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  • Shingo Sakamoto

注目のカーボンアカウンティング市場で急成長するスタートアップ:Persefoni

Updated: Jan 22

カーボンアカウンティング(炭素会計)に対する関心が、世界で急速に高まってきています。


カーボンアカウンティングとは、温室効果ガスの排出量を算出・報告するプロセスを指します。ちなみに、私たちは普段から何気なく「財務会計」「管理会計」といった単語を使っていますが、そもそも「会計」とは、中国の史記に登場する「計は会なり」という言葉が語源だそうです。「会」は「増える」、「計」は「正確に報告する」という意味で、合わさって「会計」=「増えることについて正確に報告する」。これを温室効果ガスに適用しよう、というのがカーボンアカウンティングになります。


カーボンアカウンティング領域で事業を行うスタートアップとしては、Nossa Data(イギリス)が2021年1月、Planetly(ドイツ)が4月、Emitwise(イギリス)が5月、SINAI Technologiesが8月、Normative(スウェーデン)が10月に、直近の資金調達ラウンドを実施しています。


この流れは、海外だけでなく日本でも起きています。2021年3月にアスエネ、4月にオンド、11月にゼロボードが資金調達を発表していますが、いずれもクラウドベースの温室効果ガス排出量算出ソフトウェアを提供しています。


そして、この市場の中で特に存在感を見せているのが、今回ご紹介するPersefoni(アメリカ)です。パーセフォニと読みます。創業から現在までの約1年10ヶ月間で、累計1億ドル超(≒110億円超)の資金を調達しています。


今回は、Persefoniをメイントピックとして取り上げながら、カーボンアカウンティング市場のこれまでや現在の動きについても紹介していきたいと思います。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E6%B8%A9%E6%9A%96%E5%8C%96-%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB-%E7%92%B0%E5%A2%83-%E8%87%AA%E7%84%B6-2370285/)



持続可能性に関する企業報告の動き


カーボンアカウンティングに関する理解を深めていくにあたって、私が最初に当たった壁は「とにかく略称が多い」ことでした。TCFD・CDP・CDSB・PCAFなど、組織やパートナーシップの略称があちこちに散らばっており、それぞれの組織の位置付けや、相互の関係性を理解するのに苦労しました。


もちろん、こういった略称がすでに頭の中で整理されている方もいらっしゃるかと思いますが、この記事の想定読者とさせていただいている「事前知識がない状態で、カーボンアカウンティングやその背景についてクイックに理解したい方」には少しハードルが高いかもしれないと思いました。


そこで、まずはカーボンアカウンティングについて理解するうえで押さえておいた方が良いと思った略称(主に組織の名称)を整理しておくことにしました。①から③まで3種類に分けて整理を行います。


①5つの組織

まず、5つの組織をご紹介します。それぞれ設立された年にはバラつきがありますが、いずれもサステナビリティに関する企業報告の基準・フレームワークの策定に取り組んできた組織です。設立年が古い順にご紹介します。


  • GRI Global Reporting Initiativeの略称。1997年にアメリカで設立されたNPOで、サステナビリティに関する企業報告の国際基準「Sustainability Reporting Guideline」の策定に取り組む。

  • CDP Carbon Disclosure Projectの略称。2000年にイギリスで設立されたNGOで、特に機関投資家が関心を持つ気候変動関連情報の収集・開示に取り組む。

  • CDSB Climate Disclosure Standards Board の略称。2007年にイギリスで設立されたNGOで、気候変動関連情報の情報公開フレームワークを企業に提供することに取り組む。

  • IIRC International Integrated Reporting Councilの略称。2010年にイギリスで設立されたNGOで、財務情報と非財務情報の両方を統合的に公開する「The International Integrated Reporting Framework」という情報公開フレームワークを企業に提供することに取り組む。

  • SASB Sustainability Accounting Standard Boardの略称。2011年にアメリカで設立されたNPOで、企業のサステナビリティに関するリスク要因を特定・管理・報告する基準を策定することに取り組む。


5つの組織は、相互に連携しながらも、それぞれ独立的にサステナビリティに関する企業報告の基準・フレームワークを策定してきました。ある意味「乱立」してしまった5つの組織は、2020年9月に統一的な共同ガイダンスの策定を目指すことを発表し、2020年12月に気候変動関連の情報開示基準のプロトタイプを公表しました。



②TCFD

次に、上記5つの組織と関係の深いTCFDについてご紹介します。

  • TCFD Task force on Climate-related Financial Disclosuresの略称。G20から、気候変動に関して金融セクターが考慮すべき課題の検討要請を受けたFSB(Financial Stability Board、金融安定理事会)が2015年に設立したタスクフォース。投資家が適切な投資判断を行うために必要な情報開示を企業に促す提言の策定に取り組む。

TCFDは5つの組織を含む複数機関からの報告をもとに、気候変動対策に関して企業を多角的に評価します。



③IFRS財団関連組織

最後に、国際会計基準とサステナビリティ関連情報開示が交わっていく動きを牽引する組織をご紹介します。

  • IASB The International Accounting Standards Boardの略称。2001年に国際会計基準を定めるために設立されたIFRS(International Financial Reporting Standards)財団の傘下で、IFRSの策定に取り組んでいる。IASBはFSBの1メンバーとして、TCFDの創設にも関わっている。

  • SSB Sustainability Standards Boardの略称。国際的に認められたサステナビリティ報告基準を策定する必要性から、IFRS財団がIASBと並列な形で設置することを検討している組織。企業報告における国際的な基準を定めてきたIFRS財団のリードによって、統一的なサステナビリティ報告基準の誕生が期待されている。



こちらのレポートを参考に、上記①〜③の諸組織にまつわるこれまでの流れを、以下簡単にまとめてみます。

① 持続可能性に関する企業報告の基準を策定する組織が「乱立」した

② FSBがTCFDを設立し、各組織からの報告を受けて多角的に企業を評価する動きが現れた

③ 国際会計基準の策定を牽引してきたIFRS財団がSSBを設立し、サステナビリティの国際的な報告基準の策定に動こうとしている


先ほどのレポートには、「IFRS財団がSSBを設置し、TCFDガイダンスをベースに気候変動に関する開示基準を開発すれば、TCFDガイダンスを強制力のある開示基準に昇華させることができる」というまとめが続きます。今後は、TCFDとSSB周りの動きに注目してみたいと思います。




カーボンアカウンティング


2015年12月、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択されました。同協定は「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という長期目標を掲げ、2016年11月に発効しました。


3つのScope

こうした流れの中で、TCFDが2017年6月に報告書を出しました。報告書には、事業者がサプライチェーンの中で排出される温室効果ガスを以下3つの範囲で分けて把握しなければならない、と書かれています。

  • Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出

  • Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

  • Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

(Source: https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html)


このような形で排出量を把握することが推奨されていますが、まだ義務レベルでサプライチェーンの排出量を開示することは求められていません。


一方、日本においては2006年に地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)が改正され、温室効果ガスを多量に排出する「特定排出者」に対して、Scope1〜2の温室効果ガス排出量を算出し、国に報告することが義務付けられました。ただし、この温対法は、報告を怠った場合や虚偽報告を行った場合の罰金が20万円以下となっており、強制力が弱いと言えるかもしれません。ちなみに、温対法は2021年に7回目の改正が行われ、これまで国が取りまとめていた特定排出者の報告データをデジタル管理し、オープンソース化することになりました。


バリューチェーン

こちらの記事には、カーボンアカウンティングのバリューチェーンとして、把握・レポーティング・管理・オフセットの4つが挙げられています「把握」と書いた部分について記事では「測定」という言葉が使われていますが、私は「把握」としています。記事にも書かれている通り、カーボンアカウンティングは排出量の把握から始まります。排出量を把握することができなければ、削減もオフセット(相殺)も難しくなってしまいます。


冒頭にご紹介したカーボンアカウンティングスタートアップの多くは、クラウドベースのソフトウェアによって、顧客がサプライチェーン上のScope1〜3の温室効果ガス排出量を把握・レポーティング・管理・オフセットできるようにしています。なお、カーボンアカウンティングの領域は、スタートアップだけでなく、SAPやSalesforceなどのエンタープライズも参入しています。



Persefoni


繰り返しになりますが、カーボンアカウンティングスタートアップの中でも、短期間のうちに大きな資金を集め急成長しているのがPersefoniです。この章ではPersefoniのプロダクトについて、深堀りしていきます。


会社概要

Persefoniは、2020年1月にアメリカのアリゾナ州で創業されたスタートアップです。金融機関や事業者向けに、温室効果ガス排出量を把握・レポーティング・管理・オフセットできるクラウドソフトウェアを提供しています。


創業メンバーはKawamori氏Offerman氏Stroh氏の3人。Kawamori氏は、スイスのクラウドソフトウェア大手 SoftwareONE、Accentureを経て、アメリカのシェール開発大手 Chesapeake EnergyでCDO(Chief Digital Officer)を務めました。3人は、Chesapeake Energyで出会ったそうです。PersefoniでCOOを務めるOfferman氏、CPO(Chief Product Officer)を務めるStroh氏は、いずれもChesapeake EnergyでIoTやデータサイエンスに関わっていました。


顧客

Persefoniのプラットフォームは、大きく分けて2種類の顧客を想定して開発されています。1つは金融機関、そしてもう1つは事業者です。


金融機関は、ファイナンスド・エミッション(投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量)を把握するツールとしてPersefoniを利用します。Persefoniの排出量算出方法はPCAF(*)が定める基準に準拠しており、信頼性が高いものになっています。


* PCAF

Partnership for Carbon Accounting Financialsの略称。Scope3(事業者の活動に関連する他社の温室効果ガス排出)の排出量を把握するために、金融機関のファイナンスポートフォリオにおける、投融資先の排出量を算出する手法を開発する枠組。PCAFの排出量算出フレームワークはTCFDに承認されています。



事業者については、役職によってPersefoniのプラットフォームを利用するニーズが変わってくるかもしれません。同社のホームページに書かれている想定ユーザーへのメッセージを一部ご紹介します。

  • CFO、IR担当者向け 「組織の温室効果ガス排出量を報告することは、今や事業を行ううえでライセンスの一部となっています。上場企業や、株主にプライベートエクイティがいる(未上場)企業は、資本へのアクセスを維持するために、排出量開示がミッションクリティカルなコンプライアンス活動となっています。」

  • 実務担当者向け 「あなたの組織は、ネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を実質ゼロにすること)の約束をした、あるいはしようとしています。それはあなたの日常業務にとって何を意味しますか?どのようにしてそこに到達するのでしょうか?温室効果ガスはどこで発生し、どのように管理しているのでしょうか?Persefoniはその答えを提供します。」


プロダクト

顧客は、Persefoniのプラットフォームを利用することで、温室効果ガスの把握・レポーティング・管理・オフセットを全て実行することができます。1つ1つの機能について見ていきます。


  • 把握 プラットフォーム上で温室効果ガスの排出係数(ある事業活動を行った際の単位あたり排出量)が自動設定されており、事業者が事業活動データを入力・アップロードするだけで、自動的に排出量が算出されます。 事業者が把握すべきScope3の排出量には、例えば従業員の出勤・出張に伴って排出された温室効果ガスも含まれます。自動車・飛行機・電車、どの移動手段を使って、どこからどこまで移動したのか、という情報を細かいレベルで把握しなければなりません。Persefoniを使えば、出発地・到着地・移動手段を入力していくだけで排出量が算出されるようになっています。

  • レポーティング 把握された排出量を、特定のレポート形式に自動で落とし込んでいきます。事業者は、TCFD・SASB等、形式が異なるレポートを作成する手間・時間を削減することができます。 レポート作成において重要なのが「透明性」です。スプレッドシートでは難しかったバージョン管理・権限管理を全てソフトウェア上で実行し、誰がどのような変更を加えたのかをデータベースに残しておくことができます。

  • 管理 Persefoniはプラットフォーム上でシミュレーション機能を提供しています。例えば、パリ協定で定められた2℃あるいは1.5℃の気温上昇幅を温室効果ガスの排出量削減目標に変換し、組織内の目標設定に利用することができます。

  • オフセット Persefoniは、Patchという企業と連携して、ZCCOM(Zero Commission Carbon Offset Marketplace)というサービスを立ち上げています。Persefoniの顧客は、自社が排出した温室効果ガスを相殺するため、Patchが運営するオフセットマーケットプレイス上で温室効果ガスを削減するプロジェクトのクレジットを購入することができます。手数料がかからない点、また排出量に応じたオフセットプロジェクトを簡単に探せる点が優れているようです。なお、Patchは2021年2月にa16zがリードするシードラウンドで約450万ドル(≒5億円)調達しています。


資金調達

Persefoniは、2020年1月の創業から7ヶ月後の2020年8月にシードラウンドを実施し、350万ドル(≒4億円)調達しています。シードラウンドに参加した投資家は、Rice Investment Group(石油・天然ガスセクターで投資活動を行うファンド)、Carnrite Venturesです。2020年8月は、サービスを開始したタイミングでした。


シードラウンドから8ヶ月後の2021年4月、970万ドル(≒11億円)のシリーズAラウンドを実施しました。この資金調達ラウンドをリードしたのは、シードラウンドもリードしたRice Investment Groupです。資金調達ニュースには、「私たちはベンチャーおよびソフトウェア投資家のコミュニティが...最大の規制コンプライアンス・ソフトウェア市場の形成に目覚めたのを目の当たりにしました。」というKawamori氏のコメントが掲載されています。カーボンアカウンティング市場が一気に注目を集め始めたこのタイミングを逃すまい、という勢いを感じます。


そして、シリーズAラウンドから6ヶ月後の2021年10月、約1億ドル(≒110億円)のシリーズBラウンドを実施。このラウンドは、ポートフォリオに気候変動関連スタートアップが並ぶPrelude Ventures、The Rise Fundが共同でリードしました。日本からは、三井住友銀行が株主として参画しています。資金調達ニュースによれば、すでにこのタイミングで大手プライベートエクイティファーム4社、大手銀行4社がPersefoniのプラットフォームを利用してファイナンスド・エミッションを算出し、開示しているそうです。



カーボンアカウンティング市場でポイントになるのは?


途中でご紹介したカーボンアカウンティング市場に関する記事でも言及されていましたが、カーボンアカウンティングのバリューチェーンで、把握・レポーティングは差がつきにくい領域になっていくかもしれません。というのも、準拠すべき基準が定まれば、それに応じた排出係数を設定することで排出量の自動算出はできますし、レポートの自動作成も型が決まってきます。ただ、把握については事業データの収集・統合・入力部分にまだ課題が残っており、IoT等を活用したサービスが生まれてきそうな気がします。



一方、管理・オフセットについては、サービス設計の自由度が比較的高く、これからさまざまなサービスが現れるのではないかと思います。


例えば、製造業の顧客をターゲットに、サプライチェーンの排出量が削減されるような材料調達先候補を複数提示してシミュレーションを行ったり、生産拠点・輸送拠点のシミュレーションを行ったりできるようなサービスは、サプライチェーンマネジメントと関連する重要テーマになっていきそうです。


また、先ほどご紹介したPatchのようなカーボンオフセットマーケットプレイスは、現時点で私が調べた範囲内では日本に見当たりません。(少なくとも「オフセット マーケットプレイス 日本」で検索しても、1ページ目に日本のスタートアップがヒットしませんでした。)



今回はこれで以上になります。ものづくり・ものはこびと密接に関わるカーボンアカウンティングについて、これからも積極的に注目していきたいと思いますので、この領域で起業を考えている方、あるいはすでに起業して資金調達を考えている方などは、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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