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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

建設テックの大本命「BIM」の強みと課題、スタートアップの参入余地

Updated: Jun 16, 2021

この記事は次のような方を読者として想定しています

・とにかく建設テックに興味がある人

・建設テックの動向が気になるけれど、BIMについてはまだあまり知らない方

・建設テックに取り組んでいるスタートアップの方で、BIMが気になっていた方



(坂本作成)

BIMって何?

BIMとはBuilding Information Modelingの略で、建築物の設計を行う際に使用するソフトウェアです。わかりやすく一言で表すと、BIMの役割は「施工に入る前にPC上に建物のプロトタイプをつくる」ことです。これまでの建築においても、壁や窓の設計図を書き、空間設計図を書き、断面図を書き、、というプロセスはありましたが、BIMはいったい従来の業務と何が異なるのでしょうか?


その点について考えるときにポイントとなるのがInformation(情報)というワードです。BIM上に配置される各パーツは「図形ではなく部品」です。単なる三角錐や立方体という図形ではなく、ドア・壁・配管といった実際の部品なのです。文字通り建築に特化したソフトであることに由来しています。



BIMは労働集約的と言われる建築業務の効率を大幅に上げる可能性があると期待されており、世界中で活用が進んでいます。



BIMの優れている点

(坂本作成)


(1)BIMとCADはそもそも立体の生成順序が異なる

BIMと混同しやすいものにCADが挙げられます。CADはComputer Aided Designの略で、コンピューター上で製図ができるソフトです。従来は紙に手書きしていたものをコンピューター上で再現できるCADは画期的な存在でした。1963年に登場した2次元CADソフト「Sketchpad」に始まり、1977年には既に3DCADソフトが登場しています。改善を重ねながら進化し続け、今日まで広くものづくり現場で使われています。

それではBIMと3D CADは何が違うのでしょうか?それは「立体を生成する順序が異なる」点にあります。どういうことかというと、例えば3D CADでワイングラスを設計するとき、断面図を書いてからそれを回転させて立体化させるとします。完成した立体ワイングラスを眺めて「もう少し口が広がっているグラスにしたいな」と思っても、立体図から平面図を変えることはできません。生成順序として平面→立体となっているからです。


ワイングラスのようなシンプルなものであれば大した問題ではありませんが、これが複数の細かい部品からなる複雑な立体の場合どうでしょう。各部品の平面図・断面図を修正してから立体化する必要があり、それなりに手間がかかります。


一方で、BIMは最初から立体のオブジェクトを生成します。まず立体部品ありきで始まるので、立体に加えた修正が平面図や断面図に自動で反映されます。関連する全ての図面に反映されるため、大きな建造物を設計する際には手戻りが少なく済むのです。


この点がBIMの持つ最大のストロングポイントです。まず立体ありきで始まり、その修正が平面図・断面図・構造解析、全てに自動反映されるのです。手戻りの回数が格段に減り、設計業務が容易になりました。



(2)オブジェクトが持つ情報量が格段に多い BIMの強みはオブジェクトが持つ「情報量」にあります。通常、設計図面のオブジェクトが持つ情報とは大きさ・形・重量であることが一般的です。


ところが、BIMは一つのオブジェクトに材質・コスト・他のオブジェクトとの接地点などの豊富な情報を持たせることができます。これによって、一旦設計した3D図面から、必要となる部品の一覧表、コスト表を自動生成することができるのです。


(3)コミュニケーションの促進

オブジェクトが豊富な情報を持ち、関連する図面に自動反映されることによって、コミュニケーションにスピードが生まれます。


建築業界が持つ特徴の一つに、「ステークホルダーの多さ」がありますが、意匠設計者・構造設計者・設備設計者などの関係者が、一つの立体図形を見ながらディスカッションできる点が画期的でした。意思決定が格段に早くなりました。



なぜ日本ではBIMの普及が遅れているのか?

実はBIMは最近になっていきなり流行し出したものではありません。現在のBIMにつながる製品が最初に登場したのは1980年代で、1990年代終わりから2020年代初頭にかけては、すでにオブジェクトに豊富なメタデータが入るようになりました。


最もBIM導入が進んでいると言われているアメリカでは2007年にはガイドラインが公表されましたが、日本で「BIM元年」とされているのは2009年です。アメリカから入ってきたBIMに関する書籍がいくつも出版され注目されましたが、国土交通省からガイドラインが公表されたのはそれから5年後の2014年でした。アメリカに比べてちょうど7年遅れています。

日本におけるBIM普及率は統計的なデータが公表されています。ゼネコン向けの調査によれば、2016年の普及率が60%、2018年が76%です。一方で北米におけるBIM普及率がどうなっているかというと調査では2012年に7割に達しています。やはりおよそ6~7年遅れという状態です。


こうして比較してみると、決して日本のBIM導入の加速度が遅れているわけではありませんが、導入は遅れています。日本のBIM導入を妨げる潜在的な要因としてどんなものが挙げられるでしょうか?先の統計調査で興味深い声が挙がっています。


・「BIMの活用について、社内の理解が低いという傾向に変化 がないが、先⾏企業では認知度が向上している。」
・「ソフトウェアそのものへの不安感は⼤きく減少してい るものの、始めるのにハードルがあると感じている。」
・「新しいツールを覚えることへの抵抗感が強く、⼈材不⾜と教育体制への不安が⼤きい。」
・「BIMツールが高額であること、⼈材不⾜がBIM 導入を⾏わない理由として挙げられている。」

(https://www.nikkenren.com/kenchiku/bim_susume/pdf/bim_susume_report_02.pdfより原文を引用)

導入に踏み切れない理由の多くが、ツール自体のコスト・人材面のハードルの高さにあるようです。そこで、実際にどれくらい使いやすいのか試しに使ってみることにしました。



実際にBIMソフトを使ってみた

(坂本がいじってみた建物)


世の中には2大BIMソフトがあると言われています。それがAutodesk社が開発するRevitと、GRAPHI SOFT社が開発するARCHICADです。これらのソフト比較についてはさまざまなところで行われているためそちらにお任せしますが、Revitは基本的にWindowsしか対応していない一方で、ARCHICADはWindows/Macどちらにも対応しています。


私のPCはMacなので、自然とARCHICADを使うしかありませんでした。ただ使っても意味がないので、「建築設計をしたことがないキャピタリストが使えるか?」という視点でいじってみました。重要だと思われるポイントがいくつかあったのでまとめてみました。



【便利な点】


・想像以上に直感的な操作が可能

壁、柱、梁、階段、窓、ドア、手すり、など空間を構成するオブジェクトが豊富に揃っていました。オブジェクトの材質一つとっても、鉄鋼材・コンクリート・モルタル・金属(アルミ・ステンレス)まで細かく選択することができます。


・ビジュアルにオブジェクトが持つ情報が現れる

例えば壁のオブジェクトを配置すると、材質・高さ・厚さ・位置・接する他の部品、といった情報が画面上に現れます。壁を四方に設置したところ、平面図・断面図・立体図・オブジェクト一覧表が自動生成されました。


・自動ログが生成できる

上記のような操作は全て自動ログが残るため、「誰が・いつ・どんな」変更を加えたのかわかります。プログラミングでいうGithubのような機能でしょうか。熟練設計者が多い建築現場では特に、このデータログが大事になってくると感じました。というのも、こうしたデータを溜めていけば機械学習と合わせることによって、設計の自動化にもつながると思ったからです。


・デフォルトオプション以外のオブジェクトも使用できる

デフォルトのオブジェクト(壁・柱・階段・etc)はもちろん、DXF・DWG(CADファイル)をインポートして使うことができます。これは、自分で製図した部品・機材を設置することができるということです。


こういったポイントは想定どおりでした。では逆に、BIMソフトのどんなところがネックになって普及が未だ遅れているのでしょうか?


【論点になりそうな点】


・教育コストが高い 「全体的によくできているソフトだなあ」と思ったと同時に、非常にスイッチングコストが高いソフトであると感じました。感触としてはAWSに近いイメージです。オプションがたくさんあり、なんでもその場で揃う一方で、理解して使用方法に慣れるまでに時間がかかります。クリックしていけば画面がわかりやすく遷移していくSaaSのようなプロダクトではありません。


・メンバー間の目線合わせに時間がかかる

とにかく自由度が高いため、人によって使い方もバラバラになります。エンタープライズで導入する場合、「どのようにソフトを使うか」を統一しておかないと、てんでバラバラな設計図が完成してしまいます。このマニュアルづくりに時間とコストがかかります。


・ガラパゴス化する

さらに便利に使おうとすると、自社の設計フローに合うようにアドオンのパッケージを組み込んでいきます。すると自前サービスのようにガラパゴス化していき、違うプロダクトに乗り換えようとするととてもめんどくさくなりそうです。日本の大企業がガラパゴス化した基幹システムに苦しんでいる、とたまに言われますが、同じことが起きかねません。




BIMの普及は確実。スタートアップはどこにビジネスチャンスがある?

日本のゼネコンの多くがBIM活用に積極的です。RevitやARCHICADといった海外BIMソフトを活用した自社パッケージの開発や、プロセス改善を推進しています。


一方で、ゼネコンにとっては自社でBIMソフト自体を開発するインセンティブはあまり高くありません。目的は設計・施工の効率化であって、システムの開発ではないからです。既に世界的なシェアを誇っているソフトを使う方が圧倒的に早い。そういった背景もあり、BIMソフトについては国内勢で大きくシェアを伸ばしているところはほぼありません。



このようにマーケットのメインロードが海外ソフトで埋まっているという状況下で、スタートアップが入り込めるスペースはあるのでしょうか?そこで実際に使ってみた感覚と合わせて、可能性がありそうなスタートアップのポジショニングを考えてみました。



・BIMソフトの導入、教育部分

BIM導入を進めたい建設会社は多く、一方で上昇する平均年齢とデジタル人材の不足を鑑みると、現場のBIM導入ハードルを下げるようなサービスが出てくると歓迎される状況です。例えば、アドオンでチュートリアルを組み込めるソフト・チャットボット・動画コンテンツなどは相性が良いと思います。


また、こうしたパッチ当てのような技術だけではなく、さらに突っ込んでいくと大学教育・新卒採用・社内研修まで絡んできます。導入・教育の中でも、ターゲット選定が鍵になります。



・日本の建築商習慣に合わせたソフト

海外ソフトであるがゆえに、設計・施工のプロセスがアメリカとは異なる日本では使いづらい、と言われています。例えば、アメリカではほとんど使われないのでBIMが自動生成してくれないけれど日本では重視されている図面の存在など、海外ソフトでは補いきれない部分があります。


ただし、これも一からBIMソフトを作っていては分が悪いので、アドオンで使えるようなソフトが理想的です。(ゼネコンが動いているのはまさにこの部分で、自社のフローに合うようにパッケージを開発しているわけです。)ゼネコンに対して圧倒的にアセットの少ないスタートアップがこの部分で勝負するためには、もう一捻り必要です。



・コストを劇的に下げる

BIMソフトは決して安いとは言えません。例えばRevitはサブスクリプションモデルでだいたい1ヶ月あたり5万円程度です。ARCHICADは売り切りモデルで、共同利用する場合は導入時に80万円程度、アップデート保証ライセンスに10万円程度です。(細かい課金体系になっており、これ以外にもかかりそうです。)


これがもしSaaS型で月額3,000円で使えたらどうでしょうか?プレイヤーが多くないからこそ価格が高止まりしている感があり、コストを劇的に下げれば入り込める隙があるかもしれません。なぜそういったサービスが登場してきていないのか?コストをどう下げるのか?アイディアの深掘りが必要です。



・BIMソフト内での設計を高速化するカタログ・アルゴリズム

BIMを使っても、設備・意匠をどういった設計にするかは設計者次第です。逆に考えると、この部分はまだ労働集約的であると考えることができます。


例えば、カタログを大量作成し、設計者がイメージしたワードを入力するだけで、理想のモデルが出来上がったらどうでしょうか。GAN技術と組み合わせると面白いことができるかもしれません。






おわりに

BIMは間違いなく建設テックの大本命の一つと言えるでしょう。一方で、国内でBIM系のスタートアップは少ないのが現状です。その割には、まだまだソフト・オンボーディング・運用には課題があると考えると、いまがまさに大チャンスです。


今回の記事では、BIMの紹介と日本における動きを中心に書きましたが、別の機会にもう一段踏み込んで、スタートアップが狙うべきスペースについて考察を行いたいと思います。


ぜひBIMをテーマにビジネスを展開している・しようとしている・興味がある方はIDATEN Venturesまでご連絡ください。



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