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  • Shingo Sakamoto

2022年2月にシリーズEラウンドを実施したFlexport:快進撃の裏側を探る

Updated: Apr 20

アメリカのデジタルフォワーダースタートアップ Flexportが2022年2月にシリーズEラウンドで9億3,500万ドル(≒1,000億円)調達しました。同社は直前のシリーズDラウンドまでに、約13億ドル(≒1400億円)調達しており、累計で2,500億円近い資金の調達に成功していることになります。


今回は、公開情報の範囲ではありますが、Flexportがなぜここまで投資家を引きつけているのか、調べてみたいと思います。


まず、改めてFlexportがどのようなビジネスを展開しているのかご紹介し、どのような事業進捗をみせてきたのか、どのような株主が参画しているのか、そして顧客の感じている価値はどこにあるのか、という視点で調査していきます。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%e5%ae%b9%e5%99%a8-%e8%88%b9-%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%86%e3%83%8a%e8%b2%a8%e7%89%a9%e8%88%b9-%e6%96%99%e9%87%91-537724/


Flexportとは

Flexportは、2013年にアメリカで創業されたデジタルフォワーダースタートアップです。


フォワーダーとは、基本的に自ら輸送手段を持たず、船舶・航空機・鉄道等の輸送業者と荷主をつなぐ役割を担っています。主な業務としては、輸送手段の手配、輸送関係書類の作成、通関、港湾・空港における貨物の保管・梱包・配送等が挙げられます。


デジタルフォワーダーとは、こうしたフォワーディング業務をデジタル技術で効率的に遂行する事業者です。Flexportはアメリカ発のスタートアップですが、Flexportと同じくSoftbank Vision Fundから出資を受けたFortoというスタートアップはドイツ発です。また、東南アジア・南米・アフリカといった各地域に、デジタルフォワーダースタートアップが誕生しています。


こういったデジタルフォワーダーのインタビュー記事を読むと、既存フォワーダーの業務効率があまり高くないことに問題意識を持って創業に至っているケースが多いです。具体的には、フォワーダーは荷主からの見積依頼を電話やFAXで受け、それをまた輸送業者に電話やFAXで見積依頼し、数値管理・契約書はワードやエクセルに散らばっている、といったオペレーションになっているようです。


Flexportは、荷主からの見積依頼、輸送業者の手配、書類の作成・提出、通関業務等を全てクラウドシステム上で完結させることにより、荷主・輸送業者を巻き込んだ標準的なフォワーディング業務を構築しています。


もちろん、デジタル上で業務が完結するのは、フォワーダーにとっては好ましいことですが、荷主にとっても価値を感じられることなのでしょうか。


この点について、FlexportのCEOであるPetersen氏は、多くのインタビューで繰り返し、輸送状況がデジタル上で可視化されることが荷主にとっての価値である、と話しています。Petersen氏が考える、荷主にとって「輸送状況の可視化」が持つ価値は、大きく分けて2つあります。


まず1つ目は、発送した荷物が今どこにあるのか、いつ受取人の元に届くのかリアルタイムで知りたい、という荷主の要望に答えられることです。こちらの記事では、「Amazonではリアルタイムな配送状況がわかるのに、Amazonのエコシステムを出ると急にわからなくなってしまう」と書かれています。


2つ目は、輸送状況が可視化されることによって、フォワーダーのサービス品質が良くも悪くも明らかになるということです。こちらの記事では、Petersen氏が「顧客の貨物が最適とは言いがたいルートで輸送されているのに、そのことが価格やスケジュールにどれほど影響をしているか顧客に知られたくないと、大手貨物フォワーダーが考えていることに腹を立てていた」と紹介されています。


Flexportは、これまでフォワーダーが抱え込んで荷主が得られなかった情報を、デジタル上でオープンにしながら輸送業務を行うようにした点が、荷主に新たな価値として評価されたのではないかと考えられます。



Flexportの事業進捗


この章では、創業当初から2022年2月のシリーズEラウンドまで、Flexportがどのような事業進捗を辿ってきたのか、調べてみます。基本的に、資金調達を実施したタイミングで売上規模・拠点数・従業員数が明らかにされるケースが多いため、資金調達フェーズごとに分けて記載します。


〜2014年4月ラウンド
  • リードインベスターをFounders Fundとする690万ドル(≒8億円)の資金調達ラウンドを実施。

  • 2013年の売上高は3,000ドル(≒30万円)

  • このタイミングの取扱貨物量に関する情報は、調べた限り見当たりませんでした。


〜2015年8月ラウンド

〜2016年9月ラウンド

〜2017年9月ラウンド

〜2018年4月ラウンド
  • リードインベスターをS.F.Express(中国の大手輸送業者)とする1億ドル(≒110億円)の資金調達ラウンドを実施。

  • 2018年から香港〜ロサンゼルスを週に2回飛行するプライベート航空貨物サービスを開始しました。

  • このタイミングの売上や取扱貨物量に関する情報は、調べた限り見当たりませんでした。


〜2019年2月
  • リードインベスターをSoftbank Vision Fundとする10億ドル(≒1,100億円)の資金調達ラウンドを実施。

  • このタイミングまでに、グローバル拠点には新たに4ヶ所(ハンブルク、シカゴ、台湾、上海)が追加され、本社を除いて10ヶ所体制に。従業員数が1,000名超2018年の顧客は約110ヶ国で10,000社

  • 2018年の取扱貨物量は10万8,000TEU

  • 2018年の売上は4億4,100万ドル(≒490億円)


〜2022年2月

公開されていない年も多く、虫食い状態になってしまっていますが、上記の情報を改めて整理してみたのが、以下の表です。

(Source: 公開されているプレスリリース等を参考に作成)


製品流通額に対する売上の比率を計算(売上÷製品流通額)してみると、2016年7.5%、2017年5.9%でしたが、2021年は16.8%となります。これは製品単価あたりに占める海運コストが近年急騰していることが関係しているかもしれません。あるいは、FlexportはCO₂排出量の可視化等、新しい機能を増やしていますので、課金単価が上がっている可能性もあります。


売上高の成長スピードは、2016年→2017年に3倍、2017年→2018年に2倍、2020年→2021年に2倍、となっています。仮に2019年の売上が8億ドル規模だったと想定すると、2018年→2019年に2倍、2019年→2020年に2倍となり、4年連続で2倍成長を続けていることになります


Flexportの株主構成

次に、Crunchbaseを参考に、Flexportの株主構成を調べてみました。Flexportは10回の資金調達ラウンドで、累計22億4,000万ドル(≒2,460億円)調達していますが、現時点で株主数は78です。そのうち約30が個人投資家、約45がVC。事業会社として参画しているのは3社で、shopify(カナダのECプラットフォーム)、OpenGov(アメリカの公的機関向けクラウドソフトウェアベンダー)、そしてS.F.Express(航空貨物を中心に取り扱う中国の輸送業者)です。


参考までに、Fortoの株主構成も調査してみました。Fortoは6回の資金調達ラウンドで、累計5億7,600万ドル(≒6,340億円)調達していますが、現時点で株主数は17です。個人投資家はゼロ、15がVC、事業会社が2社(ただし、A.P.Moller HoldingsとMaersk Growthは、実質同じ会社)です。


Flexportは個人投資家が多いのが特徴的です。他のアメリカ発スタートアップに比べても多い印象です。また、FortoはMaerskという世界2位の規模を誇る海運会社が株主に入っている一方、Flexportの株主に入っているS.F.Expressの国際物流は空運がメインで海運は行っていません。


Flexportの株主で興味深いのは、ShopifyとOpenGovです。Shopifyはカナダ発のECプラットフォームで、ユーザーはすぐにネットショップを開設することができます。Shopifyユーザーは、Flexportのプラットフォームと相性が良いと思われます。また、OpenGovは公的機関向けに財務状況を可視化するソフトウェアプラットフォームを提供しており、市民がアクセスすることができます。フォワーダーを公的機関と捉えると、FlexportとOpenGovはプラットフォームの思想が似ているような気がします。


Flexportの荷主顧客例


Flexportの荷主顧客にはどのような特徴があるのでしょうか。ホームページで公開されている顧客を一部調べてみました。アルファベット順に並べています。


BOMBAS

アメリカのアパレルメーカー。2013年創業。生産は中国

Caraway

アメリカの調理機材メーカー。2018年創業。生産は中国とインド

Fairphone

アメリカの電子機器メーカー。2013年創業。生産地は中国(江蘇省)

Georgia Pacific

アメリカの紙製品メーカー。1927年創業。生産地はアメリカ沿岸各州。世界75ヶ国1,000ヶ所の配送先に輸出。こちらのユースケースを読むと、Flexportは相当数のカスタマーサクセスを張り、データを用いたオペレーション改善支援を行っている様子。

Interior Define

アメリカの受注生産家具(主にソファ)メーカー。2014年創業。生産は中国、受注はオンライン、配送は世界各地

JLab Audio

アメリカのオーディオ機器メーカー。2015年創業。生産地は中国

Klean Kanteen

アメリカの飲料ボトルメーカー。2004年創業。生産地は中国

Molekule

アメリカの空気清浄機メーカー。2014年創業。生産地はアメリカとマレーシア

Outdoor Voices

アメリカのアパレルメーカー。2013年創業。生産はアメリカ、中国、カンボジア、イタリア、ポルトガル。オンラインと店舗で販売。

Rothy’s

アメリカのアパレルメーカー。2012年創業。生産地は中国

SONOS

アメリカのオーディオ機器メーカー。2002年創業。生産は中国(一部の製造拠点はマレーシアに移転



もちろん他にも多数の顧客がFlexportのプラットフォームを利用している前提ですが、公開範囲の荷主顧客を並べてみることで、興味深い発見が2つありました。1つは、比較的創業してから年数の浅い荷主が多いということです。Flexportの創業は2013年ですが、その前後あたりで創業された会社が多い印象を受けました。


もう1つは、生産地が中国(一部東南アジア)で、発送先がアメリカであるパターンが多いということです。ECの場合、もちろん世界中の消費者がターゲットになりますが、先ほどの荷主顧客リストの中にはアメリカで店舗販売を行う荷主も多く、中国・東南アジアで生産したモノをアメリカに運ぶ、という流れが多い可能性があります。そう考えると、輸送業者として一社だけS.F.Expressが株主リストに入っているのも理解できます。中国内陸からアメリカに輸送するために、航空定期便を利用しているのではないでしょうか。


ここで、アメリカの輸入額に占める国・地域別シェアの推移を見てみると、米中貿易摩擦が激化する2019年ごろまで、一貫して中国のシェアが増加しています。2010年頃にEUを抜き、アメリカにとって最大の輸入国になりました。

(Source: https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh19-01/s1_19_1_2.html)



アメリカの中国からの輸入額は、2019年〜2020年は一時的に落ち込みましたが、2020年下半期から再び回復し、2021年下半期は過去最高を記録しました。

(Source: https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/8f530d7e9147b49a.html)


Flexportが取扱量を順調に増やすことができたのは、このトレンドにしっかり乗れたからかもしれません。


ちなみに、ドイツに拠点を構えるデジタルフォワーダースタートアップ Fortoにも、似たような傾向が見られます。2021年6月にFortoが2億4,000万ドル(≒260億円)の調達を発表した時のプレスリリースには、中国とヨーロッパ間の貿易出荷を拡大するために資金調達を実施したと書かれていました


以下のグラフを見ると、ヨーロッパ各国の中国からの輸入金額は、2013年ごろから増加し続けています。Fortoも、Flexportと同じく、中国航路を強化することにフォーカスしています。

(Source: https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0502/93e0678529633d3b.html)



Flexportの顧客価値


ここまで、Flexportのこれまでの事業進捗、株主構成、そして顧客リストの一部を見てきました。これらをつなぎあわせると、いくつか仮説が見えてきます。

  • Flexportの顧客ターゲットは、中小規模の新興メーカーが多い。(裏を返すと、既存フォワーダーと長く付き合っている荷主はあまり利用していない可能性がある。)

  • そういった新興メーカーの中でも、特に中国を生産拠点、アメリカを販売拠点とする企業が顧客の中心になっている。

  • 世界でも有数の輸送貨物量を誇り、さらに輸送貨物量が増加し続けている中国〜アメリカ航路の取扱量を優先的に増やすことで、売上成長率を維持・拡大した。(言語・文化・規制の異なる地域に進出すると適応コストがかかることからも、中国〜アメリカ航路で量を稼ぐことに集中した。)

  • デジタルフォワーダーは、収益をスピーディに増やすために航路を集中させる必要があり、だからこそ世界に「〇〇地域版のFlexport」のようなスタートアップが続々と登場した。

  • 今後、ECプラットフォーマーとデジタルフォワーダーの連携は各地で進む可能性がある。


これらはあくまで仮説でしかありませんが、今後の国際物流の動きを見る視点の1つとしてご参考いただければ幸いです。Flexportはこれからどのような戦略で更なる拡大を図るのか、引き続き今後も動向を注視していきたいと思います。


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