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Writer's pictureShingo Sakamoto

成膜技術を研究開発するスタートアップ・大学研究室

Updated: Mar 1, 2023

今回は、成膜技術について調べてみました。膜の中でも、特に「多孔性を持つ分離膜」に注目しました。分離膜は、環境・エネルギー問題にもつながる、昨今関心が集まる技術です。


スタートアップだけでなく大学研究室も可能な範囲で調べてみましたので、ご参考ください。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/付属品-カメラ-サークル-円形-19956/)


分離膜の用途と種類

まず分離膜とは何か、こちらのサイトを参考にご紹介します。


物質を分離する技術には、蒸留・晶析・抽出等、さまざまな種類がありますが、この中で膜を用いて分離する際に使用される膜を「分離膜」と言います。膜の細孔や膜に対する物質の溶解度差等を利用して、液体や気体の中に含まれている粒子の除去や、溶液中の物質の分離を行います。


分離膜の分類基準として、孔径・用途・材料等が挙げられます。例えば、孔径で分類すると、2nmより小さい粒子や高分子の分離に対しては、ナノ濾過膜(NF)、逆浸透膜(RO)、イオン交換膜(IE)等、孔径が大きくなるにしたがって、限外濾過膜(UF、2nm~0.1μmの範囲の粒子や高分子を分離)、精密濾過膜(MF、0.1μmより大きい粒子や高分子を分離)等が用いられます。


材料別には、大きく有機膜・無機膜に分類することができます。有機膜材料の例として、ポリエチレン・ポリプロピレン等が挙げられます。有機膜は比較的安価である一方、使用できる温度範囲が狭いと言われています。無機膜材料の例としては、ガラス・ゼオライト・シリカ等が挙げられます。有機膜に比べて多細孔かつ高温高圧で使用可能という特徴を有しています。


孔径・分離対象・材料ごとの整理として、図1をご参考ください。

(図1)

(Source: https://www.ngk.co.jp/academy/course02/03.html)


こうした分離膜の評価基準は、用途に応じて変わります。分離膜を、どのような環境で、どれくらいの期間使用し、何を分離したいのかによって、孔径・比表面積・通液性・多孔度等の最適な組み合わせが決まってきます。



スタートアップ


まずは、多孔性薄膜の研究開発を公表している国内のスタートアップを3社ご紹介します。創業年が新しい順に記載します。


  • 創業 2015年

  • 事業概要 金属有機構造体(MOF=Metal Organic Framework)技術の研究開発

  • 技術の特徴 金属及び有機配位子を選択することにより、自由度の高い細孔空間が設計可能です。また、MOFは結合パターンが柔軟であることから、開閉可能な細孔を持った構造にすることができ、用途の拡張性が高くなります。

  • 技術の出自 MOFは元々京都大学で研究開発が進められた技術で、そこからAtomisを含む数社が事業化を進めています。

  • 現状 2021年12月にシリーズBラウンドで調達した12億円を用いて、MOFの量産に向けた拠点建設に着手するそうです。

  • 資金調達状況 累計16億5,000万円調達しており、以下の事業会社・ファンドが株主として参画しています(株式会社は省略)。 クボタ、三井金属、長瀬産業、商船三井、スパークスグループ、京銀リース、みやこキャピタル、中信キャピタル、泉州池田キャピタル、SBIインベストメント


  • 創業 2013年

  • 事業概要 セラミック製の機能性分離膜の製造、およびそれを活用した省エネ機器の開発

  • 技術の特徴 同社の強みは、高精密に細孔径が制御された分離膜層を製造できる点にあります。膜孔径はnmレベルで、材料にはゼオライト・シリカを用いています。自社開発のプロセスシミュレーターを保有しており、顧客の希望に応じて分離膜を柔軟に作り分けることができます。 また、さまざまな物質を高い処理速度で分離できるよう、機能膜・中間層・支持体の三層構造を採用しています。(下方の図2をご参照) 中間層・支持体は機能膜を支えるために平滑性・強度が求められる一方、その2点を追求すると膜厚が増し、透過性が悪化するというトレードオフが発生します。イーセップは中間層にシリカ、支持体にアルミナを用いて、薄い膜厚と強度を両立することができているそうです。 また、従来のゼオライト膜だと0.5nm以下の溶剤分離・ガス分離しかできなかったものの、シリカ膜を用いれば2nm以下まで対応領域を広げることができるようです。

  • 技術の出自 機能膜は広島大学・大阪大学との共同研究に基づいており、中間層・支持体はイーセップが独自開発した技術です。

  • 現状 すでに基礎開発、製品化、サンプル出荷が完了しており、現在は膜の量産体制(2,000本/月〜)を構築中であるそうです。

  • 資金調達状況 累計2億2,000万円を調達しており、以下の事業会社・ファンドが株主として参画しています。 中信ベンチャーキャピタル、日本ベンチャーキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタル、京銀リースキャピタル、三立化成、セントラルフィルター工業、東洋スクリーン工業、冨士色素

(図2)

(Source: https://esep.kyoto/technology/)



  • 創業 2011年

  • 事業概要 ミストドライ技術を用いた成膜ソリューション事業(およびパワーデバイス事業)

  • 技術の特徴 同社は、ミスト状の溶液を用いて、酸化膜・金属膜・有機膜等のさまざまな薄膜を製造できる技術を有しています。nm〜μmレベルの膜を、真空状態でなく大気圧で製造できる点が強みです。 細孔フィルター表面にミストコーティングすることで、細孔自体を収縮させることなく、表面部分の孔径を小さくすることができます。同社は、製造プロセスや薄膜に関連する特許を250件以上出願しているそうです。

  • 技術の出自 元々京都大学で研究されていたミストCVD法(CVDはChemical Vapor Depositionの略で、日本語では「化学気相成長法」。大気圧〜中真空状態で、ガス状の気体原料を送り込み、化学反応によって薄膜や粉体を形成させる。)をFLOSFIAが独自に発展させて、ミストドライ技術が完成したようです。

  • 現状 成膜ソリューション事業については、現状に関する確かな情報を見つけることができませんでした。

  • 資金調達状況 累計で39億円調達しており、以下の事業会社・ファンドが株主として参画しています。 ダイキン工業、JSR、三菱重工業、MHIイノベーション推進研究所、安川電機、ブラザー工業、デンソー、フジミインコーポレーテッド、クオンタムリープキャピタルパートナーズ 、京都大学イノベーションキャピタル、Eight Roads Ventures Japan、京銀リースキャピタル、SBIインベストメント、フューチャーベンチャーキャピタル、スパークスグループ、みやこキャピタル、ニッセイキャピタル、東京大学エッジキャピタル、環境エネルギー投資、SMBCベンチャーキャピタル、しがぎんリース、日本政策投資銀行



アカデミア


続いて、国内大学の研究室をいくつかご紹介します。恐らく、これら以外にも多くの研究室があるはずですが、インターネット上で具体的な研究内容を公表していたり、研究成果に関するプレスリリースを出しているところのみ、ピックアップしました。


広島大学

  • 無機多孔体プロジェクト研究センター 触媒特性と分離特性を組み合わせた無機多孔体の構造体システム設計を自在に行うための研究を進めています。具体的には、ゼオライト、シリカ、金属酸化物を材料とする無機膜が対象となります。


明治大学
  • 理工学部 応用化学科 永井研究室 天然ガス精製(CO₂/CH₄分離)、火力発電所から排出されるCO₂削減 (CO₂/空気分離)、そして燃料電池や石油精製のための水素精製(CO₂/H₂)等の気体分離において、高圧CO₂による高分子膜の可塑化が課題となっています。 そこで、同研究室は可塑化しないような次世代高分子機能膜の新素材開発を進めています。


芝浦工業大学
  • 工学部 応用化学科 野村研究室 ゼオライトには、現時点で253種類もの骨格構造がありますが、工業的に広く利用されているのは数種類しかないそうです。(一例として、LTA・MFI・MOR・FAU等。ゼオライトの骨格構造にはアルファベット大文字3個からなる骨格コードが国際ゼオライト学会から与えられています。前述以外のコードにつきましても、こちらからご参照いただけます。) ゼオライトには、0.2nm〜1.0nmレベルの分子ふるい機能とイオン交換機能がありますが、同研究室は、広く使われている数種類のゼオライトに後処理を加えることで、より細かな機能制御ができないか研究を進めています。 ゼオライトに表面処理を実施することで、元々持っている性質を変えることなく、表面部分で制御が可能となるようです。用途としては、炭化水素分離、CO₂等が想定されています。コンセプトはFLOSFIAのミストドライに似ているような印象を受けました。

東北大学
  • 工学研究科 応用化学専攻 三ッ石教授グループ 高い選択性を持った分離膜の開発には、多孔質薄膜材料の構造や表面特性をナノスケールで制御することが求められます。 同グループは、かご型シルセスキオキサンを有する高分子薄膜を用いることで、8nmの膜厚で細孔サイズを数nmスケールで制御可能な多孔質SiO₂超薄膜の開発に成功しました。 また、薄膜の表面を外部pHに対して応答可能な分子で均一に覆うことで、電荷を帯びたイオンの透過性を、外部のpHに応じて制御することができます。


(図3)

(Source: https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20201104_02web_mof.pdf)


  • 酸化チタンは、一般的に焼成・焼結温度が高い(300〜400℃以上)ため、プラスチックのように耐熱性の低い基板や機材への接着と良質な成膜が困難でした。 大阪大学のグループは、溶液をプラスチック基板に塗布し、高強度の白色光を照射することで、基板へ熱ダメージを与えることなく、酸化チタン薄膜を焼成・焼結できる技術を開発しました。


  • 水面に油膜ができる現象を応用し、原材料溶液を水面に滴下するだけで精密な立体ナノ構造を構築し、多孔質で導電性を持つ極薄シートの開発に成功しました。 具体的には、ヘキサアミノトリフェニレン(HATP)をニッケルイオンが含まれる水面に散布すると、HATPが水面に広がり、ニッケルイオンを介して次々と連結する。六角形の穴が規則正しく空いたハニカム構造を形成します。(図4ご参照)

(図4)

(Source: https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/8704.html)



あくまで、現時点かつ公開されている範囲での調査結果となりますが、まだ研究開発段階にある技術が多く、事業段階に入っている数は限られている印象です。また、数が多くなってしまうため今回は割愛しましたが、国内では大手企業が大学と共同研究を行う動きが活発のようです。


分離膜は、昨今注目されているDAC(Direct Air Capture、大気中のCO₂を直接回収する技術)にも重要な要素の1つであり、今後世界中で研究開発の動きが強まってくるかもしれません。



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