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  • Shingo Sakamoto

住宅設計の民主化を進める、アメリカの建設スタートアップ・Higharc

Updated: 2 days ago

この記事では、2021年4月にシリーズAラウンドの資金調達を行った、ハウスメーカー向けにオンライン設計サービスを提供するアメリカ発スタートアップ・Higharc(ハイアーク)

について、ご紹介します。


建設業界のスタートアップについては、「2021年以降の建設スタートアップトレンド」、「建設スタートアップの創業チームについての考察」、「Built Technologies、建設×金融スタートアップ」というテーマでも書いておりますので、ご興味をお持ちいただければ、ぜひご覧ください。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E9%9D%92%E5%86%99%E7%9C%9F-%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%A3-964629/)


Higharcのオンライン設計プラットフォーム

Higharcは、2018年にアメリカ・ノースカロライナ州で設立された、住宅設計ソフト開発スタートアップです。Higharcのプロダクトは、住宅建設プロセスの全ステップを自動化し、設計・販売・建築開始までに必要なアイテムを、ユーザーが容易に作成できるようにするものです。


ユーザーは、ウェブアプリ上で、ドラッグ&ドロップだけで設計図を作成することができます。部屋・トイレ・キッチンなどの区画割当や、窓の数・家幅や高さの調整が、リッチなUIで実現可能になっています。また、キッチンの形(アイランドキッチン型、U字型、半島型、etc)や、屋根の形(切妻、寄棟、方形、etc)の選択に応じて、建築見積もり額がリアルタイムで変化するため、ユーザーは予算とデザイン性のバランスを見ながら、3D設計図を作成していくことができます。

(Source: https://youtu.be/6wi9YWYFJvE)


こちらの記事を参考にすると、さらにHigharcの特徴的な点が2つ浮かび上がってきます。

  1. 直感的なノーコード操作の裏側では、建築家が監修する専門的なアルゴリズムが動いており、建築関連法を守っているかフィードバックを得ることができます。通常、設計監理は建築士の業務範囲ですが、このプロダクトによって、建築物が法律に則っていることを担保しながら、非有資格者がスピーディに設計の下準備をしたり、設計に変更を加えたりすることができます。

  2. また、住宅のレイアウトが建造予定地の地形やサイズにマッチしているかを自動で計算できる点が、Higharcはユニークであるといいます。同社は公共のデータソースとMapboxと呼ばれるプログラムを使って地形データを取得しすることで、手間のかかる現地調査を簡略化して設計開始することを可能にしています。


創業メンバー

Higharcの創業者は、Marc MinorPeter Boyer、Thomas Holt、Michael Bergin、の4名。メンバーのこれまでのキャリアは、Higharcのビジネスを推進するのに十分と言えるかもしれません。

  • Marc Minor Appleでプロデューサーを経験した後、3Dプリンタスタートアップでマーケティング・プロダクトデザインをリードし、Higharcを創業。デザイン・ブランディングを中心にキャリアを歩んできたようです。CEOを務める。

  • Peter Boyer 3D CAD世界最大手のAutodesk出身で、HigharcではCTO。Autodeskでは、ソフトウェアエンジニアとして従事し、全社のイノベーションアウォードも受賞しているようです。

  • Thomas Holt ビデオゲーム業界出身で、HigharcではDirector of Visualizationを務める。こちらの記事によれば、Higharcは、現実世界の物理的整合性を担保しながら、ビデオゲームで用いられる自動生成技術を使い、次々とモデルオブジェクト(例えば、屋根、トイレ、キッチンなど)を作っているそうです。

  • Michael Bergin Peter Boyer同様にAutodesk出身で、HigharcではDirector of Architectureを務める。Autodeskでは、モデルの自動生成アルゴリズムの研究に従事しており、Higharcのコア技術に関わっているようです。


各人が、さまざまな企業で、さまざまな側面から3Dオブジェクトを扱ってきた経験を持っており、彼らが集まったら何か面白い相乗効果があるかもしれない...!と思わせるようなチーム構成です。


事業の進捗と、顧客像の明確化

(Source: 筆者作成)


事業開発の進捗はどうなっているのでしょうか?まだシリーズAラウンドの調達を終えたばかりであるHigharcの詳細状況は、外部からは推して知るしかありませんが、プレスリリースのコメントを頼りに少し追ってみようと思います。


2018年に創業したHigharcは、創業1年後の2019年にシードラウンドで470万ドル(≒5億円)、2021年4月にシリーズAラウンドで2,100万ドル(≒23億円)を調達。IDATEN Venturesが過去にリリースしたシリーズAに関する記事を参考にすると、バイオや自動運転などの研究開発モデルでないスタートアップとしては、HigharcのシリーズAラウンド調達額は平均よりも大きくなっていることがわかります。


シリーズAラウンドは、TwitterやSlackなどに投資してきたSpark Capitalがリードしました。また、興味深いのが、以前こちらの記事でご紹介した建設×金融スタートアップのBuilt Technologies創業者のChase GilbertもシリーズAラウンドに参加していることです。同社は、建設サプライチェーンをお金という切口でつなぐ受発注プラットフォームを開発しており、消費者・ハウスメーカー・施工業者が関わり得るHigharcのプロダクトとシナジーがあるのかもしれません。


シードラウンドを実施した2019年5月のニュースによれば、Higharcはシード期に仮説検証を進めていたようです。本社を構えるノースカロライナ州チャペルヒルで25人の住宅購入者と協力して、テストハウスを建設していました。


このプロダクトのユーザー層は、住宅の購入を検討するエンドユーザーのみならず、エンドユーザーに柔軟なカスタマイズハウスを提案するハウスメーカー(Higharcは「カスタムビルダー」と呼んでいる)まで含まれてくるのではないか、というのがこの時期のHigharcの仮説だったようです。


そして、2021年4月のシリーズAラウンドの発表では、提供している製品の拡大・拡充、営業・カスタマーサクセス・エンジニアリングチームなどの組織構築に資金を投入する、とコメントがありました。シード~シリーズAの間に仮説の確からしさが確認され、よりサポート体制を厚くする段階に入ったようです。2021年の発表では、プロダクトの顧客解像度が上がっている点が印象的です。コメントでは、ユーザーはハウスメーカーであり、ハウスメーカーから手書き設計図の完全排除と、時間・コストの削減を可能にする、とはっきり書かれています。


Higharcがシード〜シリーズAの間に達成したであろう、「顧客像を明確にするプロセス」には学ぶべきものがある、と思いました。というのも、元々Higharcは、創業者のMinor氏自身が、住宅を購入しようとした際に感じた消費者目線でのペインから始まったスタートアップだからです。こちらの記事には、Minor夫妻がノースカロライナ州に引っ越した時の経験が書かれています。彼らは親族の近くに土地を購入し、自分たちオリジナルの注文住宅を建てようとしましたが、難しさに挫折。そこで、ハウスメーカーの住宅プランを自分たちなりにカスタマイズしようとしたところ、プラン変更に2万5,000ドルかかると言われたそうです。そこでMinor氏は、注文住宅の企画・設計に潜む硬直的なプロセスを改革しようとしたのです。


だからこそ、初期のコメントでは、消費者もハウスメーカーも、どちらもユーザーになり得る、という考えが見え隠れします。(例えば、”For consumers, the ability to create real, workable designs before even talking with an architect will lower design costs and make it easier for buyers to afford custom work, says Minor.”という部分はその表れでしょう。)


一方で、仮説検証を進めるうちに、ユーザー像が明確になってきているように思います。すなわち、このプロダクトの恩恵を最も享受するのはハウスメーカーであるということです。特にCOVID-19以降、米国内では住宅建設需要が増加しており、ハウスメーカーはよりスピーディに、手戻りなく、設計~建築までのプロセスを進めるニーズが強まってきている、と書かれています



住宅建設領域のスタートアップ

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E5%AE%B6-%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B8-%E7%A7%81%E9%81%93-1867187/)


ちなみに、建造物の設計領域では、創業メンバーのうち2人がかつて所属していたAutodeskが、市場で存在感を放っています。同社は、3D CADやBIMのソフトで圧倒的なシェアを持っており、ハウスメーカーの設計プロセスでも、BIMの活用を進めています。


こちらのサイトによると、Higharcのプロダクトは、AutodeskのBIMソフトに比べて、専門性を必要としない点を強みとしているようです。確かにBIMはCADに比べて、設計変更にかかる手作業が圧倒的に少なく済むものの、モデルに埋め込まれていない情報も多数あり、専門家がその修正作業に多くの時間を使っている、とHigharcのMichael Berginは指摘しています。Higharcはその点を解決し、設計プロセスの民主化(設計者以外の人間が設計までできるようにする)を追求しています。デザイン性が重視される注文住宅市場に特化し、デザイナーが設計までワンストップでできるようにしている点において、Autodeskと差別化しようとしているようです。



最近資金調達を行った、住宅建設関連のスタートアップでは、Y Combinator(アメリカの有名なアクセラレーター)卒業生の、Atmosが挙げられます。2019年創業のAtmosは、Y CombinatorとKhosla Venturesを含む著名VCからシード資金を6億円以上調達。こちらの記事によれば、Atmosは、人々が注文住宅を建てる時に不動産業者・土地・建築家・施工主を別々に探さなくてはならないというペインを解消するため、業者をプラットフォーム上に集約させるというアイディアでビジネスを進めているようです。


Welcome Homesも、類似領域で事業を行うスタートアップです。同社のプロダクトを使えば、住宅購入希望者は、土地選び・デザインカスタマイズを全てオンライン上で行うことができ、そのまま土地売買や施工に関する契約まで進むことができるようです。Higharcに似ているモデルではありますが、3Dオブジェクトの多様性や設計図との連動性を追求するHIgharcに対して、Welcome Homesは土地選び~契約までの一連の手続きを全てオンライン化するというUXを意識しているように思います。ちなみに、Welcome Homesは2020年創業で、同年9月にシード資金として5億円以上調達しています。


いくつか挙げてみましたが、個人が好きな住宅を建てる、というプロセスを改善するようなスタートアップは、アメリカでは他にもいくつかあるようです。


住宅は、私たちが最も多くの時間を過ごす身近なモノでありながら、イチからオリジナルなものを作ろうとすると、土地選び・設計・施工には専門性が必要で、調査・パートナー選び・コミュニケーションなど、時間や手間がかかります。もちろん、そのプロセスそのものを楽しむ、という意見もありますが、ソフトウェアの力を借りてこうしたプロセスをよりスムーズにする、という動きがこれからより一層加速していくのではないでしょうか。


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フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。

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