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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

生物多様性:カーボンニュートラルに続く新潮流

Updated: Jun 10

生物多様性というテーマで調査してみました。


生物多様性は、サステナビリティ文脈で注目され始めているキーワードの1つですが、日本ではカーボンニュートラルの優先度が高く、生物多様性の知名度としてはこれから、という印象です。一方、カーボンニュートラルの時と同様に、企業に情報開示を求めるタスクフォースの動きは着々と進んでおり、2023年後半には大きな進展がありました。


今回は、そもそも生物多様性とビジネスの接点はどんなところにありそうか、という概観と、世界のスタートアップの事業内容を合わせて、ご紹介したいと思います。


なお、為替レートは、2024年6月7日時点のものを使用しています。

(Source: https://pixabay.com/photos/lizard-reptile-eye-multicoloured-7707238/)


TNFDと日本との関係

生物多様性とビジネスの接点を考える際に押さえておくべき最重要キーワードの1つに、TNFDが挙げられます。TNFDはTaskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略で、自然関連財務開示タスクフォースと訳されます。

 

TNFDは、企業や金融機関が自然環境に与える影響と、それが財務に与えるリスクを理解・管理するための枠組みが必要とされているということで、2021年6月に発足しました。これは、気候変動に関連する財務リスクを扱うTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)に触発されたものと言われています。

 

TNFDの主な役割は、企業や金融機関が自然環境への影響を評価し、報告するために必要となるガイドラインを提供することです。これにより、投資家やステークホルダーがより良い意思決定を行えるよう支援します。

 

TNFDに関連する動きの中で特に注目すべきなのが、2023年9月18日に公開されたフレームワークの最終提言(v1.0)です。TNFDは「v1.0」リリースまでにβ版としてプロトタイプフレームワークを公開してきました。2022年3月にv0.1、2022年9月にv0.2、2022年11月にv0.3、2023年5月にv0.4、そして2023年9月のv1.0です。この先v1.1がリリースされるかどうかまだ情報が見当たりませんが、v1.0に対するコメントや世界情勢の変化を鑑みてv1.1が公開される可能性はあると思います。

 

そして、2023年末ごろから、多くの日本企業がv1.0に賛同するというプレスリリースを出してきました。例えば、2024年1月16日にTOPPANホールディングスが出した「TOPPANホールディングス、TNFD提言に賛同」というプレスリリースには、同社は2023年9月に行われたTNFD最終提言への賛同を表明し、「TNFDアーリーアダプター」に登録した旨が記載されています。なお、TNFDアダプターとは、2025年までにTNFDのフレームワークに沿った形で情報開示する意向を表明した企業を指します。類似のプレスリリースは、日本郵船株式会社三井住友DSアセットマネジメント株式会積水化学工業株式会社株式会社滋賀銀行等からも発表されています。公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)が2024年1月18日に発表したところによると、TNFDアーリーアダプターに登録した企業数は世界46カ国320社のうち80社(25%)が日本企業で、日本が世界最多となっているようです。


TNFD v1.0

TNFDのv1.0は、生物多様性とビジネスの接点を理解する上で欠かせないため、具体的にどのようなことが書かれているか、見ていきたいと思います。個人の方やコンサルティング会社がさまざまな解説記事を公開していますが、黎明期ということもあり、できる限り一次情報に近いものを読む方がよいと考えて、TNFDの公式発表を参照します。

 

v1.0の本編はPDF154ページにわたる大作となっており全てをカバーするのは難しいですが、その要約版として公開された”Executive summary of the recommendations of the TNFD”はPDF7ページで読みやすいので、そちらを参考にします。

 

以下は、記載されている中でも重要そうな部分を筆者が翻訳・要約したものになります(翻訳・要約の支援ツールとしては、ChatGPTを利用しました)。

 

  • まず、我々の社会・経済・金融システムは自然に組み込まれており、その反映と回復力は自然とその生物多様性の健康と回復力に依存している。一方、そんな自然は全世界的に劣化し、生物多様性は人類史上いかなる時期よりも早く減少している。現在、生態系サービスはビジネスや金融市場によって適切に価格設定されていないが、これによってリスクの重大さと頻度がどちらも増加している。

  • 農業ビジネスから半導体に至るまでのグローバルサプライチェーンは、水不足や水ストレスに直面し、森林劣化は化粧品などの一部セクターの安全性を脅かしている。受粉者の喪失は農業生産に悪影響を及ぼしている。

  • 中央銀行や金融当局は自然喪失リスクを認識しており、2023年9月、125以上の中央銀行と金融当局から構成される「金融システムのグリーン化ネットワーク(NGFS, the Network for Greening the Financial System)は、全ての中央銀行と金融当局に対して、自然関連リスクが引き起こす経済的・金融的リスクを評価し、対処するよう促した。

  • 政府も動き始めており、政策と財政活動を通じて自然の損失を食い止めようとしている。2022年12月、約200の政府が2030年までに自然の損失を食い止め、自然を豊かにする方向に逆算させる(ネイチャー・ポジティブ)ことを目指す目標とターゲットに合意した。これが、昆明(クンミン)-モントリオール生物多様性フレームワーク(GBF, Global Biodiversity Framework)である。GBFでは、ビジネスが生物多様性に与えるリスク・依存性・影響を監視・評価・開示し、ビジネス・社会・自然が調和して存在するよう求めている。これを受けて、豪州・ブラジル・中国・EU・米国などの政府は大規模な資金とインセンティブを用意している。

  • こういったリスクがあるにもかかわらず、多くの企業や資金提供者は、自然関連の依存性・影響・リスク・機会を理解しておらず、戦略や資本配分の決定時に自然を適切に考慮していない。CDP(Carbon Disclosure Project)によると、2022年に気候変動関連のデータを開示した企業の約70%が、自社のバリューチェーンが生物多様性に与える影響を評価していないというデータが示されている。

  • TNFDは、世界中の企業と金融機関に在籍する40人の幹部から構成され、管理下におく資産は20兆ドル以上である。具体的に、TNFDは、以下4つ(Governance、Strategy、Risk&Impact Management、Metrics&Targets)の大項目に紐つく、14項目の情報開示を推奨する。

(Source: https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/09/Executive_summary_of_the_TNFD_recommendations.pdf)


  • Governance

    • A: 自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会に対する取締役会の監督責任について説明すること。

    • B: 自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会を評価し、管理する経営者の役割について説明すること。

    • C: 組織の人権ポリシー・関与活動について説明し、先住民族・地域コミュニティ・影響を受ける関係者等に対する取締役会と経営者の監督責任を、自然関連の依存性、影響、リスク、および機会への対応と評価の文脈で説明すること。

  • Strategy

    • A: 組織が短期・中期・長期にわたって特定した自然関連の依存性、影響、リスク、および機会について説明すること。

    • B: 自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会が組織のビジネスモデル・バリューチェーン・戦略・財務計画に与えた影響、および計画されている対応について説明すること。

    • C: 組織の戦略が自然関連のリスクと機会に対してどれだけ回復力があるかを、さまざまなシナリオを考慮して説明すること。

    • D: 組織の直接運用における資産や活動の場所、また可能な場合は、優先される場所の基準を満たす上流および下流のバリューチェーンの場所を開示すること。

  • Risk&Impact Management

    • A(i): 組織が直接的に運営する範囲において自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会を特定・評価・優先順位付けするプロセスについて説明すること。

    • A(ii): 組織が上流および下流のバリューチェーンにおいて自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会を特定・評価・優先順位付けするプロセスについて説明すること。

    • B: 組織が自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会を管理するためのプロセスについて説明すること。

    • C: 自然関連のリスクを特定・評価・優先順位付け・モニタリングするプロセスが、組織の全体的なリスク管理プロセスにどのように統合されているかについて説明すること。

  • Metrics&Targets

    • A: 組織が戦略およびリスク管理プロセスに沿って、重要な自然関連リスクおよび機会を評価し、管理するために使用する指標を開示すること。

    • B: 組織が自然への依存性および影響を評価し、管理するために使用する指標を開示すること。

    • C: 組織が自然関連の依存性・影響・リスクおよび機会を管理し、これらに対するそのパフォーマンスを評価するために使用する目標および目的を説明すること。

少し長くなってしまいましたが、このフレームワークはカーボンに関する開示フレームワーク(TCFD)を参考につくられていることもあり、TCFD同様に今後さらにグローバルで市民権を得ていく可能性があります。

 

一方、基本的にカーボンを軸に情報収集・開示を行うカーボンアカウンティング(炭素会計)に比べると、生物多様性は評価範囲が広く直感的にイメージしづらいのは事実で、実際それによって認知がそれほど広がっていないような気もします。例えば、生物多様性と言っても、絶滅危惧種保護のようなイメージしやすいものから、土壌に生息する微生物のバランス回復、草花の受粉を媒介する蜂の活動、そして海・川等で過ごす生物の動き等、とにかくカバー範囲が広大です。

 

繰り返しになりますが、TNFDアダプターとなった企業は、2025年までに同フレームワークに沿って情報開示することを目指しており、そこに関連するサービスが、スタートアップからも生まれ始めています。



生物多様性をテーマとする世界のスタートアップ


大まかな潮流については理解できたものの、実際に生物多様性をビジネステーマとする場合の具体的なアプローチにはどのようなものがあるのでしょうか。実際にサービス開発を進めているスタートアップを5社ピックアップし、それぞれの事業内容を見ていきたいと思います。並び順は設立が古い順としました。

 

設 立:2014年

地 域:イギリス

資 金:4,000万ドル(≒60億円)

概 要:

Nature Metricsは、eDNAを活用した自然モニタリングソフトウェア「NatureMetrics Intelligenve Platform」をサブスクリプション形式で提供しています。eDNAとはenvironmental DNAの略で、日本語では環境DNAと訳されます。こちらのサイトでは、eDNAは「水や土壌、大気などの環境中に放出されたDNAの総称。サンプリングした水や土壌を分析することにより、その環境中にどのような生物が存在するのかを網羅的に把握したり、特定の生物が存在するか否かを検知することができる。」と説明されています。

(Source: https://www.naturemetrics.com/platform)

 

インフラ開発プロジェクトを進めるプラントエンジニアリング・水道会社・鉱山会社、あるいはそれらの組織にアドバイスや提言を行うコンサルティング会社・自然保護団体等が主たる顧客となっており、ホームページによるとすでに500社(営利企業に限らないため「組織」という単位が適切かもしれません)以上の顧客が存在するようです。こういった顧客は、プロジェクトが生態系に与える影響を評価したいというモチベーションでサービスを利用します。

具体的なサービス利用方法ですが、顧客はNature Metricsから送られるキットを用いて水・土壌からサンプルを採取し、そのサンプルをNature Metricsに返送します。また、サンプル採取場所で専用アプリからキットに掲載されたバーコードを読み込むとGPS機能を通じてサンプル採取場所を記録することができます。その後、2〜10日以内に、Nature Metricsから顧客にサンプルの分析結果が送られてきます。分析場所に応じて必要なキットは異なり、こちらのページを見ると、2024年1月時点で約20種類のキットが存在します。

例えば、代表例としてオオカンムリイモリ(GCN, Great Crested Newts)検出専用キットが挙げられます。オオカンムリイモリは欧州の保護種で、イギリスでは、個体および卵を捕獲・殺害することや、繁殖・休憩場所を損傷・破壊することは法律で禁じられています。万が一、オオカンムリイモリやその生息地に損害を与えることが避けられない場合は、政府が指定する機関から緩和ライセンスを取得する必要があります。なお、オオカンムリイモリはあくまで一例で、他にもこうした保護指定種がいくつも存在します。顧客にとって、開発場所の生物多様性を把握すること、そしてプロジェクト推進中に多様性が損なわれていないかモニタリングすることは、「nice to know」ではなく「must know」になりつつあります。

(Source: https://www.wildlifetrusts.org/wildlife-explorer/amphibians/great-crested-newt)

 

設 立:2019年

地 域:フランス

資 金:920万ユーロ(≒16億円)

概 要:

Iceberg Data Labは金融機関向けにポートフォリオ企業が環境に与える影響をデータ分析できるサービスを提供しています。環境データの中には炭素排出量も含まれ、そこに並ぶ形で生物多様性も分析項目に入っています。同社の特徴は、取引先企業の生物多様性に関するスコアを、さまざまな角度から算出しているところにあります。

例えば、Corporate Biodiversity Footprint(CBF)はその1つで、取引先を含めたサプライチェーン全体の生物多様性を、独自の方法論に基づいて評価します。他にも、企業がエコシステムにどう相互依存しているかを評価するDependency Score、あるいは当該企業が生物多様性に与える影響が市場平均に比べてどの程度大きいか(小さいか)を測るBiodiversity Avoided Impact Score等があります。

また、同社は「Barbatus」という独自の生成AI技術を活用し、生物多様性を含む各環境項目の観点から関係の深そうな情報をさまざまなソースから収集し、スコアリングしています。これは主に金融機関のアナリストの調査時間を削減し、市場平均との差分を分析・評価するサポートを行うことを主眼としているようです。

ホームページの顧客リストには、BNP ParibasやAmundi等、グローバル金融機関が並んでいます。


設 立:2020年

地 域:イギリス

資 金:300万ドル(≒5億円)

概 要:

Zulu Ecosystemsは、「Let’s regenerate 1 billion hectares globally(世界の10億ヘクタールを再生しよう)」を合言葉に、データを用いて土地再生を促進する事業を展開しています。顧客ターゲットとしては地主と投資家の2パターンが想定されています。

地主に対しては、その地主が保有する土地の歴史・地形・土壌組成を独自技術で分析し、どの程度森林を増やすことができるか、それによって生物多様性がどのように変化するか、景観がどのように変わるかをデータで示します。これらのデータがあることによって、土地所有者は生物多様性に貢献したい法人企業からの投資を受け入れやすくなったり、国からの環境関連の助成金を受けやすくなります。興味深いのは、同社のシードラウンドにおいて、Google Mapの共同創業者であるLars Rasmussen氏が株主として参画している点で、大規模な土地を正確にマッピングするという部分に技術的なポイントがあるようです。

投資家に対しては、不動産(土地)投資にあたって行われるデューディリジェンスを代行しており、デューディリジェンスには生物多様性を始めとする環境的な観点はもちろんのこと、補助金や借入を組み合わせた資金調達計画も含まれており、プロジェクト契約の交渉までワンストップでサポートします。さらに、実際に土地修復が開始すると、プロジェクトの進捗フォローと継続的な土壌調査を行い、計画通りにプロジェクトが進んでいるか調査します。

(Source: https://www.zuluecosystems.com/)

 

設 立:2021年

地 域:ドイツ

資 金:情報なし

概 要:

Soilytixをで一言で表すとしたら「土壌テック企業」です。同社は土壌に含まれる微生物の多様性を分析し、優れた多様性を持つ土壌との比較を通じて、土壌の肥沃化に貢献します。土壌サンプルに含まれる全微生物のDNAを抽出し、配列に基づく分類と割合を定量化します。その微生物構成が、他の土壌の微生物構成とどのように異なるかを分析し、コンサルティングを実施します。同社はこのサービスを「MySoil」と呼んでいます。ちなみに、同社はハンブルクで生物学を研究してきたPhD人材が多く在籍しています。

なお、微生物遺伝子解析という文脈では、IDATEN Ventures 出資先のbitBiomeが高い技術力を有しており、非常に細かい単位で分析することができます(独自のシングルセルゲノム解析技術)。

 

設 立:2021年

地 域:ドイツ

資 金:-

概 要:

前述のSoilyTixが「陸(土壌)」を舞台とする企業なら、Stream Oceanは社名の通り「海」を主戦場とする企業で、AIを活用した海洋生物多様性モニタリングサービスを提供しています。具体的には、海面に漂うブイと海底に沈めるおもしの間に「Stream Ocean Camera」という独自の自律型水中カメラを設置し、一回の充電で最長4週間分の水中画像撮影を行います。

(Source: https://www.streamocean.io/technology)


なお、こちらは2024年リリース予定となっていますが、カメラで撮影された動画・静止画はオンラインダッシュボードに連動しており、リアルタイムで海中のモニタリングが実施可能となります。カメラに搭載されたAIが水中の魚を認識し、データベースに照合して種を判別できる点が技術的な強みのようです。

(Source: https://www.streamocean.io/technology

 

調べてみると、今回ピックアップしたリストの他にも、ユニークな着眼点や技術を持つ企業はいくつかあるようですが、今回はこれで以上とします。


改めて個別企業を調べてみると各社アプローチが多様で、生物多様性がカバーするテーマの広大さを感じます。それもあってか、今回ご紹介した企業の多くは、一部の領域にフォーカスして取り組むところから始めているようです。これからカーボンニュートラル同様に一般企業に対する情報開示要請が高まってくると、できる限りオールインワンで手軽に情報開示準備が進むようなプロダクトに対する需要が増えていくような気がします。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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