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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

次世代物流のキーワード:フィジカルインターネットとは

Updated: Mar 1, 2023

この記事ではフィジカルインターネットについて書きます。対象読者としては、そもそもフィジカルインターネットという言葉を初めて聞いた方や、なんとなく聞いたことがあっても中身についてはあまり知らない方としています。

(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%E5%AE%9F%E6%A5%AD%E5%AE%B6-%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88-2108029/)


フィジカルインターネットとは

フィジカルインターネットとは、物流の領域で注目されている概念です。アメリカ・ジョージア工科大学のブノア・モントルイユ教授が2006年に提唱した次世代物流体制のことで、インターネットにおける通信の仕組みを物流に応用するという考え方がベースにあります。




なぜフィジカルインターネットが日本で注目されているか?

日本で物流業界といえば、国内だけでも24兆円の市場規模を誇り、日本の業界別GDP第5位に位置付ける基幹産業の一つです。IDATEN Venturesも投資領域の一つに据えています。なぜこの業界で次世代物流体制の必要性が叫ばれているのでしょうか?ここでは大きく3つのマクロ要因を考えてみます。


  • 人口減少

日本の生産年齢人口減少は避けられません。2010年に8,100万人いた15~64歳人口は、2030年までに6,700万人、2050年までに5,000万人になると予測されています。

(https://www.mlit.go.jp/common/001258392.pdfより引用)


そうした人口減少の中で、第三次産業への偏りも相まって、ドライバー不足が年々顕著になっているというアンケート結果もあります。2017年には約6割の企業が「トラックドライバーが不足している」と回答しています。このまま何もしなければ、これまでのような物流オペレーションの維持が難しくなってしまうことが予測されます。

(https://www.mlit.go.jp/common/001258392.pdfより引用)



  • EC増加を背景とする小口多頻度化

これは筆者自身、自らのライフスタイル変化を強く認識していますが、Amazonや楽天といったECの登場以降、明らかにオンライン注文の頻度が増えました。実際に、平成2年(2000年)から平成27年(2015年)の間に、貨物1件あたりの物流量は2.43トンから0.98トンへと減少。一方で、物流件数自体は1,366万トンから2,261万トンに増加。ここから、「小口輸送の多頻度化」というトレンドを読み取ることができます。

(https://www.mlit.go.jp/common/001258392.pdfより引用)


  • 環境への配慮

欧州を中心に、環境配慮意識が年々向上しています。SDGsの中にも「気候変動に具体的な対策を」という目標が組み込まれています。


それではトラック一台はどれくらいCO2を排出するのでしょうか?全国通運連盟が有益なウェブサイトを用意してくれています。5トントラックが100kmを走った場合のCO2排出量を計算してみたところ、75kgでした。「75kgっていったいどれくらい二酸化炭素量なの?」と思いますが、こちらの資料を参考にすれば、電気自動車で1,400km走った時や、エアコンを300時間使用した時と同等の排出量だそうです。


こうした環境問題を解決するためには、トラックが走る延べ台数を減らすことが必要で、増える物流量に少ないトラックで対応するには、積載率(実質積載量 / 最大積載量)の向上が重要となるわけです。



この他にも、渋滞の創出、交通事故の発生など、さまざまな背景がありますが、いずれにしても変革が迫られていることは事実と言えるでしょう。実は、元々フィジカルインターネットは世界的には環境問題・エネルギー問題へのアプローチとして提唱されたアイディアのようですが、日本は特に働き手の不足という国家的課題と組み合わさって、一層注目を集めています。


では、話を少し戻して、インターネットの仕組みをどんな風に活かせば、こういった課題解決の一助とすることができるのでしょうか?



インターネットの仕組みとは

フィジカルインターネットとは、文字通り「フィジカル(物理的な)」+「インターネット」からなる造語です。


そもそも、インターネットの語源は「ネットワークとネットワークを接続すること」です。インターネットも、分解してみればコンピュータがローカルでつながった小さなネットワークの集まりです。


インターネット世界はIP(Internet Protocol)というルールにしたがって情報がやりとりされています。IPは幾つか「独特」の運用ルールを持っています。


  1. IPアドレス インターネットに接続された端末には必ずIPアドレス(Internet Protocol)が割り当てられ、情報はその住所を頼りに送受信されます。物理世界でも、各場所には住所が割り当てられていますね。

  2. パケット単位の情報伝達 インターネットを通じて情報がやりとりされる時、情報はパケットという単位に分割して運びます。(1パケットは128バイト) インターネット上では日々膨大な量の情報が行き来しているため、AさんがBさんに写真を送りたいタイミングと、CさんがDさんに写真を送るタイミングがバッティングする可能性があります。パケットという小さい単位に分割すれば、データの動きは整流化され、受信元で元のファイルを復元することができます。決まった幅の川を船が流れる時に、大きな船だと詰まってしまう一方で、小船であれば流れに乗って運搬されるのと同じような構造です。

  3. 冗長性 インターネットの経路は、単路ではなく網の目上に張り巡らされているため、一つのルーター(中継地点)が故障したとしても、違うルートを通って目的地まで運び届けることができるように設計されています。多少遠回りをしてでも、頑張って確実に宛先まで情報を届けようとする、この考え方をベストエフォート方式といいます。


フィジカルインターネットの肝

こちらの調査資料によれば、フィジカルインターネットについてこう書かれています。


「こうした現在の物流業界が抱える問題点を踏まえ、インターネットの仕組みを物流に応用し、物流ネットワークをオープン化して各事業者間でシェアリングし、標準化されたコンテナによる荷姿の統一によって、効率性と冗長性を両立させた物流ネットワークを構築しようとする新しい物流体制が PI (フィジカルインターネット)である。」


「こうした課題」とは、物流各社が独自のネットワークを構築した結果、同じ配送先でも輸配送や納品が別々に行われることで平均積載率が下がったり(効率性の低下)、自社のネットワークに頼ることで有事の際にサプライチェーンが分断されてしまう(冗長性の低下)ことを指しています。


この「効率化」と「冗長化」に、インターネットの仕組みを応用できるのではないか、という考えがフィジカルインターネットの根底にはあります。具体的には荷物やトラック荷台のサイズ・形状を標準化し、共同配送できないか、というのがフィジカルインターネットのアプローチです。



モントルイユ教授のアイディアでは、貨物を標準的なモジュールである「πコンテナ」に統一します。そして、共有の倉庫やクロスドックセンター(複数のベンダーからの貨物を物流センターに入荷後、在庫保管することなく、そのまま仕分けを行い出荷する積み替えセンター)を経由して積載率を最大化するような配送計画を立てて運用することが考えられています。


文字にしてみるとスマートなのですが、ここには大小さまざまな障害が潜んでいると考えられています。


例えば最も大きな問題の1つが、高まる顧客のニーズです。私たちは、従来は到着まで数日待てたものでも、もはや当日配送が当たり前になってしまいました。いくらコンテナを統一し、積載率をKPIにして計画を立てても、当日配送の注文が多くなれば割り込みが増え、積載率が低いまま届けなくてはいけなくなります。これを改善するためには、テクノロジーを活用した最大努力はもちろん、EC・物流各社が顧客に納得してもらった上で配送日数をいただくことも必要になるでしょう。


他にも、データ連携をする上でマスタの整備というのも課題になるのではないでしょうか。A社ではトラックの積載量を1,000kgとデジタル管理しているのに、B社では1tと管理していたり、日用品のカテゴリーIDがA社では「0001」なのに、B社では「0100」だったり。こうした些細な差が及ぼす影響は小さくありません。実はIDATEN投資先のシマントは、特殊なデータベース技術を用いて「個社のマスタ差異」を吸収して統合するソリューションを提供しており、まさにこういった課題の解決手段になり得ます。


現状と理想のフィジカルインターネットの差はまだまだ大きく、欧米でも数十年かけて完成に近づくためのロードマップが整理されています。


日本では冒頭に書いた通り、ここ数年でかなり注目が高まっており、これからテクノロジー業界・行政・法律などステークホルダーが協議を進めていくのだと思います。物流スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルとしては、現状とフィジカルインターネットの完成形の間に横たわる課題要素をスケーラブルに解決する手段に今後は注目していきます。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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