今回は、産業廃棄物処理業界について、深掘り調査をしてみました。
(Source: ChatGPTで筆者が生成)
産業廃棄物とは?
そもそも産業廃棄物とは、廃棄物の中でも事業活動に伴って生じた廃棄物を指しています。産業廃棄物は20種類に分類されており、逆にそれら以外の廃棄物は一般廃棄物となります。具体的には、以下の20種類です。
この中でも、爆発性・毒性・感染性があり、人体の健康や自然環境を害する可能性のある産業廃棄物を「特別管理産業廃棄物」といい、通常の産業廃棄物よりも厳しい処理基準が設けられています。特別管理産業廃棄物も分類が決まっており、以下のように分けられます。
(Source: https://yamaichishoji.co.jp/knowledge/what-is-specially-controlled-industrial-waste/)
産業廃棄物処理をとりまく法律
産業廃棄物を取り巻く法律をご紹介します。まず、最も包括的な法律として、「循環型社会形成推進基本法」というものがあります。同法をベースに、廃棄物の適正処理を定める「廃棄物処理法」とリサイクルの推進を定める「資源有効利用促進法」が並びます。前記2法よりも個別具体的な規制を定めているのが、「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」「食品リサイクル法」「建設リサイクル法」「自動車リサイクル法」です。
足並みの揃った法体系に見えますが、管轄省庁が少しずつ異なるのは興味深いポイントです。上記のうち、「循環型社会形成推進基本法」「廃棄物処理法」「建設リサイクル法」は環境省、「資源有効利用促進法」「自動車リサイクル法」は経済産業省、「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」「食品リサイクル法」は環境省・経済産業省・財務省・厚生労働省・農林水産省の5省共管となっています。それだけ、廃棄物というのは特定の産業に紐ついたモノではなく、モノをつくり、モノを消費する我々の生活に幅広く関わっているということかもしれません。
産業廃棄物処理に関する一般的な規制を定めているのが「廃棄物処理法」(正式名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」)です。同法の第14条、第14条の2に、産業廃棄物処理業におけるルールが書かれています。
せっかくなので、正確に理解するために、法律の原文を参照します。ポイントとなる部分だけ抜粋しますと、
第14条
産業廃棄物の収集または運搬を業として行おうとする者(産業廃棄物収集運搬業者)は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可(5年ごとに更新)を受けなければならない。
産業廃棄物の処分を行おうとする者(産業廃棄物処分業者)も、上記同様の許可が必要だが、「自ら排出した産業廃棄物を処分する事業者」および「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの処分を業とする事業者」は許可が不要である。
「産業廃棄物収集運搬業者」「産業廃棄物処分業者」は、産業廃棄物処理基準に従って収集・運搬・処分を行わなければならない。もし適正な収集・運搬・処分が難しくなった場合は、遅滞なく、その旨を委託者に書面通知しなければならない。
「産業廃棄物収集運搬業者」は収集・運搬・処分を、「産業廃棄物処分業者」は処分を、政令で定める基準に従った場合を除き、それぞれ他人に委託してはならない。
第14条の2
「産業廃棄物収集運搬業者」「産業廃棄物処分業者」は事業範囲(収集・運搬・処分)を変更する場合、都道府県知事の許可を受けなければいけない。
収集・運搬・処分というフレーズがたびたび登場しますが、ここはもう少し具体的に理解すべきところです。まず、大きく「収集・運搬」と「処分」に分けることができ、「処分」はさらに「中間処理」「最終処分」に分けられます。まず「収集・運搬」ですが、注意点として都道府県をまたいだ運搬を行う場合は積込と積卸どちらの許可も必要なります(例えば、東京都で廃棄物を積込み、神奈川県を通過し、静岡県で積卸す場合、東京都と静岡県両方の許可が必要)。
続いて処分業です。以下のイメージ図で左上が中間処理、右上が最終処分です。
中間処理の方法は「焼却(燃やして燃え殻にすること)」「破砕(砕くこと)」「溶融(1,400度以上の高温で燃やして溶かすこと)」「脱水(脱水機で汚泥等から水分を飛ばすこと)」「選別(種類ごとに分別すること)」等を中心にいくつも種類があります。
最終処分は処分場のタイプによって分類することができます。特に有害な産業廃棄物を処分できる場所が「遮断型最終処分場」、そのまま埋立処分しても環境保全上問題のない産業廃棄物を処分できる場所が「安定型最終処分場」、分解腐敗して汚水を生じる廃棄物を埋立処分できる場所が「管理型最終処分場」と言われています。
環境省は毎年ホームページで産業廃棄物処理施設の状況について情報公開を行っています。2022年度のデータを参照すると、中間処理施設が19,413件(前年から1件増)、最終処分場が1,568件(前年から32件減)となっています。
同資料によると、産業廃棄物処理業の許可件数は2022年4月1日時点で234,741件、特別管理産業廃棄物処理業は22,554件、合わせて257,295件となっています(収集・運搬を含む)。内訳は以下のようになっています。
ちなみに、収集運搬業のところに「積替あり」「積替なし」とありますが、これは積替保管機能を有する収集運搬業界か否かを表しています。物流の世界で「積載率(最大積載重量に対して、実際に積載した貨物の重量の比率)」という指標がありますが、積替することでロットを大きくし積載率を向上させやすくなります。なお、積替保管も廃棄物処理法で定められた許可の1つとなっています。
(Source: https://greenprop.jp/column/p1720/)
産業廃棄物処理業界の構造的特徴
廃棄物処理業界の特徴として、「ローカルビジネス」であることが挙げられます。法律で定められている通り、その地域で事業を行うためには都道府県知事の許可が必要であることや、そもそもあまり遠くに運搬すると物流コストがかさんでしまうことが関係しています。
産業廃棄物業界のタイムリーな統計情報を更新している産廃情報ネット(公益財団法人産業廃棄物処理事業振興財団が運営)というサイトがありますが、そこには2024年7月31日時点で各都道府県から許可を得ている事業者の内訳が掲載されています。以下のデータは、それを筆者がスプレッドシートに書き出して表にしたものです。興味深いのは東京都という比較的面積の小さい都道府県に事業者が最も集積していることです。これは、排出事業者が東京に集積していることが関係していると思われます。
(Source: https://www2.sanpainet.or.jp/sanpai/statistics.pdf を元に加工)
あまりにも東京都に多いので、面積との相関を見てみることにしました。それが次のデータです。左から2列目に各都道府県の面積(km2)を挿入し、その面積を許可事業者数で割り戻した数値を左から3列目以降に羅列してみました。この数値は、各許可事業者が各都道府県内でどれくらいの広さを商圏としているか、イメージを膨らませるには役立つと思います。各列で数値が大きいセルほど濃い緑、小さいせるほど薄い緑(最小は白)で塗ってみました。色が濃いほど1事業者あたりのカバー面積が大きい、つまり、ライバルが少ないことを表しています。
(Source: https://www2.sanpainet.or.jp/sanpai/statistics.pdf を元に加工)
やはり、東京都・埼玉県・神奈川県等の関東圏は密集しており、逆に北海道や鹿児島等は分散している印象です。
産業廃棄物処理業界とデジタル
廃棄物処理業界のデジタル活用状況を語るうえで欠かせないのが、まず「マニフェスト」の話です。マニフェストは廃棄物が適正に処理されているか確認するために用いられる書類で、正式名称は「産業廃棄物管理表」です。日本では、1990年に任意運用としてスタートし、1993年に義務化された制度です。
マニフェストは、産業廃棄物排出事業者が処理業者に対して、産業廃棄物を引き渡すタイミングで交付します。処理業者は委託された処理業務がいつ完了したか記載して返送することになっています。
マニフェストのテンプレートは以下のようになっています。
当初は対象が特別管理産業廃棄物に限られていたマニフェストですが、1998年には全ての産業廃棄物に対象範囲が拡大されました。
マニフェストがややこしいところは、1つの書類を、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者で共同して完成させなければならない点です。紙のマニフェストは複写式でA・B1・B2・C1・C2・D・Eの7枚つづりとなっています。排出事業者・収集運搬業者・中間処理業者間でやりとりするマニフェストを1次マニフェスト、中間処理業者・収集運搬業者・最終処分業者間でやりとりするマニフェストを2次マニフェストと呼び、全体として以下のような流れでやりとりされます。
なお、マニフェストには返却期限があり、B2票・D票は90日、E票は180日以内に戻すことが義務付けられています。
記入項目自体はシンプルなものの、関係事業者が多いと書類のやりとり・保管が煩雑になるのは致し方ないところがあります。そこで1998年に本格導入されたのが電子マニフェストです。紙のマニフェストの場合、マニフェストを交付した排出事業者は1年間のマニフェスト交付状況を都道府県知事に報告する必要がありますが、電子マニフェストの場合はその手続きを電子マニフェストシステム(JWNET、Japan Waste Network)運営元である日本産業廃棄物処理振興センターが行ってくれます。
電子マニフェストを利用するためには、JWNETに加入する必要がありますが、自社が加入していればよいわけではなく、ある産業廃棄物の処分に関わる全事業者(排出事業者・運搬収集業者・中間処理業者・最終処分業者)が加入していないと電子マニフェストを利用できません。
JWNETに加入するためには、当然ですがパソコンやネットワークの整備を行う必要があることに加え、毎年費用を払う必要があります。排出事業者はマニフェスト登録件数が2,401件以上の場合年間26,400円、2,400件以下の場合は1,980円。収集運搬業者は年間13,200円、処分業者は登録件数が1,381件の場合は26,400円、1,380件以下の場合は13,200円となってます。
JWNETのページを見てみると、令和5年度(2023年)実績で電子化率が81%(報告されたマニフェストのうち電子登録されたマニフェストの割合)と書かれています。
電子マニフェスト普及は、2018年に閣議決定された第4次循環型社会形成推進基本計画で2022年度に電子化率70%を達成することが目標として掲げられたこともあり、上記のように着実に進められています。
やや細かいのですが、JWNETに加入する運搬収集業者の少なさが気になりました。2024年9月時点で収集運搬業者としてJWNETに加入している数は78,065事業者ですが、収集運搬業者として都道府県から許可を得ている事業者は約213,000事業者あります(加入比率は36.6%)。一方、処分業者はもっと高い加入率となっています。JWNETに加入している処分業者は7,562事業者あり、都道府県から許可を得ているのは9,665事業者なので、加入率は78.2%となります。
わざわざ細かい数値を持ち出してまで加入率を参照してみたのは、前述の通り、電子マニフェストを完成させるためには、排出事業者・運搬収集業者・処分業者の協力が必須であり、どれから1事業者がJWNETに加入していなければ実現できないためです。そう考えると、マニフェスト電子化率が81%で、運搬収集業者の36.6%ということは、運搬収集業者として許可を得ている業者全てがアクティブに活動しているわけではない、という可能性があります。
上記の点について、こちらの論文を参考にすると、「廃棄物処理法の規定からすると、産廃の量に関わらず処理業許可を必要とされるため、たとえば建設工事現場に出入りする業者は、職種に関わらずすべて処理業許可取得を要求されている。その結果兼業が増えるのであるが、極端な場合産廃の売上がほとんどゼロの業者も存在することになる。」と書かれています。つまり、産廃処理許可は持っているものの、実質的な処理活動はほとんど行っていない業者が少なからず多数存在する、というのが実態なのかもしれません。
ちなみに、日本産業廃棄物処理振興センターはホームページで財務情報を公開しており、電子マニフェスト業の収益も見ることができます。2023年度は電子マニフェストの収益が約11億7,000万円であるのに対して、費用が3億5,700万円です。2024年3月31日時点で現預金は6億6,100万円、正味財産が48億5,700万円あります。
産業廃棄物処理の契約
マニフェストと関係が深いのが、委託契約です。ここからは、廃棄物処理にかかる契約を見ていきます。
まず、廃棄物の処理を委託する際に、排出事業者は収集運搬業者・処分業者(両者が異なる場合)それぞれと契約を締結する必要があります。この処理委託契約には以下5つの原則があると言われています。
二者間契約であること
書面契約であること
廃棄物処理法で定められた項目を盛り込むこと
許可証等の写しが添付されていること
排出事業者に契約終了から5年間の保存義務があること
東京都が契約書のひな形を公開しているため、よろしければご参照ください。参考までに、処理委託契約書の記入例をご紹介します。
まず、「処分方法及び許可品目」のところに、具体的な品目が書かれているのがポイントです。廃棄物処理の責任は排出事業者側にあるため、排出事業者としては委託する産業廃棄物と、処理業者の処分方法及び許可品目が正確にマッチしていることが重要です。現行の廃棄物処理法では、現地確認(排出事業者が、処理業者の適切な処理能力を実地で確認すること)が努力義務にとどまっていますが、自治体によっては強制的に義務付けているところもあります(近年そういった自治体が増えているとのこと)。
(Source: https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/model_syobun_sample-1)
第7条ではマニフェストに言及があります。第10条では排出事業者側の義務と責任が書かれており、廃棄物の品質(主に混入物に対する言及)によっては排出事業者が引き取らなければいけない、と定められています。
(Source: https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/model_syobun_sample-1)
第12条には、委託者(排出事業者)による運搬収集・処分業者に対して適切に処理が行われていることを報告するよう要求し、また現地を視察する権利が定められています。第13条には、再委託の禁止が定められています。
(Source: https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/model_syobun_sample-1)
以下は別表で、委託予定の廃棄物の種類、種類ごとの契約単価、予定数量、処分業者の処理施設および最終処分の情報が記載されています。
(Source: https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/model_syobun_sample-1)
産業廃棄物処理業界の主要企業とその動き
この章では、公開情報をもとに廃棄物処理の事業数値を把握するために、上場している廃棄物処理企業の分析を行います。今回は、3社をご紹介しつつ、その動きを通じて業界のトレンドも考察してみます。
大栄環境グループ
まず兵庫県に本社を構える大栄環境グループという企業です。同社は東証プライム市場に上場する企業で、2024年9月13日時点の時価総額が約3,010億円となっています。2024年3月期の売上高が730億円、営業利益197億円(営業利益率約27%)で、売上・利益共に過去最高数値を達成しています。
2023年3月期が売上高677億円、営業利益166億円だったこと、2025年3月期には売上高785億円、営業利益205億円を計画していることを考えると、力強い成長を見せていると言えます。
2024年3月期の売上730億円のうち710億円は環境関連事業、さらにそのうち631億円は廃棄物処理事業から創出されており、同社はまさにほぼ専業企業と言ってよいかと思います。
大栄環境グループのビジネスモデルは以下のようになっています。排出事業者から収集運搬・中間処理に係る費用を受領し、再生利用できるものは再資源化施設で再資源化して販売、再生利用できない廃棄物は自社が保有する最終処分場で処分します。図の下の方に強調されているのが、収集運搬〜中間処理〜最終処分までエンドツーエンドで手がけている点です。
エンドツーエンドで廃棄物処理を受託できる強みとして3点紹介されており、それぞれ以下のように書かれています。
収集運搬:廃棄物処理の透明化が求められる中での排出事業者からのニーズの高まり
中間処理・再資源化:許認可取得が難しく、利益率が高い大型の熱処理施設や最終処分場の保有
最終処分:外部委託による収益性低下の回避
1つ目のポイントは、廃棄物処理市場に訪れている変化を象徴していると思います。日本取引所(JPX)グループが公開する「ESG課題解説集 〜情報開示推進のため」という資料の3章は資源循環がテーマとなっており、その中には廃棄物・危険廃棄物管理に関して、ESG文脈で事業者に求められる責任が紹介されています。「近年、廃棄物処理法における排出者責任はますます強化されており、不法投棄や不適正な処分に対して行政処分を受け、評判リスクも生じうる。」とある通り、排出事業者が廃棄物処理を委託事業者任せにするのではなく、最終処分に至るまでしっかり見届ける責任が、従来以上に重要視されるようになってきていると思われます。
2つ目のポイントは、大型の熱処理施設や最終処分場は許認可取得が難しく、参入できる企業が限られるために利益率が高い、という点です。実際にそうなのでしょうか?こちらのサイトを見ると、熱処理施設かどうかまでは言及されていませんが、大型の処理施設の許認可取得が難しいという説明が書かれているのは事実です。廃棄物処理法第15条では、産業廃棄物の種類ごとに、一定の処理能力を超える処理施設には都道府県からの設置許可が必要となる旨が定められています。こういった施設の新規設置には、廃棄物処理法だけでなく建築基準法も関わっており、各行政庁の都市計画審議会を経て許可が必要となります。ただし、例えば東京都の場合、都市計画審議会は年4回しか開催されず、話が挙がってから許可が降りるまで大抵は2〜3年の時間が必要になると紹介されています。同サイトには、行政書士の観点から、産業廃棄物処理施設許可申請は難易度が高く長期戦であるという紹介がされています。結論として、特に熱処理施設と最終処分場が該当する、という点はわかりませんでしたが、大型施設の新規設置は相当に許認可のハードルが高いということは事実のようです。
3つ目のポイントは、最終処分の収益性がどの程度高いのか?という点が気になります。まず、最終処分の単価目安を把握しておきます。千葉県富津地区の産業廃棄物最終処分場のホームページによると、以下のような料金体系になっています。
(Source: https://www.cue-net.or.jp/shobun/gaiyou.html)
上記の処理施設は埋立処分容量が7,819,000m3あります。では、例えば全部がれき類として受け入れた場合、どれくらいの収入が見込めるのか、計算してみたいと思います。各産業廃棄物には、t(トン) ↔︎ m3(立方メートル)の換算係数が設定されており、がれき類は1tあたり0.68m3となっています。1tあたりの処分コストが税抜6,000円となっているので、0.68倍すると、1m3あたりの処分コストが4,080円。7,819,000m3 に 4,080円/m3を乗じると、319億円となります。単価が高いものでも計算してみます。例えば、「ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず(石綿を含有するもの)は処理単価が14,300円となっています。この廃棄物は1tあたり1m3であるため、14,300円/m3です。7,819,000m3に14,300円を乗じると、1,118億円となります。どんな廃棄物を受け入れるかによって、収入の規模は変わってきます。
ちなみに、処理業者によってばらつきはありますが、同じ廃棄物でも中間処理と最終処分ではコストが異なります。例えば、こちらのページによると、一般的ながれき類(コンクリートがら)の中間処理価格は1tあたり2,400円と、前述の最終処分価格の4割にとどまっています。埋立するだけの最終処分と違って破砕を行う中間処理は、機械を動かすランニングコストがかかるにも関わらず、です。
なんとなく、最終処分場の収益性が高いことはわかりました。一方、最終処分場は容量が埋まってしまったら、以降は収益を生み出すことができないため、その点は留意が必要です。最終処分単価が相対的に高いのは、広大な土地、自治体・住民との協議、そして環境アセスメントが必要で、新規参入ハードルが非常に高いためだと思われます。
大栄環境グループが最終処分場を保有できているのは、そもそも大栄環境グループが最終処分場の運営からスタートしていることが関わっています。その後、1984年には三重県伊賀市、1994年・2006年には兵庫県三木市、2017年には和歌山県御坊市に最終処分場を開設し、その間に、最終処分場を保有する企業の買収も行っています。
(Source: https://www.dinsgr.co.jp/about/history/1979/)
沿革を見ていくと、最終処分場を開設し、その近隣にリサイクルセンター(中間処理・資源再生)を設置する、という順番で事業を展開しています。
TREホールディングス
続いて、大栄環境グループよりも売上が大きい一方で営業利益が低く、時価総額も下回っている企業を分析してみます。それがTREホールディングスです。
直近の時価総額は820億円で、大栄環境グループの3,010億円に比べると3割以下にとどまっています。売上高は928億円(大栄環境グループが730億円)で、営業利益は78億円(大栄環境グループは197億円)です。
セグメント別の売上を見てみると、大栄環境グループとの違いがわかります。違いを一言で言うと、TREホールディングスは、利益率の高い廃棄物処理事業の比率が相対的に低く(大栄環境グループが約86%であるのに対して、TREホールディングスは約29%)、利益率が相対的に低い資源リサイクル事業・再生可能エネルギー事業の比率が高い点にあります。
ちなみに、TREホールディングスは、最終処分をランドフィルと表現していますが、先ほど調査した「最終処分は相対的に儲かりやすいのか?」という点をTREホールディングスの事例でも調査してみたいと思います。
同社は、大栄環境グループと違い、決算説明資料内で、廃棄物処理・再資源化事業セグメントを3つのプロセス「(1)収集運搬・廃棄物処理」「(2)再資源化」「(3)ランドフィル」に分けて事業数値を公表しています。各プロセスにおける売上高・営業利益・受入数量から計算すると、1tあたりの営業利益が算出できます。(1)収集運搬・廃棄物処理は1tあたり営業利益が8,248円、(2)再資源化は3,024円、そして(3)ランドフィルは1,995円です。先ほどの仮説とは異なり、ランドフィルよりも収集運搬・廃棄物処理の方が営業利益単価が大きくなっています。
大栄環境グループよりは収益性が低いものの、TREホールディングスも廃棄物処理のプロセスをエンドツーエンドでカバーしています。両者は、売上構成に加えて、カバー地域の点でも違いがあります。TREホールディングスのグループ会社を含めた事業拠点マップを見ると、廃棄物処理・再資源化事業という意味では、東北・関東・北信越と、やや分散している印象です。
一方、大栄環境グループを見ると、もちろん関東にも拠点はありますが、近畿地方にリソースを集中させています。
廃棄物処理という事業特性上、密度高く処理施設を構え、運搬コストを低く抑えつつ、1施設あたりの処理量を高めていくことが重要になります。一方、他都道府県に進出するには許可を得る必要がある(一方で、新たな許可取得のハードルが高い)こと、大型処理施設の建設にも許可が必要なことから、自力で他都道府県に進出するのが難しいと言われています。
そこで、利用されるのがM&Aです。M&Aの方向性としては、地域拡大に加えて、処理方法のバリエーション拡充、というパターンもあります。冒頭でご紹介した通り、産業廃棄物は20種類に分けられており、それぞれの処理パターンも複数あります。既存設備とは異なる設備を保有する企業の買収を通じて、エンドツーエンドでの取扱量を増やすことができます。
もう1つ、M&Aに関して興味深いトレンドがあります。それが、非廃棄物処理事業者による廃棄物処理事業者の買収です。
例えば、2021年11月に北日本紡績株式会社というポリエステル紡績メーカーが産業廃棄物リサイクル事業を行う金井産業株式会社という企業を買収しました。北日本紡績は、その2ヶ月前の9月にも、東樺化成株式会社という企業のプラスチックリサイクル事業を買収しています。
同じく2021年9月には、エア・ウォーター株式会社という主にガスを取り扱う企業が、物流子会社を通じて、株式会社リプロワークホールディングスという産業廃棄物処理事業者を買収しました。本買収のプレスリリースを見ると、エア・ウォーターは食品・医薬品・環境製品の物流を手がけており、資源循環型社会の実現に向けて、物流だけでなく食品・医薬品・環境製品の廃棄物を引き取って自ら処理できるバリューチェーンの構築を企図した、と書かれています。また、エア・ウォーターは祖業として酸素・窒素等のガス製造に強みを持っている中で、将来的には廃棄物処理施設から排出されるCO2の分離回収や排熱の有効活用等も見据えている、と書き加えられています。
製造業の中には、元々何らかのリサイクル設備・廃棄物処理設備があることも多く、その強みや経験をベースに、資源循環型社会に対する社会的期待の高まりに応じる形で、廃棄物処理事業に参入している様子が窺えます。このトレンドは、今後もしばらく続く可能性が高いのではないか、と思います。
資源循環型社会の実現に向けた第一歩目は、排出事業者が排出から最終処分までの流れを透明性高く管理することにあります。なるべく透明性高く管理しようとすると、自社で排出した廃棄物を自社で処分できる体制を構築する、あるいは、エンドツーエンドで処理できる(トレースしやすい)事業者に委託する、という方向で考えていく事業者が増えるはずです。そうなると、となると、業界全体としては、大手企業がM&Aを繰り返してどんどん巨大化する、という未来が考えられるかもしれません。
ダイセキ
もう1社、先の2社に近い売上規模を誇る廃棄物処理企業を分析してみます。株式会社ダイセキという企業です。
2024年の売上高は692億円、営業利益は148億円(営業利益率は21.4%)です。営業利益率については、大栄環境グループが27%、TREホールディングスが8.4%なので、大栄環境グループに近い水準となっています。
ダイセキグループは、ダイセキ、ダイセキ環境ソリューション、北陸ダイセキ、ダイセキMCR、システム機工の5会社から成るホールディングス企業で、売上・営業利益は以下のような構成になっています。
まず、売上の最大比率を占めるダイセキは、主に工場等から排出される廃油・廃液・汚泥の中間処理が主要事業となっています。
元々ダイセキは1945年に油脂精製事業者として誕生し、高度経済成長に伴って多くの工場が稼働するタイミングに合わせて、そこで使われる潤滑油製造・廃油再生に取り組んでいました。1972年に産業廃棄物処理許可を取得し、正式に廃棄物処理事業に参入しましたが、背景には公害の深刻化でリサイクルに対する機運の高まりがありました。こうして見てみると、それぞれの大手産業廃棄物処理企業は、どこも沿革が異なる点が興味深いところです。
同社は、元々処分業者としてスタートしていないこともあってか、最終処分場を自社保有しておらず、基本的に中間処理に特化しています。
グループ会社が行っている事業を、それぞれ簡単にご紹介します。ダイセキ環境ソリューションは主に汚染土壌と石膏ボードのリサイクル、ダイセキMCR(MCRはマテリアル・クリーン・リサイクルの略称)は主に廃鉛バッテリーのリサイクル、システム機工(2010年にダイセキが買収)は大型タンク・配管・各種プラントの洗浄工事によって得られた原油スラッジ(沈殿物)の処理、北陸ダイセキは廃油のリサイクルを手掛けています。
会社別に営業利益率を見ていきます。ダイセキが28.2%、ダイセキ環境ソリューションが11.6%、北陸ダイセキが11.3%、ダイセキMCRが22.9%、システム機工が14.5%となっています。
有価証券報告書によると、特に営業利益率の高いダイセキ・ダイセキMCRについて、前者はカーボンニュートラルへの動きが高まる中でリサイクル燃料の価格が高騰したこと、後者は円安も相まって鉛販売価格が高騰したことによって、売上・利益が計画を上回ったと書かれています。
ダイセキグループ全体で利益率が20%を超えているのは、やはりダイセキの廃油・廃液・汚泥処理事業の利益率が28.2%と高いことが関係しています。廃油・廃液・汚泥は処理を通じてそれぞれ異なるリサイクル製品になります。廃油は再生燃料/再生重油、廃液(廃酸、廃アルカリ)はセメント原料・有用金属・水、汚泥はセメント原料としてリサイクルされますが、特に業績アップに貢献しているのが廃油です。
同社の統合報告書を見ると、廃油1tを処理する場合、ダイセキの油水分離・燃料化処理を行うことによって、単純焼却処理に比べてCO2排出量を99.1%削減することができる、と紹介されています。こちらの資料によると、国内の廃棄物処理に伴って排出されるCO2排出量のうち約30%を廃油処理が占めていますが、それは、廃油のうち約40%が単純焼却処理されていることが1つの原因となっています。ダイセキは廃油を燃やさずにリサイクル技術(油水分離、中和、生物処理等)に強みを持っているようです。
廃棄物処理業界のスタートアップ
最後に、国内で廃棄物処理業界で事業展開する、外部資金を調達している企業を、設立年数が古い順にご紹介します(1社、fabula社は資金調達の情報が見当たりませんでしたが、ユニークな技術を扱っているため、参考までに含めております)。また、本記事は全体的に産業廃棄物にフォーカスしてきましたが、この章では、産業廃棄物に限らず、一般廃棄物も含めている点はご留意ください。
レコテック株式会社
レコテック株式会社は2007年に設立された企業で、元々北欧の廃棄物処理設備の日本代理店で営業責任者だった野崎氏が代表を務めています。同社は、主に商業施設・飲食事業者等に対して、テナントごとの廃棄物排出量を簡単にスマートフォンやタブレットから入力できるサービスを提供し、そこで蓄積したデータを廃棄物回収・処理業者を含むステークホルダーに提供することで、都市における効率的な資源循環の実現を目指しています。レコテックは累計2億7,600万円を調達しています。
アルハイテック株式会社
アルハイテック株式会社は、2013年に設立された富山県発の企業です。同社は、飲料パック・医薬品パッケージ等、アルミコーティングが施された紙製品を、パルプとアルミ付きプラスチックに分離する技術に強みを持っています。この設備はパルパー型分離機と呼ばれ、水を用いて分離が行われますが、水を排出せずに循環利用できること、消費電力が小さいことがアピールされています。アルハイテックは「AL-HY-TEC」と表記されますが、ALはアルミニウム、HYは水、TECはテクノロジーを表しています。同社は2020年以降に資金調達を重ね、累計5億6,000万円を調達しているようです。
ファンファーレ株式会社
ファンファーレ株式会社はリクルート出身の近藤氏によって2019年に設立された企業です。廃棄物回収の配車計画を自動作成するソフトウェア「配車頭(はいしゃがしら)」を開発・販売しています。こちらのインタビュー記事によると、、産業廃棄物回収は時刻指定のタイトさ、車種指定等の制約があり、配車計画が複雑になりがちで時間がかかる業務であると紹介されています。2022年4月のインタビューでは、「今後は収集運搬領域の配車計画に限らず、中間処理業者の業務効率化に進出を考えている」とコメントがありました。同社は累計8億1,000万円の資金調達を実施しています。
株式会社CBA
株式会社CBAは、双日出身の宇佐美氏によって2020年に設立された企業です。同社は「CBA wellfest」(ウェルフェスト)というソフトウェアを開発・販売しています。wellfestは、「well」と「manifest」が組み合わさった造語で、マニフェスト管理を中心とする廃棄物処理業務を効率化することを目的としています。このソフトウェアは主に排出事業者をターゲットとしており、導入企業ロゴを見ると、化学メーカー・電鉄事業者から飲食店まで、幅広い業界の顧客が並んでいます。どちらかというと大手企業の導入が多いようです。
機能については、基本的にマニフェスト管理およびそれに付帯するものが中心です。マニフェストと紐つけた委託契約書・許可証の管理、処理予定日時のカレンダー確認等の機能があります。料金体系については公開されていません。同社は累計4億6,000万円を調達しています。
fabula株式会社
fabula株式会社は、東京大学で食品廃棄物から新素材をつくる技術を研究していた町田氏によって、2021年に設立された企業です。同社は、食品廃棄物を乾燥させ、粉末状にし、その粉末を金型に入れて熱圧縮することによって、軽量でありながら高い強度を持つ素材の開発を行っています。同社の資金調達情報は公開されていません。
esa株式会社
esa株式会社は、2022年3月に設立されたプラスチックリサイクルスタートアップです。同社は、「esa method」と呼ばれる技術を用いて、異種構造のプラスチックを同時工程でペレット化できる点を強みとしています。それを実現するために、混錬および熱・圧力制御に係る技術を磨いてきたようです。この技術を利用すると、これまではプラスチックの種類ごとに行ってきた分別収集・選別・洗浄・乾燥工程をスキップし、一気に原材料化まで進むことができる、と紹介されています。
(Source: https://esa-gl.com/)
興味深いのは、同社がこの技術を用いて自らペレット製造まで行っている点です。サービスとして他社に提供するのではなく、自社で利用しています。実際に、同社のホームページには、「産業廃棄物として処理に出されている廃棄プラスチックを弊社が有価で買い取ります」というメッセージが書かれたページが存在します。同社は累計8億1,200万円を調達しています。
この他にも、廃棄物処理に関わるスタートアップはいくつかありそうですが、今回はこれで以上とします。
産業廃棄物処理業界は、資源循環型社会に対する期待の高まりに応じて、従来に増して注目が集まっているように感じます。ものづくり・ものはこびの世界と切っても切り離せない領域として、今後も動向をウォッチしていきます。
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