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  • Shingo Sakamoto

ますます重要性が高まる海外サプライヤーマネジメントについて

最近、海外サプライヤーマネジメントというテーマに興味を持っています。「調達・購買の教科書」という書籍によれば、サプライヤーマネジメントとは、「公正なサプライヤー評価によるサプライヤー戦略に基づいて、サプライヤーを層別化し差別化し扱うこと」と定義されています。


2020年以降、コロナウイルスの蔓延によってサプライチェーンの分断が発生し、各地で生産拠点の移転等が検討・実施されています。JETROによれば、日本政府は製造業各社に対して、「生産拠点の国内回帰」および「海外サプライチェーンの多元化」を推奨しています。


今回は、この「海外サプライチェーン多元化」という今後のトレンドに注目し、どのように海外サプライヤーをマネジメントしていくことが求められるのか、という観点で考察を行います。


海外サプライヤーとの取引については、自分自身あまり詳細に把握できていなかったテーマであるため、これを機に学んでいけたらと思っています。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%e5%9c%b0%e5%9b%b3-%e3%82%b0%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%83%96-%e4%b8%96%e7%95%8c-%e5%9c%b0%e7%90%83-3656375/)



サプライヤーマネジメントとは

まずは、「調達・購買の教科書」第4章「サプライヤマネジメント」を参考に、サプライヤーマネジメントの内容についてご紹介します。


サプライチェーンマネジメントとサプライヤーマネジメント

「サプライチェーンマネジメント」という言葉は近年特によく聞かれるようになり、インターネット上で見つけることのできる情報も多い印象を受ける一方、「サプライヤーマネジメント」についてまとまった情報は、サプライチェーンマネジメントに比べると少ない気がします。


サプライチェーンマネジメントは、こちらのサイトによれば、「サプライヤーから最終消費者までの業界の流れを統合的に見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための経営管理手法」と表現されています。サプライヤーマネジメントは、サプライチェーンマネジメントの一部分であると同時に、ぐぐっとサプライヤーにフォーカスした管理手法のようなイメージであると私は捉えています。


具体的には、サプライヤーマネジメントとは、データに基づいて、サプライヤーの実力を公平・公正に評価し、評価に基づいて優れたサプライヤーには発注量を増やし、劣ったサプライヤーには発注量を減らす、ということになります。その究極的な目的は、サプライヤー構造を強化することにあります。


サプライヤー評価

「調達・購買の教科書」で紹介されているサプライヤー評価項目には、品質・コスト・納期・技術開発・経営の5つが挙げられています。1つずつ見ていきましょう。


  1. 品質 品質項目は、6つに分解されています。納入品質(契約締結時に合意した品質基準が守られているか)、不良品金額(不良品金額 / 購入額)、市場クレーム数品質管理体制(品質管理基準、作業手順書に従って作業が行われているか)、安全管理(安全管理計画通りに作業が行われているか)、品質改善提案実績(サプライヤーから品質改善提案が年に何回行われているか)。

  2. コスト コスト項目は、3つに分解されています。平均目標単価達成度(新規採用品が最初に設定した目標価格よりどれくらい安価だったか)、コスト低減協力度(採用後にどれくらい価格低減を実現してくれたか)、コスト低減提案実績(サプライヤーから価格低減提案が年に何回行われているか)。

  3. 納期 納期項目は、4つに分解されています。納期遵守率緊急納期協力度(突発納入や急な納期変更に理解を示し、積極的に協力してくれるか)、工程能力(Cp値。詳細はこちらをご参照ください。)、納期管理体制(納期遅れの原因が分析され、適正な対策が講じられているか)。

  4. 技術開発 技術開発は、4つに分解されています。技術魅力度(メーカーの製品開発に欠かせない、先進的かつ固有の技術・開発力をサプライヤーが有しているか)、開発協力度(メーカーの製品開発にサプライヤーが積極的に参加し、適切な技術アドバイス・開発をしてくれるか)、開発日程遵守度(定められた開発日程を遵守して開発を完了できるか)、仕様提案実績(サプライヤーから仕様提案が年に何回行われているか)。

  5. 経営 安全性・収益性・成長性・返済能力等、サプライヤーの財務体質を分析します。財務指標の基準については、業界によってばらつきがあるため、業界水準に比べてどうか、という観点で見ることが多くなります。財務体質だけでなく、CSR・環境対応(法令遵守・CSR等に配慮された経営がなされているか)、経営者・経営方針(優れた経営方針・理念を確立し、社内に浸透しているか)、従業員・労務管理状況等も経営項目では評価対象になります。


以前、サプライチェーンリスクマネジメントソフトウェアを提供するInterosというスタートアップをIDATEN Venturesのブログでご紹介しましたが、Interosは上記5つの評価項目の中で、特に5番目の経営に関するリスクを管理する機能を提供しています。



ランクごとのサプライヤーとの関わり方

書籍では、こうした5つの評価項目から算出した合計点に基づいてサプライヤーをA〜Dまでランク付けし、「ランクごとに関わり方を調整すること」、そして「関わり方を全社で統一しておくこと」が推奨されています。


なお、5つの評価項目のうち、全項目を同等に扱うのではなく、重み付けをすることもあります。例えば、メーカー側のスタンスとして「品質>納期」と優先順位が明らかに決まっているのであれば、合計点を計算する時に、品質項目が合計点に占める比率を増やし、その分納期項目が占める比率を減らします。


各ランクごとの位置付けは、以下のようになっています。

  • Aランク 自社にとって重要なサプライヤーであり、技術提携を含め、今後積極的な発注量増加を図る。

  • Bランク 推奨サプライヤーとして、Aランクに次ぐ優先順位で、今後継続した取引を行っていく。

  • Cランク 取引は可能だが、指導・育成を行いながら関係を構築していく必要がある。

  • Dランク 新規・既存品の採用を停止し、代替サプライヤーを検討する。


A・Bランクについては、良好な関係を維持することが基本方針になります。そのため、表彰制度によって感謝の意を伝えることや、現場レベルはもちろん経営レベルでも、積極的に交流することが推奨されています。


きちんと交流できているかどうかは、評価項目にも現れてくると思います。例えば、各評価項目の中に「〜提案実績」という小項目がありますが、これは調達側であるメーカーの能力を測る指標でもあると考えられます。メーカーが「サプライヤーのモチベーションを上げ、提案を引き出すような」コミュニケーションを日頃から取れていれば、提案回数も増えてくるかも知れません。


Cランクについては、評価が低い項目について改善を求めるよう、対話を続けていくアプローチが推奨されます。


そして、Dランクについての基本方針は、「取引を停止し、代替サプライヤーを探す」となっています。一方、ここで気を付けるべき点として、下請中小企業振興法に違反しないよう、取引停止までに猶予期間をもって予告を行うことが推奨されています。




サプライヤーの多元化


冒頭でも触れましたが、コロナウイルスによって、サプライチェーンに変化が起きているようです。こちらのレポートによれば、コロナウイルスの流行以前、日本企業は経済合理性を重視したグローバルな最適地生産体制を構築していましたが、パンデミックによって海外からの部材調達および海外生産活動が一時停止し、今後は生産拠点の一部国内回帰や調達先の分散等が進んでいくと言われています。

(Source: https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport118.pdf)


安全な調達先を模索する動きは、過去には逆方向(国内→海外)に動いています。東日本大震災が起こった2011年に、NTTデータ研究所から公表された「大震災がサプライチェーンにもたらしたもの~より強い日本のモノ作りに向けて~」という記事には、「...国内企業も国内に依存したリスク管理体制を見直すために海外からの部材調達を増やす意向を鮮明にしはじめた。実際に、中核部品でさえも国内メーカーの海外拠点製へ切り替え、さらに品質が高く競争力のある現地メーカーの開拓を視野に入れはじめた企業もある。」という記述があります。


実際に、国内製造業の海外生産比率(海外生産高 /(国内生産高 + 海外生産高))の推移を見てみると、2006年〜2011年あたりには停滞気味だった海外生産比率が、2011年から2015年頃にかけて、着実な増加傾向にあったことが窺えます。

(Source: https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/pdf/0115-014188_5.pdf)


なお、少し細かくなりますが、上記の海外生産比率は「日本のメーカーがどれくらい海外生産を行っているか」という指標であり、「海外サプライヤーからどれくらい調達しているか」と同義ではありません。一方、海外生産時は、生産国あるいは域内から原料・中間品を調達する傾向が強いため、海外生産比率と海外サプライヤー調達比率の間には、相関性があると考えられます。


メーカーにとって、基本は優良サプライヤー(A・Bランク)と関係を深め、調達先を集中させていく方が調達コストは安くなる傾向がある一方、感染症や震災のようなリスクを考えると、調達先を分散させていくことが今後さらに重要になってきそうです。



海外サプライヤーマネジメントのポイント


今後、海外サプライヤー調達比率が増えていく、あるいは、リスクの高い地域のサプライヤーからリスクの低い地域の海外サプライヤーへのシフトが進んでいくことで、「新規海外サプライヤーとの取引が増えていくかもしれない」と仮説を立ててみます。その場合、新たに海外サプライヤーと関係を構築するうえで、どんな点に気をつけるべきなのでしょうか。


海外サプライヤーとの取引開始まで

新規海外サプライヤーから調達を開始するまでに、以下のようなステップを踏むことが一般的になります。

  • 業界調査、サプライヤー調査

  • RFx

  • 契約・発注

  • 出荷、輸出国内物流、積荷

  • 入港・通関・諸手続き等

  • 国内物流・納入・受領・検収

  • 支払い

RFxは「x」に入る文字によって、それぞれ違った意味を持ちます。RFI(Request For Information、情報提供依頼)、RFP(Request For Proposal、提案依頼)、RFQ(Request For Quotation、見積り依頼)等。


契約・発注を確定する前に、基本的には「工場監査」(Factory Audit)を実施します。工場監査とは、「部材(部品や材料)をつくる工場の品質管理体制や製造現場の状況を確認して、要求した品質の部材が安定して納入されるような体制があるかを確認」する業務です。


工場監査は、サプライヤー候補を比較検討する中で欠かせないものですが、特に海外サプライヤーであれば監査に時間とお金を要するものになります。こちらのレポートでは、東芝がある部品のサプライヤー選定において、9社のサプライヤーを比較調査した例が挙げられています。


工場監査には、複数部門からメンバーが集まるケースもあります。「調達・購買の教科書」では、以下のような記述があります。「...以前、中国の深センにあるサプライヤーと話したときのことです。すると前に工場見学を受け入れた日本企業の話をしてくれました。調達・購買部門や品質保証部門、設計・開発部門等、なんと10人もやってきたそうです。...」これが特別に珍しいケースだったのか、平均的なケースなのかわかりませんが、10人の予定を合わせて行う工場監査が何度もあれば、なかなか大変そうです。


取引開始後

ちなみに、契約後には、主に品質チェックのために、定期的な工場監査が実施されます。


例えば、日本マクドナルド株式会社は、(2014年とかなり古いのですが)、「ビーフ、チキン、ポーク、フィッシュなどの食肉、魚介類やレタス、オニオン、キャベツなどの野菜のサプライヤーを対象に、最低年2回の無予告の監査や査察を新たに実施します。現在、国内外あわせて、約30社が対象になります。2回のうち1回は日本マクドナルドの品質保証担当者による査察、もう1回は、日本マクドナルドから依頼を受けた第三者機関の監査員が行います。2回の監査や査察は別の期日に、事前の通知なしで実施します。」という、新たな品質管理強化策を発表しました。最低でも年に60回の工場監査が行われることになります。


また、アステラス製薬株式会社は、グループ内の事業所と社外の製造・流通事業者の品質保証体制を定期的に監査しており、2021年3月期はグローバルで305件の品質監査を実施したそうです。


味の素株式会社は、コロナウイルス状況下での工場監査を、遠隔コミュニケーションツールで実施する検討をしているようです。オフィスから工場にFaceTimeやMicrosoft Teamsを接続するようなやり方です。ただし「現時点では、訪問による監査を100%代替できる手法ではない」と書かれています。

(Source: https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000886840.pdf)



「調達・購買の教科書」では、海外サプライヤーとの取引で気を付けるべき点に、「品質に関する考え方のGAP」が挙げられています。例えば、書籍内では「各工程での不具合防止」を志向する日本企業に対して、「最終検査でふるい落とせば良い」と考える傾向があるサプライヤーのGAP等が、一例として挙げられています。これはどちらが良いというわけではなく、サプライヤーに対して、取引開始前から品質管理体制・品質向上施策等を伝達しておくことが大事になります。


また、近年は「モノの品質」はもとより、労働者の人権保護も、サプライチェーンの中で重視されています。特に欧米では先行して、サプライチェーン人権ディーデリジェンス関連法案が承認されています。JETROからは、2022年1月に「「サプライチェーンと人権」で、日本企業に期待と責任(ASEAN)」というレポートが発表されました。海外サプライヤーマネジメントにおいても、「QCDS=品質・コスト・納期・サポート」に加えて、人権や環境といった要素が重視されていくようになると思われます。



こうして改めて調べてみると、海外サプライヤーマネジメントは、日本の製造業が競争力を維持向上していくために重要なテーマの1つであると感じます。もちろん、コミュニケーションの取りやすい国内サプライヤーでサプライチェーンを完結させる、という戦略もあるかと思いますが、自然災害リスクや人材コストを考えると、海外サプライヤーとの関係構築は欠かせません。


どのように新規サプライヤーを開拓し、条件をすり合わせ、品質・納期・コスト管理を行っていくか、そして、いかにA・Bランクの海外サプライヤーを増やせるか。スタートアップとしてどのようにこうしたテーマに関わっていくことができるか、考えていきたいと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

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