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  • Shingo Sakamoto

水中ロボット市場とSPAC上場するスタートアップ Nauticus Robotics

2021年12月、Nauticus Roboticsというアメリカのスタートアップが、CleanTech Acquisition Corp.というSPAC(特別目的買収会社)と合併することによってNASDAQに上場することを発表しました。


Nauticus Roboticsは、「Green Robotics For A Blue Economy」というミッションを掲げ、水中作業を行う自律ロボット、ロボットや荷物を運搬する自律航行船、またそれらを制御するソフトウェアを提供しています。


2021年末に「船舶の電動化」というテーマで「水上」×「電動化」の動きに注目してみましたが、今回は「水中」×「ロボット」というテーマで調査していきたいと思います。


以前から、スタートアップの資金調達が進んでいる、特定市場における専用ロボットについて、少しずつではありますがブログを執筆してきました。例えば、配膳ロボット農業ロボット手術ロボットなどです。こうした一連の調査のモチベーションとして、それぞれの市場自体について知ることはもちろん、他市場に展開可能なロボットの可能性や、ユーザーのニーズを探り、これまであまり予想していなかったようなロボット活用方法が現れてくることをひそかに期待しています。今回もそのシリーズの1つとして、少しでもロボット関連スタートアップを経営されている方々の参考になる部分があれば幸いです。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%e9%a3%9b%e3%81%b3%e8%be%bc%e3%82%80-%e6%b0%b4%e4%b8%ad-%e6%bd%9c%e6%b0%b4%e8%89%a6-23030/)



水中作業とロボット

水中ロボットは、従来からさまざまな用途で研究が重ねられてきました。例えば、工業分野では海洋資源(石油・天然ガス等)開発がその代表例です。2014年に国土交通省から出されているレポートには、世界のほとんどの海域で、石油・天然ガス市場が大きくなると書かれており、また今後は、石油・天然ガスの他にもメタンハイドレードなどの資源も注目されています。

(Source: https://www.mlit.go.jp/common/001215814.pdf)



漁業では、例えば漁業船舶の点検、養殖施設のモニタリング、水産資源の発掘などの目的で、水中ロボットが用いられています


軍事においては、私自身が日常生活を送っている中で意識する機会はそれほど多くありませんが、防衛省が公表している2019年以降の中期防衛力整備計画には「海上優勢の獲得・維持」という項目で、無人水中航走体(≒水中ロボット)が明記されており、水中ロボットが国家防衛戦略の中でも重要な位置付けであることが窺えます。

(Source: https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/pdf/20190801.pdf)



日本で、こうした水中ロボットの研究開発を牽引している機関の1つが、JAMSTEC(海洋研究開発機構)です。JAMSTECが掲げる長期ビジョン「海洋・地球・生命の統合的理解への挑戦」には以下6つのテーマがあり、各テーマで技術課題の洗い出しと研究開発を行っています。

  1. 未踏領域に踏み込み新しい知見をもたらす技術

  2. 海洋資源大国の実現を目指した資源探査に資するAUV・ROV技術(←水中ロボット)

  3. 国民の安全を確保する防災・減災を推進する複合ネットワーク技術

  4. 海洋環境を広く長期にわたって精度良く観測する技術

  5. 統合調査・観測システム技術

  6. 我が国の基幹技術としての海洋科学技術


水中ロボットの種類と役割

こちらの論文によれば、水中ロボットには大きく分けて2種類あります。1つ目が、遠隔操作型の水中ロボット(以下、「ROV」=Remotely Operated Vehicle)。ROVはケーブルで操縦者とつながっており、水中の映像や情報をリアルタイムで伝えたり、ロボットアームで機器設置や物品回収などを行うことができます。水中は電波が伝わらないため、ROVはケーブルを用いて通信を行いますが、そのケーブルを利用して電力も確保します。ケーブルを通じて豊富な電力が供給されるROVは、推進装置およびマニピュレータも高出力で設計しやすく、観測・点検にとどまらず、対象物に操作を加えるようなアーム作業ができる場合もあります。


2つ目が、自律型の水中ロボット(以下、「AUV」=Autonomous Underwater Vehicle)。AUVはケーブルを持たず、ROVに比べて広い範囲を航行することができます。ケーブルがないことで、AUVは、海流の影響を受けにくいこと(太いケーブルは海流に流されやすい)、支援船(ROVを操縦する人が乗る船)なしで運用できること、そして複数同時航行できること、などがメリットとして挙げられます。


現時点では、稼働している水中ロボットの多くがROVであり、AUVは水質調査や音響による地形探査などを担当しているようです。国土交通省が2020年に公表している資料によれば、日本においては、港湾・漁港施設の整備・点検あるいは養殖業でROV活用が始まっており、ビジネスモデルの検討・オペレーションの確保に課題があると書かれています。一方、AUVは低価格化・適正スペック化・ユースケース創出が課題と書かれています。

(Source: https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ocean_policy/content/001371255.pdf)



海洋工学センターのコラムでは、海外ではイラク戦争時にAUV開発が急激に発展し、AUVの量産化・オペレーション確立という点では日本は欧米に先を越されている、と指摘されています。また、同コラムは、水中ロボットのトレンドはROVからAUVへと徐々に移り変わっていること、その理由としてAUVは相対的に運用コストが低いことに言及しています。CPU処理能力向上、SLAM技術の発達によって、測位が難しい水中でのポジショニング精度が上がってきたことで、グローバルではAUVの普及が進み始めているようです。


こちらのニュースによれば、グローバルのROV・AUV市場は、2020年に33億ドル(≒3,500億円)だったところから、年間平均成長率約14.3%で成長し、2026年には72億ドル(=7,500億円)まで拡大すると言われています。少し興味深いのは、どこか1つの国がグローバル市場を圧倒的に牽引しているというよりは、海洋と接点を持つ国々(アメリカ、カナダ、中国、ドイツ、日本、etc)にバランス良く市場が生まれている点です。



SPAC上場を行うNauticus Robotics

Nauticus Roboticsは、先ほどの水中ロボットの分類の中でも「AUV」の開発を行うアメリカ発のスタートアップです。2014年創業のNauticus Roboticsは、創業からSPAC上場公表まで、Houston Mechatronicsという社名で事業を展開してきましたが、2021年12月にリブランディングし、海事ロボット企業であることを改めて宣言しました。


Nauticus Roboticsのメインプロダクトは、「Aquanaut」といわれる水中ロボットです。Aquanautは基本的にAUVとしての利用が想定されていますが、ROVとして人間が操作するよう変化させることもできます。以下、ロボット本体とマニピュレータのスペックを一部抜粋すると、重量3,360kg、最大潜航可能深度3km、航行距離120km、航行時間116時間。マニピュレータは6軸、リーチ範囲は1.9m、グリップ力は454kgです。

(Source: https://nauticusrobotics.com/wp-content/uploads/2021/11/Aquanaut-Product-Sheet.pdf)



Nauticus Roboticsは、ロボットとクラウドベースのソフトウェアを合わせて、直接販売およびサブスクリプションモデルで顧客に提供しています。これまでROVで水中設備点検や海底調査を行ってきた顧客は、Aquanautを使うことにより、既存の50%のコストで、かつ温室効果ガス排出量を大幅に少なく水中ロボットを運用することができるそうです。


Nauticus Roboticsがロボットとワンセットで提供するソフトウェア「Nauticus Software Suite」には、クラウドでロボットが遂行すべきミッションを設定し、水中オブジェクトのスキャニング・3Dモデリング、データ分析を行うために必要な機能がオールインワンで含まれています。


SPAC上場発表時に公表したリリースによれば、今回の上場によってNauticus Roboticsは評価額が5億ドル(≒570億円)以上になるようです。Crunchbaseによれば、Nauticus Roboticsは、SPAC上場までに3回資金調達を実施しています。シードラウンドが2014年で、金額不明。シリーズAラウンドが2015年で、個人投資家から300万ドル(≒3億円)を調達。そしてシリーズBラウンドが2018年で、世界最大のオフショア掘削事業会社のTransoceanをリード投資家として2,000万ドル(≒20億円)を調達しています。



世界の水中ロボットスタートアップ


ここでは、Nauticus Roboticsの他に、世界でどのような水中ロボットスタートアップがあるのか、可能な範囲で調べてみようと思います。


FullDepth

FullDepthは、日本で2014年に創業されたROVスタートアップです。2019年から産業用水中ドローン「Dive Unit 300」を販売開始しています。「Dive Unit 300」は、国交省が運営する新技術に関するデータベース NETIS(New Technology Information System)に登録されています。


Dive Unit 300の用途は、主にインフラ・建設現場・水産現場の点検や水中資源調査等ですが、アームを搭載することで養殖場で死亡した魚の除去などもできるようです。公表スペックを一部抜粋すると、重量28kg、最大潜航可能深度300m、航行時間4時間です。

(Source: https://fulldepth.co.jp/products/pdf/fulldepth_pamphlet.pdf)


公表されている範囲内ですが、FullDepthは2016年にシードラウンドを実施し、2017年にはVCを中心に1億9,000万円調達。2019年にもVCおよび事業会社から3億4,000万円を調達。2020年、2021年にも事業会社やVCから資金調達を実施しています。


Rovco

Rovcoは、2016年にイギリスで創業されたスタートアップです。主にROVを開発していますが、ホームページを見る限り、Rovcoはハードウェアそのものよりも、AIを活用した3Dコンピュータービジョンに強みを持っているようです。撮影写真を用いた3Dモデリング、構造点間距離測定、表面積・体積計算、CAD図面との比較などをワンストップで実施できるプラットフォームを提供しており、海底インフラの高解像度デジタルツインを得ることができます。


Rovcoは、海洋開発事業者、水中構造物所有者などの顧客に対して管理プラットフォーム画面を提供し、ハードウェアの販売・レンタルにとどまらないようなサービスづくりをおこなっているように見えます。


そんなRovcoですが、Crunchbaseを見ると、これまでに900万ポンド(≒15億円)調達しています。各ラウンドの出資者は基本的にイギリスのVCおよび事業会社となっています。



EyeROV

EyeROVは、2016年にインドで創業されたROVスタートアップです。同社のホームページには、EyeROVがインド初のROVメーカーであると書かれています。


ラインナップの中で最もスペックが優れているROV「TUNA PRO」は、重量22kg、最大潜航深度100m、航行時間2時間と掲載されています。


EyeROVは、ハードウェアと一緒にデータ分析プラットフォーム EVAPEyeROV Visualization and Analytics Platform)を提供しています。Rovcoは3Dモデリングでデジタルツイン作成機能を提供していましたが、EyeROVは水中でクリアに撮ることが難しい写真・ビデオ映像のAIによる画質補正、点検対象の異常検知、そしてレポート作成機能を備えています。


Crunchbaseによると、2017年〜2018年に資金調達を行っています。



Dive Technologies

Dive Technologiesは、2018年にアメリカで創業されたスタートアップです。Rovco、EyeROVがROVをメインで開発しているのに対し、Dive TechnologiesはAUVを開発しています。


Crunchbaseによると、Dive Technologiesはこれまでに700万ドル(≒8億円)調達しています。(ただし、直近の2020年12月ラウンドの資金調達プレスリリースには、累計950万ドルの調達と書かれている点にご注意ください。)同リリースには、2020年12月ラウンドは、風力発電・石油・ガス事業者を中心に、高まる需要に応えてAUVおよびデータプラットフォーム事業を加速させるために実施したと書かれています。Dive Technologiesのメインプロダクトである「DIVE-LD」というAUVは、重量2,720kg、最大航行範囲580km、最大潜航深度6kmと、Nauticus Robotics以上のスペックを持っているように見えます。

(Source: https://divetechnologies.com/products-and-services/)


また、同社の強みは、ミッションごとに最適な「DIVE-LD」をスピーディにカスタマイズ生産できる点にあります。大型3Dプリンタを活用し、48時間のうちに複雑な船体形状を作り上げ、AUV全体を4週間のうちに完成させることができます。ハードウェア以外の制御・通信・ナビゲーション・セーフティシステムなどのサブシステムは「AUV-Kit」としてパッケージになっており、カスタマイズされたハードウェアに導入されます。顧客はAUVを購入することも、日・週・月・年単位でオンデマンドにレンタルすることもできます。この提供方法は、Dive Technologiesに限らず多くの水中ロボット企業が採用しており、RaaS(Robot as a Service)モデルで、顧客が必要な時だけ利用する、というのがトレンドのようです。




その他にも、Terradepth(2018年にアメリカで創業、累計800万ドル(≒9億円調達))、ecoSUB Robotics(2016年にイギリスで創業、資金調達状況は不明)、Eelume Robotics(2015年にノルウェーで創業、資金調達状況は不明)など、沿岸地域の国々を中心にROVおよびAUVを開発する企業が存在します。


今回調べてみて感じたのは、海外スタートアップの多くが、データ分析やハードウェア管理を行う「ソフトウェアプラットフォーム」をつくりこんでいる、ということです。RaaSとして提供する以上、単なるレンタル・リースモデルではなく、ハードウェアを通じて得たデータを用いたアプリケーションが顧客には重要になります。プラットフォーム上で、撮影した画像・映像からデジタルツインを作成する、そのデジタルツイン上で水中設備のメンテナンスプランの立案・実績管理を行う、など顧客のオペレーション管理に入り込んでいくようなアプリケーションを合わせた水中ロボットスタートアップが今後増えていきそうな印象です。



マクロで見ると、これから石油・天然ガスの生産量は陸上・浅海・深海で引き続き伸びる見込みで、それに加えて洋上風力エネルギーの需要も高まっているため、水中インフラの点検・整備を行う水中ロボットの需要もそれに応じて増えていくと思われます。そのほかにも、例えばMicrosoftが水中にデータセンターを設置するという取り組みを行っていたり中国がそれに類似するプロジェクトを発表したり、新しい水中市場が生まれていく可能性もあります。


一方で、そういったニーズも増えていく可能性がある中で、グローバルで見ても、まだ水中ロボット開発企業の数はそれほど多くない状況です。そんな折、Nauticus RoboticsがNASDAQに上場するというのは、SPACに対するさまざまな意見がある中でも、今後の盛り上がりの火付け役となるかもしれません。


ロボットスタートアップを見ていると、VCだけでなく事業会社から資金調達を行うケースが見られますが、この水中ロボットについてもそういったステークホルダーを巻き込んでワンチームで市場を盛り上げていくというアプローチが重要になりそうです。今回ご紹介したスタートアップの中にも、事業会社から資金調達を行いながら、開発・量産を進めているところがいくつかあります。スタートアップとしては、ソフトウェアと顧客接点を武器に、ハードウェア量産工程では事業会社と協力しながら事業を進めていく、というのがヒントになるかもしれません。


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