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  • Shingo Sakamoto

Briq:建設プロジェクトの資金繰りプラットフォームを開発するスタートアップ

近年、特に海外を中心に、建設領域で事業展開するスタートアップの資金調達が盛んな印象を受けます。


そのため、2021年の建設テックトレンドについて書いたり、建設スタートアップをご紹介したりしてきました。例えば、アメリカで住宅設計自動化SaaSを開発するHigharc(ハイアーク)や、中国で建機レンタルプラットフォームを運営するZhongneng United(ツォンネン・ユナイテッド)などが、その一例になります。


2021年6月、Briq(ブリック)というアメリカの建設スタートアップが、シリーズBラウンドで3,000万ドル(≒33億円)調達しました。もちろん、他にも注目すべき建設スタートアップはいくつかありますが、Briqは以前ご紹介したBuilt Technologiesと少し似ており、建設×金融分野にフォーカスしている点がユニークだと思い、調べてみることにしました。


今回は、建設業界特有の「資金繰り」にまつわる課題を解決しようとするBriqについて、顧客の課題・プロダクト・メンバーを中心にご紹介します。


(Source: https://pixabay.com/photos/building-disrepair-decayed-690177/)



Briqとは?


Briqは、2018年にカリフォルニア州サンタバーバラで創業された企業で、建設プロジェクトの資金繰りを管理するプラットフォームを開発しています。創業者は、Bassen HamdyRon Goldshmidtの2人です。


顧客と、解決すべき課題

Briqは、プロダクトのターゲットとする顧客像を明確に定義しています。Briqの開発する資金繰り管理プラットフォームは、建設会社の財務担当者向けに開発されたものである、とホームページにはっきり書かれています。財務担当者は、Briqのプラットフォームを用いて、建設プロジェクトの予算を策定し、キャッシュフロー予測、予実管理、および必要な資金調達を行います。


面白いのは、 Who we are not という項目で、「私たちのプロダクトは、会計、ERP、プロジェクト管理のニーズに応えるソリューションではありません」と書いてあります。建設会社にソフトウェアサービスを提供するスタートアップの中には、プロジェクト進捗管理やドキュメント管理にフォーカスする会社がいくつかありますが、Briqはあえてそれはしない、と宣言しています。



財務担当者が所属する建設会社には、小規模な地元の専門請負業者から、全米展開する大規模なゼネコンまで、あらゆる種類・サイズの会社が含まれます。


crunchbaseの独自取材によれば、Briqの問題意識は、多くの建設プロジェクトが予算を超過する傾向にあることに置かれています。インタビューの中で、Hamdy氏は、「財務上の成果を把握するのは本当に難しいことです。大半の場合、完成までのコスト予測は明らかに間違っています。それもかなりの確率で。... 私は、プロジェクトの財務結果を毎月推測している建設業界に、最高のフィンテックを導入する方法を考えました。」と語っています。




なぜ建設プロジェクトの予算管理が難しいのでしょうか?こちらのサイトにあるように、建設請負工事を行う場合、施工開始時に請求金額が固まっていない場合があります。例えば、ある空き地に新築の一軒家を建てようとした時に、「〇〇円になります。」とピシッと決まらないことがある、というイメージです。基礎工事を始めたら、思ったよりも頑丈な埋設物が見つかったので撤去費用がかかる、災害によって資材価格が急騰してしまった、など、さまざまな変動要因が潜んでいます。


かといって、金額が確定しない限り着工できないとなると、いつまで経っても工事が始められません。そこで、大まかな見積額を算出後、「見切り発車」し、あとは実際の支出ベースで、発注者に請求していく、という方法を採ることがあります。


そして、この請求・支払いの契約が、何レイヤーにも重なっているのが、建設業界の特徴の1つです。新築の建設工事を受注した元請け業者の下には、二次請負業者・三次請負業者・etcと、関係者が連なっているケースが多くなっています。


その場合、三次請負業者が支出を基に二次請負業者向けの請求書を作成し、それを基に二次請負業者が元請け業者向けの請求書を作成し、それを基に元請け業者が依頼主向けの請求書を作成する、というフローになります。場合によっては、最終的な請求金額が、見切り発車した時の見積額と全然違う、ということも起こり得ます。


請負業者は、いかに関係業者の請求額を素早くかつ正確に把握し、予実管理できるか、が重要になります。Briqは、独自開発のデータ収集・分析プラットフォームによって、予算・予算消化率・実績見込みをタイムリーに算出し、本当にこのプロジェクトは収益性があるのか?という請負業者の不安を取り除くサポートを行います。


ちなみに、上記の多重構造以外にも、建設業界の資金繰りを難しくしている要因はいくつかあります。詳細は割愛しますが、いくつかのケースを解説している記事がありますので、ぜひご一読いただければと思います。



プロダクト

Briqは、建設会社に、建設プロジェクトの資金繰りを管理するプラットフォームを提供します。大きく分けて、プラットフォームの機能は2つあります。それは、データ収集と資金繰り予測です。


  1. データ収集 Briqのプラットフォームには、給与システム・購買システム・会計システムなど、建設会社のさまざまな基幹システムから、自動かつリアルタイムにデータが繋がるようになっています。会社によっては、月次が締まってから、各システムから出力したCSV帳票を、エクセルに繰り返しコピー&ペーストしてプロジェクトのコスト管理をする、という業務フローになっている場合があると思いますが、そういった作業を自動化します。

  2. 資金繰り予測 収集したあらゆるデータを、建設業に特化してつくられた独自アルゴリズムによって解析し、今後の資金繰りを予測し、アラートを発出します。例えば、過去の購買実績をベースに、将来まとまって支出が発生するタイミングを予測し、それに対応するため、ここまでに借入が必要である、などのインサイトを得ることができます。


特徴

Briqの特徴の1つに、あえて「アプリ」っぽくしすぎていないことが挙げられます。建設会社の財務担当者は、スプレッドシートを使うことに慣れており、エクセルに似たUIにすることで、ハードルを下げているそうです。


もう1つの特徴が、データの収集技術です。Briqは、建設プロジェクトに関わる複数事業者の各システムから、Briqプラットフォームにデータが流れるようにしていますが、システムにAPIがなくとも接続でき、それでいてセキュリティも確保している点が強みであるそうです。


少し余談になりますが、この2つ目の特徴の背景には、ブロックチェーン技術があると言われています。Briqは、創業当時、Brickschain(ブリックスチェーン)という名前でした(その後、Briqに変更しました)。Brickschainとは、Brick(レンガ)とChain(鎖)を組み合わせて、響きをブロックチェーンに似せています。Brickは建設、そしてChainはブロックチェーンを指し、建設領域にブロックチェーンを活用しようとしていたのです。


Hamdy氏とGoldshmidt氏は、1つのプロジェクトに複数の会社が絡む建設業界では、それぞれの会社が、サイロ化した個別システムにデータを格納していることで、データのつながりが損なわれ、その結果プロジェクトの全体像が見えなくなっている、と考えました。そこで、ブロックチェーン上に、改ざん不可能な形でデータを載せ、建設プロジェクト管理の透明性を高めようとしたのです。


正直、ブロックチェーンの技術が、現在のBriqプラットフォームのデータ連携・セキュリティ確保にどう活かされているのか、私に具体的な部分まではわかりませんでしたが、背景にはそういった考えがある、というのは興味深い点でした。



さらに余談になってしまいますが、サイロ化したシステムに格納されているデータをつなぎ合わせ、インサイトを得る、というところで、IDATEN投資先のシマント の技術が思い浮かびました。建設業界に限らず、業務の特性上、1つのプロジェクト・オペレーションに複数の会社が関わったり、多様なシステムから吐き出したデータに基づいて意思決定をする場合、データのつなぎこみに課題が残る、という声を多く聞きますが、シマントはそういった課題の解決に取り組んでいます。




チームと創業の経緯


Hamdy氏は、Briqを創業する前、Procore Technologiesで、マーケティング担当副社長を務めていました。Procoreは、2021年5月にニューヨーク証券取引所に上場した、建設プロジェクト管理SaaSを提供する会社で、2021年7月時点で、時価総額が約1兆2,000億円となっています。なお、Procoreについては、丁寧に解説してくださっている記事がありますので、そちらをご覧いただくのが良いかと思います。


Procoreに参画する2015年まで、Hamdy氏は、CMiCというカナダの建設ソフトウェア開発会社に在籍していました。彼は、1999年から2015年までの約16年間をCMiCで過ごしました。LinkedInを見る限り、16年間のうち、最初の3年を除いて全ての期間でマーケティング担当をしており、最終的にはChief Marketing Officer(CMO)として、顧客パイプラインづくり、プリセールス・セールス、プロダクトマネジメントなど、広範囲に責任を持ってCMiCを牽引しました。


ちなみに、CMiCは非上場企業であるため、日本語の情報があまり多くありませんが、Delloite Canadaが選ぶ、2020年の「Canada’s Best Managed Companies」(カナダ人が経営する売上高2,500万ドル以上の優良企業)にランクインするなど、地場では影響力を持った会社です。


CMiCは、建設業界に特化したERP(Enterprize Resource Planning)を提供しています。建設プロジェクトに必要な資金管理、会計管理、進捗管理、図面管理など、幅広くリソース管理するプロダクト群を提供しています。


これは私の推測になりますが、Hamdy氏はCMiCで16年間過ごし、広範なプロダクト群を統括しながら、顧客と対話する中で、建設業界のペインとソリューションの理解を深めていったのではないでしょうか。




共同創業者のGoldshmidt氏は、Briqに参画するまで、金融業界で経験を積んできました。TD Securities、UBS、RBC Capital Markets、Lab240 Capitalと、さまざまな金融会社を経て、Briqの創業に至りました。現在は、BriqでChief Revenue Officer(CRO)を担当しています。


実は、Goldshmidt氏は、金融分野のブロックチェーン活用プロジェクトに早くから取り組んでいました。アルゼンチン・ベネズエラ・アイスランドなど、金融危機に見舞われた国々におけるブロックチェーン活用について検討していたそうです。


Hamdy氏は、ホームページのletter from CEOという部分で、「私の長年の親友であるRon Goldshmidtに、この旅(事業)を手伝ってもらっている」と書いています。出会いのきっかけまではわかりませんでしたが、2人のキャリアを見ていると、Goldshmidt氏が1997年から2003年まで在籍したTD Securitiesは、カナダのトロントにあり、1999年にトロントにやってきたHamdy氏と4年間被っています。もし、トロントで知り合っていたとすると、現在まで20年近くの付き合いということになります。



資金調達と、成長の道筋


Crunchbaseや資金調達ニュースを参考に、Briqの資金調達と、それに伴って会社のステージ・プロダクトが、どう変わってきたのかを追ってみます。


まず、2019年、2回に分けて、シードラウンドを実施。2月にEniac Venturesから300万ドル(≒3億円)、10月にBlackhorn Venturesから300万ドル、合計約7億円を調達しました。


ここまで、Briqのプロダクトは資金管理に特化しており、その他は行わない、と書いてきましたが、Eniac Venturesから調達したシードラウンド時のニュースを見ると、2019年当時は、資金管理以外のマルチニーズに対応しようとしていたことがわかります。Briqプラットフォームは、機械学習を利用した新築需要が高い土地の予測、建設会社と請負業者・職人のマッチング、資材の納入管理などの機能を持たせていたのです。


2回目のシードラウンドである、Blackhorn Venturesからの調達時、プロダクトの描写に少し変化が見られます。そのタイミングでは、Briqプラットフォームが、建設プロジェクトの利益率を高めるために必要なデータとインサイトを提供する役割を持つ、と整理されており、働き手とのマッチングなどは言及されていません。



2回目のシードラウンドを実施した半年後、2020年5月に、シリーズAラウンドを実施。Blackhorn Venturesをリード投資家に迎え、1,000万ドル(≒11億円)を調達しました。ここで、プロダクトのフォーカスが、一気に資金管理に向かっています。この時点で、顧客は約70社で、建設会社の規模はゼネコンからサブコン(ゼネコンから工事を請負う会社)まで幅広いと書かれています。



そしてその約1年後である2021年6月、シリーズBラウンドとして3,000万ドル(≒33億円)の調達を発表。リード投資家に入ったのは、2021年4月に7,000億円を超える規模のファンドを組成し、ハイペースで投資実行している、Tiger Global Managementです。


シリーズBラウンド実施時のニュースによれば、2021年6月時点で、顧客数は150社、従業員は約100人まで増えたそうです。また、年間継続収益(ARR)は2020年1月からの18ヶ月間で200%増加しました。(絶対値は明かされていません。)


こうして、資金調達時のリリースを追いながら、プロダクトのフォーカスが「絞られていく」過程に、私は興味を持ちました。正直、シードラウンドでは、フォーカスがぶれている印象を受けました。請負業者・職人のマッチングも、資材管理SaaSも、機械学習による不動産価値予測も、既存プレイヤーがいる領域です。フォーカスがぶれていた理由は、ブロックチェーンを建設業界に使おう、というややプロダクトアウト的なスタートになったからではないか?と思います


それでもシード資金を調達できたのは、アメリカで建設スタートアップのマーケット自体が伸びていることや、ファウンダー・マーケット・フィット(創業者とマーケットが良いシナジーを持っていること)が関係しているのではないでしょうか。建設業界で豊富な経験を持つHamdy氏と、ブロックチェーン×金融に知見のあるGoldshmidt氏が、結束力高くタッグを組めば、仮に建設×ブロックチェーンでうまくいかなくとも、粘って良いプロダクトを作れそうな気もします。


そして、実際にそれを成し遂げつつあるように思います。シリーズAあたりから、ユーザーを財務担当者に絞り、放っておくと膨れる傾向にある建設プロジェクトコストを管理し、データに基づいて、将来キャッシュフロー予測ができるプロダクトを作り上げました。


ここから先、Briqはどういう事業開発をしていくのでしょうか。ある程度顧客が増えてきたところで、再びプラットフォームの機能をマルチにするのか、あるいはプロジェクト資金管理にフォーカスしつつ、海外展開によって売上を伸ばしていくのか。引き続き注視していきたいと思います。



IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

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