2021年6月は、ロジスティクス・サプライチェーン関連の海外スタートアップ資金調達が目立ちました。IDATEN Venturesがまとめている海外スタートアップ資金調達ニュースの2021年6月前半・後半をご覧いただくと、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなど、世界各地で資金調達を成功させたスタートアップがいくつも見えてきます。
ちなみに、IDATEN Venturesでは、海外だけでなく国内も含めて、ものづくり・ものはこびスタートアップの資金調達ニュースをまとめていますが、Facebookをフォローすると毎月逃さずにチェックいただけますので、もしよろしければフォローいただければ幸いです。
今回ご紹介するFortoも、そんな物流分野でプラットフォームを展開するスタートアップの1つです。Fortoは、2021年6月にSoftbank Vision Fundから資金調達を行いました。この記事では、ヨーロッパで着実に成長し、今後さらなる事業拡大が期待されるFortoを、深掘っていきたいと思います。
全体の構成としては、まずFortoの顧客、顧客の課題、プロダクトについてご紹介し、それから資金調達と投資家陣の顔ぶれ、そこからヒントを得てマーケットを見る視点まで書いていきます。
(Source: https://pixabay.com/photos/ship-freighter-technology-metal-3493887/)
Fortoとは
Fortoは輸送プラットフォームを開発するスタートアップです。創業は2016年で、ドイツ・ベルリンに本社を構えています。LinkedInのForto紹介ページを見ると、現在ヨーロッパ・アジアを中心に11拠点を持ち、従業員は550人を超えているようです。
Fortoの顧客と、アプローチする課題
Fortoの主な顧客は、オンライン上で商品を販売する事業者です。オンラインでインテリア用品を販売するhome24、日用品を販売するEdeka、自動車・スクーターなどのモビリティを販売するMiwebaなどが、その一例です。現時点では、ヨーロッパの顧客が比較的多くなっているようです。
顧客が抱える課題は、商品を輸送する時にかかるコストが大きいことです。例えば、ドイツのhome24が中国の顧客からインテリア用品の発注を受けた場合、home24は輸出入に関するさまざまな手続きを行いますが、ここには煩雑な業務が多く存在します。輸送手段を船舶・鉄道・飛行機どれにすべきか、輸出入に関する税関手続きの書類作成・提出、輸送状況確認と到着日時の伝達などは、そういった業務の代表例となります。
Fortoは、わずか数クリックで、こうした手続きが完結するプラットフォームを作っています。Fortoによると、顧客は輸送管理コストを約30%削減することができるそうです。輸送管理コストは、電話・メールによって配送状況を都度確認するコミュニケーションコスト、発送元・受取先間で到着日時の認識にズレが生じた場合に必要な在庫保管コストなど、煩雑になりがちな輸送管理業務に起因するものが多いのではないかと思います。
また、先ほど少し書きましたが、貨物を輸出入する場合、通関業務が発生します。輸出側は、輸送貨物の品目・数量・価格に応じて、管轄税関に定められた申告を行い、輸出許可をもらいます。輸入側は、管轄税関に輸入申告を行い、税関審査後に関税・消費税を納入したうえで貨物を引き取ります。Fortoは、顧客であるメーカーや卸売・小売業者が商品を輸出する時に避けて通れない通関業務の効率アップも、プラットフォームが果たすべき使命としています。
Fortoのプロダクト
Fortoのプロダクトは、どのように顧客の課題を解決しようとしているのでしょうか?
まず、顧客は商品を輸送するにあたって、プラットフォーム上で、船舶・航空機・鉄道の輸送価格を比較し、最適な手段を選択します。船舶には、FCL(Full Container Load、コンテナ一台をフルに使うケース)と、LCL(Less than Container Load、コンテナ一台に満たない貨物の場合、他のLCL希望の貨物と相乗りで運ぶケース)のオプションがあります。
通関に必要な手続きも、オンライン上で済ませることができます。案内に従って、書類をプラットフォーム上にアップロードするだけで完了します。
また、商品を輸送する時、輸送中に起こるリスクも考えて、保険加入が推奨されます。Fortoのプラットフォームを通じて、顧客はすぐ保険に加入することができます。
手続きが簡単になるだけではなく、実際の輸送コストも下がるようです。Fortoはさまざまな事業者から商品を集約するため、積載率が向上し、kgあたりの輸送コストを低減することができるそうです。
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せっかくなので、使い勝手がどんな具合か確認してみよう!と、トライアル版を試してみました。ホーム画面に、輸送コストを試算する画面があり、空欄に輸送したい荷物の個数・重量・幅・高さを記入し、出発地・到着地を選択すると、「アカウントを登録してください」と出てきます。アカウント登録しないと使えなさそうです。
(Source: https://forto.com/de/seefracht/)
(Source: https://forto.com/en/start-now/)
アカウント登録には、氏名・用途・メールアドレス・電話番号の記載を求められたので、それらを全て記入して提出しました。すると、「ニーズとソリューションのフィットを測るために、いくつかの質問に答えてください」というメールが送られてます。質問は以下の3つでした。
How many international shipments have you made in the past 12 months?
What type of goods are you shipping?
What is the origin and destination of your shipments?
アメリカに住む知人に、何か雑貨でも送るのに使えないかなと思い、3つの質問にそれぞれ「Nothing, Groceries, Tokyo → New York」と書いて送りましたが、そこから返事がくるのにひどく時間がかかりました。8時間後に返事が来て、「東京からはFortoのサービスを使うことができません」という結果でした。
正直、プロダクトのオンボーディングは、まだ改善できそうな部分があると思いました。もちろん、私のような個人が使うことは想定していないという前提はあるかもしれませんが、例えば利用可能な地域や、アカウント登録後の流れなど、もう少し丁寧なガイドがあると使いやすいのにな、と感じました。
Fortoの資金調達
この章では、Fortoがこれまで行ってきた資金調達を見ていきます。Crunchbaseによると、創業から現在までの累積調達額は、3億4,300万ドル(≒380億円)です。
2016年:シードラウンド
創業した2016年にシードラウンドを実施し、300万ドル(≒3億円)調達。Cherry Ventures、Global Founders CapitalというドイツのシードVCが参画しました。
2017年:シリーズAラウンド
シードラウンドから15ヶ月後の2017年、2,000万ドル(≒22億円)のシリーズAラウンドを実施。このラウンドをリードしたのは、Northzoneというイギリスのアーリーステージに特化したVCです。
2019年:シリーズBラウンド
シリーズBラウンドは、シリーズAラウンドから17ヶ月後経過した2019年5月に実施し、3,000万ドル(≒33億円)調達しました。リードしたのは、2018年創業のVCであるRider Globalです。
Rider Globalは2021年7月時点で、公開されている投資先6社のうち、Fortoを含めて4社が、輸送関連のスタートアップです。スウェーデンのSendify、スペインのPaack、オーストリアのbyrdは、どれもEC×輸送を事業領域としています。なかでも、SendifyはFortoと似ており、輸送会社と発送元(特に小規模EC事業者)をつなぐデジタルフォワーディングプラットフォームを開発しています。ちなみに、PaackはEC事業者向けの即時配送サービス、byrdはEC事業者向けのフルフィルメントサービスを提供しています。
2020年:シリーズCラウンド
シリーズBラウンドの14ヶ月後、5,000万ドル(≒55億円)のシリーズCラウンドを実施。(crunchbaseにはシリーズBと書かれていましたが、14ヶ月の期間が空いているため、便宜的にシリーズCラウンドと記載します。)
リード投資家は、チェコに本拠を構え、成長ステージのスタートアップに投資するInven Capitalです。同ファンドは、ヨーロッパのエネルギー問題を解決するスタートアップに出資する、というコンセプトで活動しています。一瞬、なぜエネルギー?と疑問を持ちましたが、調べてみると納得感がありました。
2018年、EU圏内CO2排出量のうち、海運が4%、空運が4%、トラック・バスなどの陸運が5%、そして鉄道を含む他手段が1%を占めています。
(Source: https://theicct.org/blog/staff/eu-carbon-budget-apr2021)
この中には「人の輸送」も含まれていますが、いずれにしても、現時点では何かを運ぶために、CO2が排出されています。こちらの記事には、EUが目標CO2排出削減量を達成するためには、輸送部門の排出量を抑えることがいかに重要か、という内容が書かれています。
そして、Fortoはこの課題に挑んでいます。まず、Fortoはカーボンオフセットプログラムに参加するユーザーに対して、貨物輸送によるCO2排出量相当分の補償を請求します。CO2トン当たり、11ユーロ(≒1,400円)となります。
また、Fortoは、CO2排出量管理SaaSを開発するPlanety社と協力して、顧客が予約した輸送計画のCO2排出量を計算し、非効率な輸送を特定・削減するコンサルティングを行います。
このプログラムは、顧客からすると、輸送単価が上がる場合はあれど、金銭的に得することはありません。それでも、年々プログラムの利用率は上がっているそうです。
CO2削減にはさまざまな切口があり、基礎研究レベルのアプローチもあれば、Fortoのようにプラットフォーマーがリードして、顧客の行動をエネルギーフレンドリーな方向に導いていくものもあります。このあたりは、これから日本のスタートアップがグローバル展開するうえで、参考になる部分かもしれません。
2021年:シリーズDラウンド
そして、シリーズCから11ヶ月後の2021年6月、シリーズDラウンドで2億4,000万ドル(≒260億円)調達しました。こちらの記事を参考にすると、あくまで推定値にすぎませんが、評価額は約12億ドル(≒1,300億円)ではないかと言われており、ユニコーン企業(時価総額1,000億円以上の未上場企業)の仲間入りを果たしたことになります。
このラウンドをリードしたのは、Softbank Vision Fundです。Vision Fundのポートフォリオを見ると、FortoはLogisticsというセグメントに含まれています。Fortoと似たスタートアップとして、Vision Fund投資先に、Flexportというスタートアップがあります。Flexportは、Fortoと同じく、デジタルフォワーダーとして、顧客が自由に輸送手段を選択し、リアルタイムに貨物追跡が可能なプラットフォームを提供しています。ちなみに、Flexportも先ほどご紹介したカーボンオフセットプログラムを提供しています。Flexportの累計調達額は13億ドル(≒1,420億円)で、Vision Fundは10億ドル集めたシリーズDラウンドで投資しています。
ちなみに、Vision Fundの他のロジスティクス関連投資先を一部ご紹介すると、倉庫内フルフィルメントロボットのBerkshire Grey、EC事業者のフルフィルメント〜発送まで受託する「Tech-Enabled 3PL」(テクノロジーによって成立したサードパーティロジスティクス)のShipBobなどが挙げられます
類似のデジタルフォワーダーに投資する戦略
あえてRider GlobalやVision Fundのポートフォリオをご紹介したのは、どちらのファンドも、ロジスティクス領域に投資するにあたって、デジタルフォワーダースタートアップ含め、似たようなスタートアップに複数投資している、ということを確認したかったからです。(おそらく、他のグローバルなベンチャーキャピタルでも、そういった傾向があるのではないか?と思います。)
ソフトウェアを活用することで、オンライン上で輸送手段を選択したり、貨物の位置をトラッキングしたりすることはできますが、ロジスティクスの世界では、必ずオフラインの「現実世界で運んでくれる方々」との連携が必要になります。そのため、地域性が関係してくると思っています。
Vision Fundは、世界で同時多発的に盛り上がるECの波と、それを支えるロジスティクスニーズに応えるスタートアップをしっかり捉えるため、サンフランシスコ中心のFlexportと、ベルリン中心のFortoに、二重張りしているように見えます。ヨーロッパはEU諸国のつながりが強く、地の利が効く可能性があります。とすると、ヨーロッパのデジタルフォワーディングは、ヨーロッパに本拠地を置くスタートアップが優利なのかもしれません。
(ちなみに、Vision Fundの生みの親である孫正義さんは、古代中国の兵法書「孫氏」と自身の名前を組み合わせてつくった「孫二乗の法則」の第一列目で、道・天・地・将・法という5文字を挙げ、あらゆる戦略の根本に据えていると言っています。その中で、「地」は、「地の利を得よ」という意味合いで書かれています。孫二乗の法則には、5文字だけでなく続きがあって、どれも面白いので、ご興味ある方は参考にされてください。)
そういった仮説に立つと、これからアフリカや南米などの地域で、その地域に根ざしたデジタルフォワーダーが出てくるかもしれません。実際、南米ではチリのKLog.comが急成長しており、ペルー・ボリビア・コロンビア・ウルグアイ・メキシコに進出しようとしています。
アフリカには、SENDという、ナイジェリアで2017年に創業されたスタートアップがあります。SENDは2020年のY Combinator卒業生で、Y Combinatorのページには、「Flrxport for Africa」(アフリカ向けのFlexport)と紹介文が書いてあります。ただし、海運・空運・陸運が選べるFortoやFlexportとは異なり、SENDには現時点で陸運オプションがありません。顧客は海運または空運から選択することになります。なお、日本でも、SENDと同じく海運・空運デジタルフォワーディングサービスを開発するShippioがあります。
今後、Fortoがヨーロッパ圏外で、Flexportが北米圏外で、KLog.comが南米圏外で、SENDがアフリカ圏外で、どれくらいの顧客を獲得することができるのか、という点は注視していきたいと思います。
株主応援団
もう1つ、Fortoの資金調達に関して興味深い点があります。それは、Fortoの株主には、ヨーロッパ諸国の投資ファンドが参画していることです。
各調達ラウンドのリード投資家はすでにご紹介しました(シード:ドイツ、シリーズA・B:イギリス、シリーズC:チェコ、シリーズD:イギリス)が、フォロー投資家にもイタリアのファンドであるH14や、フランスIris Capitalなどが並びます。ライバルであるFlexportに目を向けると、(71もの株主がいるため、定量的に断定できませんが)アメリカ・中国の投資ファンド・事業会社が多く、Fortoとは少し違う顔ぶれになっています。
デジタルフォワーディングプラットフォームは、EU全体が注力するエネルギー政策に影響を与える要素の1つになる可能性がありますし、EU圏は関税が撤廃されていることもあり、他経済圏に比べると足並みを揃えやすいのかもしれません。
悲しいことに、まだ世界はコロナウイルスの影響を受けている、と言わざるを得ない状況が続いています。そういった背景もあり、ますますECは盛り上がり、オンライン上で世界各国からモノを買う、という消費者行動は継続、あるいはさらに加速していくと思います。デジタルフォワーディングプラットフォームも、その流れの中でますます巨大化していくのではないでしょうか。個人的には、そういったプラットフォームはもちろん、輸送に関わるエネルギーを低減する技術、既存の輸送手段に加わってくるような新しい輸送技術(ドローンやEVトラックなど)などには注目していきたいと思っています。
IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について
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