日々の企業経営において、簿記は、なくてはならないものである。
ここで改めて、簿記とは何であるか、ウィキペディアから引用してみると、
【 簿記 - ボキ 】
企業などの経済主体が経済取引によりもたらされる資産・負債・純資産の増減を管理し、併せて一定期間内の収益及び費用を記録すること。より平易な言い方をすると「お金やものの出入りを記録するための方法」
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%BF%E8%A8%98
とある。つまりは、日々の企業活動の記録をつけることである。
その記録に基づき、過去の状況を振り返り、現在の状況を知り、未来の状況を予測する。
そして、企業を取り巻く環境分析結果などとあわせて、企業経営に必要な判断や意思決定を行う。
さらに、その記録に基づき、ステークホルダーへの報告や、対外説明などを行う。
とても重要なものである。
だから、簿記が間違っていたら、企業経営は難しくなるし、対外説明において嘘をつくことにもなってしまう。
そうならないよう、正確に簿記をつけることが大切である。
とはいえ、各社が思い思いの方法で簿記をつけていては、同一企業内の意思決定には有効だとしても(管理会計の観点)、対外説明においては混乱を招く恐れもある(財務会計の観点)
そこで、統一的な簿記方法、あるいは会計基準が定められ、各社、その会計基準に沿って、企業活動の記録を行う。
さらに、その記録が会計基準に沿ったものであるかどうか、会計士などの外部専門家にチェックしてもらう、という体制が、現状とられている。
さて、その簿記の結果、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)など、読み手の目的に応じて情報を得やすい形式で、企業活動の結果が表示される。
例えば、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の2019年3月期の貸借対照表(資産の部のみ)が、こちらである。
出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/library/securities-report/archives/archives_2019_03.pdf
企業活動の中では、数多くの資産が登場する。例えば、「商品及び製品」「車両運搬具」「土地」など。
それらを各会計年度末時点でどれくらい保有しているのか、ということを上表は示しているのだが、よくよく考えたら、不思議に思うことはないだろうか?
そう、不思議なのは、全ての資産が、貨幣量で表現されている点である。
日常生活において、例えば「部品」の所有を表現する際、「私は部品AをX円もっている」ということはあまりないだろう。一般的には「私は部品AをY個もっている」といった表現をする。
それなのに、そういった日常生活の積み重ねとも言える企業活動を記録する際、なぜか、数量などではなく、貨幣量で示されるのだ。
貨幣量という統一されたモノサシで表現されているからこそ、異なる企業間の比較などが容易になるため、これは財務会計的な観点からすると理にかなったことでもあるが、管理会計的な観点からすると、貨幣換算されたものだけでは、足元の状況や未来の予測を把握しにくい。よって、タイムリーな意思決定などが難しい場合がある。
ここで改めて、企業活動全般と、その記録との関係性を下図に示す。
出典:https://www.bokigakkai.jp/wp-content/uploads/divisionreports/boki_practice_finalreport2016.pdf
実は、企業活動の記録において、簿記で表現されているものは一部でしかなく、秩序なし記録(メモ書きのような断片的な記録)や、秩序があっても定性的記録、あるいは定量的な記録であっても非貨幣量記録は、簿記ではカバーしきれない。
例えば、簿記にあまり労力をさくことができない中小製造業における原価計算をみてみよう。
材料の調達(購買)の前と、製品完成後の販売においては、何をどれだけ買って、何をどれだけ売ったか、という観点で、簿記によって正確に記録されるが、肝心な生産工程において、都度、何をどれだけ使って、といったことまでは、貨幣量に換算して記録することは煩雑であり、インプット量とアウトプット量だけを比較するようなどんぶり勘定が用いられていることが少なくない。
出典:https://www.bokigakkai.jp/wp-content/uploads/divisionreports/boki_practice_finalreport2016.pdf
こうしたことが、サプライチェーンとして延々とつながっていくと、結局、メーカーとエンドユーザーとをつなぐ一連の流れ中で生きた情報共有は実現できず、結果的に、状況把握や意思決定が鈍くなってしまう。
中小製造業に限らず、こうしたことはいろいろいろなところで発生している。
どうせ財務会計的な観点で簿記をつけるのであれば、その簿記の中で、非貨幣量記録もあわせて実現できると、記録のための負荷を急増させずに、企業経営における判断や意思決定の精度が高まるはずである。
これを実現するにはどうすればよいか。
その一案が、本ブログの件名にも記載している、「簿記空間の次元拡張」である。
現在の簿記は、基本的に、貨幣量と期間、この2つのパラメータで企業活動を表現している、いわば2次元空間での記録である。
そこに、非貨幣量という3つめのパラメータを加え、企業活動を3次元空間で記録しよう、という発想が、簿記空間の次元拡張だ。非貨幣量には様々な種類があるので(個数、人数、時間など)実際には3次元以上の多次元空間になりうる。
ここから先、IDATEN Venturesで出資している情報システム総研が、実際に簿記空間の次元拡張を実現している方法を説明しよう。
(以後、出資先の宣伝にもなりますので、この先、読み進めるかどうかは、ご注意ください)
例えば、「部品Xを5個、部品Yを10個つかって、機械Mを技術者が2時間うごかし、製品Aを5個つくる」という活動があるとする。
従来の簿記だと、これを、部品Xと部品Y、そして製品Aを金額換算して表現する。
ただし、実際にはそんな面倒なことは都度しないので、ある一定期間の「はじめの貨幣換算された状態」と「おわりの貨幣換算された状態」を比較し、その差を見る、というのが現実的なところとなる。
そうすると、例えば、部品Xや部品Y、あるいは製品Aの、はじめの状態とおわりの状態の間におけるリアルタイムな在庫は分からないし、この製品をつくるために使った機械や技術者の稼働時間にいたっては、そもそも記録すらできていないので、どれだけ余剰時間があるのか、ということも分からない。
場合によっては、在庫切れを精度高く予測できないため、必要量をはるかに超えて余分に部品を買って備えたり(結果、資金を寝かせることになる)、あるいは稼働可能な技術者の時間が不足しているために、部品在庫はあるが製品を思うように作ることができない、といったことも起こりうる。
これに対して、情報システム総研が考案したのが、各資源量を貨幣換算せず、そのままの固有単位で増減記録する、という、多次元簿記空間の発想を活用した方法である。
先の「部品Xを5個、部品Yを10個つかって、機械Mを技術者が2時間うごかし、製品Aを5個つくる」という例を、情報システム総研の方法で記録すると、こうなる。
ここでは、貨幣量ではない、個数や時間というパラメータで表現されている点に注目いただきたい。
こうすることで、従来の簿記で貨幣換算するために仕方なくやっていた「はじめの状態」と「おわりの状態」の差をとる、といったことをせずとも、リアルタイムに、どれだけ部品XとYがつかわれ、機械Mと技術者が稼働したのか、そして製品Aがどれくらい完成したのか、ということを把握することができる。
この仕組みがあれば、生産管理、在庫管理といった活動がアップデートされ、リアルタイムでの状況把握が実現し、経営の高度化につながる。
かつ、サプライチェーン上で複数の企業が、この仕組みを使って同じように管理していけば、上流から下流まで、一気通貫で資産量の変化をリアルタイムに把握することができ、業界全体としてジャストインタイムが実現されうる(管理会計の統一基準、という概念に近い)
現在注目されつつある、マスカスタマイゼーションやトレーサビリティといったことも、この仕組みを使うことで容易に実現できる。
情報システム総研では、この仕組みで稼働する基幹系システムを開発しており、そのシステムの提供を通じて、世界の企業活動の底上げをしていこうとしている。
出資先の宣伝色が強くなってしまったが、真に伝えたかったのは、こうして記録方法を少し変えるだけで、今までできなかったことが可能となる、ということである。
簿記のように、数百年、変化がなく当たり前のものとして受け止めているものにこそ、そういったチャンスは多く、眠っているのではないだろうか。
世の中にはまだまだこういったチャンスはたくさんある。
そう思って世界を見渡すと、また一層、おもしろい。
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