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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

資金調達が続く農業ロボットスタートアップ:マーケット参入の切り口に関する考察

Updated: Mar 1, 2023

最近、農業ロボットスタートアップが続々と資金調達を行っています。例えば、8月には、TartanSense(インド)・The Small Robot Company(イギリス)・Bear Flog Robotics(アメリカ)が、被買収を含めて資金調達を実施。9月は、Advanced Farm Technologies(アメリカ)・Burro(旧Augean Robotics、アメリカ)・Blue White Robotics(イスラエル)・Carbon Robotics(アメリカ)・Muqin Technology(中国)の資金調達が報じられています。


Calibrate Ventures マネージングパートナーのKevin Dunlap氏がVentureBeatに寄稿した農業ロボットに関するエッセイは、「過去10年間、農業技術分野に投資してきた私は、2020年が転換点だったと考えています。」という文章から始まります。アメリカのVCによる農業スタートアップ投資額は年々増加しており、2010年に3億ドル(≒300億円)だったところから、2019年は38億ドル(≒4,200億円)、2020年は61億ドル(≒6,700億円)まで増えているそうです。もちろん、この中には農業ロボットに限らず、農業分野を活動領域とするさまざまなビジネスモデルのスタートアップが含まれています。(例えば、農産物のサプライチェーンに関わるもの、センサー・IoTを用いた生産管理、環境に優しい特殊な農薬など。)


Dunlap氏によれば、ここ5年間で、農業スタートアップのアプローチとして最も有望なものの1つが、耕運・除草・植付・薬剤散布・収穫・輸送などの作業を担うロボットの開発・製造・提供です。これまで、人間が手足を動かしてやってきたような負荷の高い作業を、ロボットで支援あるいは代替しよう、というものです。


以前、「2021年は配膳ロボット元年?」というブログをIDATEN Venturesから出しましたが、農業ロボットについても似たようなことが言えるのでしょうか?もし、その流れが不可逆なのだとすれば、成功のドライバーはどこにあるのでしょうか?支援・代替のターゲットとなる農作業の種類?作物の品種?農地面積?ビジネスモデル?パッと思いつく条件を組み合わせるだけでも、何十通りものアプローチがありそうです。


今回は、9月に資金調達した世界の農業ロボットスタートアップの深堀りを通じて、どういった切り口でロボットを市場投入していったのか、どういったペースで資金調達してきたのか、考察してみたいと思います。


ちなみに、農業ロボットをトピックとして書いていますが、教訓は普遍的なものも含まれており、医療・飲食・家庭など、他のロボットにも活かせる学びがあると思います。

(Source: https://pixabay.com/photos/engineer-engineering-mechanical-4915791/)



早速、9月に資金調達した、Advanced Farm Technologies、Burro、Blue White Robotics、Carbon Robotics、Muqin Technologyの5社について書いていきます。ポイントは、提供するプロダクトと農業生産者のペインは何か、どのようなタイミングで資金調達を行ったか、の2点です。また、応用可能性がありそうだと感じたスタートアップのアイディアは、学びを抽象化して深堀りしてみます。


Advanced Farm Technologies

創業と資金調達ペース

Advanced Farm Technologiesは、2017年にアメリカで創業されたスタートアップです。2018年11月にシードラウンドで170万ドル(≒2億円)、2019年8月にシリーズAラウンドで750万ドル(≒8億円)、2021年9月にシリーズBラウンドで2,500万ドル(≒28億円)を調達。シリーズA・シリーズBラウンドでは、ヤマハ発動機のCVC、農機大手クボタのベトナム法人が株主の一部として参画しています。


プロダクトと顧客のペイン

開発するプロダクトは、自律収穫ロボットです。現時点ではイチゴの収穫にフォーカスしており、イチゴ列の間を移動する縦長のロボットが、熟したイチゴをソフトグリップで収穫していきます。


屋外の土壌条件に耐えうる複数のロボットと、コンピュータビジョンと機械学習技術で構成されており、最大24時間移動しながら自律的に収穫を行います。


顧客のペインは、アメリカの大規模イチゴ生産者の場合、地表付近に果実をつくるイチゴを収穫する時に腰を折り、かつ移動距離も相当長いため、収穫の身体的負担が大きいことです。ご参考までに、フロリダ州のイチゴ収穫動画風景を載せておきます。

(Source: https://www.youtube.com/watch?v=-53fxf7jdHU)


資金調達タイミング

残念ながら2018年のシードラウンド実施時の情報はほとんど見当たりません。2019年、Advanced Farm TechnologiesはT-6というイチゴ収穫ロボットを公表し、その商業化を目的としてシリーズAラウンドを実施しています。このタイミングでのプロダクト完成度は詳しくわかりませんが、シリーズAで参画したクボタのプレスリリースを見ると、「イチゴの自動収穫ロボットの製品化に向けた開発を行っている...」と書かれています。パイロット農地で概念検証を済ませ、いくつか在庫を用意しながら顧客を開拓していくフェーズでしょうか。


シリーズAラウンドから約2年後となる2021年9月に実施したのがシリーズBラウンドです。調達に関するニュースによると、シリーズBラウンドには、シリーズAラウンドの全投資家が参加し、イチゴの自動収穫ロボット拡販と、その技術をリンゴに応用していくための資金を確保したようです。


同社は、シリーズAからシリーズBまでの約2年間で、カリフォルニア州を中心とする大規模なイチゴ生産者の畑にロボットを提供し、7,000万ドル(≒80億円)以上のコミットメントを得ているようです。同ニュースには、これから収穫の後工程となる選別・パッキングなどの機能も実装していくという計画が書かれています。


Burro

創業と資金調達ペース

Burroは2017年にアメリカで創業されたスタートアップです。2018年10月に1度目のシードラウンドで25万ドル(≒3,000万円)、2019年4月に2度目のシードラウンドで150万ドル(≒2億円)、2021年9月にシリーズAラウンドで1,090万ドル(≒12億円)を調達。ちなみに、シリーズAラウンドでは、トヨタ自動車のCVCであるToyota Venturesがリード投資家として参画しています。


プロダクトと顧客のペイン

開発するプロダクトは、コンピュータビジョンとAIによる自律運搬ロボットです。果物・野菜・苗木など、いきなり全作業を自動化するのが難しいような作物の生産者向けにロボットを提供し、生産性を数十パーセント向上させることを狙っています。


Advanced Farm Technologiesと似ていますが、アメリカの巨大な農地を、重量物を手に持ったりキャリーカーを引っ張ったりしながら歩き回るのは負荷が高く、それをロボットに手伝ってもらう、ということを狙っています。


Burroのロボットがブルーベリー農場を走り回る姿を、以下の動画でご覧いただけます。

(Source: https://www.youtube.com/watch?v=n45aoO0nbOw)


資金調達タイミング

まず、2018年10月の第1シードラウンドは、AgSharks Competitionの優勝と同時に実施しています。コンペ実施時のレポートを参照すると、当時の製品はプロトタイプレベルであると書かれています。調達した25万ドルは、パイロットテスト用農地の確保、ロボットの追加開発に利用したようです。


2019年4月に2度目のシードラウンドとして150万ドル調達した時のニュースによれば、Burroのロボットは、グレープ・ブルーベリー・チェリー・トマト・苗木など、手で収穫する作物の大規模生産者に試し利用され始めているようです。ロボットが担っているのは「運搬」のみで、作物の収穫・積み下ろしは作業員が行います。Burro CEOや投資家のコメントを参考にすると、パイロットテストでは現場作業員のペイン緩和が確認できたので、より広く商業利用可能にするために150万ドルを投じよう、というストーリーで資金調達を行ったようです。


2021年9月に実施したのが、シリーズAラウンドです。調達時のニュースによると、現場投入済みのロボットが約90台、1日の移動距離は100〜300マイル(≒160〜480km)で週6日稼働しているとのこと。2022年には世界で500台以上のロボットを導入する計画を立てています。160〜480kmは90台合計の数字ですので、1台ベースだと1日あたり約2〜5kmです。2〜5kmというのは、人によって長く感じるか短く感じるか分かれそうではありますが、作物がいっぱい入った重いカゴを運びながら不整地を歩くことや、カゴがいっぱいになるたびに収穫作業を中断しなくてはいけないことを考えると、確かにロボットによる自動運搬が作業者の負担を軽減してくれるように感じられます。


なぜ運搬にフォーカスしたロボット開発を行ったのか、という点について、同シリーズAラウンド実施時のニュースの中で紹介されているCEOのコメントが印象に残りました。

農業分野でスタートした多くの自律化企業は、まず自律化トラクター、自律化除草、自律化収穫に焦点を当て、信じられないほど困難な技術的作業を包括的に自動化しようとしますが、大規模な市場への拡大にはしばしば苦労します。... (我々の強みは)農業の最も労働集約的な分野におけるどこにでもある問題を中心にスケールアップできることであり、同時に、我々のプラットフォームがデータを取得し、多くの環境について学習することで、他の無数のアプリケーションにスケールアップするための基盤を提供することができます。

つまり、最初から運搬以外の動作(除草・収穫など)も可能なロボットを作ろうとすると、多様環境条件の生産地(品種・地面・農地サイズ・etc)にスケールさせていこうとした時に、パイロットプラントと同じバリューが発揮できなくなってしまう可能性が高い。


それを避けるために、Burroは生産者が抱えるペインの中で共通性の高い「運搬」に絞り、スケールの見通しを良くしたそうです。こういったアプローチがある一方で、次にご紹介するBlue White Roboticsは異なるアプローチを採っています。



Blue White Robotics

創業と資金調達ペース

Blue White Roboticsは2017年にイスラエルで創業されたスタートアップです。2019年3月にシードラウンドで150万ドル(≒2億円)、2020年9月にシリーズAラウンドで1,000万ドル(≒11億円)、2021年9月にシリーズBラウンドで3,700万ドル(≒40億円)を調達。イスラエルの企業ですが、シードラウンドでイギリスのVCから調達しています。


プロダクトと顧客のペイン

開発するのは後付け自律運転キットと、自律運転ロボット群を統合管理するソフトウェアプラットフォームです。キットは車両に依存せず、後付けで自律運転を可能にします。また、ソフトウェアプラットフォームを使えば、1人のオペレーターがトラクター・ドローン・ロボットを一括操作・管理し、薬剤散布・収穫・除草を自動化できるようになることを目指しています。


ロボット群が農作業の過程で得た大量のデータを解析し、最適な薬剤投入量・収穫時期判断など、インサイトを得ることができるそうです。


資金調達タイミング

残念ながらシードラウンド・シリーズAラウンドを実施した時の事業・プロダクト進捗に関する情報がほとんど見当たりません。また、シリーズBラウンド時でも、トラクションがわかるようなデータは開示されていません。


学び:顧客の導入ハードルを下げる

Blue White Roboticsのアプローチは、Advanced Farm TechnologiesやBurroと少し違う部分があります。それは「一部の業務ではなく、あらゆる業務を自動化すること」を初期から目指していることです。それに対して、Advanced Farm Technologiesは収穫、Burroは運搬に特化して、スケーラビリティを追求しています。(ちなみに、次の章でご紹介するCarbon Roboticsは除草に特化しています。)


Burro CEOもコメントしていた通り、薬剤散布・収穫・除草などの一連作業をロボットに担わせようとすると、農地環境の違いに苦しみ、なかなかスケールしていかない可能性があります。その点に関して、Blue White Roboticsに関する情報の中に、シリーズBラウンドまで実施していても、顧客情報・導入実績が見当たらないため、スケーラビリティに関する可能性はまだわかりません。(もちろん、私が見つけられていないだけかもしれませんし、戦略的に公開していないのだと思いますが。)


一方で、スケーラビリティの課題を解決し得る工夫もありそうです。それは、「後付けキット」にあります。自律運転を可能にするセンサー・通信・制御モジュールを組み合わせたキットを既存の農機に後付けし、農機をソフトウェアプラットフォームから一元管理します。生産者が元々保有している農機を月額で無人労働力サービスとして使えるようにするビジネスモデルです。このアプローチによって、Blue White Roboticsは、生産者の環境条件(品種、農地面積、作物の高さ、etc)に応じてハードウェアを作り変える必要がなく、スピーディに市場開拓することができるのかもしれません。


Blue White Roboticsの生命線は、自律化アルゴリズムの精度にありそうです。繰り返しになりますが、生産者によって異なる農地環境に対応できる万能なアルゴリズムをつくるのはハードルが高く、膨大な実践データを集めなくてはなりません。一方、ハードウェアそのものを提供すると初期投資が大きく、その投資を初期導入費や月額レンタル費で回収しようとすると生産者の導入ハードルが上がり、その結果なかなかデータが集まらない、という課題に直面します。Blue White Roboticsは、その課題を「後付けキット」で解決しようとしているのではないでしょうか。


ちなみに、このアプローチは農業ロボットに限らず、他の分野でも見られます。例えば、以前EV関連スタートアップに関するブログで取り上げた、Hylion・XL Fleetという企業は、いずれもトラックを後から電動化するサービスを提供しています(両社ともに2020年12月にSPAC上場)。少し抽象化すると、このアプローチは、①大きな変化が起きている(自律化・電動化など)市場で、②スクラッチで機体・機械をつくるよりも安い後付けenablingキットで導入ハードルを下げ、③そこに埋め込んだソフトウェアから顧客のデータを集め、④データを活用したビジネスを展開する、というものです。機械が大型かつ高価な市場ほど、参入しやすいアプローチと言えそうです。いま世界中の企業が関心を持っているトピックの1つは、脱炭素でしょう。後付けで排出炭素量が削減できるキットを提供し、ソフトウェアでコントロールする、というアプローチが考えられるかもしれません。



Carbon Robotics

創業と資金調達ペース

Carbon Roboticsは2018年にアメリカで創業されたスタートアップです。2019年9月にシリーズAラウンドで890万ドル(≒10億円)調達し、その2年後の2021年9月にシリーズBラウンドで2,700万ドル(≒30億円)調達しています。


プロダクトと顧客のペイン

開発するプロダクトは、除草ロボットです。生産者は、化学薬品を使うことなく、作物の生育を阻害する雑草を取り除くことができます。


ロボット発表時のニュースによると、Carbon Roboticsのロボットはコンピュータビジョンによって雑草を認識し、1本150ワットで8本搭載された炭酸ガスレーザーが1時間あたり10万本の雑草を駆除します。ロボットは、1日あたり15〜20エーカー(1エーカーは約1,200坪でサッカーグラウンド1面に相当)の範囲を活動します。コンピュータビジョンは、高精度で保護すべき作物と雑草を区別し、カメラと同期された照明によって、昼夜問わず活動できます。


面白いのは炭酸ガスレーザーの採用です。あまり聞きなれなかったので炭酸ガスレーザーについて調べてみると、日本ではホクロやイボなど除去など、美容向けに使われることが多いようです。水分に反応して熱エネルギーを発生させる仕組みですが、美容で使われることからも分かる通り、他の細胞を無駄に傷つけることなく、ターゲットだけ消滅させることができる、という点に強みを持っています。この特質を除草ロボットに利用すると、土壌と微生物を破壊せずに雑草を駆除することができるようです。


このアプローチを力強く後押しする背景にあるのは、有機農法トレンドです。化学薬品を使わない有機作物につきものなのが雑草です。Carbon Roboticsは、このマクロトレンドと除草という生産者のペインに注目し、除草にフォーカスしたロボットを開発しました。ちなみに、こちらのサイトによれば、アメリカでは民主党基盤の州が共和党基盤の州よりも有機農法比率が高い傾向にあるそうですが、そう考えると本社を構えるワシントン州、株主のBolt社が本社を構え、顧客が多く存在するカリフォルニア州は民主党支持州です。


資金調達タイミング

Carbon Roboticsはシードラウンドを実施せず、シリーズAラウンドで890万ドルを集めます。調べてみると、これは創業者であるMikesell氏がシリアルアントレプレナーであることと関係が深そうです。Mikesell氏はワシントン大学でコンピューターサイエンスを学んだ後、2001年にIsilon Systemsというストレージの企業を共同創業し、2010年にEMC(現在の社名はDELL EMC)に22億5,000万ドル(≒2,500億円)で売却しています。その後、UberでCTO直下のエンジニアリング担当ディレクター、Facebook Reality Labsを経て、Carbon Robotics(当時の社名はMaka)を、大規模農業生産者の3代目である人物と共同創業しました。


シリーズAラウンド実施時のニュースはいくつかありますが、複数の調達ニュースを検索しても「Secretive」「Mysterious」と枕詞がつくことからも分かる通り、秘密主義のスタートアップです。除草ロボットをつくる、ということ以外プロダクトに関する情報はほとんどありません。わかることは、当時社員は20名に満たないながらも、シアトルに本社を構えるAmazonやBoeingなどのリーディングカンパニーから、ソフトウェア・ハードウェアエンジニアが集まっているようです。判明する範囲で、シリーズAラウンドに参画したのは、シアトルに拠点を置くIgnition Partnersと、サンフランシスコのBolt社です。Ignition PartnersのマネージングティレクターであるJohn ConnorsはMicrosoftの元幹部で農業経験を持ち、農業コミュニティとのつながりをもっているそうです。Bolt社のGPであるGreg McAdoo氏は、Isilon Systemsの投資家で、元々Mikesell氏と深いつながりがありました。シリーズAラウンド実施時点で、プロダクトがどの程度完成しているのかは全く予測がつきませんが、Mikesell氏がシリアルアントレプレナーであること、そしてシアトルという土地が持つネットワークを活かしてお金を集めたことが窺えます。日本の農業ロボットスタートアップのための情報としては、正直参考になる部分が少ないかもしれません。


2021年9月のシリーズBラウンドは、その半年前の2021年4月に発表した最新の自律除草ロボットを拡販するための投資、という位置付けで実施したようです。2021年9月のシリーズ Bラウンド実施時のニュースによると、2021〜2022年分の在庫は完売しており、需要に応えるべく生産量を拡大していくそうです。シリーズAからシリーズBまでちょうど2年間空いていますが、その間に着実に動いてユーザーに使われるロボットを市場投入しました。


これからどういう発展をしていくのかわからない部分もありますが、ここまでのところ、マクロトレンドと顧客のペインを見定めた事業開発をしているように見えます。同社のホームページには、ロボットが削減するのは明確に人件費と薬品投入費であると書かれています。1日あたりサッカーグラウンド15〜20面の範囲の雑草を駆除する作業者の人件費と、肥料・除草剤などの薬品費用が不要になるため、削減できるコストのインパクトが大きいようです。ロボットの値段はわかりませんが、NVIDIAのチップ、8本の炭酸ガスレーザー、重厚なホイール、照明・カメラ、こうした重装備を考えると、安価とは言えなさそうです。それでもエコノミクスが合う、と生産者から評価されている(≒ロボットが完売できている)ので、今後も順調に出荷台数は伸びていくことが考えられます。



Muqin Technology

創業と資金調達ペース

Muqin Technologyは、2017年に中国で創業されたスタートアップです。2021年9月に初の資金調達ラウンドを実施し、約1,000万元(≒1億7,000万円)を集めました。


プロダクトと顧客のペイン

開発するのは農薬散布ロボットです。資金調達ニュースによれば、中国の2019年の果樹園面積は1,228万ヘクタールで、日本の23万ヘクタール(2015年データ)の約60倍となります。大規模農業は機械化が進んでいるものの、Muqin Technologyがターゲットとする果樹園は人間の作業が多く残っており、人体への影響を考えると農薬散布作業をロボット化するニーズが強くなっているようです。


資金調達タイミング

Muqin Technologyは、まだ1度しか資金調達を実施しておらず、情報も限られていますが、2017年の開発開始から2021年の資金調達まで4年経過しており、すでに販売可能な商業モデルが完成しているようです。というのも、調達ニュースには資金使途として「主に工場の建設、生産や販売組織のチームビルティング」と書かれているからです。


今回ご紹介した他の農業ロボットスタートアップと比較すると、販売可能なロボット完成後に量産・拡販を進めていくフェーズとしては調達額がやや小さい気もしますが、今後の事業進捗を追っていきたいと思います



調査からの学び


今回、農業ロボットスタートアップの調査を開始するにあたって、2つのポイントを設定しました。「どういった切り口でロボットを市場投入していったのか」、「どのようなペースで資金調達していったのか」です。


どういった切り口でロボットを市場投入していったのか

今回5社の農業ロボットスタートアップを調査する中で、これは重要なポイントだなと思ったのが、「スケーラビリティ」「生産者のエコノミクス」です。


「スケーラビリティ」は、ある農地環境で提供できた顧客価値が、違う農地環境でも提供できるかどうか、という意味です。例えば、品種が変われば、種植え・薬剤散布・除草・収穫・選別・パッケージングなどのオペレーションフローも、ロボットに求められる特性も変わってくると思いますが、その差を吸収することができるのか?Blue White Roboticsは、その点について「ロボットを作らず、既存のロボットを自律化させる」という手段で解決しようとしているようです。


「生産者のエコノミクス」は、本当にその作業をロボットで支援・代替することで、生産者の経営において「削減コスト − ロボット導入・運用コスト > 0」という不等式が成立するかどうか(もちろん投資回収期間も重要)です。その場合、現在作業者にかけているコストが大きいこと、かつ、ロボットの方が明らかに効率的であることが前提になります。また、削減コストの費目を人件費以外にも拡大できると可能性が広がるかもしれません。例えば、Carbon Roboticsは、人件費の他に、薬剤投入費(肥料や除草剤の費用)を削減することで、顧客が払うお金が入っている財布を大きくしました。



どのようなペースで資金調達していったのか

「どのようなペースで資金調達していったのか」について、今回調査した5社のスタートアップでは少しバラツキがありました。例えば、最初の資金調達ラウンドでどれくらい資金調達するかという点では、数千万円のところもあれば、数億円集めたところもあります。また「シリーズAラウンド」と名付けられた資金調達タイミングで、まだ製品が商業化前のところもあれば、すでに複数台の製品を納入しているところもありました。


農業ロボットスタートアップにとって資金調達の目安となるマイルストンを抽出するには、もう少し参考とするスタートアップ数や、具体的な事業進捗に関するデータが必要そうです。今後も注目していきたいと思います。




最後にもう1つ、「生産者にとってのシフトを見極める」という学びもあったのですが、これだけでまた長くなってしまいそうなので、キーセンテンスだけ残して今回は終わりにします。


今回ご紹介したのは、農業ロボットスタートアップの一部ですし、もっとさまざまなアプローチがあると思います。また、主にシード期をしっかり支えるIDATEN Venturesらしく、各スタートアップにおける、マーケットへの入り方や立上げ初期の資金調達の流れを強調して書いてみました。これからロボットスタートアップを立上げる、あるいはすでに起業されていて今後の方向性について考えられているスタートアップの参考になれば幸いです。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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