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  • Shingo Sakamoto

廃棄物から水素を取り出す技術を持つRavenは、何が評価されたのか?

2021年8月、Raven SR(以下、Raven。ラヴェンと読むようです。)というアメリカのスタートアップが、日本の大手商社である伊藤忠商事を含む複数投資家から、2,000万ドル(≒22億円)の資金調達を行いました


伊藤忠と主に出資を行ったのは、石油メジャーのChevron、2021年2月にNASDAQにSPAC上場した水素自動車メーカーHyzon Motors、そしてHyzon Motorsにも出資していた水素エネルギー特化ファンドAscent Hydrogen Fundの3社です。


伊藤忠が出資したことで、日本語ニュースもいくつかネットにあがりましたが、どういった技術か?類似技術を持つ企業はあるのか?どんな点がユニークなのか?について、もう一歩踏み込んでいるソースが少なかったので、調査してみたいと思いました。


とはいえ私もこの領域の専門家ではありませんので、廃棄物×エネルギー(燃料、電力、水素など)に関心を持たれている方向けのイントロダクション的な記事になればいいなと思います。


(なお、今回の記事執筆にあたって、専門用語や業界課題などわからない部分がいくつかあり、技術や過去事例などを、エンジニアリング業界の方々に解説いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。)



また、本題に入る前に少し留意点があります。このテーマに限らず当てはまるかもしれませんが、「できる」と書かれた記事と、「できることを目指している」と書かれた記事が混在している点には注意が必要です。例えば、今回の出資にあたってRavenの技術に言及する際、伊藤忠がコーポレートサイトから出しているプレスリリースでは、語尾が「...目指しています。...期待しております。」と断定表現がされていない一方で、Ravenのコーポレートサイトから出されたプレスリリースでは断定的に書かれており、外から見る限りだと、どちらのニュアンスが実情に近いのかわからないところです。このように、技術の可能性が実証済みなのかそうでないのか、あるいは実証済みの場合でも、何をゴールとする実験でどこまで達成されたのかが、外部からだとわからない場合がありますので、読み進めるうえでもご留意いただければと思います。


(Source: https://pixabay.com/photos/scrap-dirty-trash-dump-dumping-166495/)



なぜ注目されているか?

Ravenの創業は2018年で、本社をワイオミング州に置いています。Ravenは、燃焼を伴わず、都市廃棄物から水素と一酸化炭素の合成ガスを製造し、そこから水素を取り出す技術を開発したようです。


Ravenの技術は、昨今注目されているいくつかの領域で活躍する可能性を秘めています。そのうちの1つがSAF製造ですSAFは、Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)の略称で、従来のジェット燃料よりクリーンな航空燃料になります。もう1つが水素製造です。トヨタ経産省の動きにも見られるように、日本社会においても、いかに安定的かつ安く水素を使えるようにできるか?が大きな課題だと言われています。


Ravenの、燃焼を伴わずに多様な廃棄物から合成ガスを製造することができる技術は、SAF及び水素のクリーンな製造に貢献し得るとして、投資家から評価されたようです。


燃焼を伴わない技術とは?

「Ravenの技術は、燃焼を伴わない、世界で唯一の廃棄物から水素を製造する技術となります。」Ravenのプレスリリースには、そのように書かれています。


廃棄物を燃焼させずに水素を取り出すことができれば、グリーン水素の増加につながります。グリーン水素とは、二酸化炭素を排出させることなく製造された水素を指します。ちなみに、グリーン水素に対比されるブルー水素・グレー水素はどちらも、天然ガスや石炭などの化石燃料に熱を加え二酸化炭素と分解されることで得られる水素です。ブルー水素はその二酸化炭素を回収し大気に放出しない一方、グレー水素はそのまま放出します。現時点では、世界で製造されている水素のうち95%はグレー水素と言われています。


Ravenは「世界で唯一」と書いていますが、調べてみると燃焼を伴わずに廃棄物から水素を製造する技術は他にも模索されているようです。


例えば、こちらのサイトではWays2Hというスタートアップが紹介されていますが、Ways2Hは2019年に日本のジャパンブルーエナジーという企業と連携し、都市固形廃棄物・医療廃棄物・下水汚泥など、さまざまな廃棄物から水素を抽出する処理施設を建設しようとしています。そのジャパンブルーエナジーも廃棄物を燃焼させずに水素を製造しようとしているようです。ジャパンブルーエナジーの技術紹介ページを参考にすると、加熱されたアルミナボールを廃棄物に接触させて合成ガスを生み、さらに高熱のアルミナボールによって合成ガスから水素を取り出すというアプローチを採用しています。ポイントはアルミナボールを使用することで、設備トラブルの原因となるタール発生を抑制できることにあるようです。(一方、2015年のニュース記事では、そのタール抑制がうまくいかず、プロジェクトが失敗に終わってしまったという報告もあります。)



燃焼を伴わずに廃棄物から水素を製造するという点において他にも技術がある中で、Ravenの技術はどこがユニークなのでしょうか?


実はRavenは技術のコア部分をオープンにしておらず情報があまり多くないのですが、ホームページをよく見てみると、Ravenの技術はTerry Garrowayという博士の考案する合成ガス製造法をベースにしています。Garroway博士が考案した廃棄物処理システムが載っている資料を参考にすると、以下のようになっています。太陽光発電で駆動する電動キルンで、水蒸気と廃棄物を合成ガス化し、その一部を用いて燃料電池が電気を生み、キルンに回します。そして、残りの合成ガスは水素に変換されます。

(Source: https://nha.confex.com/nha/2010/webprogram/Presentation/Paper4551/Noling_1.pptよりp.13を抜粋)


この資料に掲載されている特許番号を調べてみると、概要部分には以下のように書いてあります

本発明のプロセスおよびシステムは、石炭、炭化水素油、天然ガス、石油コークス、オイルシェール、炭素質含有廃油、炭素質含有医療廃棄物、炭素質含有有害廃棄物、炭素質含有医療廃棄物、およびそれらの混合物などの炭素質原料を、不要な温室効果ガスを発生させることなく電気エネルギーに変換するものである。このプロセスとシステムは、ガス化炉、例えば、キルンの組み合わせを使用し、少なくとも700℃〜約1600℃の出口範囲で動作する。高価な触媒や高圧操作を必要とせずに、炭素質原料と温室効果ガスを、一酸化炭素と水素を主成分とする合成ガスに変換する。

少し難しい言葉が並んでしまっていますが、要するに「キルンと燃料電池を組み合わせれば、高価触媒や高圧設備がなくても、不要な二酸化炭素を出さずに廃棄物から水素を取り出せる」技術であると考えられます。


Ravenの評価は、廃棄物の地産地消?

こう捉えると、Ravenが評価されている理由は、必ずしも「燃焼を伴わずに水素を取り出すことができる」という点だけにあるわけではなさそうです。もう1つ感じたポテンシャルが「廃棄物の地産地消」です。プレスリリースには、以下のような記載があります。

Ravenのユニットはモジュール式で拡張性があり、水素の必要量が多いサイトにも容易に拡張することができます。埋立地だけでなく、廃水処理場や農業用地にも生産ユニットを設置することができます。... モジュール式のシステムを採用し、低排出ガスを実現することで、システムを顧客や原料の近くに設置することができ、地元の廃棄物から地元の燃料を作り、地元の移動手段とすることができます

廃棄物から水素を製造できる(それほど高価でないコンパクトな)設備を、廃棄物の量・地域に応じて適切に配置することで、廃棄物・水素・SAFにかかる運搬コストを抑えることができ、結果として最終使用コストの低減につながる、という未来図を読み取ることができます。


実際にそういった機動性を活かし、RavenとHyzon Motorsは、米国内および全世界最大250の廃棄物由来の水素製造拠点立上げに合意したと報じられています


国によって異なる廃棄物処理事情

ちなみに、このように地域で排出された廃棄物を活かしてエネルギーを生み出そう、という動きは国によってバラバラです。


例えば、日本の場合、一般廃棄物に限って言えば、2018年の廃棄物量4,272万トンに対し、廃棄物焼却施設1,082箇所の年間処理可能量は6,509万トン(17万8,336トン/日)であり、埋立する必要はほぼありません(直接埋立率は1.1%)。また、焼却施設のうち35%にあたる379箇所は発電設備を有しており、約321万世帯分の年間電力使用量に相当する9,553GWhの電力量を発電しています


一方で、アメリカは全く違う状況です。かなりデータが古いですが、2000年の一般廃棄物量2億3,200万トンのうち1億2,800万トン(約55%)が直接埋立されていますもう少し新しい2013年のデータでも同様の数値が出ており、焼却・エネルギー回収はわずか12%にとどまっています。ちなみに、OECD諸国の中で、アメリカよりも埋立比率が高いのは、地域ごとに分類すると、中欧(ポーランド・ハンガリー・チェコ・スロバキア・トルコ)、南欧〜中東(ギリシャ・スペイン・ポルトガル・トルコ・イスラエル)、北中米(カナダ・メキシコ)、その他(エストニア・チリ・ニュージーランド)となります。

(Source: https://www.city.ichinoseki.iwate.jp/~kouiki-gyousei/gaiyo/file/r1-index21_3_ippanhaiki2_siryou03.pdf)



今回、Ravenの機動性が評価された理由として、アメリカのこうした廃棄物処理状況も背景にあると考えられます。また、近年のアメリカではグリーン水素への注目が高まっていることも関係しているはずです。2020年には水素研究の開発・実証計画であるHydrogen Program Planを発表し、数年にわたるアメリカの水素戦略を示しました。また、2021年6月には、バイデン政権がグリーン水素の生産コスト引下げ目標を掲げ、エネルギー長官は「グリーン水素は大変革をもたらす」と発言しています。




今回は、Ravenはどこが評価されたのか?という問いを立てて考察してみました。これから廃棄物や水素(あるいはSAF)に関するニュースを目にする機会も増えてくるかもしれませんので、そんな時に1つの参考になれば幸いです。


また、今回はあまり触れませんでしたが、廃棄物の中には有害な細菌・ウイルスが含まれる医療廃棄物も存在し、COVID-19の蔓延に伴って対策ガイドラインが発表されるなど、現在進行形で重要なトピックであります。そして、医療に限らず、人間や事業者の生産活動には多くの場合廃棄物が生じるため、持続可能なものづくり・ものはこびという観点でこれからますます、あるべき姿が問われることになっていくのではないでしょうか。


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