Search
  • Shingo Sakamoto

ShipHero・ShioBob・ShipMonkを参考に学ぶ、フルフィルメントスタートアップの戦略

前回は、デジタルフォワーディングプラットフォームについてご紹介しました。パンデミックによるEC需要増を背景に、顧客対応力を上げるべく、各社資金調達を進めています。


今回は、EC事業者が注文を受けてからエンドユーザーの手元に届くまでのバリューチェーンの中で、受注〜発送の一連業務「フルフィルメント」にフォーカスして、スタートアップをご紹介していきたいと思います。


前半部分では、フルフィルメントとはどんな業務か、なぜいまフルフィルメント領域のスタートアップが注目されているのか、後半部分では、会社名の頭に「Ship」がつくアメリカのフルフィルメントスタートアップをご紹介し、このマーケットではどのような部分が競合優位性となり得るのかを考察していきます。


(Source: https://pixabay.com/photos/high-bay-stock-range-warenlager-408222/)



フルフィルメントとは

フルフィルメントについては、インターネット上でさまざまな解説記事を得られるため、簡易的な説明とさせていただきます。


こちらのサイトを参考にすると、フルフィルメントは、以下の業務から構成されます。入荷・検品 → 商品保管 → 受注処理 → ピッキング → 検品 → 梱包 → 発送

(Source: https://ecnomikata.com/ecnews/19461/)



一方、こちらのサイトによれば、フルフィルメントの業務範囲は、上記に加え、発送後の顧客対応も含まれるそうです。

(Source: https://digital.tosho.co.jp/column/ec/3117/)



その範囲は広大で、エンドユーザーが閲覧するEC店舗のインターフェースと、発送以降の輸送管理以外は、ECオペレーションの大部分をカバーしていることになります。


例えば、フルフィルメントサービスの有名どころでは、Amazonが提供するFBA(Fullfillment By Amazon)が挙げられます。Amazonに出品する事業者は、月額制で在庫管理・注文処理・発送・返品対応などを、全てAmazonに任せることができます。

フルフィルメントサービスの提供者は、大きく分けて3つあります。ECモール事業者・物流事業者・フルフィルメント専門事業者です。


  1. ECモール事業者は、例えばAmazon・楽天などが代表例です。先ほどAmazonのFBAをご紹介しましたが、楽天は楽天スーパーロジスティクスというグループ会社を持ち、楽天市場に出品したEC事業者向けのフルフィルメントサービスを提供しています。他にも、ZOZOは、Fulfillment by ZOZOという物流プラットフォームを、ZOZOTOWN上のEC店舗だけでなく、自社EC店舗にも開放することによって、在庫の一元管理を可能にし、顧客の管理効率を向上させています。

  2. 物流事業者が手がけるパターンもあります。ヤマト運輸のフルフィルメントサービスはヤフーと連携し、Yahoo!ショッピングやPayPayモールに出品する中小企業の物流に関する悩みを解決しようとしています。SGホールディングスは、グループ会社の佐川グローバルロジスティクスを通じて、EC事業者が倉庫スペースやフルフィルメントシステムをシェアリングして利用することができる「シェアリング・フルフィルメントサービス」を提供。

  3. そして、最後がフルフィルメントサービスを専門的に提供する事業者です。こちらのサイトを覗くと、いくつかの専門業者がリストアップされています。



なぜフルフィルメントスタートアップが増えているか?

近年、世界中でフルフィルメントスタートアップの数は増え、競争が激化している印象を受けます。


その背景には、まずEC市場の着実な成長が関係しています。コロナウイルスが流行し始める前から、さまざまな商品カテゴリでEC化が進んでいます

(Source: https://www.hit-mall.jp/blog/news/column-021.html)


そこに、コロナウイルスが重なり、人々は外出を控え、ますますオンライン上で購買行動を取るようになってきました



Amazonや楽天のようなECモールも伸びていますが、D2C(Direct to Consumer、自社チャネルで直接的に商品を消費者に販売する)市場の拡大も、フルフィルメントの盛り上がりに関係しているかもしれません。D2Cブランドは、比較的少人数の運営でも、商品に込めたメッセージや、専門性を突き詰め、熱狂的な顧客を獲得できることがあります。「少人数で回したいけれど、フルフィルメントのクオリティは落としたくない。」そういった事業者は、フルフィルメントサービスを利用すると良いかもしれません。



EC事業者の立場になって考えてみると、フルフィルメントサービスに求めるのは、3つの柔軟性だと思います。1つ目は利用期間の柔軟性。自社で貸倉庫と契約しようとすると、最低でも数年契約になることがありますが、その間に事業の状況が変わってしまうこともあります。数ヶ月(できればお試しで数週間)からでも、倉庫利用できるような柔軟性があると利用開始のハードルは下がります。2つ目は広さの柔軟性。いきなり注文が増えたり、在庫を多めに持っておきたい時に、柔軟に利用面積を拡張できると助かります。3つ目が価格の柔軟性。フルフィルメントサービスを利用した分だけ支払う仕組みになっていれば、その費用を変動費として扱うことができ、経営のハンドリングがしやすくなります。



こうしてみると、まさにインターネットのクラウドサービスそっくりです。元々自社で大きなサーバーが必要だった時代から、Amazon Web ServiceやGoogle Cloud Platformを使えば、誰もがすぐにクラウド上にサーバーを持つことができるようになりました。サーバーにアクセスがあった分だけ、従量料金を支払うような仕組みです。このクラウドサービスの仕組みを物流に当てはめたのが、今盛り上がっているフルフィルメントサービスではないでしょうか。



スタートアップがフルフィルメント市場で抜きん出ていくための観点として、まず販売チャネルとの連携が重要になると思います。EC事業者の多くはECモールに出店するか、自社ECサイトで商品を販売しますが、ECモールと連携することができれば、使い勝手が良くなります。例えば、グローバルECモールのShopifyが使えるフルフィルメントサービスは、Shipwire、Amazon、楽天だけでしたが、ここに日本からOpenLogiというスタートアップが加わりました。OpenLogiは、独自の在庫管理システムを開発し、わかりやすいUIと、倉庫の拡張性から、国内で着実に顧客数(EC事業者)を伸ばしているようです。


もう1つ重要な観点として、ポジショニングが挙げられます。フルフィルメント領域には、ECモール、EC事業者、倉庫事業者、配送事業者など、プレイヤーが多く、「バリューチェーンの中で、どんな役割を果たすか」が重要になります。OpenLogiの場合は、倉庫業者に使い勝手の良い在庫管理システムを、ECモールに即時連携できるAPIを、そしてEC事業者にシンプルで使い勝手の良いインターフェースを提供し、うまくステークホルダーの間に入り込んでいるような印象です。



次の章では、アメリカのフルフィルメントスタートアップの中で、会社名の頭が「Ship」となっている、ShipHero、ShipBob、ShipMonkをご紹介しますが、それぞれどのようにマーケットに参入し、競合優位性を築いているのか、見ていきたいと思います。



アメリカのフルフィルメントスタートアップたち

ShipHero

2013年にニューヨーク州で創業。創業者は、Aaron Rubin, Nicholas Daniel-Richardsの2名(Daniel-Richards氏は、2021年4月に退任しています。)


ShipHeroは、2つのビジネスモデルを持っています。1つは、自社で倉庫を運営しているような事業者(倉庫事業者、倉庫を持つEC事業者、倉庫を持つ3PL事業者など)に、フルフィルメントに必要なシステムを提供するモデル。もう1つは、ShipHero自身が倉庫を運営し、顧客であるEC事業者にフルフィルメントサービスを提供するモデルです。このように、顧客が使うシステムや体験するオペレーションを、自社で使ったり再現することを、「ドッグフーディング」と言うことがあります。ShipBobは、顧客のフィードバックはもちろん、自社で運営する倉庫から出てきた問題点を、プロダクトの改善に活かし、高速でPDCAを回しています。


エンドユーザーからEC事業者に注文が入ると、ShipHeroのフルフィルメントシステムにデータが連動されます。事前にEC事業者が設定したルールに基づいて、注文を保留にしたり、不正注文を検出したりすることが可能です。また、ShipHeroのシステムは、配送業者のシステムと連携しており、配送業者に合わせたラベルが自動生成されます。国境をまたいで輸送する場合は、税関に必要なラベルも生成可能です。ラベルに貼られたバーコードをスキャンすると、発送通知が飛んでいく仕組みになっています。ちなみに、注文情報データは蓄積され、2度目の注文以降パーソナライズされた対応が自動的に行われます。



ShipHeroのサービスを利用するEC事業者は、大きく分けて3種類存在します。

  1. まず、これまで単一倉庫から3PLに任せて発送していたEC事業者です。1拠点の場合、在庫管理は容易になりますが、国土が広いアメリカでは、必要以上に輸送時間がかかってしまうリスクがあります。そういったEC事業者は、コストをかけ過ぎずに在庫を分散保管し、輸送時間の短縮を狙います。そこで、フルフィルメントプラットフォーマーである、ShipHeroの倉庫を利用するわけです。

  2. その次が、急成長するD2Cブランドです。フルフィルメントに割くリソースが不足しており、また1社で倉庫を借りるほどの規模ではないような事業者です。こうした事業者の特徴として、需要が急激に伸びる可能性があり、その変動に対応できる柔軟なサービスを求めています。

  3. 最後が、大規模グローバルメーカーです。あくまでイメージですが、例えばNIKEやAppleのような企業を想像していただくと良いかと思います。グローバルメーカーは、自社のサプライチェーンの中に、ECモールが入りこみ、データを取られることを嫌う傾向があります。ECモールが提供するフルフィルメントサービスを使いたがらないようなEC事業者は、ShipHeroのような、独立的なフルフィルメントサービスを求めているようです。


ShipHeroは、2021年6月に、2013年の創業以来、初めての資金調達を行い、5,000万ドル(≒55億円)の出資を受けました。現時点で、EC事業者約4,000社、倉庫を保有する輸送代行業者(3PL=サード・パーティ・ロジスティクス)約190社を顧客にもっているそうです。



ShipBob

2014年にイリノイ州で創業。創業者は、Dhruv Saxena, Divey Gulati, George Wojciechowski, Jivko Bojinovの4名。全員、現役でShipBobの経営に関わっているようです。


ShipBobのビジネスモデルは、ShipHeroとほぼ同じですが、顧客は基本的にD2CのEC事業者が中心です。2021年6月に同社は2億ドル(≒220億円)調達しましたが、その時のニュースによると、ShipBobはアメリカ、カナダ、ヨーロッパ・オーストラリアに20箇所の倉庫を持ち、EC事業者約5,000社を顧客に持っているそうです(ShipHeroのEC事業者顧客が約4,000社なので、1,000社くらい多い規模感)。


そのニュースの中で、フルフィルメントマーケットに関する、良い洞察があったので、抜粋してご紹介します。


"As many have pointed out, Amazon’s success is built in large part on economies of scale, by making a better return because of how much it’s passing through the same system, distributing the cost of operation across more goods.

Companies like ShipBob — and it is not the only one in this space, with others including Amazon, ShipHero, Byrd, OceanX, Shippo and many more — have essentially built a logistics operation that lets those companies outsource the work of doing that themselves, much as they would use a payments provider like Stripe rather than building a payments flow from the ground up. ShipBob also, by virtue of working with many businesses, creates that economy of scale by bringing their orders and work all together, mimicking essentially what Amazon does for itself."

(多くの人が指摘しているように、Amazonの成功は規模の経済によるところが大きく、同じシステムにどれだけ多くの荷物を通すかによって、運営コストをより多くの商品に分散させることで、より良い利益を得ている。

ShipBobのような企業は、Amazon、ShipHero、Byrd、OceanX、Shippoなど、この分野で唯一の企業ではないが、本質的には、企業が自社で行う作業を外注するための物流オペレーションを構築している。また、ShipBobは、多くの企業と協力することで、Amazon社が自社で行っていることを基本的に真似て、企業の注文や作業をまとめて行うことで、規模の経済性を生み出しているのである。)

(Source: https://techcrunch.com/2021/06/29/shipbob-nabs-200m-at-a-1b-valuation-to-help-e-commerce-companies-run-logistics-like-amazons/)


特に、太字下線でハイライトした部分が、面白い分析だと思います。確かに、前述のShipHeroやShipBobが、輸送業者やEC事業者と組んでやっていることは、本質的にはAmazonが自社完結させていることと同じです。フルフィルメント事業者は、可能な限り多くのEC事業者を顧客に持つことで、集約によるコスト削減が生む利益を得ようとしています。


次に、それでAmazonに競り勝てるのか?という問いが出てくると思いますが、そこでShipHeroを利用する3種類目のEC事業者がヒントになると思います。繰り返しになりますが、大規模グローバルメーカーは、Amazonのような巨大ECモールに組み込まれて、データを取られたり、ブランドが毀損することを避ける傾向があります。ブランディングの邪魔をせず、バックエンドのオペレーションを支えるフルフィルメントスタートアップは、そういった顧客層をしっかり取り込んでいくことで、大規模ECモールに対抗し得るのではないかと思います。


ShipBobは、5,000万ドルの調達ラウンドを1回実施しただけのShipHeroとは対照的に、創業以来、7回の資金調達ラウンドを実施し、累計3億3,000万ドル(≒360億円)調達しています。直近の調達資金は、倉庫内のロボットや自律システムに投資していくつもり、と書かれています


ShipMonk

2014年にフロリダ州で創業。創業者は、Jan Bednar, Kevin Sides, Vash Jaresの3名。


創業タイミングが2014年と、ShipBobと同じで、かつ同じようなサービスを提供しています。創業者のJan Bednerは、創業の経緯を尋ねられたインタビューの中で、2014年当時、フルフィルメントを提供する専門企業や、3PL企業の顧客サービスが良くなかったことを指摘しています。その原因は、ソフトウェアに問題があり、注文から発送までシームレスに繋がる効率的なシステムを開発すれば、市場に参入できると考えました。


ShipMonkは累計3億6,500万ドル(≒400億円)調達していますが、2020年12月のラウンドが最も大きく、そのタイミングで2億9,000万ドルの出資を受けています。その時のリリースによると、ShipMonkは、ペンシルバニア州・カリフォルニア州・フロリダ州に倉庫を配置し、アメリカ全土のニーズに応えているようです。



「Ship」シリーズの他にも、アメリカにはフルフィルメントスタートアップがいくつもあります。例えば、2013年にテネシー州で創業されたRed Stag、2011年にジョージア州で創業されたFulfillment.com、同じく2011年にニューヨーク州で創業されたRuby Has、そして2001年にミシガン州で創業されたE-Fulfillment Serviceなどは、その一部です。多少バラツキはありますが、2011~2014年頃に創業されたスタートアップが成長し、シェア拡大を競っているように見えます。



こうして俯瞰してみると、フルフィルメントスタートアップが、アメリカの各州に分散していると感じました。これまでに名前を挙げたスタートアップの創業地をプロットしてみると、以下のようになります。

(Source: https://www.google.com/maps/place/United+States/@36.5140767,-95.7268877,4.8z/data=!4m5!3m4!1s0x54eab584e432360b:0x1c3bb99243deb742!8m2!3d37.09024!4d-95.712891)


今回、また多くのプレイヤーがいるであろう西部のスタートアップは追っていませんが、中部〜東部エリアでは、わりとバラつきがあるように見えます。一方で、各社のプレスリリースをみると、顧客基盤の拡大を狙って、アメリカ全土に倉庫を持とうとしていることが伺えます。


ここから、以下のようなストーリー仮説が考えられます。

  • 各フルフィルメントスタートアップは、創業時はその周辺地域で、それなりに大きいプラットフォームとして存在感を持っていた。

  • 同時多発的に他地域で生まれた類似スタートアップが大きくなる過程で、徐々に地域的にバッティングするようになった。

  • しかし、各社は顧客数が増えないと集約による倉庫運営コストの低減でAmazonに対抗できないため、ここから顧客基盤の奪い合いが生まれ始めることになる。

といっても、アメリカはとても広大ですし、カナダやメキシコなど、隣接する大きな国がありますので、まだまだマーケットとして広がっていくと思います。



フルフィルメントの業務フローは、ある程度「型」が決まっているため、プロダクトそのものには、それほど大きな差が生まれないのではないか、と私は考えています。とすると、ここから、どんな点がシェア獲得の鍵になっていくのでしょうか?


1つ目は、調達資金の規模。これによって、倉庫を一気に増やし、サービスが提供できる地域をいかにスピーディに増やしていくかが重要になると思います。2つ目は、パートナーシップ。フルフィルメントスタートアップにとって、顧客はEC事業者です。EC事業者が必要とする「何か」を囲い込んでいくことが戦略になります。例えば、日本であればBASEやHeyのような中小特化のECカート、あるいはD2C企業が簡単にウェブページを作れるようなノーコードウェブサービス作成ツールなど。まさに、ShipBobはそのような戦略を採っており、次々と提携を結んでいます。3つ目は、サービスクオリティ。前述の通り、フルフィルメントには、複数のステークホルダーが関わります。メールを出すタイミング、パッケージの丁寧さ、画面操作のしやすさなど、ちょっとした部分が、信頼感に直結する可能性があります。スピード感を持って規模を追求しつつ、1つ1つの業務クオリティを落とさない、という点が基本に立ち返ってとても重要だと思います。



今回はアメリカに注目しましたが、ECの波は世界中に押し寄せています。またどこかで、違う地域についても調べてみたいと思います。もし詳しい方いらっしゃれば、ぜひお話しましょう。



IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


お問い合わせは、こちらからお願いします。