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Writer's pictureKenta Adachi

シンプルだが大きな差を生むスキル:観察力

ずいぶん昔のことになるが、画家がどのように世界をみているのかを知りたくなり、絵画教室に行ったことがある。講師がやってきて、机の上に1個のりんごを置いて一言。


「今から1時間、鉛筆を使って、ここに置いたりんごの絵を描いてください」


描き始めてみてすぐに感じたことがある。「りんごを1個描くだけで、1時間もどうやって使えばいいのだ?」ということだ。その気になれば数秒で「りんご」と分かるものは描けてしまうが、それに1時間も使うとなると、正直、どうしてよいか分からなかった。


体感時間としては非常に長かった1時間が終わって、りんごを手にとり、講師は言った。


「1時間もりんごを描き続けることに苦労したのではないでしょうか。多くの人は『りんご』と言われると、既に頭の中にある『りんご』のイメージに沿ってササッとりんごを描いてしまいます。ですが、果たしてそれが、本当に目の前にある『りんご』を描いたことになるのでしょうか?世の中にたくさん『りんご』はありますが、形や色はどれ一つとして同じものはありません」


「画家としての第一歩は、先入観に縛られず、素直に自由に、目の前の対象物を感じ取り、受け取ることです。どれだけよく知っている『りんご』であっても、初めて目にしたかのようにじっくり観察し、形、色、光や陰の様子、醸し出す雰囲気、等々を先入観なく捉えるのです。本当に『りんご』を描こうとすると、実は1時間では足りないくらい、やることがいっぱいあるのです。『りんご』をじっくりみるだけで、実に大きな気づきや発見があるのです。そして、そうした気づきや発見を絵として表現する、それが画家なのです」


この話を聞いて、大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。


「りんご」とはこういうものだ、という勝手な先入観で縛られていた自分に気づいた。そこにある「りんご」は同じものなのに、画家はそこから素晴らしい絵を生み出し、私はそこから何も生み出せなかった。


曇りなき眼で対象をしっかり見て、感じ取り、受け取る力、すなわち観察力の重要さを身をもって体感したのが、この時だった。先入観や決めつけによって目がくもり、多くのコトやモノから得られるはずのインスピレーションはそぎ落とされ、自分で自分の世界をすごく狭めていないか?画家に限らず、小説家や音楽家、あるいは起業家も含めて何かを生み出すことで結果を残している達人は、観察力に優れているのではないか、と。


それ以来、私は観察することを大切にしている。




話は変わるが、ビジネスでもよく用いられる次の言葉や考え方に触れたことはないだろうか?


ロジカルシンキング、システムシンキング、デザインシンキング、クリティカルシンキング、少し系統が変わるが、PDCAサイクルやOODAループ。


興味深いことに、これらを解説する書籍を手にすると、共通して書かれていることがある。それは「対象をしっかり観察することから始めよ」ということだ。しっかりとした観察なしに、先入観にとらわれたままスタートして、その上に何を組み上げても、最初からそのプロセスは意味をなさないことが多い、と。




ベンチャーキャピタリストして日々、多くの起業家とディスカッションをしている。そして、結果を出している起業家(あるいは結果を出しそうな起業家)と、そうではない起業家との間で大きく感じるのは、この観察力の有無、あるいは、観察の重要性に気付いているかどうかの差、である。


これは「どうしてこの事業を始めたのか?」とか「競合あるいは代替手段にはどんなものがあるか?」もしくは「大きな投資をする前に、想定している事業概念が成立することを示すチェックポイントはあるか?」といった質問をした際に、けっこう如実に表れてくると思う。


よりどころとするアセットがまだ小さい初期スタートアップにとっては特に、観察が甘く、最初の見立てが誤っていると、その後にいくら努力すれども結果はついてこず、とてもしんどい日々が待っている。そういう事態は、避けたいものだ。




とはいえ、毎回、全ての事象に対してゼロベースでじっくり観察していては、脳はパンクしてしまうかもしれないし、時間がいくらあっても足りないかもしれない。

だから私は、常にとは言わないまでも、時々「そういえば、変に先入観にとらわれてないか?曇りなき眼で観察できているか?」と、自問する習慣を続けている。




さて、観察力の大切さについて書いた今回のコラムの結びして、Youtubeにあげられている、とある60秒ショート動画のリンクを貼っておく。


人は、見えやすいもの、あるいは見ようとしているものしか見ないものである。この事実を忘れないだけでも、観察力は養われるのではないだろうか。




皆さんは、どう思いますか?

IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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