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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

Montamo:技術者不足問題に向き合うスタートアップ

IDATEN Ventures のXでも先日取り上げましたが、2023年12月、ドイツ・ベルリンに本社を構えるMontamo(モンタモ)というスタートアップが210万ユーロ(≒3億円)の資金調達を発表しました。Montamoは、世界的にクリーンエネルギー需要が高まる中で、ヒートポンプ(化石燃料を燃やさずに空気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯等に使う技術)や太陽光発電システムの設置ができる技術者の育成を行う企業です。同社は実際にベルリンにトレーニングセンターを構え、特に移民に対して6~8週間の育成プログラムを提供しています。


一見すると、単なる技術者育成企業に見えますが、Montamoは自社を「テック企業」と明言しており、ベンチャーキャピタルからも出資を受けています。Montamoはいったいどのような背景でこの事業を行っているのか、なぜ「テック企業」と自負しているのか、考察していきたいと思います。


なお、為替レートは2024年1月22日時点のものを使用しています。



Montamoが解決する課題

JETROによると、近年ドイツではヒートポンプ市場が急拡大しています。2022年は前年比50%増となる23万6,000台が出荷されたそうです。ドイツ連邦政府は、再生可能エネルギーの利用促進に積極的で、2024年以降は新規設置する暖房機の65%以上を再生可能エネルギーで稼働させるために、毎年50万台のヒートポンプ導入を目標に掲げています。ドイツ連邦議会は、2024年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付ける建造物エネルギー法案を可決し、 新設時にはガス等の化石燃料を単独利用するものは原則禁止になります。

(Source: https://www.waermepumpe.de/presse/news/details/branchenstudie-2023


市場の追い風を受けて、ドイツのViesmann等の大手ヒートポンプメーカーは業績を伸ばし、増産対応・人材採用に積極投資を進めています。


市場に流通するヒートポンプの台数は増える一方で、エンドユーザーはヒートポンプは購入してすぐに稼働させられるわけではなく、設置工事を必要とします。家庭用の場合、日頃から専門的なDIYを行っている人を除いて、専門業者に設置をお願いすることになります。ところが、肝心の工事業者が深刻なレベルで不足している、という事態がドイツで発生しているそうです。


実は、この現象はドイツだけでなく、日本でもすでに見られます。ここ数年、ヒートポンプに限らず、専門技能労働者不足が顕在化し始め、筆者も「工事を実施したくても職人(技能労働者)不足でできない」という声を聞く回数が増えました。


設置工事のような専門技能をドイツ語で「Handwerk」と言います。日本語に直訳すると「手工業」ですが、一般的に「手工業」という言葉からイメージされやすい「手で布を織る」「一品一品、丁寧に陶器を焼く」ような活動に限らず、B2Bにおける工事・工作・修理も含まれます。Montamoの創業者であるAlexander Bohm氏とOle Schaumberg氏は、「私たちはHandwerkへの熱意を高め、この職業を”セクシー”にしたいと考えています。」と述べ、ドイツ中で発生している技能労働者不足問題を解決しようとしています。なお、ヒートポンプに限らず、太陽光発電システムのような再生可能エネルギー関連システムは、歴史がそれほど長くないこともあり、全般的に技能労働者が不足しているようです。


Montamoは技能労働者不足をどう解決するか?

こうした課題に対して、Montamoは、「主に移民向けに、6~8週間の集中トレーニングプログラムを提供し、スピーディな人材育成を行う」という形で解決を試みています。


ところで、人材不足という課題に対してありがちなアイディアは「マッチング」というアイディアです。例えば、日本にも建設職人のマッチング(助太刀)、恋人のマッチング(Pairs)、専門知識のマッチング(ビザスク)のように、たくさんのマッチングサイトがあります。一方、マッチングサイトが長期的に機能するのは、基本的に「人材が偏っているだけであって、全体の供給量は需要の大きさをカバーしている」ことが前提となります。もし全体の供給量自体が不足している場合は、「ロボットによって業務を自動化する」あるいは「人間を育成する」ような、抜本的な解決策が必要になります。


手工業分野におけるロボット自動化は非常にハードルが高く、数年でロボット化できるというわけにはいかなさそうな印象です。各国における技能労働者不足は待ったなしの状況まできており、Montamoのような人材育成が注目を浴びているようです。Montamoの初回ラウンドにおけるメイン投資家であるProject Aというベンチャーキャピタルは、 “Closing the blue-collar workforce gap: Our Investment in montamo” というエッセイの中で、いかに技能労働者人材育成が重要なのか語っています。エッセイの中から該当箇所を抜粋します。(原文をChatGPTで日本語に翻訳)

ドイツは、青年労働者における技能労働者の顕著な不足に直面しています。この不足は、高齢化する労働力(現在のドイツの青年労働者の50%が今後10年以内に退職する予定)、ベビーブーマー世代以降の人口減少、大学教育を選択する若者の増加傾向(ドイツの高校卒業生の46%が高校卒業後すぐに高等教育を受けており、2010年の37%と比較して増加)など、複数の要因によって引き起こされています。

この状況は、その職種への需要の高まりによりさらに悪化しています。ドイツは今後数年間で数十万人の技能労働者不足に直面する見込みです。特に、化石燃料による暖房からネット・ゼロ暖房への転換を達成するために、約60,000人の設備工事労働者が不足すると見積もられています。

この転換には、2024年から年間50万台のヒートポンプを設置することが求められます。この状況を具体的に理解するために、2023年4月に公開されたサーモンドのレポートによると、彼らは2022年6月以降約1,000台のヒートポンプを設置し、当時週に約80台のヒートポンプを設置しており、設置作業員450人を雇用していました。

(Source: https://insights.project-a.com/closing-the-blue-collar-workforce-gap-our-investment-in-montamo/?_ga=2.122741131.1261056282.1704561533-1851857480.1704561533)


Montamoは”テック企業”なのか?

Montamoは自らを"テック企業"と自負しています。その背景には、Montamoがデジタル技術を活用した施工方法をトレーニングしていること、そしてトレーニングも現場トレーニングに加えてオンライン学習アプリを積極的に用いていることが挙げられます。また、Montamoでトレーニングを受けた技能労働者は、Montamoから派遣される形で顧客の工事を請負いますが、技能労働者は専用モバイルアプリで業務を統合管理することになっており、デジタルツールによる業務効率化が徹底されます。


以前、当ブログでSquint(スクィント)という米国のARスタートアップを取り上げ、モバイル業務アプリによって業務効率化・高付加価値化を図っているとご紹介しましたが、Montamoもそのような構想を持っていることが窺えます。ARは人材育成と相性が良い技術テーマの1つで、実際にMontamoも「AR活用」が技能トレーニングの1大テーマであることを明言しています。


また、(これはMontamoが述べていることではなく筆者の考察にすぎませんが)もう1つ人材育成と相性が良い技術に「生成AI」が挙げられるのではないか、と思います。今回の文脈では、「多言語翻訳」と「パーソナライズドQ&A」機能が活用できると思います。


・多言語翻訳

Montamoが技能トレーニング対象に据えるのは、「移民」がメインです。ドイツ国内で技能労働者の道を志す若者が減少傾向にあるためです。ドイツは東欧・中欧・中東からの移民が豊富な国であり、それぞれの言語は異なります。そういった労働者の現場教育において翻訳が果たす役割は大きいと思われます。


・パーソナライズドQ&A

従来の教育は、複数の新人労働者に対して1人の先生が指導するのが一般的でしたが、生成AIの登場によって「AIがマンツーマンコーチになり得る」ようになりました。例えば、正しい作業手順や過去のトラブル内容をデータベースに保存しておくと、新人の質問に対して、生成AIがデータベースから根拠を引用して回答生成を行うことができます。新人の技能レベルに応じて説明のわかりやすさや専門性を調整することができるため、教育のパーソナライズが進んでいきそうです。


これから先、「技能労働者不足時代」が到来する可能性は高く、高速・高品質な技能トレーニングに対する需要は高まってくると思われます。Montamoのように新しい技術をベースとした教育を受けた人材が増えることで、現場のDXが進んでいくかもしれません。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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