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  • Shingo Sakamoto

建設スタートアップの創業チームについての考察

Updated: Jun 16

この記事では、建設スタートアップをやるうえで、どんな創業チームがいいのだろうか、ということを私なりに考察してみます。まだ創業して間もない、あるいはこれから創業する方々に読んでいただければと思います。


こうでなければいけない、こうあるべき、といったものではなく、例えばこれからメンバーを集めるにあたっての、一つの参考になれば幸いです。



(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97-%E4%BC%9A%E8%AD%B0-594091/)



建設スタートアップの盛り上がり


以前こちらの記事で、国内建設スタートアップの大型資金調達が続いている、と書きましたが、グローバルで見ても建設スタートアップへの流入資金は増えているように見えます。


TECHBLITZのレポートを参考にすると、調達件数は2015年126件、2016年122件だったところから、2017年135件(前年比+10.6%)、2018年160件(+18.5%)、そして2019年179件(+11.8%)と推移しました。調達額については、2018年と2019年の2年間平均は、2016年・2017年の2年間平均に比べると、約3.8倍の金額となっています。


(グラフはTECHBLITZのレポートを参考に作成)


私自身、スタートアップが参入する市場としてどうか、という観点から見ると、建設業界は大きなポテンシャルがある業界だと思います。そう思う理由としてはいくつかありますが、そのうちの代表的なものとして、

  1. まず、市場の大きさが挙げられます。国内で60兆円の市場規模を誇る建設業界ですが、土木・建築ともに平成のラスト10年間で順調に伸びました(*下方のグラフ参照)。これからの動向として、オリンピックの終了と人口減少に伴ってピークアウトするという見立てもある一方で、都市開発と大規模修繕によって需要が維持・増加するという意見もあります。

  2. 次に、ペインの大きさです。もちろんペインの大きさは当事者によって感じ方が変わるものですが、業界の外からでも「これは解消した方がいいペイン」だと見える点が多いように思います。例えば、こちらの記事でも触れましたが、小規模事業者の多重下請け構造、現場環境(例えば、温度・粉塵・高所作業など)、デジタル化の余地がまだ残っているプロジェクトマネジメント、などスタートアップが技術や工夫によって改善できる点がいくつかあるように思います。

  3. そして、バリューチェーンの長さです。調査、設計、施工、維持管理というサイクルを基本としていますが、設計一つとっても、構造、設備、意匠(デザイン)のサブバリューチェーンがあり、さらにその中により細かいプロセスがあります。スタートアップがマーケットに参入する時に考える「競争の激しさ」という観点では、初期に競争しないようなポジションを見つけやすいのかもしれません。例えば、これは少し極端な例ですが、建設業界の中で設計プロセスに注目し、その中でもさらに"構造"設計に関する課題解決を行う有力な競合がいたとしても、設計は設計でも"設備"設計の課題解決を行うプロダクトにはまだ参入余地がある、ということが起こり得るのではないでしょうか。


(参考)

(平成の最後10年間で堅調に伸びている)



それでは、スタートアップが建設業界に参入するうえで、市場ニーズをしっかりと捉え、成長していくために必要なファクターとして、どんなものが考えられるでしょうか。


タイミング・プロダクト・資金力...本当にさまざまあると思いますが、いくつか考えてみる中で私が着眼したのが、「創業チーム」です。私なりの仮説として、建設業界の持つ特性を考慮すると、どのように市場のニーズを探し、現場に入り込み、営業ネットワークを確保するか、といった点で、創業チームが重要なファクターに思えたからです。


建設業界でスタートアップとして順調なスタートを切るためには、いったいどういうメンバーでマーケットインするのが良さそうか。国内外の建設スタートアップの創業チームをいくつか調べてみたところ、ある傾向が見えてきたので、ご紹介します。



建設スタートアップの創業ストーリーとメンバー属性


国内外で資金調達が進んでいるスタートアップを国内で3社、海外で3社、調べてみました。


助太刀

建設職人のマッチングアプリを提供する助太刀。創業メンバーは我妻さんとイシンさんです。我妻さんはまさに業界のインサイダーで、大手電気工事会社で施工管理を行い、その経験を生かして自ら電気工事会社を創業。


その後10年間の会社経営・MBAを経て、現在の助太刀となる会社を創業されました。共同創業者のイシンさんとはMBAで出会ったそうです。


我妻さんは、長年に渡って自ら現場で施行管理に関わっておられたからこそ、業界の非効率を肌感覚で理解しており、さらにMBAを経て建設業界を改めて客観視し、そのペインを解決するプロダクトを作られました。


まさに、業界出身者が解像度の高いペインを持ってマーケットインした例と言えるでしょう。


SORABITO

中古建機の売買プラットフォーム「ALLSTOCKER」を展開するSORABITO。創業者はCEOの青木さんです。


青木さんの家系は代々建設業に関わっており、建機というものが身近な存在だったそうです。お父様は建設業を営んでおり、在学中には親御さんと一緒に廃棄物のリサイクルを手がける会社も設立したとか。経営に興味を持ち、MBAをやりながらEC販売などをしていたそうですが、「やはり原点回帰して、売るなら建機を売ろう!」となったようです。


身近な存在であった建機を、MBAで得た幅広い視野や、ECというITの視点から見つめ直し、ビジネスチャンスへと変えていかれました。建機という専門性の高い商材を売買するプラットフォームを運営するには、型番、スペック、価格などの手触り感が大事になるため、そうした感覚を持っている青木さんならではのスタートではないでしょうか。


ANDPAD

2020年時点で、グローバルで見ても資金調達金額ランキングで10位以内に入るANDPAD。創業チームはCEO稲田さんとCTO金近さん。


助太刀やSORABITOとは異なり、実は2人とも、元々建設業界に関係していたわけではありません。事業アイディアを考えている際に、稲田さんがご実家のリフォームを行ったことをきっかけに、リフォーム店の検索サイトというアイディアを思いついたと言います。そこから建設業界についてじっくり調査する中で、「電話やFAXで行われているプロジェクト管理に、より深いペインがあるのではないか」と思い、現在のプロダクトの構想にたどり着いたそうです。


創業チームはまずIT業界に知見があり、建設業界を深掘りしていく中でペインを見つけ、それを解決するプロダクトを作りました。その中でも、稲田さんはBizDev・Finance、金近さんはエンジニア的な役割を果たしていたようです。


Katerra

海外にも目を向けてみます。最初にご紹介するKaterraはソフトバンクビジョンファンドが投資したことで日本でも名前が頻繁に聞かれるようになりました。


創業者はMichael MarksFritz Wolff。Marksは華々しいキャリアの持ち主で、電子機器メーカーのFlexを13年間経営したのち、KKR・Riverwood Capitalというグローバルファンドを渡り歩き、Katerraを創業しました。ちなみに2020年にKateraの代表の座を降りています。彼は、Flexでの経験やAppleのビジネスモデルを参考に、自社で設計・生産・物流まで一手に担うことで、中間コストを減らすことができると考えました。データを社内で一元的にコントロールすることでオペレーションの最適化を図り、スケールの大きいビジネスを展開しています。


どちらかといえば、共同創業者のWolffが建設業界のインサイダーと言えるでしょうか。Wolffは祖父が作ったWolff Companyという不動産投資会社の御曹司で、不動産・建設業界のコスト構造や運用・管理に精通していました。2人がタッグを組み、多重下請け構造が当たり前だったサプライチェーンの変革を試みるメガベンチャーが誕生しました。


ただし、Wolffも2019年に辞任し、2021年時点では創業者がどちらも去ったことになります。Katerraは積極的な資金調達を進めている一方で、一部工場の閉鎖、従業員解雇プロジェクトの遅延やコスト超過など、経営がうまくいっていないのではないか、とも報じられています。多層下請け構造を変革する垂直統合型ビジネスモデルのKaterraは、市場から大きな期待の目を持って見られてきましたが、これから先うまくいくかどうかはまだわからなさそうです。


Procore Technologies

続いて紹介するのが、Procore Technologiesです。創業者はKraig Tooey Courtemanche。Procoreは、建設プロジェクトのマネジメントSaaSを提供するスタートアップで、2020年に上場申請を行いました。


創業者は興味深いキャリアを歩んでいます。元々大工として現場経験を持っていた彼は、ITの世界に飛び込んでソフトウェアエンジニアとなり、その後WebcageというHRテック企業を創業します。そこで成功した彼は、兼ねてから自分の関心の中心にあった建設業界に戻り、改めて業界の非効率さに気づいて創業したのがProcoreになります。


現場での泥臭い経験を持ちながら、ソフトウェアエンジニア、そして経営者という多彩な顔を持つTooeyですが、イシュー発掘、プロトタイピング、BizDevが一人で推進できてしまう、という稀有な存在です。


Prescient

Prescientも注目のデジタルマニュファクチャリングカンパニーです。Prescientは、Unified Truss Construction System (統合トラス構造、UTCS) というシンプルな骨組み構造を利用し、これまで個別にカスタマイズされた高コスト建築手法を根本的に見直すアプローチを採っています。BIMと接続されたソフトウェアを提供し、構造強度やデザイン整合性をスムーズに担保。さらにそれを工場のロボットに支持するCAMに伝送し、ロボット工場で部材生産まで行います。


まさにソフトウェアとハードウェアを組み合わせた興味深いビジネスモデルですが、ここでも創業メンバーには建設業界のインサイダーが名を連ねています。創業者はJohn Vanker, Michael Lastowski, Satyen Patelの3人。


Vankerはシカゴ・デンバーで不動産開発会社を立ち上げ、新築・リノベ案件など豊富な経験を積んだ建築のプロフェッショナルです。Lastowskiも少し似ていて、建築学科卒業後、7年間建築会社を経営し、その後Prescientへ。Patelはビジネス畑で、ペプシ・ナイキといったグローバル企業でディレクターを務めました。またCambridge SolutionsというイギリスのIT企業の創設者でもある起業家です。Patelは、建設業界のインサイダー2人が持つテクノロジーを活かし、BizDev・Financeを力強く牽引しました。



他にもグローバルで興味深い建設スタートアップは、いくつかありますので、こういった会社の事業内容や戦略についてはまだどこかで触れてみたいと思います。



建設スタートアップの創業チームのバランス


ピックアップした建設スタートアップを見てみると、まずインサイダー(建設業界経験者)が多いという傾向が見られます。紹介した6社のうち、ANDPAD以外の創業チームは、少なからず建設業界に関係していたメンバーがいるようです。


また、チームとして見ると、こうしたスタートアップの創業期には、インサイダーに加えて、エンジニア、そしてBizDev人材がいることが多いように思います。あるいは、必ずしも3人いなくとも、創業メンバーがこれらの機能をマルチで担うことができているようです。


インサイダー創業者による「イシューの発見」

まず、建設業界経験者が多い理由は、スタートアップで最も大切な「イシューの発見」にあると考えられます。その点において、例えばProcoreのTooeyのメッセージは参考になります。



「私は昔から物を作ることに情熱を持っていて、建築と技術という二つの世界を行き来していました。学生時代は、キャビネットショップや建設現場で働いていました。その後、不動産開発の仕事を辞めた後、ソフトウェアの世界に出会いました。1990年代のシリコンバレーのハイテクブームに浸っていたことが、私の最初のスタートアップであるWebcageを設立するきっかけとなりました。この会社では、フォーチュン1000社の企業がアナログのコールセンターからウェブ対応のセルフサービスイントラネット技術に移行することを可能にしました。私は、デジタルトランスフォーメーションが様々な業界に与える影響を肌で感じました。

数年後、私はマイホームの建設を始めました。ほとんどの分野でテクノロジーが大きな影響を与えているにもかかわらず、建設業界は取り残されていることに衝撃を受けましたそこで私は、テクノロジーが建設業界のすべての人の生活を向上させることができるという私の確固たる信念に基づいて、プロコアを設立しました。

IDATEN Venturesが投資しているような領域(製造・物流・建設)の難しさの1つが、どのように「重大なイシューを発見するか」にあると思います。


「いやいや、こういった業界には、どう考えても色々な非合理が残っているじゃないか。」と思われるかもしれませんが、そこにはある種の難しさが潜みます。「非合理」とは「合理」を知っているからこそ得られる感覚であり、業界の中であまりにもそれが所与のものとして受け入れられている場合に、改めてそれを「非合理」と気がつくのは実は難しいものです。


例えばTooeyのように、建設現場で大工として働いており、ソフトウェア業界に足を踏み入れ、HRテックカンパニーでスケールビジネスを展開した後に、もう一度建設の業界に戻ってきたような人間からすれば、非合理的な部分がクリアに見えることでしょう。一方で、ずっと大工として働いていればどうだったでしょうか。あるいは、もしかしたらProcoreを創業することにならなかったのではないでしょうか?


もちろん、業界経験がないと難しい、ということは全くありません。アウトサイダーだからこそ、先に述べた「合理」と「非合理」に気がつく可能性があります。ただし、その場合はとにかくイシューを小さく分解できるまで、顧客との会話を続ける必要があります。「なんとなくDXしたい、生産性を上げたい」程度では顧客の課題を解決するのは困難でしょう。まさに、ANDPADは顧客の声に耳を傾け、必要とされているプロダクトを作ることでマーケットインした良い例だと思います。


建設といっても、調査、受発注、設計、施工、運営というバリューチェーンがあり、土木といっても道路・空港・港湾・オフィスビルなど様々ありますし、設備といっても電気・ガス・給排水・空調など多岐に渡ります。また、設計の中にも意匠設計・構造設計・設備設計など細かく分かれています。専門性が高いからこそ、アウトサイダーからすれば、具体的なターゲットとイシューの特定が重要になります。


チームを組む重要性

一人でイシュー発見、エンジニアリング、事業開発全てを担うのは簡単なことではありません。だからこそ、「チーム」を組むことが大切だと言えるのではないでしょうか。


もし、自分が非エンジニアのインサイダーであれば、自分で見つけたイシューを解決するプロダクトを開発できるエンジニアを見つけてきたり、事業開発ができるビジネス人材を引っ張ってきたりすることで、それぞれが不足したものを互いに補い合いながら、スピード感が出るでしょう。


逆に、自分がエンジニアで建設業界に知見がないのであれば、業界を深く知り、羅針盤となるようなインサイダーを見つけると、マーケットのニーズが捉えやすくなるかもしれません。(もちろん、自分で顧客と対話する中で解像度を上げていく、というのももちろん重要ですし、インサイダーは必ずしも要らないかもしれません。)


チームを組み、それぞれが機能をしっかり担う、ということの重要性を書きましたが、ただし、どんなにメンバーに偏りがあっても、最も重要なのは、建設業界の構造や顧客について理解を深めるために、しっかりと顧客と会話をしていくことでしょう。これまでのキャリアに関係なく、顧客と対話しそれに答えようとし続ける中で、必要とされるプロダクトに近づくことができるのではないでしょうか。


改めてこれから建設スタートアップを始められる方、あるいは既にスタートされているシード期の方の、チームづくりの参考になれば幸いです。


また、これから建設スタートアップを始められようとしている方は、ぜひIDATEN Venturesまでお問い合わせいただければと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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