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  • Shingo Sakamoto

カーボンナノチューブビジネスの成長可能性とスタートアップ

カーボンナノチューブに興味を持つ機会があり、調べてみることにしました。カーボンナノチューブは、さまざまな優れた性質を持ち、大手企業やスタートアップが社会実装を進めようと、切磋琢磨しています。


今回は、公開されている企業情報や論文などを参考に、カーボンナノチューブビジネスの現状や成長可能性について考察したいと思います。ただし、技術に関する詳細部分は専門的なサイトや論文に任せ、この記事は「どこにカーボンナノチューブビジネスのポイントがあり、どのような企業が、どのようなアプローチで関わっているのか」というテーマをメインに扱っていきます。

(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/%e3%82%ab%e3%83%bc%e3%83%9c%e3%83%b3%e3%83%8a%e3%83%8e%e3%83%81%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%83%96-%e3%82%b0%e3%83%a9%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%b3-2946387/)



カーボンナノチューブとは


カーボンナノチューブは、炭素原子で構成されている、直径がナノメートル(10億分の1メートル)サイズの筒(チューブ)状の物質です。


炭素原子から構成されるナノメートルサイズの物質は、ナノカーボンと呼ばれています。カーボンナノチューブは筒状ですが、球状のフラーレン、シート状のグラフェン等もナノカーボンに分類されます。

(Source: https://www.dojindo.co.jp/letterj/146/review/02.html)



カーボンナノチューブのうち、1本の円筒からなるタイプを単層カーボンナノチューブ、直径の異なる2本以上の円筒からなるタイプが、多層カーボンナノチューブと呼ばれています。多層カーボンナノチューブのうち、層が2つの場合あえて二層カーボンナノチューブと呼ぶことがあります。この記事でも、後半でカーボンナノチューブ関連企業を紹介する際に、参考資料の関係上、単層・二層カーボンナノチューブを1つのグループとして扱っています。単層の場合は直径が0.5〜数ナノメートルで、多層の場合は5〜100ナノメートルに及ぶものもあります


カーボンナノチューブは、軽量かつ高強度であること、そして高い導電性熱伝導性耐熱性等に素材としての強みを持っています。カーボンナノチューブは、グラフェンを筒状に巻いた形をしていますが、巻き方によって発現する特性が変わってきます。この巻き方のことを「カイラリティ」と呼びます。カイラリティによって、カーボンナノチューブは金属性を示したり、半導体性を示したりします。

(Source: https://www.s-graphics.co.jp/nanoelectronics/kaitai/nanotube/properties.htm)



カーボンナノチューブの基本物性を他の物質と比較しているのが、以下の表になります。表では、CNT=カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)、SWNT=単層カーボンナノチューブ(Single Wall Nano Tube)、MWNT=多層カーボンナノチューブ(Multi Wall Nano Tube)という略称で記載されています。

(Source: https://www.dojindo.co.jp/letterj/146/review/02.html)


ヤング率は軸方向の弾性力を表しており、単層カーボンナノチューブは鋼鉄の4〜5倍程度あります。密度(g/cm3)については、表に書かれていない他の素材と比較するとわかりやすいので、いくつか挙げてみます。例えば、炭素繊維(炭素含有率が90%以上の繊維で、カーボンナノチューブに類似する特性を持つ。直径が単層カーボンナノチューブの約数千〜1万倍。)が1.8、ガラス繊維が2.5、アルミ合金が2.7、鉄が7.8となっており、単層カーボンナノチューブはこれらの素材に対して軽いと言えます。一方で、多層カーボンナノチューブは、炭素繊維と同等か少し重い、というレベルになります。



カーボンナノチューブの製造方法と歴史


この章では、カーボンナノチューブの製造方法を歴史とともに紹介します。

①アーク放電法

最初にカーボンナノチューブを発見したのは、飯島澄男氏であると言われています。飯島氏は2021年のノーベル物理学賞の有力候補者としてさまざまなニュースで取り上げられました


飯島氏がカーボンナノチューブを発見したのは1991年。その6年前である1985年に、別のグループによってフラーレンが発見されており、科学者らはフラーレンを得る手段としてアーク放電法を用いていました。


チャンバーの中に、互いに軽く接触した状態で炭素電極を2本用意します。チャンバー内の雰囲気ガスには、ヘリウム・アルゴン・窒素等の不活性ガスが用いられます。陽極に高電圧の電流を流すことで熱せられて蒸発した炭素が、煤としてチャンバー壁面に付着します。この煤の中にフラーレンが含まれています。


飯島氏が注目したのは、チャンバー壁面の煤ではなく、陰極に堆積した炭素の塊です。電極に近い中心部を顕微鏡で観察し、カーボンナノチューブを発見しました。この時発見されたのは多層カーボンナノチューブですが、2年後の1993年、鉄・コバルト・ニッケル等の触媒を含んだ炭素電極を用いることで、単層カーボンナノチューブが得られることがわかりました


アーク放電法は、現在でも有用なカーボンナノチューブ製造方法の1つですが、製造量が少なく、量産には不向きであると言われています。



②レーザーアブレーション法

フラーレンを発見したリチャード・スモーリー氏のグループが1995年に開発した製造方法です。約1,200度に加熱した電気炉の中に、金属触媒を混ぜた黒鉛を置き、レーザーを照射します。すると、黒鉛の炭素が蒸発し、炉の壁面に付着した単層カーボンナノチューブを得ることができます。


ただし、レーザーアブレーション法も、装置が複雑でコストは高く、量産には不向きであると言われています。


③CCVD法

CVDはChemical Vapor Depositionの略で、化学気相蒸着法と呼ばれています。このCVDの頭にCatalyst(触媒)をくっつけたのが、CCVD法と呼ばれている製法で、1998年に発見されました。金属触媒と炭化水素ガス(メタン、アセチレン等)を500〜1,000度で反応させることで、カーボンナノチューブが生成されることがわかりました。


CCVD法は、多層カーボンナノチューブであれば、アーク放電法・レーザーアブレーション法に比べて低コストで大量生産できる点が強みです。一方、通常のCCVD法では、単層カーボンナノチューブの製造には課題が残っていました。具体的には、製造効率を上げようとすると触媒金属が不純物として含まれてしまう、逆に純度を上げようとすると製造可能量が少なくなってしまう、という課題です。


この課題を解決したのが、2004年に産業技術総合研究所(産総研)の畠氏が開発に成功したスーパーグロースCCVD法という製法です。CCVD法の合成雰囲気に極微量の水分を添加することで、通常のCCVD法だと数秒間しか持続しない金属触媒の寿命が数十分まで伸び、触媒効率が従来製法の数百倍まで改善されたと言われています。これによって、単層カーボンナノチューブを量産レベルで製造できるようになりました。


また、同じ時期に、産総研の斎藤氏が開発に成功したのがe-DIPS法という製法です。DIPSはDirect Injection Pyrolytic Synthesis(直噴熱分解法)の改良版で、気相中で連続的に触媒から単層カーボンナノチューブを生成する方法で、こちらも量産に向いていると言われています。



カーボンナノチューブの現状


カーボンナノチューブは、単層に比べて多層の方が量産が容易で、コストを低く抑えることができます。一方で、多層カーボンナノチューブは層が入れ子構造になっていることで、単層に比べて劣っている点があると言われています。


例えば、カーボンナノチューブの特性の1つである「導電性」についてですが、多層カーボンナノチューブのうち電気伝導に寄与するのは外層のみで、内側の層は寄与しないといわれています。単位重量あたりの導電性能は、多層よりも単層の方が優れていることになります。また、層が増えるほど、含まれる欠陥の数が増えるリスクも上がり、チューブが切断されやすくなる、と言われています


一方で、熱伝導率、引っ張り強度については、多層と単層は同程度であり、用いる用途によって使い分ける必要がありそうです。


単層カーボンナノチューブの課題は、多層に比べてコストが高い点にあります。多層に比べると、単層は100倍程度高いと言われています。


2017年時点では、単層カーボンナノチューブが100万円/kg、多層カーボンナノチューブが1万円/kgレベル、と紹介されています2017年時点での目標としては、単層カーボンナノチューブは「2020年に3万円/kg、2030年に数千円/kg」を目指すと書かれていました


先ほどご紹介した「スーパーグロースCCVD法」を用いた量産プラントを、日本ゼオン株式会社が2015年12月に稼働させたことが、価格低減が進むきっかけになると言われていました。プラント稼働開始から約6年経過し、どれくらい価格低減が進んでいるのか、情報がなかなか見当たりません。


また、こちらのレポートには、以下のような記述があり、カーボンナノチューブのコストは、品質に関する評価をきちんと行ったうえで精査しなければいけないようです。

「(カーボンナノチューブは)最近では取り扱い業者も増え、入手自体は実はそう難しいことではなくなった。しかし、入手したものが良質かどうかは別問題である。カタログに高純度、高結晶性ナノチューブと謳っていても...これらを鵜呑みにしてはいけない...TEM観察、SEM観察、Ramanスペクトル測定、XRD測定、TG-DTA測定、これらは必ずすぐに行っておきたい。できれば何らかの手法で元素分析を行い残留触媒の定量を行っておくとその後の物性測定の解析に役立つ。これらの評価を行うと多くの場合カタログがどの程度あてにならないかを実感することになるだろう。」

(Source: http://kawasaki.web.nitech.ac.jp/jp/review/LIB-SWCNT2.pdf)


一方で、いずれにしても、これからどのような用途でカーボンナノチューブの需要が増えてくるのかによって、単層カーボンナノチューブの価格低減スピードは変わってくると思われます。次の章では、現時点でどのような用途での利用が想定されているのかをご紹介します。



カーボンナノチューブの用途


カーボンナノチューブは、下図のように、文字通りさまざまな用途に応用されることが期待されています。

(Source: https://newswitch.jp/p/19018)



使い方としては、カーボンナノチューブを配合することによって、さまざまな材料の導電性・機械的特性の改善を行う、というパターンが多いようです


例えば、エレクトロニクス分野では、カーボンナノチューブが持つナノメートルレベルの微細構造・導電性・耐熱性、という性質を活かした用途が考えられています。単層カーボンナノチューブは、カイラリティによって半導体性と金属性を示すことがありますが、半導体性を持つ単層カーボンナノチューブをインクとして印刷することで、印刷エレクトロニクスを製造することができます。インク化したカーボンナノチューブは、他の物質に薄膜塗装してヒーターとして利用されることもあります。例えば、床・壁暖房等の住宅設備、農業機械のシートヒーター、ビニールハウス等の農業分野での利用が想定されます。


また、半導体材料としてのカーボンナノチューブを使ったトランジスタ回路については、20年以上研究されていますが、こちらのサイトで時系列に沿って詳細に紹介されていますので、よろしければご参考ください。


自動車・航空機のようなモビリティの部材には、軽量・高強度という性質が求められるため、カーボンナノチューブを用いた複合材料開発が期待されています。例えば、旅客機のボーイング787には炭素繊維強化樹脂(CFRP)が約50%使われていますが、CFRPにカーボンナノチューブを添加することでさらなる軽量化・耐久性向上が実現できるのではないか、と言われています。ミズノ株式会社が2016年に発表したプレスリリースによれば、CFRP製のゴルフクラブにカーボンナノチューブを5wt%(wt%=重量パーセント)添加したところ、衝撃強度が13%向上したそうです。なお、ミズノに材料を提供した東邦テナックス株式会社のプレスリリースによれば、これまではCFRPとカーボンナノチューブの複合化には、CFRP内にカーボンナノチューブがうまく分散していかない(凝集してしまう)という課題がありましたが、本プロジェクトでは特殊な表面処理によってカーボンナノチューブを分散させることができたそうです。


現在カーボンナノチューブの商用化が進んでいるのが、リチウムイオンバッテリーの導電助剤としての活用です。リチウムイオンバッテリーの導電助剤は、電極における電子伝導を助ける役割を持つ材料で、主にカーボンブラックを用いるケースが多いようですが、最近はカーボンナノチューブが利用され始めています。例えば、2021年7月にトーヨーカラー株式会社が発表したプレスリリースによれば、トーヨーカラーが提供するカーボンナノチューブが、韓国のリチウムイオンバッテリーメーカーであるSK Innovationのリチウムイオンバッテリー正極に採用され、フォルクスワーゲン、フォード・モーターの電気自動車に供給されることが決定しました。また、こちらのニュースによれば、東洋インキSCホールディングスが展開する、リチウムイオンバッテリー用導電助剤としてのカーボンナノチューブ事業が好調で、2026年までに100億円の設備投資を行う、と報じられています。


バッテリー関連では、カーボンナノチューブが燃料電池の触媒として白金の代わりに利用されたり、有機太陽電池の薄膜電極に利用されたり、と研究レベルでは進んでいますが、商用化がどの程度進んでいるのかは、もう少し調査が必要です。




カーボンナノチューブビジネスを取り巻くプレイヤー


日本には、ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI=Nanotechnology Business Creation Initiative)という団体があります。その中のナノカーボン実用化ワーキンググループから、ナノカーボン業界マップという資料が公開されています。


ワーキンググループは、102社113名の委員および18名のオブザーバーから構成されており、官民学から集まっています。対象としているナノカーボンは、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンの3つで、それぞれのバリューチェーンにおいて、どのような企業が活動しているのかをまとめられています。今回はカーボンナノチューブだけに注目してご紹介します。

(Source: https://www.nbci.jp/file/2021nanocarbonmap_210212.pdf)


素材プレイヤー

単層および二層カーボンナノチューブの製造を行っている会社は5社挙げられています(日本ゼオン、ゼオンナノテクノロジー、ニューメタルエンドケミカルズ、本荘ケミカル、名城ナノカーボン、株式会社は省略)。ただし、ゼノンナノテクノロジーは、日本ゼオンが2015年に単層カーボンナノチューブの販売を担う100%子会社として設立した企業であり、日本ゼオンが2022年に吸収合併しましたので、実質4社ということになります。


1950年創業の化学メーカーである日本ゼオンがカーボンナノチューブに本格着手したのは2005年ごろで、産総研と共同でスーパーグロースCCVD法の研究を開始した頃です。その成果として、2015年に徳山に単層カーボンナノチューブ量産工場を竣工しました。


ニューメタルエンドケミカルズは、1957年創業の金属・化学原料卸売企業です。取り扱っているカーボンナノチューブは、Nanointegris社(2007年にカナダで創業)、NTP社(2001年に中国で創業)製のものがあります。


本荘ケミカルは、1922年創業の化学原料メーカーです。亜鉛製造を祖業とし、時代の需要に合わせて事業を多角化させ、2000年にはカーボンナノチューブ事業に参入しています。ホームページによると、本荘ケミカルは、アーク放電法によって単層・二層・多層カーボンナノチューブの製造を行っています。


名城ナノカーボンは2005年創業のカーボンナノチューブメーカーです。設立メンバーには、カーボンナノチューブを発見した飯島氏に素材を提供していた安藤氏が含まれており、創業時からカーボンナノチューブ事業を専業としています。アーク放電法、CVD法など、さまざまな製法に対応できるようです。


多層カーボンナノチューブの製造を行っている企業は、単層も取り扱う本荘ケミカル、ニューメタルズエンドケミカルズに加えて、8社挙げられています(LG化学、GSIクレオス、昭和電工、太陽日産、浜松カーボニクス、宝泉、高圧ガス工業、TPR)。


この中でカーボンナノチューブ事業を専業としているのは、浜松カーボ二クスのみです。同社は2010年創業の静岡大学発企業で、多層カーボンナノチューブを用いたシート・繊維・分散液などを製造・販売しています。


中間部材プレイヤー

こういった原料としてのカーボンナノチューブを、ゴム・樹脂等に配合したり、水に溶かして分散液を作ったりするのが中間部材メーカーです。既出の数社に加えて、ゴム・樹脂では大日精化工業、トーヨーカラーが加わっています。また、分散液メーカーにもKJ特殊紙、日本資材、仁科マテリアルが追加されています。


なお、分散液とはカーボンナノチューブが分散した液体のことです。カーボンナノチューブは凝集力が強く、いかに分散された溶液を製造できるか、というのが最終製品の性能を左右します。


少し紛らわしいのが分散剤と分散液です。分散剤は、カーボンナノチューブを分散させるために用いられる材料であり、分散液をつくるために必要になります。資料内では分散剤を製造するメーカーとして花王の名前が挙げられていますが、同社は石鹸や洗剤等の界面活性剤を利用した分散技術をもとに、カーボンナノチューブの分散剤も開発しています。


成形体・部材メーカー/最終製品プレイヤー

業界マップで紹介されている、最終製品に使用される成形体・部材メーカーも、多くは既出の企業ですが、成形体メーカーとして、東邦化成、日信工業2021年に日立オートモーティブへ吸収合併されて解散)、サンアロー、ニッタが追加されています。


例えば、東邦化成はフッ素樹脂にカーボンナノチューブを分散させ、導電性を付与した製品を開発しています。サンアローは、Oリング(ゴム製のリングで、流体を密封するために多分野で用いられる)として、フッ素ゴムに単層カーボンナノチューブを分散させた製品を開発。また、ニッタはCFRPにカーボンナノチューブを分散させたCFRP強化材料を開発しており、ヨネックス製のテニス・バドミントンラケットやゴルフクラブに採用されています。




こちらが、製品詳細版の業界マップです。素材〜中間部材〜成形体・部材/最終製品に分けて、製品紹介がされています。使用素材によって、色が使い分けられており、多層カーボンナノチューブが緑色、そして単層カーボンナノチューブが紺色です。

(Source: https://www.nbci.jp/file/2021nanocarbonmap_210212.pdf)



この図はあくまで、このワーキンググループに所属している企業の一部がマッピングされたもので、もっと他にも企業がいる、という点にご留意いただきたいのですが、それでもやはり多層カーボンナノチューブに比べると、単層カーボンナノチューブの成形体・部材/最終製品は限られているようです。


多層ではなく単層のカーボンナノチューブでなければならないほど大幅な性能向上が求められ、かつそのユースケースにおいて最終製品価格と単層カーボンナノチューブ添加コストが見合う市場が見つかると、需要増→生産量増→価格低減→需要増...という良いサイクルに入っていけるのではないかと思います。


カーボンナノチューブの成長可能性と炭素繊維の歴史

ここで、どのように上記のような良いサイクルに入っていくのか、という点を考えるために、炭素繊維の歴史を参照してみたいと思います。


東レが公表している資料によれば、炭素繊維は本格商業生産開始が1971年。初期は釣り竿・ゴルフクラブの採用から始まり、初めて旅客機(ボーイング737)に採用されたのが1975年。この時は、エレベーターの昇降舵、尾翼の垂直安定板に利用され、金属材料を代替することで30%の軽量化に成功したそうです。ボーイング777の一次構造材に認定されたのが、1990年。商業生産開始から約20年近く経過していることになります。

(Source: https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/innovation/nanowg/8kai/siryo3-2.pdf)



日本における単層カーボンナノチューブの商用生産が2015年頃として、現在徐々にスポーツ用具等に採用され始めたフェーズです。ここから、どれくらいのスピード感で産業領域(自動車、航空機等)で活用されていくのか、これからのカーボンナノチューブには重要なポイントになりそうです。


なお、炭素繊維については、産業利用が進んだ背景として、1970年代のオイルショックおよび環境意識の高まりが挙げられます。自動車や航空機は燃費向上が求められ、機体の軽量化に対する社会的要請が高まりましたこちらの資料によれば、自動車においては一般に、100kgの軽量化が、燃料消費を8%以上低減し、燃費を1km/l向上させると言われているそうです。


2022年現在、そういった環境意識の高まりは継続していますし、また新たにモビリティ分野には電動化の波が押し寄せています。航空機、自動車、船舶といったビークルが次々と電動化を進めており、少しでも航続距離を伸ばすために、軽量化ニーズはさらに高まっていく可能性があります。


あるいは、もしかすると宇宙産業の盛り上がりがカーボンナノチューブの需要を押し上げるかもしれません。厳しい軽量化が要求される宇宙分野では、すでに人工衛星等で炭素繊維が使用されています。今後拡大していくであろう宇宙市場で、カーボンナノチューブの採用が進んでいく可能性はあるのでしょうか。

(Source: https://www.nomura.co.jp/el_borde/view/0036/)



カーボンナノチューブ関連スタートアップ


ここまで、カーボンナノチューブビジネスを取り巻くプレイヤー、そして現状と今後の成長可能性について、ご紹介してきました。それでは、現在カーボンナノチューブ領域で誕生しているスタートアップは、どのようなポジショニングをとっているのでしょうか?いくつかの海外カーボンナノチューブスタートアップをご紹介しつつ、考察していきたいと思います。なお、創業年が新しい順にご紹介します。


SmartNanotubes Technologies

2020年にドイツで創業された企業です。2022年2月にシリーズAラウンドを実施しており、累計で270万ドル(≒3億円)調達しています。


同社は、有害ガスを検知するガスセンサーチップを開発しています。これまでのガスセンサーは高価でサイズが大きく、消費電力も大きいのが課題でしたが、カーボンナノチューブチップを用いることで高エネルギー効率、高感度のガスセンサーが実現できるそうです。


Verdox

2019年にアメリカで創業された企業です。累計で1億ドル(≒110億円)調達しており、2022年2月ラウンドではビル・ゲイツ氏率いるBreakthrough Energy Venturesが株主として参画しました。


同社は大気中の二酸化炭素を回収する技術を開発していますが、コアになっているのが、充電時に二酸化炭素を吸収し、放電時にガスを放出する電池です。この電池の電極に使われているのが、カーボンナノチューブと一体化した化合物の薄膜です。反応性に優れたこの電極は、低濃度のCO2にも反応し、吸収できることを強みとしているそうです。


Nemo Nanomaterials

2018年にイスラエルで創業された企業です。2021年12月にシードラウンドで700万ドル(≒8億円)を調達しています。


同社は、カーボンナノチューブの凝集問題を解決するため、独自の分散技術を開発しました。同社は、熱可塑性・熱硬化性ポリマー等、異なるポリマーとカーボンナノチューブが適合するよう調整できる技術を保有しているそうです。


Carbice Corporation

2017年にアメリカで創業された企業です。累計で1,650万ドル(≒18億円)調達しており、直近の資金調達ラウンドは2020年11月のシリーズAラウンドです。


同社はジョージア工科大学発のスタートアップで、リサイクルアルミニウムとカーボンナノチューブを組み合わせ、電子機器の熱放散を助けるテープを開発しています。当初はスマートフォン等の電子機器をターゲットにしていたようですが、現在は人工衛星用の電子機器向けに製品開発を行っているそうです。



NAWA Technologies

2013年にフランスで創業された企業です。直近では2022年1月にシリーズCラウンドで1,800万ユーロ(≒20億円)調達しており、累計で4,300万ユーロ(≒50億円)調達しています。


NAWA Technologyは、NAWACapと呼ばれるキャパシターを製造していますが、キャパシターの電極にはカーボンナノチューブが用いられていますシリーズCの調達資金は、2023年以降に製造予定のNAWACap量産工場の建設に使用するそうです。




本当はもっとさまざまなスタートアップがありますが、今回はこれくらいにしようと思います。ご紹介した、創業10年未満くらいの海外企業を見ると、チップの軽量化・小型化、電極の反応性向上、電子機器の熱放散性向上等、カーボンナノチューブの用途開発に取り組んでいる企業が多いようです。


用途開発は今後スタートアップが増えていくような気がします。特に、まだ素材としてのスタンダードが固まっていない市場に、相応の価格で入っていくことができれば、需要を増やしていくことができるかもしれません。特に、単層はまだユースケースが少なく、それゆえに価格が高止まりしているようです。単層が持つ特性と価格がバランスする用途開発が求められます。



一方、イスラエルのNemo Nanomaterialsは、カーボンナノチューブ利用のボトルネックの1つであると言われている分散工程の課題解決に取り組んでいますが、このテーマも重要です。分散がうまくできることで用途開発もスピードアップしていくかもしれません。



また、ビジネスチャンスとしては、評価・測定も重要である気がしました。多層・単層どちらかに限らず、カーボンナノチューブは純度や品質によって価値が大きく変わります。いわば規格が定まっていない状態と言えます。今後、カーボンナノチューブの用途が広がり、カーボンナノチューブメーカーが増えてくると考えると、いかに素早く正確に評価・測定ができるか、というところに課題が生まれていくのかもしれません。このあたりは、継続して調べていきたいと思います。


少し長くなってしまいましたが、今回は以上となります。カーボンナノチューブの現状や今後の成長可能性について、少しでもご参考になれば幸いです。



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