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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

ファクトリーサイエンティストとは?

ファクトリーサイエンティストというワードが、近年にわかに注目を集めています。ファクトリーサイエンティスト協会によれば、ファクトリーサイエンティストとは「IoTデバイスによるエンジニアリング、センシング、データ解析、データ視覚化、データ活用の知識を身に付けて、データを軸に経営判断を素早くおこなうアシストをおこなう人材」と定義されています。


今回は、そんなファクトリーサイエンティストについて調査してみました。

(Source: ChatGPTで「ファクトリーサイエンティストというワードにぴったりの画像」というプロンプトで出力)


ファクトリーサイエンティスト協会

本題に入る前に、「いや、そもそもファクトリーサイエンティスト協会なんてあるの?」という点が気になったので、少し調べてみました。


同協会は2020年4月に設立された一般社団法人協会で、代表理事を由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長の大坪氏が務めています。由紀ホールディングスは、中小製造業10社弱を傘下に持つ非上場企業で、こちらのサイトによれば2022年12月期のグループ総売上が93億円、社員が400名超となっています。大坪氏は大学卒業後に株式会社インクス(現SOLIZE)に入社し金型工場立上げに関わった後、由紀ホールディングスの中核企業である由紀精密に入社し、電気電子業界から航空宇宙業界へとビジネス転換を主導した経験を持つそうです。


代表理事のほかに5人の理事がいますが、大坪氏に加えて設立時の中心メンバーとなったのはそのうちの2人です。1人が、きづきアーキテクト株式会社 代表取締役で株式会社ローランド・ベルガー シニアアドバイザーの長島氏です。長島氏はローランド・ベルガー日本法人で代表取締役社長まで務めた方で、由紀ホールディングス社外取締役も兼任されています。そして、もう1人の理事が、慶應義塾大学SFC研究所の田中教授です。田中教授は、2010年からデジタルファブリケーション(デジタルデータをもとに創作物を制作する技術の総称)をテーマとした研究を始め、大型3Dプリンターを使って家具や自動車外装といった実用品をつくる等、デジタルを活用したものづくりを進めてきました。大坪氏がSFCキャンパスでファクトリーサイエンティスト育成講座の開催を田中教授と検討しているという話を聞いた長島氏がビビッと感じて参画し、スピーディに3人で立上げられたプロジェクトこそが、ファクトリーサイエンティスト協会です。


正確なところはわかりませんが、ここまで調べてみて、ファクトリーサイエンティストというワードの火付け役は、恐らく大坪氏を中心とする上記3名なのではないか?という気がしました。(というのも、ファクトリーサイエンティストというキーワードでGoogle検索をした際に、ファクトリーサイエンティスト協会が設立された2020年以前の記事がほとんど見当たらなかったため)また、Factory Scientistというワードをアルファベットで調べても、英語の情報はほとんど見当たりませんでした。


そんなファクトリーサイエンティスト協会の設立企画書を見ると、(ファクトリーサイエンティスト協会が思い描く)ファクトリーサイエンティストを理解するうえでいくつか重要なワードが浮かび上がります。例えば「中小企業」「自社に最適なITシステムの自作・導入」「データエンジニアリング」「データサイエンス」「データマネジメント」あたりをつなぎあわせるとイメージが湧いてきます。


一般的に日本は米国に比べて、情報処理・通信に携わる人材の所属が、IT企業(ITサービスを開発する企業)に多く、IT企業以外(ITサービスを利用する企業)に少ない、と言われています。日本の事業者のうち約99%を占めると言われる中小事業者においても、まさに以下のような構図になっていると思われます。


そういった中小企業において、カスタマイズを行わないソフトでは自社の状況にフィットせず、逆にITベンダーが開発したカスタマイズシステムを導入するのは予算の観点からハードルが高く、痒いところに手が届くツールがない、という状況が続いていました。


ところが、近年はデータを取得するセンサー、データを処理するクラウドインフラ、そしてデータを可視化するデバイス(例えばタブレットやPC等)の価格が下がり、さらにノーコードでアプリケーションのセットアップができるソフトウェアも登場し、一からプログラミングをマスターしなくても、自社工場の生産性向上に寄与するツールがつくれる(あるいはセルフカスタマイズできる)ようになってきました。


まさにそれを担うのが(ファクトリーサイエンティスト協会が思い描く)ファクトリーサイエンティストです。なお、繰り返し(ファクトリーサイエンティスト協会が思い描く)と書いているのは、ファクトリーサイエンティストという言葉自体は同協会が生み出したものだとしても、本来的にファクトリーサイエンティストは中小企業現場以外でも活躍し得るものだと思いますし、大規模な工場で複雑なシステムを構築する人もまたファクトリーサイエンティストだろう、という思いを込めたかったためです。


上述のツール作りは、設立企画書で挙げられた「データエンジニアリング」「データサイエンス」「データマネジメント」の中では、「データエンジニアリング」に該当すると思います。データエンジニアリングは、以下のように定義されています。


データエンジニアリング: IoT デバイスや計測機器、装置などを使って現場から適切な⽅法でデータを取得する


残り2つ、「データサイエンス」「データマネジメント」はそれぞれ以下のように説明されています。

  • データサイエンス: 収集されたデータや、他のデータと照らし合わせて有⽤な情報を紡ぎ出す

  • データマネジメント: 得られた情報を元に戦略を練り上げ、データを説得材料にビジネスに活⽤する


より噛み砕いていうと、単に便利なツールをつくっておわり、ではなく、データからさらなる工場改善につながるヒントを見つけ、周りを説得してより大きな施策を推進するようなイメージです。こうして考えると、冒頭の定義にあった「データを軸に経営判断を素早くおこなうアシストをおこなう人材」という表現もしっくりくるような気がします。


データサイエンティストとファクトリーサイエンティスト

ファクトリーサイエンティストから想起されるワードに「データサイエンティスト」が挙げられます。データサイエンティストというワードの簡単な歴史は、こちらのサイトが非常にわかりやすくまとめてくれています。


データサイエンティストは元をたどると1970年代にコンピュータ科学者が提唱した言葉のようですが、本格的に流行し出したのは2010年前後です。2000年代後半はFacebook・YouTube・Twitter(現在のX)等の大型サービスが登場し、流通データ量が増大したことに合わせて、データに基づいた意思決定、データを活用したマーケティング等のニーズも高まっていきました。2012年にはハーバードビジネスレビューが、「Data Scientist:The Sexiest Job of the 21st Century」という有名な記事を発表し、その後のAIブームも相まって、2010年代を通じて、現在に至るまで人気の職業となっています。


改めて歴史を見ると、データサイエンティストが本格的に広く注目され出したのはインターネット上のデータ量が急増し始めた2010年代前後です。では、ファクトリーサイエンティストの場合はというと、工場において取得できるデータ量の増加がきっかけとなって、期待される役割が大きくなっていきそうです。


では、工場において取得できるデータ量の先行指標になっているものが何かというと、センサーの数ではないでしょうか?


以下のグラフは、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表する、センサーのグローバル出荷実績です。2022年は(恐らく半導体不足や物流混乱の影響を受けて)出荷数量が落ち込んでいますが、長期的に見ると右肩上がりで、2009年に約101億個だったところから、2021年には約334億個(約3.3倍)に増えています。


同資料によると、上記のセンサー全体数量のうち約5%がファクトリーオートメーション等の産業用に用いられるとのことなので、2009年に約5億個(101億個の5%)だった産業用センサーが2021年に約16億個(334億個の5%)になっていることになります。例えば、1工場にセンサーが10個入っていたところから3倍の30個入っていると考えると、取得できるデータ量も単純計算3倍に増加していると思われます。また、以前はセンシング自体はできても通信やコンピュータ性能の問題で分析できていなかったようなデータもあったであろうことを考えると、活かせるデータ量は間違いなく増えていそうです。


ちなみに、ファクトリーサイエンティスト協会の資料を見ると、ファクトリーサイエンティスト講座を受講した会社の事例がいくつか掲載されています。


例えば、株式会社小森プラスチックという企業では、1日180分かけて全ての射出成型機に取り付けた温度計を見回っていましたが、IoT温度計と温度記録システムを製作し、異常があった機械をiPadに通知する仕組みを構築しました。これによって点検と不良発生の頻度を減らすことができたそうです。


また違う事例では、夏場の気温上昇でコンプレッサーがオーバーヒートする可能性があるため冷却ファンをフル稼働しているがランニングコストが膨れてしまうという課題に対して、温度計で室温を監視し、一定の室温になった時のみ冷却ファンを自動で回すシステムを開発したそうです。


これらの事例は、わりと局所的なデータ活用の事例ですが、IoTから取得したデータに限らず、図面や見積書等、製造業特有のドキュメントからデータ抽出を行い、プライシングや設計に活かしていく、というのもファクトリーサイエンティストに期待される役割だと思います。


もしかしたら、どこかの雑誌に「Factory Scientist:The Sexiest Job of the 2030」という記事が掲載される日も、そう遠くないかもしれません。


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