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  • Shingo Sakamoto

次世代製造業に不可欠なピース?ノーコード・ローコードの果たす役割

Updated: Jun 16

アメリカの調査会社Gartnerによれば、2021年の世界のローコード開発市場は対2020年比で22.6%増の138億ドル(約1兆5,000億円)になると予測されています。特にその中でも、アプリ開発プラットフォーム市場は、2020年から毎年30%の拡大を続け、138億ドルのうち約40%を占める58億ドルとなる見込みと書かれています。


ノーコードとローコードという言葉は、人によって少しずつ定義が異なります。冒頭に挙げたGartnerは、ノーコードを含めてローコードと一括りにしているようですが、一般的には、ノーコードは完全にプログラミング不要である一方で、ローコードは少しだけプログラミングが必要になります。



ノーコード・ローコードの盛り上がりは、以前から話題になっていますし、インターネット上にそれなりの量の情報が落ちています。そこで、IDATEN Venturesの投資領域の1つである「ものづくり」という切り口から、ノーコード・ローコードアプリ開発プラットフォームのユースケースやサービス、そしてノーコード・ローコードが持つ本質的な価値について考えていきたいと思います。



(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E6%A5%AD%E7%95%8C-%E7%94%A3%E6%A5%AD4-0-2496188/)




海外の大企業がノーコード・ローコードに注目?


冒頭のGartnerの市場予測がそのまま的中するかどうかわかりませんが、確かに最近ノーコード・ローコードを巡って、大企業の動きが活発になっています。SAPは2021年2月にフィンランドのAppGyverというローコードアプリ開発プラットフォームを買収しましたし、Googleは2020年1月にAppSheet、Microsoftは同年5月にSoftomotivを買収。Amazonは2020年にHoneyCodeという自社開発プラットフォームを発表。いずれもノーコード・ローコードで顧客が自由にアプリを開発することができるプラットフォームとなっています。各社は「アプリ開発を非エンジニアに開放すること」を狙いとして、M&Aによるサービス取込みや自社開発を進めているようです。


特に日本は、「非エンジニアがアプリを開発できる」というノーコード・ローコードの恩恵を強く受けることになるかもしれません。以下の図は、2017年に情報処理推進機構が公開した「IT人材白書」の1スライドです。細かい定義はこちらのサイトを確認していただければと思いますが、情報処理・通信に携わる人材が、日本ではユーザー企業に3割未満しかいない一方で、欧米ではユーザー企業に5割以上いるというデータがあります。【アプリを開発できる人】と【情報処理・通信人材】が同義であるとは思いませんが、ユーザー企業にIT人材が少ない傾向があるというのは、日本の特徴の1つとして考えられます。

(Source: https://www.ipa.go.jp/files/000059087.pdf)



また、非エンジニアが受ける恩恵という意味では、私自身の体験もその裏付けになるかもしれません。ノーコード・ローコードという意味では、CMS(Contents Management System)として有名なWordPressも該当するでしょう。PHP・MySQLをそれほど書くことなく、ブログやメディアなどのコンテンツを管理することができます。私は職業としてのエンジニアではありませんが、それでもAWSにサーバーを立てて、Dockerを使ってWordPressを構築したことがあります。


ビジュアルにコンテンツ管理ができる楽しさと便利さを自分の手で実感しました。私のようにちょこっとプログラミングをかじったような人や、あるいは全くそういう経験がない人でも、自分自身やチームが求める機能を持つビジュアルなアプリを自作できるというのは、大きなポテンシャルを秘めていると感じます。




ものづくりにおけるノーコード・ローコード


こちらのサイトでは、製造業のデジタル化を目指す「インダストリー4.0」プロジェクトにおいて、クラウドコンピューティングやデジタルツイン等に並んで、ノーコード・ローコードアプリ開発プラットフォームが必要な技術の1つであると書かれています。


そうしたプラットフォームを利用して開発する非エンジニアを、「Citizen Developer」と表現することがあるそうです。その定義は、アプリをコーディングするためにお金をもらっているプロの開発者ではなく、「アマチュア」として自分やチームメンバーが仕事の過程で使用できるアプリを構築する人、とされています。



世の中にはレベルの低い「プロ」も、レベルの高い「アマチュア」もいるため、このように「プロ」「アマチュア」と区分して、敷居を作ることはあまり意味を持たないと思いますが、今回は話をわかりやすくするために、あえて本業としてアプリケーションを開発する人と、「Citizen Developer」を区分して書いていきます。



それでは、ものづくりにおける「Citizen Developer」は具体的にどんな人が当てはまるのでしょうか?私は大きく分けて2つあると思います。なお、以下の分類は、私自身が思考の整理のためにつくったもので、世の中一般で通用するものではないかもしれないことをご了承いただけますと幸いです。


①専門的な知識・技術を有する「エキスパート」

まず1つ目が、設計・シミュレーション・解析といった専門的な技術を持つ人や、原材料の調達・生産管理・在庫管理などの専任担当者として、ものづくりをバックエンドから支えるような人です。


例えば、流体解析の専門家として、飛行機の翼周辺にどのような空気の流れが生まれるかをシミュレートし、翼形を調整するような仕事をしている人や、生産管理システムを使いこなして、どの製品をどの工場でどれくらい生産すべきか、という計画を立てるような人が考えられます。


製造業向けにローコード開発プラットフォームを提供するMendix社のプロダクトマーケティンググローバルディレクターのKoenigsberg氏は、こちらのサイトで、ローコードが持つ価値について、以下のように述べています。


「大手メーカーがIoTソリューションにローコードを採用しているのは、プロアクティブでコンテクストに沿ったパーソナライズされたアプリケーションをドメインエキスパートが共同で作成できるからです。」

ローコードの価値は、ドメインエキスパートがコラボレーションできること、であると。もう少しわかりやすくするために、具体的な例で考えてみましょう。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E8%BB%8A%E3%81%AE%E3%83%89%E3%82%A2-%E6%A5%AD%E7%95%8C-%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A-%E5%B7%A5%E5%A0%B4-406883/)



・自動車メーカーの在庫削減の例

自動車メーカーで財務体質改善のために、在庫削減プロジェクトが始まったとします。プロジェクトには、各バリューチェーンのエキスパートが絡んでいます。ボディ・シャフト・タイヤの各部品を調達する人、組立生産の計画を立案・実行する人、完成車の販売を管理する人など。

リアルタイムで現在の在庫量を把握し、自動で部品調達を最適化するというゴールを掲げています。その場合、必要となるデータは1種類ではありません。調達計画のデータ、リアルタイム在庫データ、リアルタイム販売実績データなど、複数のシステムで管理しているデータが必要になります。データ量も大きくなるため、これらのデータをエクセルのバケツリレーや、Googleスプレッドシートでつなぎあわせて共同編集するのは、あまり現実的ではありません。

では、より視覚的で、データが整流化されたアプリを作るために、外部のベンダーに頼んで、数百万円〜数千万円かけてアプリを開発してもらうでしょうか?コストに見合うリターンが得られるかわからない場合、その意思決定は容易ではないはずです。

そこで、ローコード開発プラットフォームが登場します。Citizen Developerである各エキスパートが、それぞれ管理しているデータをローコードアプリ開発プラットフォーム上で統合します。

ERPから、生産計画・販売計画・リアルタイム在庫データが一気にアプリに繋がるようになり、自動算出された部品の調達計画が視覚的に表示されるようになりました。改めて視覚化して見ると、これまでは、本来必要とする部品の量より10%以上多く定期発注していたことがわかりました。

次に、各発注先への発注書フォーマットをアプリ上で作成し、調達部品や発注先ごとに自動で発注書が生成される機能をつけました。これまで手入力していた調達担当者の作業工数が削減され、省人化につながりました。これを調達管理システムと連動させれば、完全自動で最適な調達が行えるようになります。


このようなアプリの設計・仕様は、企業によって違うものになると考えられます。それは、システムから吐き出されたデータの形式も、発注書のフォーマットも、企業によって異なるケースが多いからです。そうした細かい部分までITベンダーにカスタマイズして作ってもらった場合、後からアプリを改変しづらくなるリスクがあります。発注先のフォーマットが変わった場合に、アプリ上の発注書フォーマットを変更するだけでも一手間かかりますし、新しく機能を追加したい場合に再度まとまった予算を確保する必要があります。


上記の具体例は、私が頭の中で流れをシミュレーションして書いたものですが、このようなプロジェクトが次々と立ち上がり、オペレーションの最適化が各企業内で行われていけば、その企業独自の強みを磨くことに、より集中する時間が生まれるのではないでしょうか。



社内にバックエンド・フロントエンドのエンジニアや、データサイエンティストがいなくとも、ノーコード・ローコードを使うことで、エキスパートのコラボレーションによって新たな発見やオペレーション改善が生まれる可能性があります。


こうしたプラットフォームは、海外でいくつか見られます。特に名前がよく挙がるのが、「Mendix」です。Mendixは、ドメインエキスパートが、わずかなプログラミングやドラッグ&ドロップだけで、AWS・SAP等のクラウドシステムからデータを引っ張り、求めるIoTアプリを開発することができます。同社は2004年創業で、2018年にSiemensが買収。


この他にも、2016年創業の「Edge2Web」、Alpha Softwareが提供する「Alpha Transform」、2017年創業の「Datacake」、2018年創業の「Atmosphere IoT」など、ここ4~5年で続々とスタートアップが生まれ、Mendixに近いことを実現しようとしているように思います。


②熟練の技や判断基準を持つ「技能系」

2つ目のCitizen Developerが、現場で身体を使って仕事をすることが多い人です。手に職を持ち、長年培った熟練の技や判断基準で、ものづくりを力強く支えているような人を想定しています。


例えば、検査工程において、一瞬で微細な傷を見抜くことができたり、不安定な足場でもレンガを1mmたりともズレることなく積み上げることができるような技能を有しています。こういった方々向けにも、ノーコード・ローコードを活用する例が現れてきています。


例えば、「カミナシ」はその一例ではないでしょうか。2021年3月に、シリーズAラウンドで11億円の資金調達は完了したことを発表したカミナシは、「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションを掲げ、紙やエクセルで行われる点検や作業記録を、ユーザーがノーコードで作成したアプリ上で実行できるようにしています。


また、ユニフィニティが運営する業務用モバイルアプリ開発プラットフォーム「Unifinity」は、設備点検・在庫管理などの現場業務を便利にするノーコード開発環境を提供。同社は2017年に3億円の資金調達を実施しています。


他にも、Asteriaが提供する「Platio」は、業務用モバイルアプリをノーコードで作成できるプラットフォームとして、倉庫内の在庫管理や現場作業員の検温報告など、さまざまなシーンで利用されています。


サイボウズの「kintone」も現場で使われています。製造業における事例一覧には、印刷会社・自動車メーカーなどでの在庫管理や調達業務の時短化が挙げられています。



ノーコード・ローコードアプリ開発プラットフォーム上で開発されるアプリのうち、特に現場で使うことを主眼されているものは、モバイルとの相性が抜群です。オフィスでPCに向き合うばかりでなく、現場で立ち仕事をすることがある人にとって、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で、点検項目にチェックをつけたり、申し送り事項を記入したりすることができることが負担軽減につながります。



一方で、現場業務にアプリを持ち込むことから生まれる効果は、負担軽減や書類の削減に止まりません。「データの正規化」によって、データ活用がしやすくなります。


紙やエクセルで管理することの難点の1つは、記入者によって書き方のばらつきがあることです。例えば、品質検査の結果を申し送りする際に、書類やエクセルに「異常なし」と記入する人もいれば、「異常ありません」と記入する人もいます。これでは後から集計して分析するとき、一手間かかってしまいます。「異常」という言葉が入っていればまだしも、「問題ありません」や「平常通りです」といった記入をする人がいる場合、それを「異常なし」と分類するために、エクセルで翻訳表を作ってVLOOKUPを使ったり、プログラミング言語でクレンジングしたり、データをいじくる必要があります。

(筆者作成)



OCR(Optical Character Recognition/Reader、光学的文字認識)を使って書類をデジタル化することは徐々に普及が進んでいますが、上記同様に、表現の統一がされていなければ依然として問題が残ります。(実はIDATEN Ventures投資先のSImountは、こうした表現のズレを吸収し、一つのテーブル上でビッグデータを扱うことのできるデータベース技術を持っています。)


アプリによって、インターフェース部分をドロップダウン式やチェック項目式にすれば、表現を統一した管理ができるようになります。ちなみに、どうしても備考や申し送りの項目に、文章を書きたいというニーズがある場合は、記入ルールを統一しておく、あるあるリストを候補に用意しておいて選択式にするなど、細かいところの工夫が大事になってきます。


そして、きれいに正規化されたデータが集められたとします。それでも、ただクラウド上にデータが溜まっているだけでは、データの保管場所が企業の倉庫からネット空間に移動しただけです。何らかの形で活かされないと、せっかく集めたデータがもったいないことになってしまいます。




ノーコード・ローコードで統合したデータの活かし方


それでは、エキスパートのコラボレーション、あるいは現場へのモバイルアプリ導入によって集めたデータを、どのように活用していくことが考えられるでしょうか。


単独工程内のデータ活用

まず、ある工程で集めたデータを、その工程のオペレーション改善に活かすケースが考えられます。


例えば、検査工程へのAI導入がこのケースに当てはまるのではないでしょうか。これまで人間がやっていた目視検査は、熟練作業者が目で見て、脳で判断していました。同じことを、カメラやLiDARなどのセンサーが対象物を捉えてデータ化し、機械学習モデルが推論します。目視検査ラインで集められたデータが、目視検査ラインの自動化に寄与している例です。



工程をまたいだデータ活用

次に考えられるのが、ある工程で集められたデータを、前後の工程で活かす場合です。


例えば、目視検査によって得たデータを、前工程に活かすケースを考えます。あるロットの製品が、目視検査でボツになったのはなぜか?どの製造工程に問題があったのか?原料の仕入先によってばらつきがあるのか?さまざまな要因が考えられます。


例えば、私がいた鉄鋼業の世界では、鉄を固める鋳造工程において、鋳造速度によって、鋳片内部の組成や、外圧に対する割れ耐性が変わってきます。鉄鋼の場合は、必ずしも目視検査だけではなく、超音波検査・磁力検査など、内部の状態を調べる検査があるのですが、検査工程で得たデータを機械学習し、リアルタイムに鋳造速度の調整に反映させることができれば、マスカスタマイゼーションの実現につながります。あくまでイメージとして捉えていただきたいのですが、これがプロセスをまたいでデータのフィードバックループを作る例です。



この実現には、まだいくつかの課題が残っているように思います。データを連携させる基幹システム、異なるフォーマットのデータのクレンジング・インテグレーションをスムーズに行うツールといった、技術的な部分。それだけでなく、どう部署間のコミュニケーションを円滑にするか、誰が意思決定者となるか、データが十分に溜まって効果が生まれるまでの期間を我慢できるか、という経営レイヤーの課題も深く関係してきます。



そして、工程をまたいだデータ活用の次に、もう一段階上のさらなる発展系があります。が、ここまで読んでいただいて興味を持ってくださった方は、ぜひ続きを直接ディスカッションしましょう。私たちは、ものづくりをより良くするスタートアップはもちろんのこと、ものづくりを力強く牽引されている事業会社の方々とも、次世代製造業を実現するために協力していきたいと考えています。こうしたテーマに関心を持っていらっしゃる企業様は、ぜひご遠慮なくお問い合わせフォームや各種SNSなどからご連絡ください。



最後になりますが、本日名前を挙げて紹介したものづくり×ノーコード・ローコード アプリ開発プラットフォームは、ほんの一部にすぎず、続々とスタートアップが現れています。2021年3月の前半だけでも、アメリカのFull Speed Automationや、スウェーデンのCrosser Technologiesという会社が資金調達を行っています。こうしたタイムリーなものづくりスタートアップ情報を、IDATEN Venturesでは、毎月一覧にまとめています。国内・海外どちらもまとめていますので、ぜひご参照ください。




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フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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