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  • Shingo Sakamoto

2021年11月に上場したPhotosynth:未上場時の資金調達と事業進捗

2021年9月にクラウド録画サービスを提供するセーフィー株式会社が上場した際、未上場時の資金調達と事業進捗に関するブログをIDATEN Venturesからリリースしました。セーフィーは、カメラに独自のソフトウェアを組み込み、IoTサービスとしてクラウド録画サービスを展開しています。


2021年11月、セーフィーと同じようにIoTサービスを提供する企業が東証マザーズに上場しました。株式会社Photosynth(フォトシンス)です。既存のドアに後付け可能なスマートロック「Akerun(アケルン)」は、リリースから確実に売上を伸ばし、Photosynthが創業から7年で上場を実現する原動力となりました。


リアルとデジタルが融合する領域に注目しているIDATEN Venturesとしては、セーフィー同様に、Photosynthの上場が意義深いものだと捉え、調査対象として取り上げることにしました。なお、セーフィー上場時もそうでしたが、Photosynthも上場にあたって、さまざまな解説記事がネット上に公開されました。マーケット・チーム・技術等、解説の切り口はいろいろあると思いますが、せっかくなのでセーフィーとの比較もしやすいよう、今回も「未上場時の資金調達と事業進捗」にフォーカスして執筆していきたいと思います。


セーフィー解説記事にならい、会社概要・ビジネスモデル・今後の成長性に関する説明は最小限にとどめ、創業から上場までにどのような道を歩んできたのかを、紐解いていきます。



(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%E9%8D%B5-%E5%9F%8E-%E5%AE%89%E5%85%A8-%E9%87%91%E5%B1%9E-3d-3348307/)



会社概要

Photosynthは2014年9月に創業されました。ちなみに、セーフィーの創業が2014年10月なので、2社は創業・上場の時期がほとんど同じで、かつどちらもIoTサービス事業を行っている、という少し不思議な関係にあります。


創業メンバーは、株式会社ガイアックスでネット選挙事業責任者を担った河瀬氏、同じくガイアックス出身のエンジニアである本間氏、ソフトバンク株式会社で新規事業開拓を行っていた渡邉氏、パナソニック株式会社でハードウェア製品のプロダクトマネジャーを務めていた熊谷氏、そしてIT企業で開発リーダーを務めてきた小林氏で構成されています。


上場時の開示資料を見ると、2021年8月31日時点でPhotosynthの従業員は149名。セーフィーは2021年7月31日時点で193名でした。タイミングのズレはありますが、Photosynthの人数規模はセーフィーの約3/4となります。


Photosynthは、2021年1月、美和ロック株式会社(建築用錠前国内シェアNo.1)と合弁で株式会社MIWA Akerun Technologiesを設立し、連結子会社にしています。MIWA Akerun Technologiesは、住宅向けサービスを開発・提供する役割を担います。Photosynthが株式の51%、美和ロックが49%を保有しています。


ビジネスモデル

Photosynthのビジネスモデルは以下の図のように表すことができます。

(Source: https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000005uvdr-att/11Photosynth-1s.pdf)


Photosynthには、オフィス領域・住宅領域の、2つの事業領域があります。オフィス領域の販売ルートには、直接販売とパートナー販売のルートが存在します。住宅領域においては、PhotosynthからMIWA Akerun Technologiesにソフトウェアを提供し、そこからエンドユーザーにサービス提供するルートと、ディベロッパーを経由してサービス提供するルートがあります。


Photosynthとセーフィーは、直接販売とパートナー販売という2つの販売ルートを持っている点、ソフトウェアを内製している点は共通していますが、ハードウェア部分の調達プロセスが少し異なります。完成品としてのカメラをさまざまなメーカーから調達していたセーフィーに対して、Photosynthは完成品としてのハードウェアを内製しています。Akerun 入退室管理システムを構成する「Akerun Pro」と「Akerun コントローラー」です。「Akerun Pro」は、工事なしで既存のサムターン錠(つまみを90°ひねってロックするタイプの錠)に後付け可能なスマートロック。「Akerun コントローラー」は、簡易的な工事によって、既存の電気錠や自動ドアに後付け可能なスマートロックです。どちらも、Photosynthが自社で開発・設計し、製造部分のみ外部委託しています。

(Source: https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000005uvdr-att/11Photosynth-1s.pdf)


ハードウェアと連動したソフトウェアによって、ウェブから鍵権限を管理したり、入退室記録を参照したりすることができます。また、外部にAPIを提供しているため、他社サービスから鍵の操作、入退室記録の参照を行うこともできます。



上場時点の主要KPIと今後の成長性

Photosynthの決算期は12月で、上場したのは2021年12月期の11月になります。直前期である2020年12月期の決算数値(十万の位で四捨五入)は、以下のようになっています。

  • 売上高:11億7,600万円

  • 経常損失:6億8,000万円

  • 純損失:11億8,500万円


参考までに、同時期のセーフィーの決算数値も掲載します。

  • ​​売上高:50億4,800万円

  • 経常損失:9,700万円

  • 純損失:9,900万円


Photosynthの開示資料においては、セーフィーと同じく、継続的な収益の重要性が強調されています。重要指標とされているARRAnnual Recurring Revenue、年間経常収益)は、該当月のMRRMonthly Recurring Revenue、月間経常収益)を12倍にして算出されていますが、以下のようになっています。なお、2021年6月末、2021年9月末の数値は、開示資料ではなく、2021年第3四半期の決算資料を参考にしています。

  • 2020年12月末のARR:12億800万円(MRR:1億円)

  • 2021年6月末のARR:13億7,300万円(MRR:1億1,400万円)

  • 2021年9月末のARR:14億9,800万円(MRR:1億2,500万円)


参考までに、同時期のセーフィーのARR(およびMRR)も掲載します。

  • ​​2020年12月末のARR:32億8,500万円(MRR:2億7,400万円)

  • 2021年6月末のARR:45億4,900万円(MRR:3億7,900万円)

  • 2021年9月末のARR:52億2,400万円(MRR:4億3,500万円)

セーフィーのARRは、2020年12月末時点において、Photosynthの約2.7倍。2021年6月末で約3.3倍、2021年9月末で約3.5倍となります。


セーフィーのARR関連指標には課金カメラ台数が設定されていましたが、Photosynthの開示資料にはそういったARR関連指標が書かれていません。一方、2021年第3四半期の決算資料を見ると、契約社数とARPU(Average Revenue Per User、1ユーザーあたりの平均収益)が掲載されています。

(Source: https://tyn-imarket.com/pdf/2021/11/11/140120211111432243)



ARPUを増加させるための戦略の一例として、セーフィーはクラウド録画プラットフォーム上で他社サービスを使えるようにして単価を上げる、という戦略を紹介していました。例えば、ベーシックプランの1.5倍の価格で、録画映像をYouTubeライブとして放映できる、というオプション設定等。


「IoTプラットフォームが拡大していくためには、プラットフォームに他社のサービスを巻き込んでいくのが良いのではないか?」という「Openness」の概念を、セーフィーに関する記事Siemensに関する記事のどちらでも言及しました。恐らく、PhotosynthがこれからARPUを増加させていくためにも、「どのように他社サービスが入ってこられるか」という視点が重要になるのではないかと思います。ビジネスモデルの章でご紹介した「ソフトウェアのAPI公開」という記述は、その意識の表れではないでしょうか。


もう一歩踏み込んで、セーフィーとPhotosynthでは「どちらの方が、データの応用性があるのか?」という問いを立ててみます。セーフィーが提供するのはカメラが録画した「動画」、Photosynthが提供するのはスマートロックが検知した「入退室記録」。Photosynthの方がセーフィーよりも具体的、言い方を変えれば限定的です。


録画カメラは「あらゆる空間」のデータをとることができますが、鍵は「空間と空間の間」のデータをとります。例えば、セーフィーは建物内の監視カメラサービスの他に、建設現場の施工状況を録画する業界特化サービスを開始していますが、Photosynthは一貫して不動産領域にフォーカスしています。どちらかといえば、セーフィーの方が「さまざまな業界で、さまざまな用途に使えそう」という感覚を抱きやすいと思います。




未上場時の資金調達と事業進捗


ここからが、この記事のメイン部分でもある、未上場時の資金調達と事業進捗に関する調査になります。セーフィーを調査した時のように、まずは資金調達についてまとめます。それから、各資金調達ラウンドを実施した時にどういう事業進捗状況だったのかを深堀りしてみます。


資金調達について

まず、開示資料や公式プレスリリースから分かる範囲で、資金調達の歴史を振り返ります。借入についてはわからないケースが多いため(公式プレスリリースに記載されていることもありますが)、第三者割当増資を中心に紹介します。


Photosynthは、2014年の創業から毎年第三者割当増資を実施しています。同じ月に細かく刻んで実施しているものも含めると、合計で約20回弱の第三者割当増資が行われていますが、数が多くなってしまうため、【同じ株価】かつ【連続した月】に実施された資金調達ラウンドを括って、以下のようなラウンド名称で整理したいと思います。


ラウンド名称(実施日)

2015年9月ラウンド(開示資料に記載がないため、プレスリリースより2015年9月と特定)

2016年12月ラウンド(2016年12月26日)

2017年12月ラウンド(2017年12月22日)

2018年4月ラウンド(2018年4月13日)

2018年11月〜12月ラウンド(2018年11月29日、12月11日)

2019年12月ラウンド(2019年12月20日)

2020年1月〜2月ラウンド(2020年1月15・17・20日、2月17・18・19・20日)

2021年5月〜6月ラウンド(2021年5月12日、6月4・7日)


以下、簡単に資金調達ラウンドごとのPre-Valuation(資金調達前の評価額)、Post-Valuation(資金調達後の評価額)、調達額、希薄化割合(調達額 ÷ Post-Valuation)を整理しておきます。わかりやすいように、引受先には、一部を除いてファンド名称ではなく企業名を記載しています。長くなってしまうため、株式会社・合同会社などの部分は省略します。


  1. 2015年9月ラウンド (*このラウンドは開示資料に掲載されていないため、Photosynthの公式ホームページで公開されているプレスリリースを参考にしています。プレスリリースから調達額はわかりますが、株式発行数はわからないため、Valuationについては推定値としています。備考欄に推定の根拠を書いています。) Pre-Valuation:12億9,500万円?(推定値) Post-Valuation:17億4,500万円?(推定値) 調達額:4億5,000万円 引受先:​​ジャフコ、YJキャピタル(Yahoo! JAPANのCVC)、ガイアックス、ベータカタリスト 備考:開示資料によれば、2016年12月ラウンドの実施までに、普通株式11,200株、A種優先株式3,891株が発行されています。開示資料の大株主リストに掲載されていて、かつその後のラウンドで株式引受を行っていないように見える、ジャフコ・ガイアックス・ベータカタリスト3社の株式保有数を合計するとA種優先株式3,819株におおよそ合致するため、3,819株で4億5,000万円を調達したと推定し、Valuationを計算しています。ただし、その場合、YJキャピタルの引受株数が非常に少なくなるため、あくまで推定値としてご参考ください。

  2. 2016年12月ラウンド Pre-Valuation:17億1,200万円 Post-Valuation:19億4,100万円 調達額:2億2,900万円 希薄化割合:11.8% 引受先:大和企業投資、東京都ベンチャー企業成長支援ファンド、YJキャピタル、他1社2名

  3. 2017年12月ラウンド Pre-Valuation:22億3,600万円 Post-Valuation:25億9,000万円 調達額:3億5,400万円 希薄化割合:13.7% 引受先:グロービスキャピタルパートナーズ、CBC

  4. 2018年4月ラウンド Pre-Valuation:25億9,000万円 Post-Valuation:26億9,000万円 調達額:1億円 希薄化割合:3.7% 引受先:大和企業投資、東京都ベンチャー企業成長支援ファンド

  5. 2018年11月〜12月ラウンド Pre-Valuation:39億1,000万円 Post-Valuation:45億1,500万円 調達額:6億400万円 希薄化割合:13.8% 引受先:大和企業投資、東京都ベンチャー企業成長支援ファンド、グロービスキャピタルパートナーズ、Line Ventures Japan(LINE日本法人のCVC)

  6. 2019年12月ラウンド Pre-Valuation:53億2,300万円 Post-Valuation:56億2,300万円 調達額:2億円 希薄化割合:5.3% 引受先:グロービスキャピタルパートナーズ

  7. 2020年1月〜2月ラウンド Pre-Valuation:65億4,100万円 Post-Valuation:80億7,400万円 調達額:15億3,300万円 希薄化割合:20.4% 引受先:農林中央金庫、NTTインベストメントパートナーズ(NTTのCVC)、31VENTURES(三井不動産のCVC)、凸版印刷、BSP、つくばエクシード、Scrum Ventures

  8. 2021年5月〜6月ラウンド Pre-Valuation:135億4,500万円 Post-Valuation:152億9,500万円 調達額:17億5,000万円 希薄化割合:11.7% 引受先:Fidelity Investments、コクヨ、NTTインベストメントパートナーズ、31VENTURES、NREG(野村不動産のCVC)、JR東日本スタートアップ、SBIインベストメント


なお、上記のラウンド一覧に含めていませんが、2020年4月に従業員向けストックオプションが2,900万円分、2021年7月に引受先不明の新株予約権(目的となる株式はA種・C種・C2種)が1億4,900万円分、行使されています。



事業進捗について

それでは次に、各資金調達ラウンド実施時に、どのような事業進捗だったのか、見ていきます。


  1. 〜 2015年9月ラウンド Photosynthの創業は、代表の河瀬氏がガイアックス時代に、大学の友人と行った飲み会の雑談がきっかけ、と河瀬氏のインタビューで紹介されています。ちなみに、河瀬氏はガイアックス入社3年目にネット選挙事業を手がけ、テレビ講演・書籍出版等で一躍有名になった方です。 飲み会では、「鍵をなくして困った」「いつも持っているスマートフォンで鍵が開けば...」という身近な困りごとからアイディアが生まれたそうです。そこから、友人の友人なども巻き込み、合計10人程度でスマートロックのプロトタイプを完成させ、Photosynthを創業します。 2014年9月の創業から2ヶ月後、PhotosynthはNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスタートアップイノベーター支援プログラムに、応募総数420社から選出され、委託及び助成先に採択されることになります。このプログラムに採択されると、NEDOからビジネスプランの助言や、活動費として年間1,500万円以内の支援(最大2年間)が受けられます。 採択から約1年経過した2015年9月、掲題の資金調達ラウンドを迎えることになりますが、このタイミングでスタートアップイノベーター支援プログラムは卒業しています。理由としては、支援開始以降に1億円以上の資金調達を行った企業はプログラムから卒業する規定となっているためです。 では、この1年間にどのような進捗があったのか。まず2015年3月に、初の商用製品である家庭向け後付けスマートロック「Akerun Smart Lock Robot」(サムターン錠用)を発表。さらに2015年7月には、ウェブでスマートロックを遠隔解錠・状態確認できる「Akerun Remote」を発表。一連のリリースは、のちにPhotosynthのメインプロダクトになる「Akerun Pro」の基礎となるハードウェア及びソフトウェア部分になります。 開示資料の沿革には「Akerun Smart Lock Robotは家庭向けとしてリリース」と書かれていますが、2015年9月の資金調達リリースを見ると「法人向けを中心に販売」と書かれています。その後、2015年12月にオートロック機能付の自動ドアが開く「Akerun Entrance」をリリースしていることからも、2015年9月ラウンドの資金調達を実施するまでに、法人領域でトラクションが出始めていたのではないかと思います。 資金使途は「マーケットの伸長に伴う販売戦略の拡大や、新製品開発」と書かれており、法人向けの販売体制確立と、2016年7月にリリースすることになる「Akerun Pro」の開発に投資を行ったと考えられます。

  2. 〜 2016年12月ラウンド 2015年9月から2016年12月までの期間には、「Akerun Entrance」「Akerun Pro」のリリースに加え、グッドデザイン賞・CNET Japan賞など、いくつかの賞を受賞したことによって知名度が高まりました。 こうした着実なサービスリリースや知名度向上が奏功し、法人を中心に安定的な収益が立ち始めています。2016年12月末のARRは4,400万(MRR換算すると370万円)です。こちらの記事を参考にAkerun Pro1セットの月額料金が1万2,000円と考えると、2016年12月末時点で、Akerun Proが約300セット契約されていることになります。公表されている2019年第1四半期のARPUが約2万4,000円であることから、1社あたり約2セット契約しているのではないかと考えられます。それらを考慮すると、2016年12月末の導入社数は約150社程度ではないかと思われます。そんな中で迎えたのが2016年12月ラウンドでした。

  3. 〜 2017年12月ラウンド 2016年12月から2017年12月までの期間には、河瀬氏がForbesに掲載される、NEDOの支援プログラムに採択される、というイベントもありましたが、やはり注目すべきは順調に伸びているARRです。 2016年12月末に4,400万円だったARRは、2017年12月末には2億9,100万円(MRR換算すると2,400万円)まで増加しています。先ほどと同じように導入社数を計算すると、約1,000社程度と思われます。 株価を前回ラウンドの11万3,477円から13万700円に上げ、グロービスキャピタルパートナーズ1社から3億5,400万円調達しました。

  4. 〜 2018年4月ラウンド 2017年12月ラウンドの4ヶ月後、エクステンションラウンドのような位置付けで2018年4月ラウンドを実施することになりました。株価は2017年12月ラウンドと同じ13万700円です。 この間も、ARRは順調に伸びているようで、2018年4月ラウンドのタイミングでは、順調に顧客が増えており、セールス窓口とサポート体制強化が急務となっていることが、プレスリリースに書かれています

  5. 〜 2018年11月〜12月ラウンド 2018年4月ラウンドから2018年11月〜12月までの7ヶ月間のうちにも、ARRは伸びています。2018年12月末にはARRが6億200万円(MRR換算すると5,000万円)で、導入社数は推定約2,000社。 順調な成長を背景に、株価を前回ラウンドの13万700円から19万円に上げて、資金調達を実施しています。既存投資家陣に加えてLine Ventures Japanファンドが株主に入り、合計6億400万円を調達しました。 調べた限りでは、このラウンドに関するプレスリリースは出していません。ただ、時系列から考えると、2018年11月〜12月ラウンドは2019年5月にリリースすることになる「Akerunコントローラー」(法人向けに既設の電気錠や自動ドアを直接制御するサービス)の開発、および大阪オフィスの立上げ等に充てたのではないかと思います。

  6. 〜 2019年12月ラウンド PhotosynthはAkerun Proをリリースした2016年7月から、ARRを順調に伸ばしてきました。 ・2016年12月末:4,400万円 ・2017年12月末:2億9,100万円(対前年比6.6倍) ・2018年12月末:6億200万円(対前年比2.1倍) ・2019年12月末:9億1,300万円(対前年比1.5倍) ただ、少しずつARRの成長率が鈍化してきているのがわかるかと思います。参考までに、セーフィーの成長率についても見てみます。本当はARRを記載するのがふさわしいのですが、2019年以前のARRに関するデータがない(セーフィーに関するブログでは推測値で記載しました)ため、ARRの根拠となる課金カメラ台数の推移を記載してみます。 ・2015年12月末:500台 ・2016年12月末:2,000台(対前年比4.0倍) ・2017年12月末:5,000台(対前年比2.5倍) ・2018年12月末:1万6,000台(対前年比3.2倍) ・2019年12月末:4万2,000台(対前年比2.6倍) ・2020年12月末:10万1,000台(対前年比2.4倍) 両社とも、リリースしてから2年目あたりまでは、初期の爆発的なスピード感でユーザーが増えますが、3年目には成長率がいったん落ち着いてきます。ところが、その後から差が出てきます。セーフィーの場合、3年目(2017年12月末)の課金カメラ台数が前年比2.5倍まで落ち着いた後、4年目(2018年12月末)にはまた前年比3.2倍まで盛り返しています。一方、Photosynthは3年目(2018年12月末)のARR前年比が約2.1倍まで落ち着いた後、4年目(2019年12月末)には前年比2倍を割ってしまっています。5年目(2020年12月末)の前年比は、さらに下がっています。 ・2020年12月末:12億800万円(対前年比1.3倍) 少し話は戻りますが、このようにPhotosynthの成長率が徐々に落ち着きを見せ始めた中で、2018年11月〜12月ラウンドの後に新サービスとしてリリースしたのが「Akerunコントローラー」です。 Akerun Proはサムターン錠に後付け可能なスマートロックでしたが、電子錠や自動ドアに簡単な工事で後付けできる「Akerunコントローラー」をサービスラインナップに追加することで、さらにユーザーの幅を広げようとしたのではないかと考えられます。 スマートロック化できる扉(鍵)の種類が増え、ここからもう一度成長を加速させていこう、というタイミングで行ったのが2019年12月の資金調達ラウンドです。ちなみに、この時点での導入社数は約3,000社です。 株価は前回ラウンドの19万円から22万4,000円に上げて調達を実施しました。投資を行ったのはグロービスキャピタルパートナーズ1社です。

  7. 〜 2020年1月〜2月ラウンド 2019年12月ラウンドから1〜2ヶ月しか経たない中で、次のラウンドを実施することになりました。2020年1月〜2月ラウンドの株式引受先は、金融機関・事業会社・CVCが中心となりました。株価は26万600円で、合計15億3,300万円を調達しました。 2020年1月〜2月ラウンドでは、合わせて融資による資金調達も実施しており、調達資金をアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」を推進するための研究開発費として使っていくことを発表しています。「Akerun Access Intelligence」は、ユーザーの基本情報(氏名や所属など)、デジタルID情報(電話番号や電子メールなど)、物理ID情報(所有するICカードや生体認証情報など)、認証権限情報(アクセスが許可されている扉、有効な日にち、曜日、時間帯など)などの情報を保有するクラウド上のデータベースです。

  8. 〜 2021年5月〜6月ラウンド 2021年5月〜6月ラウンドは、前回ラウンドから約1年3ヶ月経過したタイミングで実施されました。Photosynthは、1年3ヶ月の間にいくつかの新サービスをリリースしました。前述の「Akerun Access Intelligence」、ビル向けの入体館管理システム「Akerun来訪管理システム」、入退室ログの見える化とアクセス権限管理ができるウェブ管理ツール「Akerun Connect」など。 前回ラウンドで株主に迎えた事業会社との協業によって、不動産領域の特定業務(来訪管理など)にフォーカスしたサービスをリリースしていった形になります。 資金調達を行った2021年6月末時点の導入社数は約3,800社で、ARRは13億7,300万円。株価は前回ラウンドの26万600円から43万3,600円(開示資料には21万6,800円と記載されていますが、2020年3月に実施した株式2分割を考慮して2倍しています。)に上げています。 資金調達のプレスリリースによると、調達した約17億5,000万円は、事業成長に対応できる管理部門の強化、市場拡大に向けた販促活動の強化などに投資すると書かれています。


振り返り


少し長くなってしまいましたが、改めて今回Photosynthをセーフィーと比較調査する中で得た学びを3つ、簡単にまとめてみます。


①初期の資金調達をどう成功させるか

Photosynthは、スマートロックというアイディアが出てから、スピーディに仲間を集めてプロトタイプを作り、NEDOの支援プログラムに採択されました。それによって、資金面・事業開発面で支援を受けながら、Akerun Proの基盤となるハードウェア・ソフトウェアを完成させています。プロダクトの基盤と一定のトラクションを得た状態で資金調達に望んだことにより、2015年9月ラウンドで4億5,000万円という大型調達を成功させることができたのかもしれません。(もちろん、創業チームの経験、技術力、2015年当時のIoT市場に対する期待の大小なども関係していると思います。)


この点、セーフィーにも少し通じるところがあります。セーフィーは、佐渡島氏がソニーネットワークコミュニケーションズの社内プロジェクトとして検討を始め、ある程度プロダクト開発の算段をつけた状態で創業された企業です。ソニーネットワークコミュニケーションズから出資を受けて初の商用製品をリリースし、一定のトラクションを得たところで、さらにアクセルをかけるために事業会社と資本業務提携を結んでいきました。


ハードウェアが絡むスタートアップに共通する課題として、いかに初期の資金調達ラウンドで株式シェアを希薄化させ過ぎずに、トラクションを得る段階まで持っていけるか?というものがあります。PhotosynthはNEDOの助成を受けながら、セーフィーは前職を含む関係事業会社との連携によって、それぞれ初期のプロダクトリリースをしっかり実現しています。



②販売パートナーとの連携

両社はほぼ同じ時期に創業され、ほぼ同じ時期に上場することになりましたが、上場時の市場評価(時価総額)には少し差があります。セーフィーは初値で1,646億円がついた一方で、Photosynthは215億円。セーフィーはPhotosynthの約7.7倍の時価総額で評価を受けたことになります。


あくまで時価総額は1つの観点でしかありませんが、このような差がついた理由の1つとして、売上成長率の差が挙げられると思います。事業進捗の章の繰り返しになってしまいますが、セーフィーは課金カメラ台数の対前年比が一度も2倍を下回ることなく推移してきましたが、Photosynthは2019年以降、ARR対前年比が2倍を下回っています。


セーフィーが顧客チャネルを拡大させた施策の1つに、早いタイミングで事業会社と資本業務提携を結び、積極的にパートナー販売を増やしていったことが挙げられます。その結果、上場時点で、カメラ販売の約60%を販売パートナー経由で行っていました。Photosynthにも、NTT・三井不動産・凸版印刷などの事業会社・CVCが株主リストに入っていますが、セーフィーに比べて後半のラウンドで入ったため、開示資料ではセーフィーほど販売チャネルとして強調されていません。パートナー経由の販売が増えてくることで、売上成長率が加速してくるかどうか、が注目のポイントだと思います。ただし、パートナー販売が増えることによって、解約率が上がってしまわないか、カスタマーサポートの質が低下しないかどうか、という裏側の部分もしっかりケアすることが重要です。


③用途の幅

最後に、セーフィーとPhotosynthを比較するうえで重要な論点が、「用途の幅」だと考えています。セーフィーが扱う「動画」は応用が利きやすく、例えば、現在セーフィーが事業展開している不動産・建設領域以外でも、カメラを用いて河川の氾濫を見守ったり、農地が害獣に荒らされないか監視できたりすると思います。そう考えると、今後セーフィーの動画プラットフォームの上に、さまざまなアプリケーションがつながってくる未来が目に浮かんできます。


Photosynthが扱う「鍵」「入退室」にどのようなアプリケーションがつながってくるか、考えてみましょう。例えば、Photosynthが発表している他社サービス連携として、人事労務freeeとの連動が挙げられます。Akerunで管理された入退室記録が、人事労務freeeに自動登録されることで、従業員による勤怠入力の手間や入力漏れを防ぐことができます。「鍵」「入退室」データに関わるアプリケーションが増えてくると、Photosynthのプラットフォームは伸びていくのではないかと思いましたが、私の想像の範囲内では、動画に比べるとアプリケーションのイメージが湧きづらいのが現状です。


少し抽象度が高くなってしまいますが、IoTプラットフォームを展開するスタートアップは、早い段階から、将来的に「どんなエコシステムの中で」「自社のプラットフォームがどんな役割を果たし」「そのプラットフォーム上でどんなアプリケーションが躍動するのか」という妄想をしておくと良いのかもしれません。



今回はこれで以上になります。また類似するIoTスタートアップの上場があった際は、これらの比較調査に加える形で、取り上げてみたいと思います。


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