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  • Shingo Sakamoto

Porscheが大型出資、リチウムシリコンバッテリーのポテンシャル

2022年5月、Group14 Technologies(以下、「Group14」)というスタートアップが、Porsche AG(自動車メーカー PorscheのCVC)をリード投資家とするシリーズCラウンドで、4億ドル(≒520億円)を調達しました。


同社はリチウムシリコンバッテリー用のシリコンカーボン材料開発を行っており、今回の資金調達によってアメリカに2ヶ所目となるバッテリー活性材料(Battery Active Materials、BAM)工場を立ち上げることになりました。


今回は、Group14に注目しつつ、リチウムシリコンバッテリーとはどんなバッテリーなのか、どのような点において期待されているのか、どのようなプレイヤーがいるのか、調査していきたいと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/vectors/バッテリー-パワー-エネルギー-5623856/)



リチウムシリコンバッテリーとは


リチウムイオンバッテリーを構成する正極・負極材料の組み合わせにはさまざまなパターンがありますが、その中でも正極(カソード)にリチウム金属酸化物、負極(アノード)に炭素系材料を用いるケースが一般的です。


以前、「バッテリーサプライチェーンの最上流:リチウム探索・採掘に勝機を見出すスタートアップたち」というブログの中で、リチウムイオンバッテリー、およびその正極に必要となるリチウム原料に市場の期待が寄せられている状況をご紹介しました。


今回のテーマであるリチウム"シリコン"バッテリーは、負極に注目した技術となります。リチウムイオンバッテリーの典型的な負極材料であるグラファイト(黒鉛)は、バッテリー容量に限界がある点が課題として指摘されています。負極にグラファイトが用いられる場合、1つのリチウムイオンを保存しておくのに、6つの炭素原子が必要となり、理論的な放電容量が約370mAh/gにとどまるためです。


この課題を解決するために研究開発が進められているのが、リチウムシリコンバッテリーです。同バッテリーは、負極にシリコンを利用します。さまざまな負極材料の特性を比較した以下の表によれば、シリコン(Si)のエネルギー容量理論値は4,200mAh/gで、グラファイト(C)の約11倍となります。

(Source: https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/batteries-supercapacitors-and-fuel-cells/recent-developments-in-silicon-anode-materials)


負極にグラファイトを用いたリチウムイオンバッテリーに対して、負極にシリコンを用いたリチウムシリコンバッテリーは、同じ重量で11倍のエネルギー容量を持つことになります。これは、1つのシリコン原子で4つのリチウムイオンを保存しておけることが関わっています



リチウムシリコンバッテリーの課題とアプローチ


そんなリチウムシリコンバッテリーですが、実用化の課題として「シリコンの膨張」に起因する問題が挙げられています。リチウムイオンが負極に移動すると、負極の体積が最大で約4倍まで膨張し、電極が破損してしまうことがあります。また、膨張によって、電解液(正極と負極の間を流れる、リチウムイオンが移動する液)と負極の間にある保護膜が破損し、シリコンが電解液に露出して被膜を形成してしまいますが、この皮膜はバッテリーの性能・安全性を低下させると言われています


そこで、研究開発が進んできたのが、シリコンナノ粒子を炭素系材料に埋め込んで利用するというアプローチです。例えば、2020年4月WIREDで紹介されたNanoGraf Technologiesが、このアプローチを採用し、グラフェンに酸化シリコンを埋め込んでいます。また、Teslaも酸化シリコンをグラファイトに振りかけて使用しているそうです。



Group14について


今回ピックアップしたGroup14も、グラファイトにシリコンを組み合わせた「シリコンカーボン粉末」を開発するスタートアップの1つです。


Group14は、バッテリーメーカーであるEnerG2の創業者であるEric Luebbe氏と、同じくEnerG2で研究開発担当副社長を担っていたHenry Constantino氏が2015年に共同創業したスタートアップです。


2018年にシリーズAラウンドで、リチウムイオンバッテリーおよびグラファイト関連事業会社を中心とする投資家陣から1,800万ドル(≒23億円)調達しました。この時の公開情報には、同社が「ナノ構造の多孔質炭素とシリコンを組み合わせたスポンジ状の複合体」を開発しており、これは「既存のリチウムイオンバッテリーの製造プロセスにそのままドロップインできる」と書かれています。シリーズAラウンドの資金を用いて、商業生産をスタートさせました。


2020年に1,700万ドル(≒22億円)のシリーズBラウンドを発表した時のプレスリリースによると、この時点でGroup14は、従来のリチウムイオンバッテリーに比べてエネルギー密度が最大50%高いリチウムシリコンバッテリー用負極材「SCC55」の開発に成功しており、2021年内に家電製品事業者に向けて商用販売を開始する予定と書かれています。また、シリーズBラウンドの資金を用いて、ワシントン州に最初のBAM工場を建設しました。


そして、2022年5月に迎えたのが、冒頭でご紹介した4億ドル(≒520億円)のシリーズCラウンドです。シリーズCラウンドを報じた記事によると、同ラウンドはPorscheがリードしており、これを機にGroup14の負極材料をPorscheに供給していく協業体制が開始する、と紹介されています。そのために、Group14は、アメリカに2ヶ所目となるBAM工場を建設し、Porsche用のOEMラインを立ち上げるそうです。PorscheはTaycanというフル電動スポーツカーの販売が好調で、子会社のバッテリーメーカーであるCellforce Groupが2024年までにドイツでリチウムシリコンバッテリーの生産を開始するという計画を立てています。


Group14は、グラファイトメーカー(昭和電工)、家電向けリチウムイオンバッテリーメーカー(Amperex Technologies Limited)とも資本関係を構築していることに加え、今回の資金調達によって自動車向けメーカーとの関係が強固なものとなりました。



リチウムシリコンバッテリー領域のスタートアップ


Group14が順調な進捗を見せているとはいえ、もちろん他のスタートアップも存在します。この章では、同じくリチウムシリコンバッテリー分野で勢いのあるスタートアップをご紹介します。


Sila Nanotechnologies

2011年にアメリカで創業されたスタートアップです。Teslaのバッテリー設計をリードしたGene Berdichevsku氏を含む4名が共同創業者です。


ちなみに、共同創業者の1人であるMike Speiser氏は、Snowflakeの創業投資家として有名です。Speiser氏は、Sila Nanotechnologies社にも共同創業者として名を連ね、同氏がManaging Partnerを務めるSutter Hill VenturesはシリーズAラウンドにMatrix Partnersとともに参画しています。


Sila Nanotechnologies社は創業からこれまでに8億8,000万ドル(≒1,110億円)を調達しており、この技術分野において最大規模の資金を集めています。また、Group14には自動車メーカーからPorscheが株主として参画していましたが、Sila NanotechnologiesにはDaimlerがシリーズEラウンドで参画しています。また、BMWとも業務提携を結んでいます。


こちらの記事によれば、多くのリチウムシリコンバッテリースタートアップは、負極材にグラファイトとナノシリコン粒子の組み合わせを用いており、シリコンの使用比率が限定的であるといいます。一方、Sila Nanotechnologiesはグラファイトをシリコンに完全に置き換えるアプローチを採用しており、この点において競合に先行しているようです。


NanoGraf Technologies

2012年にアメリカで創業されたスタートアップです。ノースウェスタン大学の研究成果を事業化する形で立ち上げられました。


前半でもご紹介しましたが、同社はグラファイトではなく、グラフェンにシリコン粒子を埋め込んだ負極材を開発しています。こちらの記事によると、グラフェンを用いることでシリコンの膨張に余裕が生まれ、保護膜が破損しづらくなるようです。


同社は創業からこれまでに2,500万ドル(≒33億円)を調達していますが、このうちの半分程度が助成金である点がユニークです。2019年7月にはUSABC(United States Advanced Battery Consortium)から750万ドル(≒10億円)、2020年7月にはアメリカ国防省から170万ドル(≒2億円)の助成金を受けています。USABCには、Ford Motor、General Motors、Fiat等が加盟しており、自動車会社からの期待を集めているようです。


Advano

2014年にアメリカで創業されたスタートアップです。


同社は、グラフェンにシリコン粒子を組み合わせた負極材を開発しています。同社の特徴は、半導体チップやソーラーパネルの製造工程で発生するシリコン廃棄物をアップサイクルしてシリコンを調達している点にあります。


同社は創業からこれまでに2,400万ドル(≒31億円)を調達しています。日本からは三井金属鉱業がCVCを通じて投資しています。Advanoは三井金属と提携して必要材料の調達安定性を高めていくと思われます。




このほかにも、リチウムシリコンバッテリーの負極材を開発している企業はあると思いますが、今回は3社のご紹介にとどめたいと思います。


調べていく中で、各社は「既存のリチウムイオンバッテリー製造プロセスを変える必要がなく、そのままアドオンできる」と強調しており、この点はバッテリーの普及スピードにおいて重要な点であると思われます。


また、各社はバッテリーメーカーだけでなく、自動車メーカー、あるいは金属材料メーカーと資本関係を結び、サプライチェーンを固めている点が印象的です。バッテリー分野に限らず、要素技術を開発するスタートアップは、しっかりとサプライチェーンを構築していくことが重要となります。


今回はこれで以上となります。

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