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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

中国の建機レンタルプラットフォーマー・Zhongneng Unitedから学ぶ市場戦略

Updated: Mar 1, 2023

近年、建設スタートアップが建設機械(以下、建機)レンタル分野に進出しています。


2021年2月、中古建機売買プラットフォーム「ALLSTOCKER」を運営するSORABITOは、建機レンタル会社が建設会社向けにウェブアプリを作ることができるSaaSプロダクトをローンチ。SORABITOのプレスリリースによると、このサービスを使えば、建機レンタル会社は、商品カタログ周知・注文・顧客とのコミュニケーションをデジタル化することができるそうです。


また、その約半年前にあたる2020年7月、職人と建設現場をマッチさせるアプリを提供する助太刀と、国内建機レンタル大手のアクティオが業務提携。助太刀アプリ内から建機を選ぶと、翌日には現場に建機が届く仕組みをつくりました。


アクティオの発表には、これまで建機レンタルのプロセスにはアナログな部分があり、人手と時間がかかっていた、と書かれています。建設現場で急に建機が必要になると、作業員が元請け建設会社に対して建機の手配を依頼し、担当者がレンタル会社に電話あるいはFAXで発注します。急遽手配となると、建機在庫や人員手配の問題もあり、作業予定日に建機が届かないこともあるそうです。本提携は、そういった煩雑になりがちなオペレーションをオンライン上で完結させようとするアプローチになります。


また、建機の遠隔操作化を進めるARAVは、2020年11月に建機の販売・レンタルを手がける伊藤忠TC建機と開発業務委託契約を締結し、後付けでレンタル建機の遠隔操作が可能になるプロダクトを開発しています。


単価の高い建機は、メーカーが建設会社に売切り販売するよりも、レンタル会社を経由してリース・レンタルという形で現場使用されることが多くなります。レンタルプロセスのデジタル化によるオペレーション効率化・収益機会多角化は、建設スタートアップのビジネスアイディアを考えるうえで興味深いと思い、調べてみることにしました。


今回の記事では、建機レンタルという市場に注目し、その領域で急成長を続ける、中国で高所作業車(高所作業を支える重機の種類)のレンタルプラットフォームを運営するユニコーン企業・Zhongnengの戦略を紐解くことで、建機レンタル市場の知見を深めていきたいと思います。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%83%AA%E3%83%95%E3%83%88-%E7%A9%BA%E6%B0%97-%E4%BB%95%E4%BA%8B-3437831/)



国内の建機レンタル市場


まず、国内の建機レンタル市場はどういった状況になっているのでしょうか?下図は、経済産業省のデータに基づいて筆者が作成したものです。

(Source: https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result/result_1.htmlを参考に、筆者が作成)


1990年代~2000年代は、多少の波こそあれ、約5,000億円程度の市場規模でした。2011年以降、東日本大震災後の復興需要や、自然災害の復旧工事を背景に市場が成長し、2021年には約1.2兆円の市場規模まで拡大。(ただし、2020年~2021年はコロナウイルスの影響を受けており、一時的に落ち込んでいる可能性があります。)国内の建設投資額が約60兆円なので、建機レンタルはその2%くらいの規模ということになります。


それでは、市場を構成する会社の規模感はどれくらいなのでしょうか。


日本には、一般社団法人日本建設機械レンタル協会という、建機レンタルに関するさまざまな情報が共有されているコミュニティがあります。同協会が出しているレポートを参考にすると、建機レンタル協会に所属している中で調査対象となった774社の中で、資本金500万円未満が約7%、1000万円未満が35%、3000万円未満が24%、5000万円未満が15%、5000万円以上が約19%となっています。

(Source: https://www.j-cra.org/wp/wp-content/uploads/2021/01/a438ff2d0fbdf86270fbf2f87b92a51b.pdf)



また、従業員数で見ると、1~5人が14%、6~10人が19%、11~20人が19%、21~50人が24%、51人以上が24%でした。

(Source: https://www.j-cra.org/wp/wp-content/uploads/2021/01/a438ff2d0fbdf86270fbf2f87b92a51b.pdf)



限られた期間のデータではありますが、「建機レンタル業界は、市場規模は拡大傾向にあるが、比較的中小企業が多く、従業員数の大幅な増加は見られない」ことが読み取れます。建設現場で使われる建機のうち、6割はレンタルと言われており、これからもレンタル建機市場は堅調に推移すると思われます。そこで、拡大する市場をしっかり対応するため、建機レンタル業界でも、効率的なオペレーションや新たな収益機会の確保が求められていると考えられます。


そういった中で、建設スタートアップが増えてきている(と言われている)こともあり、冒頭に挙げたようなスタートアップと建機レンタル会社が協業する動きが見られ始めているのかもしれません。



中国の建機レンタルプラットフォーム・Zhongneng United


Zhongneng Unitedとは

「建機レンタルマーケットのデジタルプラットフォーマーとして参考にすべき企業があるだろうか」と思案する中で、それにふさわしいかもしれない、と思ったのが、中国で建機レンタルプラットフォームを運営するZhongneng Unitedです。2021年3月、シリーズCラウンドで4.6億ドル(≒500億円)の資金調達を行いました。


同社は、2016年に中国・南京で創業し、リフトなどの高所作業車を中心に(英語ではAWP=Aerial Work Platformと表現します)レンタルするプラットフォームを運営。建設会社を中心とする顧客は、Zhongnengのウェブサイトやアプリを通じて、Zhongnengあるいは第三者のサプライヤーから建機をレンタルし、必要な場所に直接届くよう手配します。


Zhongnengは、シザーリフト直進式ブームリフト屈折式ブームリフトスパイダーリフトなど、幅広い高所作業車をラインナップに揃えると同時に、オペレーションエクセレンスを追求し、中国全土に60以上の流通センターを構築。1万台以上の在庫を保有し、中国の180に及ぶ都市に機械をレンタルしています。


高所作業車のイメージを膨らませるには、アイチコーポレーションのIR資料がわかりやすいかと思います。誰もが、電線修理現場や建築現場で、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

(Source: https://www.aichi-corp.co.jp/application/files/5415/2810/1721/statement_of_accounts_2017_4_explanatory-meeting.pdf)



同社のロールモデル(であり同時にライバル)とされているのが、アメリカ・コネチカット州に本社を置き、ニューヨーク証券取引市場に上場しているUnited Rental, Incです。同社は、高所作業車を含む建機レンタル世界シェア首位の企業です。1997年に創業したUnited Rentalは、建機レンタルマーケットのプレイヤーが細分化されている点に目をつけ、取り扱う製品群の拡大によって一気に顧客を獲得。また、決して電子商取引が盛んではなかった2000年頃にはすでにインターネットを利用した取引を実現しており、24時間いつでも機器のレンタル・購入が可能になりました


Zhongnengは、United Rentalのビジネスモデルを中国で再現し、これまでのところ成功させているように見えます。2018年にシリーズAラウンド、2019年にシリーズBラウンドを実施し、それぞれ6.3億人民元(≒105億円)、15億元(≒250億円)を調達。そして、複数回に分けたシリーズCラウンドで、総額500億円以上となるエクイティ・デットファイナンスを実施しました。創業から累計で800億円近く集めていることになります。


高所作業車市場

ここまで読んで、「いくらビジネスの仕組みが良くても、高所作業車の市場規模はそれほど大きくないのではないか?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。


果たして、高所作業車市場とはどれくらいの規模なのでしょうか?正確な数値はどこを探しても出ていなかったため、拾うことができる数値から逆算して考えてみます。


まず、日本市場です。高所作業車メーカーの一角であるアイチコーポレーションの2020年3月期の決算資料を見ると、トラックマウント式と自走式の高所作業車の売上高・シェアが載っています。トラックマウント式の国内売上が約313億円。アイチコーポレーションの国内シェアが64.7%とありますので、割り戻すと483億円。前年はもう少し売上高が大きいので、約500億円としましょう。同じ計算を自走式にも当てはめると、約400億円。幅をもたせると、合わせて900~1,000億円くらいの市場規模でしょうか。(高所作業車メーカー競合のタダノ前田製作所を調べると、高所作業車がおよそ200~300億円くらいの売上規模なので、それほど遠くない数字ではないかと思います。)


(Source: https://www.aichi-corp.co.jp/application/files/9815/9123/8168/statement_of_accounts_2019_4_explanatory-meeting.pd)



では、中国ではどうでしょうか。こちらのサイトには、2016年時点で約10,000台販売されている高所作業車市場が、ここ4年間で年間30%のペースで急成長していくと書かれています。日本を参考に一台約1,000万円と考えると、2021年には4,000億円弱まで拡大していることになります。中国の建設投資は年率5~6%で成長し、2020年は約100兆円に到達しており、日本の建設投資額(60兆円)の約1.6倍となります。一方、高所作業車について言えば理論値ではありますが、中国の市場規模は日本の4倍近くあるようです。違う記事でも、高所作業車市場の急成長に言及するものがありました。こちらの記事では、年率40%のペースで成長していると書かれています。


どうして、市場に大きなうねりが生まれているのか。背景として、わかりやすいところで2つ考えられます。

  1. 安全意識の向上 中国では竹の足場を組んで既存の高所作業を行っているケースが各地で見られ、安全意識の向上に伴って、高所作業車の普及が急速に進んでいる、という記事があります。竹は鉄に比べて1/5程度のコストで済むこと、また中国は竹の生産が盛んなことが、関係しているようです。興味深いのは、竹の足場を組める職人になるためには、専門の職業訓練校で教育を受けねばならず、技術習得に1年以上かかるそうです。私は建物づくりの過程を見るのが好きで、日本でも工事現場をよく眺めていますが、竹で足場を組むというのはとても考えられません。

  2. 人件費の向上 また、中国においてもかつての日本と同様、人的コスト上昇と労働力減少の波が来ており、人が足場を組んで移動するよりも、機械操作によって自由に移動ができる高所作業車の評価が進んでいる、と中国最大手の重機メーカーが高所作業車市場への参入に際して、コメントを出しています

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E8%B6%B3%E5%A0%B4-%E5%BB%BA%E8%A8%AD-%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E6%A5%AD%E8%80%85-2612772/)


Zhongnengのデジタルプラットフォーム戦略

Zhongnengは、そうした高所作業車市場の急拡大に乗っかり、そこにインターネットの力を掛け合わせることで、急速にシェアを伸ばしています。創業からわずか5年で中国のシェアナンバーワンポジションを確立。同社は、自社で製品群を抱えるプロバイダーでありながら、同時に他社の製品もレンタル(あるいはリース)できるプラットフォーマーです。


アリババやテンセントといった中国の巨大プラットフォーマーのように、Zhongnengも「データカンパニー」になる構想を描いています。Zhongnengに投資するSource Code Capitalが2019年に開催した年次総会で、ZhongnengでCEOを務めるYang Tianliは次のように述べています。


"Finally, as a digital company, we have dozens of hardware and software patents, which is inconceivable to others. The logic behind these numbers is supported and realized through technology development and data collection. We formed many algorithms and models based on technology and data during this whole expansion process. These algorithms and models provide insights for the construction of infrastructure for future cross-categories replication, and improvement of the asset efficiency in the whole industry."

(最後に、デジタル企業として、他社では考えられないような数十件のハードウェアとソフトウェアの特許を持っています。これらの数字の裏にある論理は、技術開発とデータ収集によって支えられ、実現されています。私たちはこの一連の拡大過程において、技術とデータに基づいて多くのアルゴリズムとモデルを形成しました。これらのアルゴリズムやモデルは、将来のカテゴリー横断的な複製のためのインフラ構築や、業界全体の資産効率向上のためのインサイトとなります。)

Zhongnengは、インターネットを通じて、高所作業車に関する顧客(建設会社)のデータを集めます。どれくらいのサイズの建設会社が、どのタイミングで、どのような高所作業車を発注するのか?注文された高所作業車はどのような作業に使われるのか?こういったデータが集まってくると、それらを新製品の企画・設計・開発に活かすことができますし、在庫数量や配置計画などのオペレーション改善にも役立てることができます。Yang Tianliは、繰り返し「機械の回転効率を上げる」ことが重要であるとコメントしています。



では、なぜそのような貴重なデータを、新興企業が集めることができるのか?そのヒントが、【既存のアナログな受発注】と【インターネットを用いた手軽なUXの受発注】のギャップにあると考えられます。


例えば、建機を借りるためにレンタル会社のホームページを訪問すると、「各営業所にお問い合わせいただき、在庫の確認をしてください」と書かれているケースが多くなっています。そこで、営業所のページを覗くと、Web上で注文が完結することは少なく、掲載されている電話番号に電話をかけるか、FAXを送ることになります。


一方で、インターネットを用いた発注は、もう少しスムーズに進みます。例えば、サイト上で全国営業所別の在庫状況がわかり、数クリックで見積もりが表示され、そのままオンラインで契約まで完結する、など実現可能です。


こういった体制をレンタル会社が構築できれば、見積もり依頼や注文データを蓄積し、その解析を通じて最適な在庫配置ができるようになります。これだけで、失注や無駄な運送コストを削減できるかもしれません。また、ファネル管理もしやすくなります。顧客はいつサイトを訪れているのか。訪れてから見積もりのリクエストを出すまでの手間を削減すると、どれくらい離脱者が削減できるか。SEO対策はどうすべきか。裏側を支える在庫管理はどのシステムを使うべきか、データベースは?と、採るべき施策がわかりやすくなります。


とはいえ、従来からのサプライヤーや顧客と関係性に縛られることもあると思いますので、既存の建機レンタル各社がプラットフォーマーになるのは、もしかすると少し難しいのかもしれません。だからこそ、スタートアップのように、これまでの会社同士のお付き合いや、既に出来上がってしまった固定的なオペレーションに捉われにくい企業にチャンスがあるのだと思います。



Zhongnengからの学び


今回の建機レンタル市場およびZhongnengからの学びは、「急成長している、かつデジタル化がそれほど浸透していない市場を見つけ、そこに巨大な資本を投下してデータを集め、オペレーションエクセレンスを追求しつつ、製品種類・地域の拡大や、収益機会の多角化を進めていく」という、バーティカルSaaSのお手本のような戦略です。


今回取り上げた市場では、スピードが勝負を分けると思います。ライバルは大きく2つあると思っていまして、1つは、デジタルトランスフォーメーションに成功した既存の建機レンタル会社。ただ、先ほど日本のマーケットでも指摘したように、サプライヤーや顧客との関係性に縛られ、スピーディに製品ラインナップを拡大できない可能性があります。もう1つのライバルが、Alibabaのようなマーケットプレイス運営会社。実は、すでにAlibabaでも建機のレンタルが可能になっています。


そうしたライバルとの競争の中で、Zhongnengがリードできているのは、高所作業車という製品群に絞ってレパートリーを増やしてきたこと、そしてオペレーションの追求を行ったことが関係しているのではないでしょうか。


2019年にはシェア世界3位のHaulotte、2020年には5位のXCMGと戦略的パートナーシップを締結し、製品の安定供給ラインを整備。また、並行して中国全土に多数倉庫を構え、顧客が求める場所に迅速に製品を手配する体制を構築しました。


こうした競争に勝つためには、同社が既に800億円近く集めていることからも分かる通り、顧客を獲得していくためのデジタル施策や製品群の拡大で、大規模な資金が必要になります。その反面、ビジネスモデル的に、一社あるいは数社が市場を独占することになりやすいため、うまくいけばとても大きなビジネスに成長する可能性があります。まさに、そういったホームランを狙うようなビジネスモデルに対して、ベンチャーキャピタルとして貢献していくことができればと思います。



なお、Zhongnengのように、日本のスタートアップの参考になるビジネスモデルを持つ海外企業の資金調達について、毎月まとめているのが、こちらになります。もしよろしければご参考ください。定期的に情報をキャッチされたい方は、IDATEN Ventures のFacebookページをフォローしていただければ、毎月すぐにご覧いただけます。


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