶の電動化」という言葉だけでは、「どういった電動化を指しているのかわからない」場合があると思います。


例えば、バッテリーを用いずとも、内燃機関が駆動する発電機から電力を取り出し、その電力でプロペラを回すのも、1つの「電動化」です。あるいはバッテリーを用いる場合、自動車の世界では、ハイブリッド式(内燃機関を利用した充電や、減速時の回生ブレーキなどを利用した充電しかできない)、プラグインハイブリッド式(外部電源からの充電が可能なハイブリッド式)、純電気式(バッテリーだけで走行する)の3つに分かれますが、船舶も同じように分類できます。


2017年のレポートになりますが、世界でバッテリーが用いられている船舶のうち、60%がハイブリッド式、21%がプラグインハイブリッド式、そして19%が純電気式となっています。

(Source: https://www.jstra.jp/html/PDF/research2017_02.pdf)





船舶と自動車の電動化は同じ分類ができる一方で、こちらの論文では、必ずしも自動車と同じ論理で船舶の電動化を議論できるわけでもないという指摘がされています。例えば、船舶は航行中に大きな密度を持つ水の抵抗を受けるため、常に多くのエネルギーを必要とします。また、自動車とは違い、船舶はアクセルとブレーキを繰り返すことが少ないため、ブレーキによって回生エネルギーとして取り出せる電力がほとんどありません


こうした特性もあり、現段階ではバッテリーを主電源とする船舶は、内航船や小型船など、航続距離が短い、あるいは貨物重量が小さい用途が主流となっているようです。先ほど、船舶の電動化が求められている背景として国際海運が環境に与える影響を例に出しましたが、こういった技術的なネックもあり、外航船・大型船で純電気式を採用するのは、いまのところ現実的ではないようです。ドイツや韓国では、外航船・大型船には、アンモニア燃料エンジンを用いる、という方向性で研究開発が進められています




電動化に取り組むスタートアップのご紹介


ここまで、船舶の既存の動力源や、電動化のアプローチなどを見てきました。この章では、そういった背景がある中で、どのようなスタートアップが、船舶の電動化に取り組んでいるのかをご紹介します。2021年11月に資金調達したスタートアップから、船舶の電動化に取り組む企業を3社挙げてみます。


Arc Boats

Arc Boatsは、2021年にアメリカで創業されたスタートアップです。「Arc One」という純電気式の電動ボートを開発しています。ホームページによると、ボートはアルミニウム製で、最高時速約65km、3〜5時間航行可能。価格は30万ドル(≒3,500万円)で、2022年春頃納品予定となっています。


Arc Boats 共同創業者の1人であるCook氏、およびエンジニアメンバーの多くはSpace Xの出身であり、バッテリーの種類・容量に最適な船体を設計する技術に強みを持っているそうです。また、高電圧のバッテリーシステム自体も独自開発しており、長い航行距離を実現できていると紹介されています。こちらの推進システムの出力は約350kWです。


Arc Boatsは、現時点ではまだ創業1年未満でありながら、すでに累計3,000万ドル(≒35億円)の調達に成功しています。シードラウンドでリード投資家となったのは、著名なベンチャーキャピタルの1つであるa16zで、著名なエンジェル投資家も株主として参画しています。


Pure Watercraft

Pure Watercraftは、2011年にアメリカで創業された企業です。純電気式のボート、および純電気式の船外機システムを開発・販売しています。


代表的なプロダクトの1つである「RIB Classic Deluxe 380」は、時速40kmで最大70km航行可能なボートです。25kWの出力を持つ電動船外機システムが付いており、価格は2万9,000ドル(≒300万円)。また、電動船外機システム単体でも販売しており、同じく25kWの出力で、価格は1万6,500ドル(≒180万円)です。Arc Oneに比べると、出力の大きさはおよそ1/15程度ということになります。


crunchbaseによると、同社は創業から9年経過した2020年にシリーズAラウンドという形でL37 Venture Partnersから総額3,800万ドル(≒40億円)を調達し、2021年11月にGeneral Motorsから資金調達を実施しました。自動車メーカーであるGeneral Motorsが株主として参画している点は興味深いところですが、General Motorsは2021年1月にeVTOLのコンセプトも発表しており、陸・空に続いて水上の電動化にも熱心に取り組んでいるようです。


ePropulsion Technology

ePropulsion Technologyは、2012年に中国で創業されたスタートアップです。ボート用の純電気式船外機システムを開発しています。


2018年に1,000万ドル(≒1億円)を調達し、その3年後となる2021年11月にシリーズBラウンドという位置付けで、資金調達を実施しています。シリーズBラウンドで調達した金額規模は数十億円と言われています


シリーズBラウンドの資金調達ニュースによれば、ePropulsionはすでに1万2,000台以上の船外機システムを販売し、年次150%以上の売上高成長率を達成しているようです。


ホームページを見る限り、最も大きい出力でも約7kWで、多くとも数人乗りの小型ボートを対象としているようです。



ここで、Pure Watercraftや、ePropulsion Technologyが取り組んでいる船外機システムの市場規模について、少し見ておきます。日本マリン事業協会が出しているレポートによると、船外機の日本国内市場規模は約50億円前後で、スタートアップが参入するには、それほど大きいとは言えないかもしれません。

(Source:https://www.marine-jbia.or.jp/outline/pdf/market-data_a.pdf)


一方、グローバルでは少し状況が異なり、こちらのサイトによれば、船外機システムは2020年に約91億ドル(≒1兆円)の市場規模を持つと言われています。需要を牽引するのは主にアメリカとヨーロッパですが、日本のメーカーは高いシェアを誇っており、世界シェア2位にヤマハ発動機、3位にスズキ、そして4位にトーハツが並びます。これまではガソリン機関の船外機システムが中心でしたが、まさにこの船外機システムでこれから電動化が進んでいくと言われています。ヤマハ発動機も、そういった流れを捉え、2022年春には電動船外機システム「HARMO」を欧州で販売開始する予定のようです。



改めて今回の調査を振り返ると、船舶の電動化は、他ビークルの電動化と同じように考えられる部分と、そうでない部分を分けて把握する必要があると感じました。


例えば、乗用車の場合、国際線飛行機や外航船ほどの長距離を移動することは基本的に少ないと思います。それが故に、一般的に最も環境コストが低いと言われている純電気式に向かって、ガソリン式→ハイブリッド式→プラグインハイブリッド式→純電気式、という移行が今後も段階的に進んでいくのではないかと予想されます。(もちろん、長距離を走行することが前提となる自動車の場合は該当しないケースもあります。)


一方、国際線飛行機や外航船は、その移動距離からして、バッテリーだけで航行に必要なエネルギーをまかなうのは現実的でない場合が多々あります。その場合は、いかに代替燃料(例えば、バイオ燃料、アンモニア燃料等)を活用していくか、が脱炭素の流れでは大事な議論になってきます。そして、飛行機や船舶における純電気式は、当面の間は短距離〜中距離の移動に限られてくると思います。今回ご紹介した船舶電動化スタートアップが「ボート」の電動化に集まっている、というのも納得がいきます。


最後になりますが、今回フォーカスした「電動化」からもう少し視点を広げて「海運のCO2排出量削減」として考えると、船舶の電動化、代替燃料活用の他にも検討すべきことはまだまだありそうです。例えば、一隻あたりの積載率を上げるために配船計画を改善する、そもそも物資の移動距離を減らすようサプライチェーンを再構築する、など。今後も、IDATEN Venturesとして「ものはこび」領域の変革に貢献すべく活動を続けてまいります。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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