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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

蓄電池関連スタートアップについて

Updated: Feb 27, 2023

今回は蓄電池×スタートアップという観点から、新規性の高い蓄電池の研究開発、および蓄電池関連ビジネスを展開する国内スタートアップを調査しました。


(Source: https://pixabay.com/ja/vectors/バッテリー-充電器-ベクター-1688825/)


蓄電池とは

エネルギー庁によると、蓄電池は「1回限りではなく、充電を行うことで電気を蓄え、繰り返し使用することができる電池(二次電池)」と定義されています。


蓄電池は、身近なところでは電動ビークル(EV、ドローン等)・電気製品(スマートフォン、PC等)の電源として活躍していますが、よりスコープを広げてみると、他にもさまざまな役割を担っています。


(1)再生可能エネルギー発電の補完

太陽光・風力等の再生可能エネルギーを用いた電力は、天候によって発電量が変動しやすく、需要に対して供給の過不足が生じるリスクを抱えています。蓄電池は、使いきれなかった再生可能エネルギー由来の電力を貯めておき、必要な時に放電することができます。そうすることによって、再生可能エネルギー由来の発電量を平準化し、電力系統を安定させる役割を担います。


(2)防災に役立てる

台風・地震等の自然災害によって停電が発生した場合、蓄電池を非常用電源として活用することで、必要な電力を賄うことができます。2011年の東日本大震災以降、蓄電池導入補助金制度の開始もあり、蓄電池を導入する家庭が増加したそうです。


蓄電池の分類

蓄電池は、用途・種類等、さまざまな分類方法があります。用途に関しては、まずはじめに移動用・定置用の2つに分類可能です。移動用には、冒頭の電動ビークル・電気製品等が含まれます。定置用は一定の場所に長期間配置されるケースで、以下3つのセグメントに分けられます。再生エネルギー発電施設併設用・系統用、家庭用、そして業務・産業用です。2019年時点の、各国セグメント別定置型蓄電システム導入実績を見ると、以下のようになっています。

(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/storage_system/pdf/001_05_00.pdf)


業務・産業用蓄電池は、少しイメージが湧きづらいかもしれませんが、病院・工場・ビル等の非常用電源として利用されます。例えば、こちらのサイトでは、大和ハウスが佐賀市に構える自社ビルの電力は外部からの買電に依存せず、基本的に太陽光発電設備×蓄電池で賄う様子が紹介されています


次に、用途にも関わりますが、種類による蓄電池の分類です。現在実用化されている蓄電池は、おおよそリチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ナトリウム硫黄電池、レドックスフロー電池等に分けられます。用途に応じてそれぞれの電池を使い分ける必要があります。



それぞれの蓄電池の特徴については、以下の比較図をご参照いただくとイメージ感が掴みやすいかもしれません。

(Source: http://karaki-d.co.jp/battery_basic/#i-3)

蓄電池に期待されるイノベーション

2021年11月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がグリーンイノベーション基金を活用した「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトの公募を開始しました。この章では、同プロジェクトの詳細資料を参考に、次世代蓄電池に期待されるテーマを3つご紹介します。


まず1つ目が、サプライチェーンリスク低減の観点から進められている新規材料開発。例えば、欧米では正極のコバルトレス化、供給元が中国に偏る黒鉛負極の代替材料が注目されています。


2つ目に、蓄電池製造過程で発生するGHG(地球温暖化ガス)を抑えるため、製造プロセスの低炭素化、リユース・リサイクル促進が期待されています。蓄電池にレアメタルが使用されることからもリサイクルは重要で、NEDOプロジェクトでは、リチウム:70%以上、ニッケル:95%以上、コバルト:95%以上を回収することができる技術の開発を目指しています。


3つ目に、2030年以降を目標に進める、液体リチウムイオン電池に代わる次世代型蓄電池の実用化です。全固体リチウムイオン電池、フッ化物電池、亜鉛不極電池、多価イオン電池が一例として挙げられています。なお、液体リチウムイオン電池の体積エネルギー密度が250〜676Wh/Lと言われていますが、NEDO資料によれば、高容量系の次世代型蓄電池には、体積エネルギー密度700〜800Wh/L以上が求められています。また、高入出力系の次世代型蓄電池には、出力密度2,000〜2,500W/kg以上、かつ体積エネルギー密度が200〜300Wh/L以上の両立が求められています。


日本の蓄電池普及戦略においては、2030年までに国内の車載用蓄電池製造業能力を100GWhまで高め、車載用蓄電池パック価格1万円/kWh以下の達成が目標設定されています。同時に、太陽光発電併設型の蓄電池は7万円/kWh以下、工場・産業向け蓄電池は6万円/kWh以下を2030年までの達成目標に設定し、これら2つの蓄電池合計で累積導入量24GWh(2019年までの累積導入量の約10倍)を目指しています。



日本の蓄電池関連スタートアップ


日本の蓄電池関連スタートアップを、創業年が新しい順にまとめました。累計資金調達額情報はインターネット上で公開されている範囲に限られますが、その点はご理解いただけますと幸いです。



(Source: https://power-x.jp/ja/)


(IDATEN Ventures 出資先、公開情報に限られます。なお、本店は米国にありますが、研究開発は日本で行っています)


  • 創業 2020年6月

  • 累計資金調達額(公開情報) 約7,000万円

  • 事業内容 太陽光電力でEVを走行させ、またEVの蓄電能力を電力需給調整に活用するシステムを開発している。 一基で複数台のEVをつなぎ充放電を可能にする蓄電池「YaneBox」、EV普通充電コンセントに後付け接続するだけで自動で充電制御可能になる「YaneCube」、そしてこれらのプロダクトを管理・制御し、EV電池残量・電力市場価格等のデータから最適な充放電計画を計算・実行するクラウドシステム「YanePort」を提供。


(Source: https://yanekara.jp/Product)


  • 創業 2020年5月

  • 累計資金調達額(公開情報) -

  • 事業内容 ORLIBは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)から生まれたスタートアップ。 社名が「Orgranic」(有機)+「LIB」(リチウムイオン電池)に由来している通り、シリコンを用いた負極と有機チオアミン化合物を用いた正極から構成される重量エネルギー密度の大きいリチウムイオン電池を開発している。なお、負極にシリコンを用いる際に直面する体積膨張という課題を、加圧電解プレドープという技術で解決しようとしている。(リチウムシリコン電池については、IDATEN Ventures執筆のこちらのブログをご参照ください。)

(Source: https://www.orlib.jp/our-technologies)


  • 創業 2018年

  • 累計資金調達額(公開情報) 100億円

  • 事業内容 APBは全樹脂電池を開発。同社ホームページでは、従来型リチウムイオン電池が抱える3つの課題が指摘され、どのように全樹脂電池がそれらの課題を解決するか説明されている。 1つ目が、短絡発生時のリスクヘッジ。従来型は金属集電体が原因となり短絡発生時に大電流が発生してしまっていたが、抵抗の高い樹脂集電体であれば大電流が回避可能。 2つ目が、電極製造コストの削減。従来は電極の乾燥・金属加工プロセスが必要だったが、そういったプロセスが削減される。 3つ目が、形状自由度。樹脂を用いているからこそ、用途に合わせて自由に形状をデザインすることができる。 同社は2021年5月に福井県武生にある全樹脂電池量産工場の稼働を開始させた。


(Source: https://apb.co.jp/all_polymer_battery/)


  • 創業 2017年6月

  • 累計資金調達額(公開情報) 約120億円

  • 事業内容 太陽光電力を利用したい事業者(小売店舗、物流倉庫等)の屋根に太陽高発電設備を導入し、電力を直接供給するオフグリッド太陽光電力供給サービスを展開。すでに累計10万kWの電力を供給している。この先、余剰電力を蓄電池に蓄え、需要家間融通・需給調整市場取引につなげていく構想を描いている。

(Source: https://www.vppjapan.co.jp/)


(Source: https://www.3dom.co.jp/3dom-technology/)



(Source: https://www.connexxsys.com/technology/shuttle/)


(Source: https://exergy-power-systems.com/)


  • 創業 2011年1月

  • 累計資金調達額(公開情報) 約31億円

  • 事業内容 バナジウムレドックスフロー電池用電解液の専門メーカー。バナジウムレドックスフロー電池は、バナジウムイオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池。電極・電解液の劣化が少なく長寿命であること、発火性材料を用いず安全性が高いことから、電力系統用蓄電池に適した特性を有していると言われている 電池は電解液・ポンプ(それぞれ左右に配置)・セル(中央に配置)の3つから構成されており、タンクからポンプが電解液をセルに送り出し、電極で酸化還元反応が発生する。 長寿命・安全性という強みを持つ一方で、重量エネルギー密度がリチウムイオン電池の5分の1程度と小さく、大型化蓄電システムとしての利用が想定される。 貴金属であるバナジウムを原料とする電解液が必要となるため、価格の不安定性が課題とされてきたが、LEシステムは産業廃棄物から回収したバナジウムを用いて効率的に電解液を製造する技術を確立、安価で安定的な電解液を生産している。

(Source: https://www.lesys.jp/)


  • 創業 2008年5月

  • 累計資金調達額(公開情報) 約37億円

  • 事業内容 独自の蓄電池制御技術を活用し、モビリティ用途での利用を終えた蓄電池(自動車、バス、フォークリフト等)をそのままエネルギー貯蔵用途に転用するサービスを展開。 あらゆるメーカーの蓄電池に対応した電池制御技術を有している。

(Source: https://www.nextes.jp/service/business/)


  • 創業 2004年5月

  • 累計資金調達額(公開情報) 約10億円

  • 事業内容 カーボンナノチューブを用いたキャパシタ「グリーンキャパシタ」を開発。従来キャパシタの弱点であったエネルギー密度を100Wh/kgまで向上させることに成功。また、不燃性の電解液を用いることで発火リスクを抑えている。 詳細は公開されていないが、キャパシタの負極材としてカーボンナノチューブを用いているものと思われる。

(Source: https://www.spacelinkltd.jp/technology)



もしかすると、上記リスト以外にも国内で蓄電池関連事業を行うスタートアップがあるかもしれませんが、今回は以上とさせていただきます。


こうして見てみると、大きく5つのアプローチに分けられるような気がしました。

  • 新たな蓄電池に必要な材料の開発・製造 (スリーダムアライアンス、LEシステム)

  • 新たな蓄電池の開発・製造 (PowerX、ORLIB、TeraWatt Technologies、APB、CONNEXX SYSTEMS、スペースリンク)

  • 新たな蓄電池の開発・製造と、それを利活用するサービス提供 (エクセルギー・パワー・システムズ)

  • 既存の蓄電池を活かすサービスの提供 (VPP JAPAN、Yanekara)

  • 蓄電池のリユース・リサイクルを促進する技術 (Integral Geometry Science、NExT-e Solutions)

NEDOのプロジェクト資料に書かれていた、「新たな蓄電池の開発」「リユース・リサイクル促進」に沿う形で、スタートアップ各社が着実に技術開発・事業開発を進めています。これからますます蓄電池関連のスタートアップが増えてくるかもしれませんので、今後も注目していきたいと思います。



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