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  • Shingo Sakamoto

現代サッカーの父:ヨハン・クライフに学ぶスタートアップ戦略

Updated: Jun 16

読者の皆さんは、ヨハン・クライフというサッカー選手を知っているでしょうか?何を隠そう、筆者がサッカーを始めたきっかけになった存在とも言える、現代サッカーの礎を築いたレジェンドです。「フライング・ダッチマン(空飛ぶオランダ人)」の異名を持ち、所属したクラブチームに数え切れないほどの功績をもたらしたうえ、母国オランダをW杯準優勝まで導きました。


選手としての実績もさることながら、引退後は監督としても活躍しました。あの有名なバルセロナを欧州トップクラスまで成長させたことでも有名です。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC-kreisliga-2778583/)


なぜ、一見ビジネスの世界と関係の薄いサッカー界の偉人を紹介したいかというと、彼が遺したいくつかの概念がスタートアップ「らしい」と思ったからです。クライフは未来を予言したかのように優れた戦略をいくつも打ち出し、その後の数十年のサッカートレンドを生みました。


例えば、「トータル・フットボール」(全員攻撃・全員守備)という概念は、ポジション毎の分業が当たり前と考えられていた時代には画期的でした。この他にも、「ボールを動かせ。ボールは汗をかかない。」「人はボールより速く走れない。」など、常識にとらわれない本質的な洞察に基づいて次々と戦術を編み出し、世界中を席巻しました。




それでは一体、スタートアップが彼の哲学や戦術からどんなことを学べるというのでしょうか?


アップルが圧倒的にシンプルで洗練された「携帯電話」を作った時、テスラが販売代理店を持たずにオンライン販売のみに移行した時、皆が驚きました。スタートアップが注目を集め、画期的なアイディアによって市場を席巻しようとする時、本質に立ち返った「クライフ思考」がきっと参考になると思います。


この記事では、クライフの考えたコンセプトの中から、スタートアップ戦略に活かせるものをいくつかご紹介します。



全員攻撃、全員守備

トータルフットボールは、11人全員で攻撃・守備を行うという概念です。こうした考え方は今でこそ当たり前になっていますが、クライフの登場以前は、基本的にアタッカーは攻撃だけ、ディフェンダーは守備だけするもの、と考えられていまいた。今のサッカー界では、守備ができないアタッカーは試合に出場できません。ロナウドやメッシですら、前線から積極的に守備をする時代です。


なぜ、以前はこのような分業制が敷かれていたかというと、選手のプレー範囲がポジションによって制限される、という考え方が根底にあったからです。


クライフ(と当時の監督)は考えました。どうして、同じ人間がプレーしているのに、ポジションによって「機能」まで制限されなくてはいけないのか。彼はこういった言葉を残しています。


「私のチームでは、キーパーが一人目のアタッカーで、フォワードが一人目のディフェンダーだ。」



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これを組織一般に抽象化して考えるといかがでしょうか?いわゆる「大企業型組織」というのは、一人一人が役職に基づいて職務を全うします。例えば、生産管理に配属された社員が、システム開発や営業をすることは基本的にはありません。


ではスタートアップではどうでしょうか?小さな人数で始まったスタートアップが急成長すると、事業成長のスピードに組織拡大が追いつかない場合があります。そういった局面では、事業規模に見合った組織体制が整うまで、一人が何役も担う必要があります。営業の担当者がカスタマーサクセスやマーケティングなどの周辺領域までこなしたり、エンジニアが営業に入り込んでプロダクト改善のサイクルを早めたり、といった動きが必要になることもあります。


このように、クライフも、「美しくダイナミックなサッカーを展開して、たくさん点を取って勝つ」という大きなビジョンを掲げたうえで、状況によっては各自がポジションに捉われることなく、組織全体を眺めながら必要とされる「機能」を担いながら、自分自身を拡張させるべきだという意見を持っていました。同じように、スタートアップ(に限らず本来は大企業でも理想的な組織)は、大前提としてビジョンや目標を共有したうえで、各自が状況に応じて役職に捉われずに目標実現に必要と考えられることに取り組むべきではないでしょうか。


ここで大事なのは、組織としての目標を明確にしておくことです。サッカーであれば「敵より多く点を獲って勝つ」という分かりやすい目標がありますが、スタートアップの場合は意外と目標の定義が難しかったりします。目標が共有されていないまま、それぞれが自分の頭で考えて行動したところで、組織としてはバラバラで機能しません。そのために、OKR(Objective, Key Results)を定めて、「いま、組織として発展するために、どういう数字をどれくらい達成することが必要なのか」を共有し、部門→チーム→個人の目標に落とし込んでいくことが有効です。定めた目標を「どう達成するか」という点で、知恵を絞るのです。そんな時こそ、クライフが言うように「役職」や「思考」の枠を取り払って、他の部門を巻き込んだり、時として組織外から必要な武器を調達してきたり、柔軟なアイディア・行動が求められます。



良いポジションに、いかにタイミング良く、「居られるか」

重要なのが、クライフが言う「全員攻撃・全員守備」は一人一人がただがむしゃらに全ての役をこなすこととは異なるということです。



「監督たちは皆、とにかく動きや、走ることにこだわる。私はそこまで走る必要は無いと思う。サッカーは脳を使うゲームだ。良いポジションに、いかにタイミング良く、「居られるか」が重要だ。早すぎても遅すぎてもいけない。」



つまり、全員攻撃・全員守備だからと言って、ディフェンダーが最後方からがむしゃらに駆け上がることばかりが是とされているわけではないということです。彼の言う「良いポジションにタイミングよく居られる」ためには、どういったことが必要なのでしょうか?



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スタートアップの初期には、とにかく少ないメンバーが縦横無尽に走り回り、資金があるうちに次なるマイルストーンに到達することを求められます。


初期はそれで成立する(むしろそれが求められる)ものの、ずっとそれを続けているとバランスを崩してしまうことがあります。サッカーのフィールドにぽっかり危険なスペースが空いてしまうように、ビジネスでも組織としての綻びが生まれてきます。例えば、とにかく売上や利益などの「攻めの部分」を追うあまり、品質やカスタマーサポートといった「守りの部分」が疎かになってしまえば、長期的にはマイナスです。


こういった時に、サッカーでも大事になるのが、「周りの動きを見ること」です。「あいつがこう動いているから、局面はこのように動く。そうすると、このスペースが危険になるから、あらかじめ自分が補填しておこう。」こういった考え方は有効です。マネジャーに限らず、全メンバーが全体の動きを把握し、その事業フェーズに必要な役割を担うという自律型組織が、クライフが目指した理想のチームでした。


当然ですが、こうした自律型組織は、一朝一夕に作りあげることはできません。常に共通の目標に立ち戻り、それを達成するために各自が何ができるかを考え、仲間に共有し、実行し、やりきることで局面を打開していく。この繰り返しの中で、お互いに信頼感が生まれ、阿吽の呼吸で動けるようになってきます。そうした「鍛錬」の時間もないまま、各々が自由に動く組織は、非常に脆く、一度バランスを崩すとあっという間に崩壊していきます。



「ボールを動かせ、ボールは疲れない」

もう一つ、クライフの名言として有名なものがこの言葉です。これは見方によってその輝きを変える、重要なインサイトを含んでいます。


全員攻撃・全員守備を標榜すると、「選手がたくさん走る」ことになりがちです。しかし、これはクライフが本当に求めていたことではありません。90分という長い戦いをするうえで、がむしゃらに走り続けることはナンセンスだというのです。


むしろ彼が求めたのは、正しい場所・正しい位置に走り込んだ選手にボールを回すことで、相手の陣形を崩すことでした。決まった位置に止まっている選手がずっとボールを持っていても、相手は陣形を崩すことなく守備できてしまいます。


そこで、選手が闇雲に動くのではなく、ボールを意図的に動かすことで相手のポジション・視線を惑わすべきだ、ということを言いたかったのでした。彼はこの戦術をルール単位まで落とし込み、「常にフィールド上にトライアングルをつくること」「ボール保持者が複数のパスコースを持つようにサポートすること」などを根付かせました。こうした戦術は、今ではほぼ全てのサッカーチームで当たり前のものとされています。


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このクライフの言葉から学ぶべきことが2つあります。


1つ目は、ビジネスにおいて「汗をかかないものが何か?」という視点です。限られた人員で事業を立ち上げるにあたり、何を自動化すればいいのか、ということです。


もちろん、顧客課題の解像度を上げるような仮説検証・セールスはあえてじっくり汗をかきながら取り組むべきです。一方で、自動化できる点もあるはずです。これは単なるシステム導入に限らず、「カルチャーにそぐわないアライアンスには意思決定の時間をかけない」、「採用にあたって最も重視することを決めておくことで候補者のスペックばかりに惑わされない」といったルールなど、判断の基準となるものも含まれます。



2つ目は、「相手を動かす」という視点です。既に市場のニーズが明確な場合、こうした観点は必要ないかもしれません。コンビニで淹れたてのコーヒーを100円で飲みたいと思う人がいるのは明白なのですから、80円で採算が取れる仕掛けがあれば同じ事業が成立することは明白です。


一方で、わかりやすい既存市場がない場合、どのように「相手(市場)を動かすか」という視点が意義を持ち始めます。例えば、スペースXの火星移住計画は、一見突拍子もないものですが、「このまま気候変動が続けば地球では人間を養いきれなくなる」というアジテーションが背後にあります。


これまではコストや性能ばかりに目がいっていた市場も、これからはSDGsに沿っているか、という新たな尺度が生まれていきます。格差、環境、働きがい、などこれまで見過ごされていたような視点を織り交ぜて、マーケットを立ち上げていくことが求められる時代がきています。



常に常識を疑うクライフ思考

クライフは周りから「理解が難解」といわれるような言葉を多く残したと言われています。例えば、「全ての欠点には長所がある」「自分がボールを持っていれば相手はボールを持てない」など、「どういうこと?」「当たり前では?」と思われるものが少なくありません。


これは、彼が常に常識を疑い、物事をシンプルに捉えることを心がけていたからだと思います。サッカーは歴史が長いスポーツで、先人たちが積み上げた戦略・戦術の上に成り立っていることは事実ですが、そういった"常識"をあえて疑い、自分の言葉で本質を突き、体現したクライフはレジェンドとなったのでした。



ビジネスの世界も少し似ていないでしょうか。業界全体にさまざまなノウハウが蓄積し、先人を見習うことで車輪の再発明をしなくて良いようになった一方で、似通ったものが増えて陳腐化していくといったパターンです。単に奇抜であることと画期的であることは紙一重ですが、あえて一般化したモデルを疑い、オリジナルな戦略を構築することも、その後の50~100年を考えるとそちらが「正解」かもしれないのです。



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