2020年に入ってからSPAC(特定目的買収会社)を通じた株式市場への上場が目立つようになりました。SPACがどういったものか、については、IDATEN Venturesとして解説している記事がありますので、こちらをご覧ください。
SPACを通じて上場する企業には、宇宙旅行、スポッツベッティング、デジタルコマースなど、さまざまありますが、この記事では電気自動車(EV)関連に注目してみようと思います。
EV開発、既存車両の電動化、充電ステーション運営など、EV関連事業を行う会社のうち、2020~2021年にSPACを通じて上場を実施した、あるいは計画を発表したところを15社ご紹介します。
EVメーカー、充電ステーションの2つに大別し、それぞれの分類の中で、SPAC上場の実施あるいは計画発表タイミングが古いものから順に記載しています。(こちらの記事は、新たにSPACを通じて上場する企業の情報を随時更新していこうと考えています。)
(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A-%E3%82%AC%E3%82%BD%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%89-2728131/)
EVメーカー(電動化ソリューションを含む)
Nikola
上場時期:2020/06
SPAC:VectolQ Acquisition Corp.
創業者:Trevor Milton
創業年:2015
本社:アリゾナ / アメリカ
水素燃料電池トラックの開発を手がけるEVメーカーです。ゼネラルモーターズと提携しており、独自のバッテリーシステムや水素技術を開発中だと説明していましたが、そこに虚偽があったとして、アナリストらが糾弾し、大きな注目を集めました。
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Fisker
上場時期:2020/10
SPAC:Spartan Energy Acquisition Corp.
創業者:Bernhard Koehler, Henrik Fisker
創業年:2016
本社:カリフォルニア / アメリカ
著名なカーデザイナーであるFisker氏らが創業したEVスタートアップ。Fisker氏は2007年にもFisker Automotiveというハイブリッドカーメーカーを創業しています。モーターやバッテリーなどの基幹部品を外部から調達し、組立もアウトソースするといいます。デザイナーオリエンテッドな会社で、エクステリア・インテリアにこだわりを見せています。車両内部の前方にはインフォテインメント用の大きな液晶パネルがあり、物理的スイッチはほとんど見当たらないとか。
2021年2月24日、台湾の大手電子機器受託生産メーカーであるFoxxconと覚書を結んだと発表しました。Foxxconのグローバルなサプライチェーンと、さまざまな受託生産で培った高いエンジニアリング能力を、Fiskerのデザイン能力に活かす狙いのようです。
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Lordstown Motors
上場時期:2020/10
SPAC: Brown Gibbons Lang & Company
創業者:Steve Burns
創業年:2019
本社:オハイオ / アメリカ
ゼネラルモーターズがオハイオ州ローズタウンで運営していた工場の生産打ち切りを受けて、その工場をまるごと買い取ったBurns氏が創業。同社は、アメリカで新車販売の7割近くを占めると言われるピックアップトラック(後部が荷台になっている自動車)のEV化を手がけています。「エンデュランス」という名を冠したピックアップトラックは、業務用車両として、価格を$450とガソリン車程度に抑え、ターゲットを明確にしながら販売しています。
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Hyliion
上場時期:2020/10
SPAC: Tortoise Acquisition Corp.
創業者:Thomas Healy
創業年:2015
本社:テキサス / アメリカ
トラックの電動パワートレインソリューションを手がけています。創業者のHealy氏は28歳。似たような事業を展開しているXL Fleet(後述)はクラス2~6の軽~中型サイズのトラック電動化を手がけていますが、Hyliionはクラス8の大型トラック向け。新車・中古車ともに搭載可能で、燃費節約・排ガス削減に加え、機械学習によるドライビングエクスペリエンス向上などの効果が得られるといいます。
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XL Fleet
上場時期:2020/12
SPAC: Pivotal Investment Corporation II
創業者:Clay Siegert, Tod Hynes
創業年:2009
本社:マサチューセッツ / アメリカ
マサチューセッツ工科大学の卒業生らによって設立されたEVイネイブラー。フリート車両(法人や政府が所有または賃貸している車両のこと)向けに、包括的な電動化ソリューションを提供。クラス2~6(軽~中型トラック)の車両を後付けでハイブリッド化できるプロダクト群を開発し、脱炭素化に貢献することを謳っています。顧客は地方自治体、大学、そして大手法人など、コンシューマー向けに比べてまとまったロットで販売できるのが強みになります。
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The Lion Electric Company
上場時期:2020/12
SPAC: Northern Genesis Acquisition Corp
創業者:Marc Bédard
創業年:2008
本社:カリフォルニア / アメリカ
中型の都市型EVトラックやバスを開発するカナダ発のEVメーカー。2020年11月時点で、すでに年間生産能力2,500台と言われており、2020年にはニューヨーク市でEVスクールバスの運行実験にも成功しています。Amazonとの契約もあるされており、今回のSPAC上場によって調達した資金で量産体制に入ろうとしていると報じられています。
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Canoo
上場時期:2020/12
SPAC:Hennessy Capital Acquisition
創業者:Richard Kim, Stefan Krause, Ulrich Kranz
創業年:2018
本社:カリフォルニア / アメリカ
EVメーカーのFaraday Futureの幹部だったKrause氏とKranz氏が共同創業。テスラ出身者がLucid Motorsを設立した例といい、EVメーカー出身者が別のEVメーカーを立上げるというケースがいくつか見られます。キャビンの下にバッテリーとEVドライブトレーンを収納するスタイル。2020年2月には現代自動車とEVプラットフォーム開発のパートナー契約を締結しています。
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Arrival
上場時期:Unknown(発表時期:2020/11)
SPAC: CIIG Merger Corp.
創業者:Denis Sverdlov
創業年:2015
本社:ロンドン / イギリス
価格を既存のガソリン車と同等クラスに設定している小型EVメーカー。小型にすることで、搭載するバッテリーの重量を抑え、EV製造コストの大半を占めるバッテリーの比率を抑えるという狙い。組立てに溶接を行わない、塗装の代わりにラッピングを使うなど、製造工程を簡素化する工夫を施し、工場も一般的なカーメーカーに比べるとコンパクトになっているといいます。
2021年3月25日に、NASDAQに上場しました。
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Proterra
上場時期:Unknown(発表時期:2021/01)
SPAC: ArcLight Clean Transition Corp.
創業者:Dale Hill, Ryan Popple
創業年:2004
本社:カリフォルニア / アメリカ
ゼロエミッションの電気バスを開発しているProterra。一回のフル充電で350マイル(約560km)走行することができるという長い航続距離が強み。Proterraにもテスラ出身のエンジニアが在籍するといわれています。同社は、自前で開発するEV車両はもちろん、バッテリー技術に強みを持ち、機械の電動化を支援する事業も展開しています。2021年1月には、日本の重機メーカーであるコマツが、中小型油圧ショベルの電動化に向けて、Proterraからリチウムイオンバッテリーシステムの供給を受ける契約を締結しました。
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Faraday Future
上場時期:Unknown(発表時期:2021/01)
SPAC:Property Solutions Acquisition
創業者:Yueting Jia
創業年:2015
本社:カリフォルニア / アメリカ
テスラを追い抜く、という大胆な目標を掲げて始まったEVスタートアップですが、創業者の自己破産、会社の財務問題など壁にぶつかり、量産モデルは未だに生産されていません。問題が重なっていましたが、今回のSPACを通じて調達する資金によって、電動SUVをデビューさせることを計画していると言われています。
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Lucid Motors
上場時期:Unknown(発表時期:2021/02)
SPAC: Churchill Capital IV Corp.
創業者:Bernard Tse, Sam Weng
創業年:2007
本社:カリフォルニア / アメリカ
Teslaの元副社長Tse氏と、バッテリー開発を行っていたWeng氏が共同創業。ちなみにCTOの方もテスラ出身だそうです。同社は独自開発したコンパクトなEVドライブトレーンを用いて、キャビンスペースを最適化しようとしています。デザイン、美しさ、高級感。こういったコンセプトに積極的に取り組んでいるのが特徴の1つとして挙げられます。
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Xos Inc
上場時期:Unknown(発表時期:2021/02)
SPAC: NextGen Acquisition Corp.
創業者:Dakota Semler, Giordano Sordoni
創業年:2016
本社:カリフォルニア / アメリカ
主に物流における排ガス削減を狙い、商用EVトラックを開発。カリフォルニア州では、2035年までに州内で販売されるトラックの半数を排ガスゼロの車両にする、という排ガス規制が定められており、その流れに素早くキャッチアップしました。
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Sono Motors
上場時期:Unknown(発表時期:2021/03)
SPAC: Unknown
創業者:Jona Christians, Laurin Hahn, Navina Pernsteiner
創業年:2016
本社:ミュンヘン / ドイツ
Sionという電気自動車を開発。ソーラーパネルで発電した電気をバッテリーに供給して走行することができ、またプラグで充電することも可能なようです。1回の充電で158マイル(約250km)走行可能とのこと。
2021年3月半ばに、同社はSPACでの上場を検討していると報じられましたが、一方で従来のIPOも選択肢にあるようです。
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充電ステーション事業を展開する企業
(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A-%E5%85%85%E9%9B%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-3880666/)
EVBox
上場時期:Unknown(発表時期:2020/12)
SPAC: TPG Pace Beneficial Finance Corp.
創業者:Bram van Leur
創業年:2010
本社:アムステルダム / オランダ
オランダ発のEV充電ステーションを展開するEVBoxは、既に北米・欧州を中心に70ヶ国に事業展開。太陽光発電システム会社や充電機メーカーとの事業提携を通じて、展開を加速させています。
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Volta
上場時期:Unknown(発表時期:2021/01)
SPAC: Tortoise Acquisition Corp.
創業者:Christopher Wendel, Michael Menendez, Scott Mercer
創業年:2010
本社:カリフォルニア / アメリカ
VoltaもEV用充電ステーションネットワークを展開。ショッピングセンター・スポーツ施設の駐車場などにステーションを設置し、設置施設側がスポンサーとなります。充電装置のスクリーンに広告を掲載して収入を得るビジネスモデルを採用しています。この広告収入モデルを最初に始めたのがVoltaだと言われています。EVを持つような高所得者に訴求できる広告機会を提供することができるのがウリのようです。
ちなみにVoltaを買収したSPACであるTortoise Acquisition Corp.は、上述したEVメーカーHyliionも買収しており、EVメーカーと充電ステーションどちらも買収したことになります。
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EVgo
上場時期:Unknown(発表時期:2021/01)
SPAC:Climate Change Crisis Real Impact I Acquisition Corporation
創業者:Unknown
創業年:2010
本社:カリフォルニア / アメリカ
米国を中心に事業展開。EVの普及をさらに進めるためには全米に少なくとも50万台の充電器を設置する必要があると言われており、同社もステーションの拡大を急いでいます。
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Coulomb Technologies
上場時期:Unknown(発表時期:2021/02)
SPAC:Switchback Energy Acquisition Corporation
創業者:Dave Baxter, Harjinder S. Bhade, Milton T. Tormey, Praveen Mandal, Richard Lowenthal
創業年:2007
本社:カリフォルニア / アメリカ
ChargePointという充電ステーションネットワークを展開しています。同社は既に合計11万個以上の充電ポートを設置する米国・欧州にとどまらず、中東・アフリカへの拡大も計画していると言われています。
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2020~2021年にSPAC上場を実施(計画発表)した15社を眺めてみると、決して創業数年の企業ばかりというわけではありません。EVメーカー12社の設立年は、次のような内訳になっています。
~2010年:4社(33%)
2015年:4社(33%)
2016年:2社(17%)
2017年:0社(0%)
2018年:1社(8%)
2019年:1社(8%)
2015年以来、2017年を除いて、その年に設立されたEVメーカーのうち少なくとも1社がSPACを通じて上場(あるいは上場を計画)しています。こういったトレンドを考えると、これからもSPAC上場する新興のEVメーカーが続々と現れるかもしれません。
一方で、充電ステーション事業を行う4つの企業は、少し様相が異なります。こちらはいずれも10年以上前に設立されています。
2007年:1社(25%)
2010年:3社(75%)
ステーション事業の展開には時間がかかるからでしょうか。もちろん技術やデザインといった部分も重要だと思いますが、何よりも長年かけてコツコツと積み重ねてきたネットワークが勝負の鍵になりそうです。
いかがでしたか。EV関連銘柄のSPAC上場はこれからも続くのでしょうか。そして、この流れがどんな形で日本に影響を与えるでしょうか。例えば、日本のEVメーカーがSPACを通じて海外市場に上場するということも考えられるかもしれません。(*日本では現在、SPACを用いた上場は行われていません。)
IDATEN Venturesとしては、こういったトレンドに引き続き注力していきます。また、この記事は、SPAC×EVの情報源として随時更新していこうと考えていますので、ぜひ継続的にチェックしてみてください。
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