Kenta Adachi

Mar 4, 20209 min

スタートアップが失敗する理由トップ20

Updated: Jun 16, 2021

本記事は、CB Insinghtsによる"The Top 20 Reasons Startups Fail"を参考に、著者のこれまでのベンチャーキャピタリストとしての経験から、考察を記したものになります。

参考にした原文はこちら。

https://www.cbinsights.com/research/startup-failure-reasons-top/

その原文に示されている「20の失敗理由」の一覧が、下表になります。

左側が理由、右側の%表示は、CB Insightsが調べた101社の失敗スタートアップのうち、どれだけの割合がこの理由に該当したか、というものです。

例えば下表で失敗理由のトップ "NO MARKET NEED" つまり「市場ニーズがなかった」は、実に、失敗したスタートアップの42%が該当していた、ということです。

以下、それぞれ紐解いていきましょう。

失敗理由第1位 市場ニーズがなかった 42%

プロダクトアウト的発想の時に陥りやすい失敗ではないでしょうか。

「すごくよい技術を開発した」「すごくよいサービスをひらめいた」という歓喜に突き動かされ、自分のアイデアが引き起こすポジティブバイアスにかかり、世の中のすべての現象が「自分のアイデアの正しさを証明している」と錯覚し、客観的に市場ニーズをとらえないまま突き進んでしまう。

努力しても努力してもクライアントは増えず、リピートもされず、ある日「市場ニーズがなかったのだ」と気づいてしまう。

そうならないためには、早期から、客観的な目線を持つことが重要です。そのために、投資家なりメンターやアドバイザーなり、第三者視点を保持し、その意見を適切に聞く(過度に聞く必要はありません)ことが重要ではないでしょうか。

失敗理由第2位 資金の枯渇 29%

資金がないと当然のことながら、給与も払えませんし、家賃も払えませんし、仕入れもできなければ、融資の返済もできません。となると、事業を継続させることは難しくなるのですが、そうならないようにするために、どうすべきか。

スタートアップというものは基本的に、売上よりも費用の方が大きい期間が少なからずあります。つまり、手持ち資金を日々、減らしながら行う活動です。その様を、日々お金を燃やすかのごとく、Burn Rateという表現までされます。

手持ち資金を減らしながら活動する以上、何らかの方法で手持ち資金を増やす必要があり、スタートアップにとってその主たる手段は、投資者からの投資、あるいは融資者からの融資を受けることです。

そのためには、一定期間において投資者や融資者が投融資を意思決定できるような事業の進捗を示す必要があり、その進捗具合を象徴的に示す実績のことを、よくマイルストンなどと表現されます。

スタートアップとしては、まず初期の資金(多くの場合は起業家の自己資金)で会社を立ち上げ、その資金を使って、初期マイルストンを示します。

その初期マイルストンをフックにして、初回の資金調達を行い(これがよく、シードラウンドと言われます)、そのシード資金を用いてさらなるマイルストンを示し、その次の資金調達(これがよく、シリーズAと言われます、以下、シリーズB、シリーズCと続きます)につなげていきます。

大切なのは、このマイルストンと調達資金額のバランスであり、ここの設計を間違ってしまうと、次のマイルストンに達するまでの資金が足りなくなり、外部からの資金調達も滞り、万事休す、ということになってしまうのです。

そのため、事業計画(どれだけの資金を使ってどれだけの期間にどういったマイルストンを達成するか)と、資本政策(どれだけの資金をどういったマイルストンを背景に調達するか)の連携が重要で、ここを甘く見ていると、資金枯渇によるスタートアップ失敗、になってしまいがちです。

失敗理由第3位 適切ではないチーム構成 23%

例えば、レガシー産業を最新技術でディスラプトしようとしているスタートアップがいて、その主要メンバーにエンジニアが存在しない場合、大きな苦戦を強いられることになるでしょう。

あるいは、類似サービスが少なくない業界で、それでも新機能を搭載した新たなサービスを市場に投入しようとしているスタートアップにとっては、事業開発に長けたメンバーがいないと、苦戦することになるでしょう。

どういった事業を展開するかによって、適切なチーム構成は異なります。そこの見極めなしに、そして十分なチームが構成される前に走り出すことは危険です。

勇気をもって一度とまり、全力でチームを整えることにフォーカスすることも一計ではないでしょうか。

なお、スタートアップを立ち上げた際はベストチームであったのに、途中でケンカをして主要メンバーが抜けてしまった、ということもあるかと思います。

そういった際も焦らず、まずはチームを整えることにフォーカスしてみるのがよいかと思います(焦りは、あらゆる失敗の原因です)

失敗理由第4位 競争に敗れた 19%

市場ニーズがあり、資金もあり、チームがよければ、少なくとも自社を原因とする大きな失敗は回避することができそうです。

ただ、忘れてはいけないのが競争相手の存在です。

例えば、優れた機械学習ソフトウェアの開発に成功し、いよいよそれを有料化して展開していこう、という矢先に、巨大IT企業のどこかが、似たような機能を無料で提供する、ということがありえます。その先、厳しい戦いを強いられることになるでしょう。

競争相手の中には、自分たちと同じようなスタートアップもあれば、自分たちよりも圧倒的に資金力に優れた大企業もありえます。その他、代替手段なども含めて、マイケル・ポーターが提唱する5フォースが参考になります。

自社発の失敗を減らすことはもちろん、外部の動きにも目を光らせておく必要があります。そこを怠ると、あとで手痛い思いをすることになりかねません。

失敗理由第5位 プライシング 18%

プロダクトあるいはサービスの価格を決めるプライシングは、スタートアップにとって悩みの種です。

日々、お金を燃やしながら戦っているスタートアップにとって、いち早く市場でのプレゼンスを確保したいがため、なるべく安い価格で市場から受け入れやすくしたい一方、コストを埋め合わせるだけの十分な価格にしないと、自分の首を絞めることになります。

安い価格で広めすぎた結果、市場の大半を獲得できたにも関わらず、その総売上は自社コストよりも低い、ということになってしまっては本末転倒です。

もちろん、市場でプレゼンスを確保し、かつ十分にスイッチングコストが高ければ、そこからじわじわ価格をあげていく、という方法もありますが、クライアントからの反発も起こるでしょう。

解決策の1つとして著者が意識しているのは、固定費の抑制です。

プライシング議論になると、なぜか販売価格にばかり目が行きがちですが、事業のベースとなる固定費をうまく抑制することで、販売価格に柔軟性を持たせることができます。

さらには、販売に係る変動費も今一度見直すことで、意外な抑制ポイントを見つけることができるかもしれません。

もちろん、競争力の源泉を生み出している費用を削ってはいけませんが、それ以外の部分を見つめなおすことで、大きなチャンスを見出せる可能性があるものです。

失敗原因第6位(同率) 使いにくいプロダクト 17%

お金を払ってプロダクトを使っていただくユーザーにとって、自社が提供するプロダクトやサービスが使いにくいものになっていないかどうか、その点の意識を忘れていると、新しいユーザーは来てくれませんし、一度使ったユーザーはリピートしてくれません。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言います。

ユーザーはもちろん敵ではありませんが、ユーザーのことをよく知らないと、負け戦に突入してしまう可能性が大きいでしょう。

Amazonのジェフ・ベゾスも、顧客満足度を第一優先事項にあげています。

それは、徹底したユーザー目線のもって、自社のプロダクトやサービスを磨き続けることに他なりません。

ユーザーのことをよく知り、そしてユーザー目線を忘れずに。

失敗原因第6位(同率) ビジネスモデル不在 17% 

スタートアップ投資の世界でもよく「ビジネスモデルは何ですか?」という質問が飛び出します。

ビジネスモデルとは、端的にいうと「どうやってお金を生み出すか」という具体的な方法のことです。

個人的な経験では、ビジネスモデル不在のスタートアップの多くが、テクノロジードリブンのスタートアップです。

「これまでの世界にない、画期的な技術の開発に成功した!」と、その技術を開発した起業家は興奮していますが、「では、その画期的な技術から、どうやってお金を生み出しますか?」という質問をした際、急に回答の解像度が落ちる、ということがあります。

発明や研究と、起業や事業運営を混同してはいけません。

もちろん、発明や研究も非常に重要です。重要性をいくら強調しても足りないくらい、重要です。

ただ、スタートアップとして外部から資金調達をする以上、その資金を使って、利益を生み出すビジネスを創り上げなければいけません。

それは、技術開発とはまた異なる、事業開発になります。

この観点を忘れてはいけません。

一方、ビジネスモデルがピカピカで、それを実現ならしめる技術が欠落している、というケースも散見されます。

技術開発と事業開発は、スタートアップにとっては、2つそろって初めて強力な推進力を生み出す、車輪のようなペアなのです。

以下、失敗原因の項目だけピックアップしていきます。

同率8位 マーケティング不足 14%

同率8位 カスタマーの声を聴かなかった 14%

同率10位 プロダクト投入時期の誤り(早すぎた・遅すぎた) 13%

同率10位 事業のフォーカス不足(注意散漫) 13%

同率10位 チームあるいは投資家との不和 13%

第13位 ピボットに失敗 10%

同率14位 起業家の情熱不足 9%

同率14位 事業内容と事業展開エリア・チーム所在地の不一致 9%

同率16位 投資者・融資者の興味を獲得できず 8%

同率16位 法律・規制への対応失敗 8%

同率16位 友人や投資者などとのコネクションを使わなかった 8%

同率16位 起業家の燃え尽き症候群(メンタル・イシュー) 8%

第20位 ピボットするのが遅すぎた 7%

以上になりますが、第8位以下も、その見え方こそ異なれど、上記で述べたことと同じようなことが原因となっているように思います。

さて実際のところ、スタートアップが「失敗」という決断を下すのは、上記の中の複数の要因が絡み合っています。

どれか1つだけがヒットしたからといって、スタートアップが即失敗、ということはありません。

むしろ、どこかしら上記の「失敗要因」を腹に抱えながらも、その他の要因でカバーしながら、浮き沈みしつつ、飛躍していくというのがスタートアップという活動でしょう。

まとめてみると重要なのは、

① 市場・顧客をきちんと知ること

② 事業・資金の整合性をとること

③ 計画推進に必要なチームを確保すること

だと思います。

だからこそベンチャーキャピタリストはよく

① 「市場規模は?」

② 「事業計画は?資本政策は?ビジネスモデルは?」

③ 「チームは?」

という質問をするのです。

ここに、以前こちらの記事に書いたMoatsを加えると、主要な観点がでそろいます。

Moatsに関する質問としては

④ 「独自の強みは?」「参入障壁はどう築く?」

といったものになります。

ご参考になれば、幸いです。

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