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  • Shingo Sakamoto

EV時代の重要技術:バッテリーマネジメントシステム(BMS)、世界のスタートアップをご紹介

今回は、バッテリーマネジメントシステムについてご紹介します。


バッテリーマネジメントシステムとは、バッテリーを安全かつ効率的に使用するためにバッテリーの状態を監視するシステムで、電流、電圧、温度、電池残量などのデータを管理します。略語としては、BMS(Battery Management System)あるいはBMU(Battery Management Unit)と呼ばれることがあります。


近年、モバイル情報端末(スマホ・タブレット・ノートPCなど)、モビリティ(EV・ドローンなど)の動力源としてバッテリー需要は堅調に伸びており、バッテリーをめぐるバリューチェーンのいたるところでイノベーションが求められています。


例えば、リチウムイオンバッテリーのバリューチェーンに目を向けてみると、最も上流、つまり原料を採掘する、という部分で動きが見られます。IDATEN Venturesが先日リリースした海外スタートアップ資金調達ニュースでもピックアップしていますが、Bacanora Lithiumというイギリスのリチウム探鉱・開発スタートアップが、中国のリチウム製品メーカーに約290億円で買収されています。


バリューチェーンの中流を「リチウムイオンバッテリーの開発・製造」、下流を「出荷後の管理や二次・三次流通」と考えると、BMSは中流〜下流を支えるイノベーションの1つに該当します。バッテリーメーカーの手を離れた後、バッテリーの状態をリアルタイムで把握・分析し、その残存価値を見える化するBMSは、今後ますます重要なツールとなっていくと思います。2016〜2017年ごろから、欧米を中心にBMSスタートアップがいくつも登場し、資金調達を成功させています。


そこで、この記事では、なぜBMSが重要なのかという視点を交えつつ、世界のBMSスタートアップをご紹介していきます。


(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC-%E5%85%85%E9%9B%BB-%E3%83%95%E3%83%AB%E5%85%85%E9%9B%BB-1688854/)




BMSの構造と役割


この章では、デンソーテン(デンソーグループの1つ)が出しているBMSに関する解説をベースに、BMSの構造と役割についてご説明します。


BMSがマネジメントするターゲットはリチウムイオンバッテリーに限りませんが、充電して繰り返し利用可能なリチウムイオンバッテリーは、モバイル情報端末やモビリティの動力源として、幅広く使われているため、ここではリチウムイオンバッテリーを前提として記載します。


リチウムイオンバッテリーは、取り扱いを誤ると発火・感電リスクがあります。安全性を確保するため、BMSは過電圧・過昇温・漏電などの異常を事故発生前に検知します。また、バッテリーのパフォーマンスを最大化するため、BMSは各温度・充放電環境下でのバッテリー残量推定や電圧・電流制御を行います。


例えば、EVの内部では、BMSとECU(Electronic Controll Unit)がつながり、バッテリーの状況に応じて、駆動力・充放電量の制御などを行うことになります。

(Source: https://www.denso-ten.com/jp/gihou/jp_pdf/62/62-10.pdf)


BMSの構造を見てみると、マイコンの中に、電圧監視、バッテリー残量演算、絶縁抵抗検知、電流検知、温度調整など、さまざまなソフトが組み込まれています。

(Source: https://www.denso-ten.com/jp/gihou/jp_pdf/62/62-10.pdf)



BMSの良し悪しは、組み込まれている機能のバラエティがどれほど豊富か、という観点もありますが、バッテリーの残量・劣化度・故障推定の精度が指標の1つになります。そうなると、機械学習を使ったビジネスでもよく指摘されるように、いかに「良い」データを「たくさん」集められるかが重要になり、ビジネスモデルやパートナーシップの組み方が鍵になってきそうです。


次の章でご紹介する各スタートアップにも、同様のことが当てはまると思います。まだ未上場であることや、技術的な部分をあまり公開していないことから、各BMS企業の細かい推定精度差まではわかりかねますが、それぞれのBMSスタートアップが、どのEVメーカー・バッテリーメーカーと組むか、どんなビジネスモデル・価格で、データの収集スピードを早めるか、というところで、しのぎを削っているように思います。




世界のBMSスタートアップ


繰り返しになりますが、2016〜2017年ごろから、欧米を中心に、BMSスタートアップがいくつも現れるようになりました。もちろん全てをピックアップするのは難しいので、その中で7社のスタートアップを、創業年が新しい順にご紹介していきます。


ACCURE

地 域:ドイツ

創業年:2020年


アーヘン工科大学でバッテリーシステムについて研究していたチームが結成したスタートアップです。


こちらのサイトによれば、同社はシードラウンドで230万ユーロ(≒3億円)を調達しました。その資金によって採用人数を増やし、現在、30名以上のバッテリー専門家とデータサイエンティストが所属しているそうです。


ACCUREの分析プラットフォームの強みは、さまざまな種類・形のバッテリーデータを扱うことができる点にあります。通常、大規模EVメーカーはバッテリーサプライヤーを複数抱えており、かつ同じサプライヤーでもバッテリーのバージョンごとに、収集するべきデータの種類・形式は変化することがあります。ACCUREは、APIを通じてそれらの膨大なバッテリーデータにアクセスし、状態把握・分析・寿命予測を1つのプラットフォーム上でできるようにします。


ACCUREはこのプラットフォームを、バッテリーを使用する顧客にSaaSモデルで提供し、継続収益が上がるよう計画しています。


すでに、グローバルで500MWh分のバッテリーデータモニタリングに使用されているそうです。



Twaice

地 域:ドイツ

創業年:2018年


ミュンヘンに本社を構えるTwaiceは、2020年にシリーズAラウンドで1,100万ユーロ(≒15億円)2021年にシリーズBラウンドで、2,600万ドル(≒30億円)調達し、欧州事業拡大、米国進出準備の段階に入ったそうです。


シリーズBラウンドの資金調達を報じた記事によれば、Twaiceの強みは、車両やエネルギー貯蔵システムに実装されたバッテリーからリアルタイムでデータを抽出し、クラウドプラットフォーム上に再現したシミュレーションモデルを常時監視できる点にあります。


Twaiceのデジタルツインを使うことで、ユーザーは、バッテリーがどれくらい過熱しているか、どの程度劣化しているか、という現在の状態を視覚的に把握することはもちろん、将来シミュレーションの視覚化も可能になります。



これはTwaiceに限りませんが、BMS開発企業の顧客は、大きく分けて2つあります。1つは、バッテリーを搭載した製品・車両・設備を販売する企業です。前述のACCUREがメインターゲットとする顧客です。そういった顧客は、BMSを通じて、バッテリーの現状や寿命を知ることができ、突発故障の防止やバッテリーフレンドリーなオペレーションの構築に役立てることができます。もう1つは、バッテリーを開発・製造・販売する企業です。バッテリーメーカーのR&Dチームにとって、BMSプラットフォームによるバッテリーの挙動可視化・寿命予測は、設計サイクルの高速化や最適化をもたらします。Twaiceは、上記のどちらをも顧客ターゲットとしているそうです。


Battery Check

地 域:チェコ

創業年:2018年


マイクロソフト出身のSatinsky氏が創業したスタートアップです。彼は、マイクロソフトでIoTに関するオペレーションに関わっていました。元々、使用済みのリチウムイオンバッテリーを使って、エネルギー貯蔵システムをつくることを計画していましたが、そもそも使用済みバッテリーが、残りどれくらい持続するかがわからず、その計画はいったんストップしたそうです。


そこで、バッテリーで駆動する製品を提供するメーカーに対して、製品に簡単に組み込んで、バッテリーの状況を見える化することができるツールの提供を開始しました。24時間駆動してあらゆるデータを送信することが求められるIoTデバイスにとって、バッテリーの予知保全・予知交換は極めて重要である、とSatinsky氏は述べています。


2021年1月時点で、まだ収益は上がっていないものの、年内に3社の顧客がつき、追加で15社のリード顧客がいるようです。これまで自己資金でビジネスを進めてきており(ただし、チェコ共和国が運用するアクセラレータープログラムから支援金は受けているようです。)、これから外部資金の調達に動くようです。


競合がひしめく中で、どのように顧客の認知度を高めていくのか、というところがポイントになりそうです。



Energsoft

地 域:アメリカ

創業年:2017年


視覚的に優れた分析ダッシュボードを提供する、アメリカ発のBMSスタートアップ。


同社のホームページには、Energsoftがこの分野で「Problemである」と認識している内容が載っています。それによれば、近年バッテリーメーカーは、バッテリーニーズの拡大に伴って、さまざまな種類のバッテリーを世界各地の拠点で開発しているが、拠点や開発者によって、バッテリーに関するデータ収集、データベース選定、分析の方法がバラバラであったり、Excelでローカル管理していることが多い、と書かれています。


Energsoftのクラウドプラットフォームは、顧客の各開発拠点から、バッテリーに関するデータを一括収集し、インサイトをダッシュボード上に表示します。



Akkurate

地 域:フィンランド

創業年:2017年


2017年にフィンランドで創業されたスタートアップです。Akkurateの主要製品は、DIAGNOSEというBMSになります。


2018年、シードラウンドで50万ユーロ(≒7,000万円)2020年には120万ユーロ(≒1億6,000万円)の資金を調達しました。


AkkurateのBMSは、どのメーカーがつくったバッテリーかによらず動作し、バッテリーの熱管理、短絡検知を行います。Akkurateも他のBMSスタートアップ同様に、抽出した膨大なバッテリー関連データを解析し、機械学習によって異常検出・寿命推定を行っています。




dox

地 域:レバノン

創業年:2017年


レバノンのベイルートを創業の地とし、シカゴにも拠点を構えるBMSスタートアップがdoxです。doxのBMSを使うと、ユーザーは故障の3ヶ月前に通知を受け取ることができます。


ここまでは他のBMSメーカーでも当然のようにある機能かもしれませんが、doxが面白いのは、バッテリーの交換や点検について、各エンジニアが取り組むべきタスクを各自のデバイスに通知を受け取ることができる点です。


この仕掛けは非常に興味深いと感じました。バッテリーデータをダッシュボード上に表示するだけでは他社と差別化できない可能性があるため、メンテナンス実行までのオンボーディング、あるいは交換バッテリーを購入する購買システムとの連動なども、今後は重要になってくるかもしれません。



Brill Power

地 域:イギリス

創業年:2016年


オックスフォード大学のバッテリー研究をベースに始まったスタートアップ。2017年に転換社債で10万ポンド(≒1,500万円)を調達しています。


同社のホームページを参考にすると、これまでのBMSはバッテリーの一部のセルが劣化してきた場合に、バッテリーパック全体の出力電圧や温度を下げることによって、バッテリーパックの寿命を伸ばそうとしてきたのに対して、Brill PowerのBMSは直列につながったセルを分散制御し、健康状態に応じて個別にセル電流を制御することで、バッテリーパック全体の寿命・性能・安全性を向上させることができるといいます。中古リチウムイオンバッテリーの寿命を最大60%伸ばすことができる、と紹介されています。


Brill Powerのハードウェアは、以下のようなイメージ図になっています。

(Source: https://brillpower.com/technology/#battery-management-redefined)


あらゆるタイプ・フォーマットのリチウムイオンバッテリーセルに統合可能で、定置型エネルギー貯蔵からEVまで幅広く使えるそうです。


創業2年後の2018年、Brill Powerは日本進出の手がかりを掴みました。日本のエネチェンジ社がBrill Powerの日本事業展開権を一定期間独占的に保有する形で、事業提携しました。




日本でも見られるBMS周りの動き

もちろん、日本でもこうした動きはあります。テスラにリチウムイオンバッテリーを提供するパナソニックは、2019年に立命館大学の福井研究室と共同で、機器に搭載されたリチウムイオンバッテリーの残存価値評価に有効な交流インピーダンス(電流の流れにくさを表す抵抗値)測定を実行するBMSを開発した、と発表しました。ここでは割愛しますが、詳細はこちらに記載されています。


日立にも動きがあります。2020年、日立ハイテクはリチウムイオンバッテリーの性能劣化や余寿命を診断する手法を開発したと発表しました。プレスリリースの中には

EVの利用には、リチウムイオン電池の残存価値、つまり電池がどの位使えるかを正確に把握することが大切ですが、診断には時間がかかります。1台で4時間かかるとすると、1日に検査できるのはわずか2台です。

とあります。日立の技術を使うと、1台の診断にかかる時間が数秒〜2分程度まで縮まる、と書かれています。


また、BMSを利用したビジネスチャンスは、面白いところにあります。こちらの記事によれば、中古車のインターネットオークションを手がけるオークネットは、中古EVに搭載されたバッテリーの残存価値診断を行おうとしているそうです。



2018年、経産省は新時代戦略会議の中間整理として、「2018年度中にリチウムイオンバッテリーの残存性能の評価法を確立する。」とアクションプランを提示しました。

(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosha_shinjidai/pdf/002_01_00.pdf)



そのアクションが結実したのが、2020年6月に出された「電池性能見える化ガイドライン Ver 1.0」です。ここでは、車載用のリチウムイオンバッテリーに限定しつつも、

バッテリー残存価値をユーザー自身が知るための標準的な手段を提供することを自動車会社に促すことで、電池劣化に対する消費者の過度な不安を払拭し、EVPHVの中古車両の価値評価の適正化を進めることを目的とする」(p.3

と書かれています。


こちらのガイドラインに基づくと、日本では、自動車メーカーは2022年度以降に発売する電動自動車には、バッテリー性能の劣化度が見えるかされたシステムを組み込む必要があります。そのためには、自動車メーカーが、バッテリーの状態を正確に把握できていなくてはなりませんが、そこでBMSが鍵になってきます。これから、日本でもBMSを絡めたビジネスが色々な形で出てくるのではないでしょうか。





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