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  • Shingo Sakamoto

ユニコーンに仲間入りしたInteros:ニーズが高まるサプライチェーンリスクマネジメント

2021年7月、サプライチェーンリスクマネジメントサービス(単語が長いため、以下「SCRM」=Supply Chain Risk Managementと表現します)を提供するInteros(インテロスと読みます)という企業が、シリーズCラウンドで1億ドル(≒110億円)を調達しました。調達時のニュースによると、評価額は10億ドルを超え、ユニコーン企業の仲間入りを果たしています。


企業の規模が大きくなったり、グローバル進出したりするにつれ、原材料・部品供給や完成品流通など、サプライチェーンが複雑化していくことがあります。A国で採掘した原料を、B国で一次加工し、技術が集積するC国で二次加工し、組立は販売拠点に近いD国で行う。部品点数や関係企業が多くなればなるほど、このように複数国家に跨ったサプライチェーン構築が必要となる場合があります。


そんなサプライチェーンには、さまざまなリスクが潜んでいます。PwCが2014年に出しているレポートを参考にすると、グローバルな組織になるにつれ、企業は原材料価格・為替の変動、自然災害、テロなど、予測が難しいリスクに晒されやすくなります。レポートの中では、グローバル企業209社にアンケート調査を行った結果、対象企業の6割以上が「直近12ヶ月間でサプライチェーンの寸断によりパフォーマンス指標が3%以上低下した」と回答しており、レポートが出された2014年当時、サプライチェーンのリスクを把握・低減し、より最適な体制を構築することが求められていたことが窺えます。


日本でSCRMが注目を浴びる1つのきっかけになったのが、東日本大震災です。経産省のレポートには、震災直後から企業の自然災害に対するリスク管理の重要性を指摘する声が増えた、と書かれています。一方、サプライチェーンが抱えるリスクは自然災害に限りません。私たちが現在直面しているコロナウイルスのような感染症もその1つです。InterosのシリーズCラウンド資金調達ニュースにも、そういった背景が書かれています。パンデミックによってサプライチェーンの脆弱性が露呈したことによって、InterosのSCRMプラットフォームはこれまで以上に期待の目が向けられているそうです。


今回は、マクロ環境の変化に伴ってニーズが増えているSCRMについて、急成長するInterosを参考にしつつ、他にどのようなプレイヤーがいるのか、スタートアップが勝ち抜いていくポイントはどこにあるのかを、調査したいと思います。


(Source: https://pixabay.com/illustrations/chain-trade-transport-trade-routes-6181098/)




サプライチェーンに潜むリスクはさまざま


繰り返しになりますが、サプライチェーンに潜むリスクは、本当に多種多様です。自然災害・物理的テロ攻撃・パンデミックのようなフィジカル世界のリスクもあれば、サイバー攻撃のようなデジタル世界のリスクもあります。


例えば、こちらのレポートによると、2020年の4ヶ月間にフランス・イギリスの大手建設会社3社がサイバー攻撃の被害に遭っています。多重下請け構造が顕著な建設業界で一社のIT機能が停止すると、プロジェクト全体に影響が及びかねません。日本でも、メーカーから防衛関連情報が流出したニュースや、金融機関が口座情報を不正入手する攻撃に遭ったニュースなどは、記憶に新しいかと思います。こうした出来事の背景として、リモートワークの増加によってインターネットに繋がる端末が増えていることや、クラウドサービス利用増加によって、企業がサイバー攻撃に晒される機会が増えている、という指摘があります。


サイバー攻撃の他に、サプライヤーの不祥事や法規制なども、サプライチェーンリスクと言うことができます。その他にどのようなリスク項目があるか、という点については、Interosのプロダクト紹介の章でご説明します。理想的なSCRMプロダクトには、ある意味「雑多」とも言えるさまざまなリスクを、可能な限り早くかつ網羅的に検知し、打開策を提示し、再発を防ぐ構造的改善施策を打つための機能が求められます。



Interosについて

Interosとは

Interosは、アメリカ・バージニア州で2005年に創業された企業です。2021年現在、創業から16年経過していますが、資金調達を始めたのは2019年1月からです。


元々サプライチェーンリスク管理のコンサルティングを行っていたInterosは、2019年にプロダクトドリブンな企業になる意思決定を行い、以来急速にプロダクトを成長させています。


crunchbaseを参考にすると、シリーズAラウンドという位置付けで、Kleiner Perkinsから840万ドル(≒9億円)調達し、その14ヶ月後の2020年3月にシリーズBラウンドで2,000万ドル(≒22億円)、さらにその16ヶ月後の2021年7月に、冒頭の1億ドル調達につなげています。


こちらのビデオをご覧いただくと、プロダクトのイメージをつかみやすいかもしれません。

(Source: https://www.youtube.com/watch?v=HucNuDvFUbo)


なぜ2019年に資金調達?

「なぜ2019年に資金調達したのか?」という点が気になりました。もちろん、創業間もない企業ばかりがベンチャーキャピタルから資金調達するわけではありませんが、SCRMの重要性はここ数年で急に認識され始めたようなものではありませんし、一方で2019年はSCRMの重要性認知が進んだコロナウイルス流行よりも以前です。なぜ2019年なのでしょうか?調べてみると、アメリカの国家的なSCRMに対する危機意識が関係しているようです。


まず、FASCという組織をご紹介します。FASCは、Federal Acquisition Security Council(連邦政府調達安全保障会議)の略で、The Federal Acquisition Supply Chain Security Act of 2018(2018年連邦政府サプライチェーン安全保障法)に基づいて、2018年12月に発足された組織です。FASCは、アメリカ企業全体で標準化されたSCRMプラクティスを確立する包括的な取組みの監視権限を、連邦CIO(Chief Information Officer)室から与えられています。


アルファベットが並んでわかりにくくなってしまい恐縮ですが、簡単にいうと、「アメリカ合衆国全体で(特にICT関連の)SCRMを強化するプロジェクトを開始するため、そのプロジェクトを管理するFASCという組織を2018年末に作った!」ということです。その背景には米中緊張関係があり、2018年にアメリカがHUAWEIをはじめとする中国先端企業を締め出したことは記憶に新しいかと思います。このあたりは、詳細に踏み込んでしまうとそれだけで膨大な量になってしまうため、こちらのレポートなどをご参考ください。


FASCは次々とSCRMに関する法令を制定しました。例えばこんな決まりがあります。民間企業は、自社サプライチェーンにFASCからリスクと認められる要素があり、サプライヤーの除外・禁止を要求された場合、決められた期間内に措置を取らなければなりません。


そういった国家レベルでのSCRM強化もあり、各社はサプライチェーンの状況をできる限りタイムリーに把握し、リスクを特定し、トラブルが顕在化あるいは拡大する前に防ぎ、事業継続のためのリカバリー施策を打たねばなりません。一方で、それらを自社だけでイチからやろうとすると、膨大な時間と労力がかかってしまいます。そこで、今回ご紹介しているようなSCRMプラットフォーマーに注目が集まってきました。そこにコロナウイルスが流行し、より緊急度が上がってきている、というのが大きな流れだと思います。



プロダクトの仕組み

次は、どういったプロダクトなのかご紹介します。Interosのユーザーは、クラウドベースのプラットフォーム上にサプライヤーをマッピングし、現実世界のサプライチェーンをデジタル上に再現します。この時、1次サプライヤー(注文者から直接発注を受けるサプライヤー)だけでなく、2次・3次・4次...と、深いレイヤーまでマッピングします。


そして、自動モニタリング機能が、マッピングされたサプライチェーンに関連するリスクを検知するとアラート発信を行います。アラート発信するためには、いかに網羅的かつリアルタイムにリスクとなる情報をキャッチできるか、が重要になります。世界中のニュースを解析、また時には各所に配置された人間が現地の情報を収集し、プラットフォーム上の情報をアップデートしていくことで、成立しています。


(Source: https://www.interos.ai/)


リスクのカテゴリーはさまざまで、サプライヤーの財務状況(健全性、流動性、成長性)、サイバー状況(通信環境、サイバーテロ)、規制(防衛、商業)、地政学リスク、天災・疫病、ESG(人権、環境)などあらゆる観点からチェックします。


(Source: https://www.interos.ai/why-interos/)



Interosの技術の核は、まず世界最大級のビジネス関係グラフ(Business Relationship Graph)にあるようです。どの企業がどの企業とどのような関係で繋がっているか、という巨大なデータベースを有しており、ユーザーはそれを基にマッピングしていくことができます。


また、自然言語処理処理・機械学習も、必要不可欠な技術のようです。内部の細かい技術部分がどうなっているかまで分かりませんが、恐らく各企業にラベルが紐ついており、世界中のニュースを言語処理し、その企業に関連するリスクとしてカテゴライズする、という仕組みではないかと思います。


この2点が、SCRMプラットフォームのコア部分だと思います。次の章でご紹介するSCRM企業も、同じようなことを強みとしてHPに掲載しています。



SCRMを提供する競合


SCRMソフトウェアを提供する企業はInterosの他にもいくつかあります。crunchbaseを参考に、特にVCから資金調達調達している企業を調べてみました。


Resilinc

Resilincは、アメリカ・カリフォルニア州で2010年に創業された企業です。2014年にシリーズAラウンドで800万ドル(≒9億円)、2017年にシリーズBラウンドで1,700万ドル(≒19億円)を調達しています。


Interos同様、自然言語処理技術を用いて、さまざまな国・言語の何百万ものニュースフィードからサプライチェーン上の企業に関連するトピックを抽出します。特定するリスクの影響範囲は、工場・製品・部品まで細かく分かれており、「この地域のA工場で、アルミニウムが足りなくなるリスクがあるけれど、リチウムは問題ない。」などのレベルでわかります。


プロダクト価格だけでなく、ROI試算リクエストフォームがある点は興味深いです。ユーザー候補は、自社の置かれている状況を入力していくと、在庫10%減・輸送費5%減・原材料価格20%減など複数項目から、プロダクトの利用価格と得られるメリットのバランスを視覚的に表示してくれます。


クラウドだけでなく、オンプレミスのサーバーでも利用可能で、仮にPCがなくてもスマホのモバイルアプリで利用することができます。


1つユニークな点として、2020年にメディカルマーケットプレイスを立上げています。コロナウイルスの蔓延によって、マスクや手袋などの医療物資が不足する医療機関が増えたため、不足する物資の代わりに何か違う物資を送るThe Exchange というプロダクトをローンチしました。


riskmethods

riskmethodsは、2013年にドイツ・ミュンヘンで創業された企業です。創業後スピーディに30万ユーロ(≒4,000万円)のシードラウンドを実施。翌年には2回に分けてプレシリーズAラウンドを実施し、総額250万ユーロ(≒3億円)を調達。2016年にシリーズAラウンドで600万ドル(≒7億円)、2017年にシリーズBラウンドで1,350万ユーロ(≒17億円)を調達しています。


基本的なプロダクト機能は、Interosと似ています。機械学習・自然言語処理技術を用いて、世界中で発生するイベント(政治不安、法規制、天災、etc)を検知し、ユーザーが被る可能性のある収益損失や風評被害を回避させます。顧客にはBOSCH、Siemensなど、世界中に拠点を有するグローバル企業が並びます。


riskmethodsは、1年間で最もサプライチェーンリスクを軽減させる効果的な取組みを行った顧客を表彰しているのですが、その表彰理由から、(riskmethodsに限らない)SCRMマーケットの重要ポイントが垣間見えました。2021年度に表彰された6社のうち、3社(Stanley Black & Decker社、Corning Incorporated社、Beiersdorf社)はいずれも「プロダクトを用いたリスク管理オペレーション・重要性認識を、いかに組織に根付かせることができたか」という点で評価されています。グローバルな大規模企業は、組織が細分化されているケースが多いですが、各部門の1人1人がSCRMの重要性を理解し、プロダクトを使った取組みに賛同しなければ、オペレーションはすぐに形骸化してしまいます。それを防ぐためには、プロダクトの機能が充実しているだけでなく、説明機会をきちんとつくること、運用規則をつくり実行していくこと、そして運用がうまくいっているのか評価することが重要です。SCRMプラットフォーマーは、riskmethodsが行うように、ユーザーが自社の運用のあり方を他社と比較し、見直す機会を提供することも重要かもしれません。


Prewave

Prewaveは、2017年にオーストリア・ウィーンで創業されたスタートアップです。金額は明かされていませんが、2018年5月にプレシードラウンド、2020年6月にシードラウンドを実施。シードラウンドのプレスリリースには、7桁(数百万ユーロ)の金額を調達とありますので、数億円規模と思われます。顧客には、Audi、Porsche、VolksWagen、Kärcherなど、ヨーロッパ発のグローバルメーカーが並びます。


Prewaveは、リスク検知後のサービスを作り込んでいる印象を受けます。まず、サプライヤーに影響が出そうなリスクを特定するとアラートが出されますが、そのサプライヤーにプラットフォーム上で連絡することができます。さらに、担当者にタスクを割当てることができます。確かに、電話・メール・FAXなどツールを分散させることなく、全てをプラットフォーム上で解決することができれば便利ですし、タスク割当てまでできれば解決スピードが上がるかもしれません。


事例としては、インドネシアで国家港湾のストライキを18日前に予測し的中させたことや、エチオピアの金採掘現場における、採掘業社・地域コミュニティ間の衝突を検知したことなどを挙げています



上記3社は未上場企業ですが、SCRMプロダクトを展開する企業の中には、すでに上場した企業もあります。その1つがCoupa Softwareです。

Coupa Software

2006年にアメリカ・サンフランシスコで創業された企業です。創業翌年の2007年から2015年までの間にシリーズGラウンドまで行い、総額1億7,000万ドル(≒190億円)の資金調達を行い、2016年にNASDAQ上場を果たしました


Coupa Softwareは、オールインワンのビジネス支出管理プラットフォームで、支出管理、契約管理、財務・資金管理、在庫管理などのソフトウェアプロダクトを次々とリリースしています。その差別化要因・強みなどを、日本語で解説されている記事がありましたので、よろしければご参考ください。


SCRMはその中の1プロダクトですが、Coupa SoftwareのSCRMを使えば、リスク管理だけでなく、サプライヤーとの契約管理・支払い管理もシームレスに行うことができます。





Coupa Software以外にも、関連領域からSCRMに参入してくるプレイヤーがいます。その一例がフォワーダーです。荷主から輸送管理を請負うフォワーダーは、リアルタイムでサプライチェーンの状況を注視しており、そこに潜むリスクを素早くキャッチする豊富なネットワークを持っている場合があります。例えば、アメリカ・イリノイ州のCoyote Logisticsは元々フォワーダー事業者ですが、AIを活用して、リアルタイムで発生している出来事がサプライチェーンに与える問題や遅延を解析するサービスを始めています。



ここまで見てきて、この事業のポイントとなるのは、①いかに独自の情報ネットワークを充実させることができるか②サービスの作りこみができるか、ではないかと思います。まず①の点において、誰もがアクセスできるニュース解析では差がつきづらいため、現地派遣した人間からの情報や、ニュースにならないような小さな予兆を検知する仕組みが重要になります(例えばSNS解析、監視カメラ解析など)。もちろん①の豊富さが競争力の源泉ではあるものの、②のサービス設計が不十分だと、形骸化してしまう可能性があります。例えば、リスク検知後のサプライヤー確認までスムーズにすることで、担当者が「結局、電話するのが一番早いんだよね...」となってしまわないようにするなど。組織にプロダクト活用を定着させるうえで、ストレスを低減させることが鍵になりそうです。



今回はこれで以上になります。こういった領域に関心がある方、事業を行っていらっしゃる方が、ぜひご連絡ください!



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