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  • Writer's pictureKenta Adachi

ベンチャーキャピタル(VC)とは?その仕組み、思考、行動について

Updated: Mar 1, 2023

本記事は、CB Insights による "What is Venture Capital?" をベースに日本語でベンチャーキャピタル(Venture Capital、以下VC)について書いたものです。

VCというものがどういうメカニズムで動いているのか、現役キャピタリストとしての考え方も織り交ぜながら、なるべく分かりやすくなるように書いております。


また、金額的な感覚も分かりやすくするために、ここでは強引に1ドルを100円として換算し、市場規模などを円単位で表示してあります。


さて、ここ10年でVCに起こった特に大きな変化は何でしょうか。

それは「大型化」であると言われています。


VCファンドのサイズが大きくなり(中には、10兆円規模のVCファンドも登場しました)、VCから出資を受けるスタートアップの評価額も、いわゆるユニコーンと呼ばれる1,000億円超のものが頻出してきました。


2010年から2019年にかけてVCによる年間投資額は13倍ほどとなり、その額、16兆円超に達しています。


メガラウンドと呼ばれる、1回で100億円以上の資金調達がなされるラウンドも2016年から2018年にかけて3倍近くに増えています。


では、そんなVCにまつわる主要な用語や定義、VCの動機や思考プロセス、そしてVCとスタートアップが各投資段階で何を求めているのかを掘り下げていきましょう。


VCとは

VCとは、スタートアップからすれば資金調達手段であり、機関投資家や個人富裕層からすれば投資手段です。

つまりVCは「投資家から資金を預かり、その資金をスタートアップに投資する」という資金の流通を担っています。


もちろん、ただ資金を右から左へ流通させているわけではありません。


これはあくまで私の考え方ですが、VCは世の中の流れを読み「10年後あるいはその先、世界はこうなっていくであろう」という考えをもとに、悪い流れであればそれを断ち切るような技術やサービスを展開するスタートアップ、良い流れであればそれを促進するようなスタートアップに投資し、その上でその投資先スタートアップに対して各種支援(戦略立案や顧客紹介、採用支援や広報支援、資金調達支援、そして精神的なサポートなど)を提供することで、それらスタートアップの成長を促し、よりよい世界の実現を早めていこう、とする人々です。


一方で、よりよい世界を実現した、というだけではダメで、投資家から預かった資金をきちんと増やして、投資家に戻さなければなりません。


VCはDD(Due Diligence)という調査などを通じてスタートアップを選定し、それらスタートアップの株式を購入する、という形で、スタートアップに投資をします。


VCによっては、アーリーステージ(事業が立ち上がって間もない頃)に特化した投資をするところや、レイトステージ(事業の方向性がしっかり見えてきた頃)に特化した投資をするところ、あるいはオールステージで投資を展開するところもあります。

特定の業界に特化した投資を展開するところもあれば、オールジャンルで投資を展開するところもあります。


ちなみに、私が率いる IDATEN Ventuers は「アーリーステージ × 製造業・物流業」を主戦場としています。


そうしてVCからスタートアップへなされた投資は、そのスタートアップが買収されるか、上場するか、あるいは清算するといった流動化イベントが発生するまで、固定化されます。


残念ながら、VCから出資を受けたスタートアップの全てが成功するわけではありません。

VCとしては、そうした失敗を回避すべく、投資先スタートアップの選定、投資後の支援に力を入れるわけです。


一方で、成功した場合のリターンは非常に大きなものになることもあります。


例えば2005年に Accel Partners というVCは Facebook に約13億円の投資を行い10%の株式を取得しました。Accel Parnersはその後、2010年にFacebook株式の一部を約500億円で売却し、さらに2012年のFacebook株式公開時には9,000億円以上の利益を上げました。13億円の元手が、1兆円にせまる利益を生み出したわけです。


VCによる投資は一般的に長期的です。なぜなら、スタートアップの成長には最低でも5~10年かかることが多いためです。このためVCは、5~10年以上先の世界を見通す力も必要になってきます。


一般的なVCは1つの投資ファンドを10年サイクルで運用しており、その10年以内に投資先スタートアップを見つけ、投資実行、成長支援を行います。

そして投資先スタートアップがEXITを迎えた際に、回収した資金をファンド投資家へ還します。


スタートアップがVCを利用するメリットは、負債による負担(借金の返済や利息の支払い等)を負わなくてよい、という点にあります。さらに各VCが持つ専門知識やネットワーク、リソースなどを活用することができる、という点も魅力に上げられます。


一方、VCに持分のいくばくかを渡すことにもなるので、EXITの際の自分たちの取り分がそれだけ減る、という側面もあります。


また、VCは一般的に大きなリターンを目指す傾向にあるので、VCにとってあまり大きなリターンにつながらない小規模あるいは中規模のEXITを反対される可能性もあります。


リターンについて、もう少し掘り下げてみましょう。より大きなリターンを出しているVCは、投資の失敗が多い傾向にある、というデータがあります。

出典:Chris Dixon


上図の横軸はVCファンドのリターンを示し、縦軸は元本回収ができなかった投資(=失敗投資)の割合を示しています。


リターンが1倍未満(<1x)のカテゴリから2~3倍(2-3x)のカテゴリまで、失敗投資の割合は小さくなっていますが、それ以降、リターン5倍超(>5x)にかけては、失敗投資の割合は大きくなっています。


野球に例えると、5倍超の大きなリターンを出しているVCファンドは、いわゆる「三振かホームランか」という案件に張っていることが分かります。

失敗(=三振)が多くとも、大きな成功(=ホームラン)が出れば、ファンドトータルとしてはよいリターンを生み出す、というものです。

ちょうど上記で取り上げたFacebookみたいな投資案件が1つでもあると、そのファンドは仮に他の全案件が失敗したとしても、トータルでは大きなリターンになるのです。


一方、トータルとして2~3倍のリターンを目指して、堅実にヒットを重ねる(=失敗を少なくする)投資戦略をとるVCファンドもあります。


ホームランバッターかアベレージヒッターか、各VCの特徴が出るポイントの一つでしょう。


VCの仕組み

冒頭に書いた通り、VCは機関投資家や個人富裕層から資金を調達します。


VCファンドに出資する投資家のことを Limited Partner (有限責任組合委員、以下LP)と呼びます。

これに対して、VCファンドを運用する者を General Partner(無限責任組合員、以下GP)と呼びます。


GPは、LPから出資された資金をスタートアップへ投資することで増やし、LPに還す、という使命を帯びています。


LPとしては、大学の寄付金、年金基金、保険会社といった大規模な機関投資家があげられます(ただし、これは米国での話、日本はまだ、こうした機関投資家によるVCへの出資はあまり活発ではありません)


GPは、自身の投資実績やファンドのパフォーマンス予測、投資戦略を説明することで、LPからの出資を仰ぎます。

その時点でGPはLPに対して「こういった投資をして、こういったリターンをお返しします」と約束することになるので、そこから大きく逸脱した投資は一般的には許されません


ファンドの資金調達には長い時間(平均的には1年間)を要するため、各VCは目標調達額の25~50%を調達した際に資金調達のファーストクローズを行い、スタートアップへの投資を開始することが多いです。


そして、スタートアップへの投資と並行して、自身のファンドの資金調達を進め、やがて自身のファンドの資金調達を締め切るファイナルクローズを迎えます。


前述の通り、スタートアップの成長には5~10年を要することが多いため、VCはファンド組成後、基本的には前半の3~5年のうちにスタートアップへの新規投資を終え、以後、そのスタートアップがファンド期限内(一般的には10年)のうちに望ましいEXITができるよう、追加投資を含めた各種サポートを展開します。


一般的なVCファンドの報酬は、マネジメントフィーとキャリーの2つで構成されています。


マネジメントフィーとは、毎年ファンドサイズに対して所定の割合を運営費として受け取るものです。

マネジメントフィーの料率としては2%が一般的で、例えばファンドサイズが10億円だとすると、年間10億円×2%=2,000万円をGPが受け取る、ということになります。

このマネジメントフィーを使ってGPは、従業員の給与、家賃、そして旅費交通費など日々の企業活動費をまかないます。


キャリーとは、VCファンドが生み出した利益に対して所定の割合を受け取るものです。

キャリーの料率としては20%が一般的で、例えば10億円のVCファンドが、スタートアップへの投資を通じて30億円の資金を回収した場合、投資利益20億円(=30億円-10億円)のうち20%にあたる4億円をGPが受け取る、というものです(この際LPは、まずファンドに投資した10億円を優先的に受け取り、その後、投資利益20億円のうちの80%すなわち16億円を受け取ります。つまり合計で10億円+16億円=26億円が、VCファンドへ出資したリターンとなります)


一般的にLPがVCに求めるリターンは市場インデックスよりも500~800ベーシスポイント高いものと言われています(これも米国での話です)

例えば、S&P500が年間7%のリターンとなっていた場合、LPがVCに求めるのは12~15%のリターン、ということになります。


LPの期待に沿った、あるいは期待以上のリターンを生み出すことでVCはさらにLPからの資金調達が容易になる一方、逆のケースでは、VCは評価を落としてしまいます。


後述の通り、投資先を厳選してもなお、VCが出資するシード期のスタートアップの3分の2は失敗すると言われています。

そうしたファンドがトータルとしてLPの期待に応えるリターンを出すに、VCは投資額の10~100倍のリターンを生み出すスタートアップを探すことになります


例として、ファンドサイズが20億円のVCファンドを考えてみましょう。

マネジメントフィーは2%、キャリーは20%、ファンド運用期間は10年間とします。


ファンドサイズが20億円といっても、それを全額、スタートアップに投資できるわけではありません。10年分のマネジメントフィー、つまり2%×10年=20%はリザーブしておく必要があります(そこからさらに、監査費用などもリザーブしておく必要がありますが、このケーススタディでは簡略化のため、省いておきます)


すると、投資可能額は20億円×(100%-20%)=16億円、となります。


かりにこのVCファンドが、16社に1億円ずつ投資をしたとしましょう。

このうち、3分の2にあたる11社が失敗して、資金回収できなったケースを考えます。


残った5社(それぞれ1億円ずつ出資している)が、全て10倍のリターンを生み出したとした場合、ファンド全体の回収額は、5社×1億円×10倍=50億円となります。


ここからまず、LPに優先的に20億円が還されます。

残った30億円が投資利益であり、このうちキャリーとして20%の6億円がGPに、24億円がLPへ分配されます。


すると、LPの取り分は20億円+24億円=44億円、つまり10年間で20億円が44億円になった、ということになり、リターン倍率としては10年で2.2倍となります。


実際にはありえないケースですが、仮に、LPがこのVCファンドのDAY1に20億円の出資をし、そのちょうど10年後に上記44億円の分配を受けたとします。するとその結果は、年利8.2%で20億円の元本を10年間運用した結果と同じになるのです。


日本で年利8.2%は低くはないですが、現在のような大規模金融緩和が実施されていない世界であった場合、金利の高い国であれば、元本保証された銀行に預けているのとあまり変わらないリターンということにもなりかねません。


あるいは流動性が高い上場株式の市場インデックスと同じような水準にVCのリターンが落ち着いてしまうと、資金が長期間固定されるVCファンドとしては、LPから見た魅力に欠けてしまいます。

だから上述の通り、一般的にLPがVCに求めるリターンは市場インデックスよりも500~800ベーシスポイント高いものと言われています。


ちなみに厳密さを無視して言い切ってしまうと、こうしたリターンを年利換算したものをIRR(Internal Rate of Return、内部収益率)と言って、VCに限らず、投資の世界ではよく使われる用語です。いわゆる利回りです。

(注:本当は、ファンド満期の10年後に一括して分配されるということはなく、VCファンドからの分配タイミングも勘案して考える必要があります、分配タイミングが早いほどIRRはよいものとなります)


さて、10倍のリターンを生み出すスタートアップが16社中、5社あってもこの状況です。

より大きなリターンをファンドとして出していくためには、10倍どころか、100倍あるいはそれ以上といったリターンを生み出すスタートアップが必要になってくることが分かるかと思います。

(注:もちろん現実的には、全社に同じ金額を出資するとか、3分の2の出資先からの回収が完全にゼロとか、こんな杓子定規なケースはありません)


しかし、そうした大きなリターンを生み出すスタートアップに出会うのは簡単なことではありません。いわゆるユニコーンと呼ばれている評価額1,000億円以上のスタートアップが生まれる可能性は1%台と言われています(あくまで、米国での話です)

さらに、スタートアップへの投資タイミングは限られています。例えばFacebookのシリーズAラウンドは1回しかありません。そのタイミングでその投資を逃せば、もう一生、FacebookのシリーズAラウンドでの出資はできません。


そうした機会を逃さないよう、VCは日々、多くのスタートアップと会って、大きなリターンにつながると思うスタートアップを探すことになります。


VCによる投資

VCによる投資活動は一般的に、ソーシング(出資候補先スタートアップを探すこと)、セレクション(ソーシングしたスタートアップの中から実際に投資する先を厳選すること)、バリューアド(実際に投資したスタートアップの成長につながるような支援をすること)に大別されます。


そして上記の活動のそれぞれが、どれくらいVCが生み出す価値に寄与するのか、という900名ほどのキャピタリスト(米国のキャピタリストです)に対して実施されたアンケート結果をまとめたものが下表になります。

Source: Antoine Buteau via Medium


上表でアーリーステージのVC、そしてレイトステージのVC双方にとって、ディールフロー(ここではソーシングとほぼ同意)+セレクションの合計がともに71%となっており、これはつまりVCにとってはリターンを生み出すためには投資実行する前、つまり「どのスタートアップに投資をするか」が非常に重要、ということが示されています。


その上で、各VCは自分たちが持つネットワークや知識を惜しみなくスタートアップに提供し、さらに成功確率を押し上げていくのです。


このアンケート結果から、いくらVCが戦略策定支援や顧客紹介、資金調達サポートやメンタリングをしても、平凡な会社を次のGoogleやFacebookに変えることはできない、と考えられていることが分かります。


このためVCは時間と労力の大部分をかけて、最高の案件にアクセスし、評価・選定し、投資を実行しようと、日々、努力しています。


さてここから、VCがどういった方法でその重要なディールフローを確立しているのか、みてきましょう。


おもしろいことに、各VCは有望なスタートアップの情報をそれぞれが狙い合うライバルでありながら、お互いに情報を共有し合う仲間でもある、という側面があります。

スタートアップへの他のVCとの共同投資や取締役会への参加、業界イベントへの参加を通じて、お互いにネットワークを構築しあっています。


さらに、起業家、投資銀行、M&A弁護士、LP、その他スタートアップに関連する人々などともネットワークを構築しています。


アクセラレータやインキュベータとのネットワークも重要ですし、MBAプログラムや大学の起業家プログラムとのネットワークも重要です。


こうしたネットワークを通じて「●●●という事業を展開するスタートアップがいるけれども、投資に興味があるか?」といった情報が入ってくるように、VCは動いています。


最近では、コミュニティ・ビルディングの重要性も認識されています。


例えば、将来の起業家予備軍のコミュニティを構築したり、CxO(CTO、CFO、COO等)コミュニティを構築したり、特定の業界やニーズに関するコミュニティや、テストユーザになってくれる人々のコミュニティを持っているVCは、そういったコミュニティを持っていないVCに比べて、ユニークなディールフロー(ディールフローに限らず、セレクションやバリューアドにも有効なケースも)を保持しやすいです。


あるいは、GP自体の知名度や実績がスタートアップ情報を惹きつける、ということもあります。


他には、ブログやTwitter、様々なイベントでの講演等を通じてVCのブランド力や影響力、世間的な認知を高め、投資ラウンドの情報が飛び込んできやすい状況をつくる、という手法もあります。


以上、VCがディールフローを構築する方法をみてきました。このためVCは総じて、多くのイベントに出席し、Twitterやnote等でどんどん発信する、というアクションをとることが多くなってきます。


では次に、そうして構築したディールフローから入ってきたスタートアップ情報の中から実際に投資する先を決めるセレクションをどのように進めていくのか、みていきましょう。


VCによるスタートアップの投資判断

多くのスタートアップは前例のないことに取り組んでいるため、比較可能なビジネスや正確な市場規模の推定、予測可能なモデルが存在しないことが一般的です。特に、まだビジネスが立ち上がっていないシード期のスタートアップほど、この傾向は強くなります。


そのため、スタートアップへの投資判断には、ロジカルな側面と、ある種アーティスティックな側面があり、データと直感、この組み合わせで判断していくことになります。

よって、各VC単位で、あるいは各キャピタリスト単位で、投資判断の方法や重視するポイントが異なっている、というのが実情です。


その中でも、多くのVCが評価軸にあげている3つの要素があります。

それは、市場規模、PMF、創業チームです。


まず市場規模について、VCはよくTAM(Total Addressable Market、想定される中での最大の市場規模)という言葉を用います。


必ずしもTAMが大きければいい、というものでもありませんが、それでもやはり、小さいよりは大きい方が好ましいです。

なぜなら前述の通り、VCとしては10倍あるいは100倍といったリターンにつながるスタートアップを探しているので、小さなTAMで戦うスタートアップではそのような大きなリターンを生み出しにくいからです。


一方、事業を進めているうちにTAMが変化する、といったケースもあります。

例えばUberが好例です。


UberはもともとTAMが4,000億円規模のハイヤー市場で戦っていましたが、今ではタクシーと乗用車にまで対象を拡大し、そのTAMは30兆円と言われています。

この拡大をロジカルな側面から全くの初期に予見することは難しいことですが、中にはそういう慧眼を持つVCももちろん存在し、このあたりがアーティスティックな側面でもあります。


AirBnBも、そういったTAMが拡大した例にあげられます。


次に、PMFについて見ていきましょう。

PMFとは Product Market Fit の略で、スタートアップが提供しているプロダクトあるいはサービスが市場に適合しているか、という概念です。


PMFについては多くの記事が書かれています。


何をもってPMFが実現されたのかを明確に定義することは難しいのですが、一般的には、「プロダクトが市場ニーズを十分に満たしており、新規利用者数が急拡大しており、解約率・離脱率が低い状況」であると言えるでしょう。


スタートアップが失敗する理由として多いのは、このPMFに失敗しているというものがあります。

スタートアップは起業家のビジョンによって突き動かされ、そしてそれが世界を変えていくという要素があるのですが、そのビジョンが世間とずれすぎていると、ついに市場に受け入れられず、撤退することになってしまいます。


特に、プロダクトアウト型のスタートアップがPMFの失敗に陥りやすい傾向にあります。

「この技術は素晴らしい」「この製品は素晴らしい」と意気揚々と市場に打ち出してみても、実際にはそれを求めている人が思ったほど存在しなかった、あるいはそうした技術や製品に対するニーズを喚起する事業開発ができなかった、というケースは少なくありません。


では逆に、市場ニーズだけを聞いていればといいかというと、事はそんなに簡単ではありません。

有名な話ですが、世の中に自動車が存在しなかった時、市場に「どんな乗り物が欲しいか」と聞いた答えが「もっと足が速い馬が欲しい」というものだったと言われています。


そんな中、ヘンリフォードはいち早く自動車の大量生産に成功し、一気にPMFを達成しています。


このあたりも、TAM同様、特にシード期のスタートアップほどロジカルな側面だけではなく、アーティスティックな側面も存在する要因になります。


続けて、創業チームについて見ていきましょう。


スタートアップは、特にシード期であればあるほど、手元にあるのは実際のビジネスではなく、プランのみです。


そして、だいたいのケースにおいて初期のプランは何らか間違っていることが多く、対象市場が適切ではなかったり、技術が確立されていなかったり、戦略が曖昧だったり、といったことがあります。


そんな中でVCが投資をする際、プランそのものではなく、創業チームに大きなウエイトが置かれます。

この創業チームであれば、例え想定プランと大きくずれても、必ず生き抜き、課題を克服し、市場に適応するだろう、というチームに投資をします。


そういった意味でVCは問題解決能力の高い創業チームを求めています。

起業をした後、いろいろな問題が矢継ぎ早にやってきます。その問題をどんどん解決していくことができる、そういう起業家、そして創業チームを探しているのです。


その上で、そのスタートアップが戦おうとしている分野に首尾一貫したつながりを有している創業チームを求めています。


例えば、これから飲食業界で何かやろうとしているスタートアップの創業チームが、過去一度も飲食業界に関わっていなかったとしたら、苦戦が想定されそうです。


あるいは、連続起業家(シリアルアントレプレナー)を求める傾向もあります。なぜなら、起業という特殊な生き様を一度経験していることは、必ずと言っていいほど、スタートアップ経営においてプラスになるからです。

過去の起業がいわゆるユニコーン(評価額1,000億円以上のスタートアップ)であれば、なおさらです。


こうした投資評価を経て、VCは投資先候補スタートアップをセレクションしていきます。


晴れて投資評価を通過したら、タームシートという、投資に関する条件が示されたペーパーを共有し、VCとスタートアップの双方がそれに合意した場合、そのタームシート記載内容が投資契約書等に落とし込まれ、VCからスタートアップへ出資金額が送金されます。


タームシートに書かれる内容として、昔まとめて Slide Share にあげたものがありますので、参考ください。


スタートアップとの投資契約について


VCの投資ラウンド

最後にVCの投資ラウンド(=スタートアップの資金調達ラウンド)を見ていきましょう。


一般的にスタートアップは創業からEXITまでの間に複数回の資金調達を経験します。

なぜ資金調達を複数回に分けるかと言えば、事業推進に必要な資金額と会社の評価額とのバランスがあるためです。


例えば、事業推進に必要な総資金額が仮に100億円のスタートアップがあるとします(そもそも、この100億円をどう計測するかが難しい、という論点がありますが、それは脇に置いておきます)


そしてこのスタートアップが創業期にいきなり100億円の資金調達を行えるかというと、かつてユニコーンスタートアップを創り上げたようなシリアルアントレプレナーでもない限り、難しいでしょう。

また、会社の評価額もそれ相応にしなければ、起業していきなりほぼ全ての会社持分を外部投資家に委ねる、ということにもなります。


そこでスタートアップとしては、初期的な成果を出すために必要な資金(仮にそれを1億円とします)を調達し、評価額もそれに見合う額として、自分の会社持分の希薄化をおさえます。


そして、その初期的な成果を無事に出せたら、それをエビデンスに会社の評価額もあげて次の資金調達(仮にそれを5億円としましょう)を調達し、その5億円を使ってまた事業を進めて次のマイルストンとなる成果を出し、そして次の資金調達へ、、という流れで、最終的に必要な資金総額を、自分たち創業チームの会社持分の希薄化とのバランスをとりながら集めていくことになります。


もちろん全てのスタートアップがそういった資金調達を行うわけではありませんので、あくまで現時点での典型例としてとらえてください。


さて、そうして刻まれる資金調達ラウンドを、一般的に若い順からシード、シリーズA、シリーズB、シリーズC、、といったように呼びます。


下表は、それぞれのラウンドにおける、投資が失敗に終わる確率です。

Seedはシード、Start-up stageはシリーズA、Second stageはシリーズB と読み替えてください。

Source: CB Insights


下にいくほどスタートアップとしては事業が成熟しており、結果、失敗確率は下にいくほど低くなっています。


この表によれば、シードは3社に2社が失敗すると言われています。

まだ商業的に展開可能なプロダクトを持っていないため、本質的に失敗確率は高く、その分、企業の評価額も低く抑えられる傾向にあります。


一方、プレIPOと言われるスタートップでも5社に1社は失敗、となっています。

この段階では確固たるプロダクトあるいは技術が存在していることが大半で、基本的にはPMFもしており、売上もしっかり立っている状況です。それでも、予期せぬ競合の登場や急激な市場変化など、リスクファクターはゼロではありません。とはいえ、この段階まで来ると企業の評価額は高い傾向にあります。


では、それぞれのラウンドがどういうものか、定性的に見ていきましょう。


シードでは、資金の大部分がMVP(Minimum Viable Product、スタートアップとして実現しようとしていることのコンセプトを示すことができる必要最小限のプロダクト)開発に割り当てられます。


論より証拠、とはよく言ったもので、実際にプロダクトをつくる、あるいはサービスを動かしてみて、市場の初期的な反応を確かめ、実現しようとしているビジョンの実現可能性を投資家に示すことで、次のシリーズA資金を引き出すのです。手を広げすぎる前に、その後のPMFの可能性をここで探る意味合いも大きいです。


シード段階ではVCをはじめとした外部投資家から資金を集めず、自己資金で開発を進めるブートストラップ(bootstrap)も散見されます。

VCが入ることで、メンタリング等の支援が得られるというメリットがある一方、VCとの相性によっては予期せぬコミュニケーションコストが発生することもあり、それを避ける意味合いがあります。


別の観点としては、シードと言えどもVCからのセレクション目線が厳しくなっている、というものがあげられます。

最近では非常に多くのスタートアップが登場しており、もちろん全てのスタートアップに投資するわけにはいかないので、VCとしても選択の目が厳しくならざるを得ない面があります。結果、シードであっても一定程度の成果を出していなければ投資判断にまで至ることができない、ということもあり、自己資金で初期的な成果を出す必要がある、といったケースもあります。


ちなみに米国ではシードラウンドでのVC投資額は2,500万円~2億円の範囲であることが多く、中央値は7,500万円~1億円とのことです。日本よりも一回りほど大きい印象です。


さて、シードラウンドの次は、シリーズAラウンドです。


一般的には、シードラウンドでプロダクトとビジネスモデルを開発し、長期的に利益を生み出す事業である可能性を示すことに成功したスタートアップが進むことができるラウンドです。


シリーズAで投じられる資金の用途としては、顧客基盤の構築あるいは最適化が主だったところです。シードで開発したプロダクトやビジネスモデルを事業としてスケールさせるための方法を開発する、という印象です。


米国でのシリーズAラウンドのVC投資額は2億円~15億円の範囲であることが多く、中央値は3億円~7億円とのことです。これも、日本より一回りほど大きい印象です。


その次のシリーズBで投じられる資金の用途としては、営業やマーケティングの強化を通じた事業のスケールアップが主だったところです。地理的な拡大や、小さな会社の買収も範疇に入ってきます。

シリーズAで開発されたスケール方法に沿って、一気に事業規模を拡大していくことになります。


米国でのシリーズBラウンドでのVC投資額は数十億円規模になることが多く、シリーズAをリードしたVCが引き続きシリーズBもリードすることも多いです。


その先のシリーズCに入ってくると、スタートアップはM&AあるいはIPOによるEXITに向けて準備をしていることが多くなってきます。

ここで投じられる資金の用途としてはシリーズBの延長で、より大きな地理的拡大(国際的なものも含めて)、競合他社の買収、あるいは既に構築した顧客基盤の上で新たに展開していく新製品の開発に充てられることが多いです。


シリーズCになってくるとVCのみならず、プライベートエクイティファームやヘッジファンド、投資銀行のレイトステージアーム、あるいは(日本ではまだ発達していませんが)セカンダリマーケットファーム等の参加も目立ってきます。


そして、シリーズCを経てもM&AやIPOによるEXITをしなかった場合、さらにシリーズD、シリーズE、、と進んでいきます。

シリーズC以降の資金調達ラウンドがある場合、そこで投じられる資金は、戦略的に製品価格を下げて市場の寡占を狙うなど、すぐ先に控えているであろうIPOに有利な条件を創り出すことに使われることが多いです。


一方、最近はIPOを進めるよりも、この段階でじっくり時間をかけているスタートアップも増えてきました。

背景として、VCファンドのサイズが大きくなり続けていることから、スタートアップとしては上場せずとも大きな資金を調達しやすくなっている、という要因があげられます。


その反面、そうしてじっくり時間をかけたUberやLyftが公開市場でほろ苦いデビューを果たしたことで、こうした収益性よりも成長性を優先するモデル(赤字の状態から脱却しないまま、規模の拡大→資金調達→規模の拡大→資金調達→規模の拡大→・・・を繰り返すモデル)に警戒感も高まっています。


まだまだVCという産業は発展段階にあり、世界のあちこちで、最適なモデルが模索され続けています。


さらには、IPOに代わるSPAC上場という手法にも改めて注目が集まっております。SPACについては、こちらの記事にまとめておきましたので、もしよければご覧ください。


追記

2022年1月に、2021年における世界のベンチャー企業投資額が発表されたので、追記しておきます。


バブルではないのか、と言われたほどの2018年でしたが、翌2019年、パンデミックの影響があったものの大きく減少することはなく、2020年には盛り返し、そして2021年、前年比でほぼ倍増という推移となっています。


実は投資件数自体は横ばい(下記グラフからは読み取れませんが)なのですが、1件当たりの投資件数が大きく増加しており、金融緩和を背景とするカネ余りが影響していると考えられます。


その結果、アーリーステージ(下記グラフで緑色の部分)も伸びてはいますが、それ以上にレイトステージ(下記グラフで青色の部分)の伸びが著しく、資金調達ラウンドの大型化がうかがえます。


大型ファンドが数多く登場し、レイトステージだけでは戦えないと判断した各レイトステージVCファンドはアーリーステージにまで主戦場を拡げつつ、そうなると各アーリーステージVCファンドは資金力でそうした大型ファンドに負けがちのため、他ファンドにない独自の出資先サポート体制を打ち出したり、知名度合戦に突入したり、といったことも散見されます。


一方では上場後もVCファンドが出資先スタートアップの株式を保有し続けるストラクチャも生まれてきております。数年前にはあまり考えにくかった状況でもあり、日々、VC業界も変化し続けていることがお分かりいただけるかと思います。


Source: https://news.crunchbase.com/news/global-vc-funding-unicorns-2021-monthly-recap/




IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

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