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  • Shingo Sakamoto

急激な成長を続けるクラウドサプライチェーンスタートアップ:Stord

2022年5月、Stord(ストード)というスタートアップが、シリーズDラウンドで1億2,000万ドル(≒160億円)の調達に成功しました。Cruchbaseによると、Stordは創業からこれまでに6回資金調達ラウンドを実施しており、累計調達額は3億2,500万ドル(≒420億円)にのぼります。


Stordは、荷主の在庫管理・フルフィルメント・貨物輸送までワンストップで支援するスタートアップとして急激な成長を遂げていますが、まだあまり日本語の情報が多くありません。そこで、今回はStordを取り上げてみることにしました。


これまでIDATENブログの中でご紹介してきた、FortoFlexportのようなデジタルフォワーダー、ShipHero・ShipBob・ShipMonkのようなフルフィルメントサービスプロバイダー等、この分野には(少しずつビジネスモデルは異なりますが)競合が少なくありません。どのような点において、Stordが魅力的なスタートアップとして市場から評価されているのか、調査していきたいと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/イケア-倉庫-工業用-テンペ-2714998/)


Stordの会社概要

Stordは、2015年にアメリカのジョージア州アトランタで創業されたスタートアップです。創業者はSean Henry氏とJacob Boudreau氏です。Henry氏がジョージア工科大学、Boudreau氏がアリゾナ州立大学に在籍している時に2人は出会い、Stordを立ち上げることになりました。


なお、ジョージア州にはサバンナ港・ブランズウィック港という2つの大きな深水港がありますし、またアトランタは大きな国際空港を持ち、州間高速道路が交わる全米有数の物流ハブとして知られています。そういった好条件が揃い、アトランタは全米のビジネス環境調査で2014〜2020年の7年連続1位に選出されているそうです。


Stordはこのアトランタを拠点に物流スタートアップとしての成長を始めました。



顧客の課題とStordのプロダクト

荷主の課題

まず、Stordにとっての顧客は荷主です。特に、自社で倉庫を持たず、サードパーティの倉庫事業者に製品保管・出荷を委託しているような荷主がターゲットになります。


Stordによれば、2002年にはメーカーや卸売企業の半数以上が自社倉庫で在庫を保管していましたが、2012年にはその比率が13%まで縮小しています。そして、その比率はさらに低下傾向にあり、多くの荷主は早く・安く・柔軟に契約できる倉庫を探しているそうです。


一方、全米の倉庫の2/3以上を占めるのは、1社あたり1〜3つ程度の倉庫を保有する中小倉庫事業者が運営する倉庫です。こういった業界構造から、荷主が新たな土地に製品保管拠点を設けようとしても、①そもそも中小倉庫事業者への情報アクセスがスムーズでない、②各倉庫事業者のオペレーションがバラバラでコミュニケーションコストが高い、という課題がありました。


倉庫事業者の課題

一方、中小倉庫事業者側にも課題があります。荷主が増えるのは良いことですが、小規模な荷主との契約が増えると、その分オペレーションも複雑になります。


Stordによれば、倉庫事業者の中には最適な倉庫管理システムを持たず、スプレッドシートや紙で在庫管理を行っている企業も多いそうです。また、同社が調査したところによると、1回の出荷作業あたり、荷主と倉庫事業者のやりとりにはメール・電話・Fax等で約25分かかっており、業務効率化の余地が大幅に残されているそうです。


ここに、新規荷主を獲得し、倉庫オペレーションおよび荷主とのコミュニケーションを効率化したいというニーズがあります。


Stordのプロダクト

そこで、Stordは、独自開発したバックエンドシステムを倉庫事業者に提供し、標準的なオペレーションの構築を支援します。荷主は、このシステムを導入している倉庫と契約すれば、倉庫に保管されている製品の在庫状況、および出荷指示を出した製品の出荷状況を、全て1つのソフトウェアでモニタリングすることができます。


デジタルフォワーダーに関する記事でも言及しましたが、荷主にとって配送状況が可視化されることは大きな価値となります。従来は、アメリカ全土に点在する倉庫にどれくらい在庫があるのか、いつ出荷指示を受けた製品がトラックに積み込まれるか、いつ小売店舗に届くのかを把握するのが難しかったそうですが、これらの追跡を1つのソフトウェア上で実施できる点において、Stordは荷主から支持されています。


また、Stordは、単に製品保管倉庫のシェアリングサービスを展開しているのではなく、倉庫事業者の保管・フルフィルメント・出荷までの一連のプロセスをスムーズにするオペレーションシステムそのものを提供している、と強調しています。



資金調達と事業の進捗

過去6回の資金調達ラウンド時に公開された情報をもとに、どのような事業進捗を見せてきたのか、追っていきたいと思います。


〜シードラウンド

2018年4月、240万ドル(≒3億円)のシードラウンドを実施。


こちらのニュースによれば、同社は2017年時点ですでに従業員5名で100万ドル(≒1億3,000万円)近い売上を達成しています。2017年は順調なペースで成長し、顧客増加数が毎月29%増、取扱数量が毎月24%増を記録しています。


〜シリーズAラウンド

2019年4月、1,200万ドル(≒15億円)のシリーズAラウンドを実施。


こちらのニュースによれば、2018年は対2017年比で約10倍の売上を記録したそうです。2017年が100万ドルと書かれていたため、2018年は約1,000万ドル(≒13億円)規模ということになります。この時点で従業員は30名ほどになります。


〜シリーズBラウンド

2020年12月、3,100万ドル(≒40億円)のシリーズBラウンドを実施。シリーズAラウンドからシリーズBラウンドの間に、COVID-19の蔓延に伴うEC需要の増加で、一気に追い風を受けました。


こちらのプレスリリースによると、2020年の売上は対2019年比で500%増加し、約5,000万ドル(≒65億円)を達成。従業員も約130名近くまで増加しました。


バリュープロポジションは創業当時からブレておらず、一貫して「荷主が安く早く透明性高く製品を出荷する倉庫を利用できるようにする」および「倉庫事業者が多くの荷主から荷物を預かり、素早く高品質な保管・フルフィルメントサービスを実現できるようにする」を追求しています。


シリーズA〜シリーズBラウンドの間で興味深いStordの動きとして、Cove Logisticsという輸送事業者の買収が挙げられます。Cove Logistcsは2011年に創業されたトラック運送会社で、買収当時15,000名のドライバーが在籍していました。Stordは、同社の買収を通じて、倉庫から小売店舗・消費者に荷物を確実に届け、輸送状況を可視化するためのプラットフォームの拡大を進めました。


〜シリーズCラウンド

2021年3月、6,500万ドル(≒85億円)のシリーズCラウンドを実施。全ラウンド間で最も期間が短かったのがシリーズB〜シリーズCラウンドで、約4ヶ月間です。急激に増加する需要に応えるため、そして競合との拡大競争に勝っていくために、強くアクセルを踏んだ印象を受けました。


シリーズCラウンド実施時点で、500を超える倉庫事業者、2万を超える運送事業者と提携しています。プレスリリースには「COVID-19によって、消費者のオンライン購買行動がかつてなく活発化し、あらゆるブランドにとってロジスティクスを円滑にすることが何よりも優先事項となっている」と書かれており、わずか4ヶ月の間に従業員は約170名まで増加し、2021年に入っても順調に売上を伸ばしているようです。


〜シリーズDラウンド

2021年9月、9,000万ドル(≒120億円)のシリーズDラウンドを実施。シリーズC〜シリーズDの間も短く、6ヶ月です。


シリーズDラウンド時点のプレスリリースによると、Stordの2021年の売上は1億ドル(≒130億円)以上と書かれており、2020年の5,000万ドルから倍以上に成長しています。従業員は400名以上で、2020年から倍以上となっています。


また、このタイミングに合わせて、Fulfillment Worksという企業の買収を発表。Fulfillment Worksは、1999年に創業された企業で、D2C事業者向けのフルフィルメントサービスを提供しています。Stordは、東海岸・西海岸に自社倉庫を保有する同社の買収を通じて、増加するEC需要に対応するためのフルフィルメントリソースを拡充しました。


同プレスリリースには、「Amazonの登場により、消費者にとって購入品がすぐに届くことは当たり前になり、企業がより機敏で効率的なサプライチェーンを構築するよう動いている」と書かれています。実は、Amazonに対する言及は、Stordに限らずFlexportに関連するニュースやプレスリリースでも何度も登場します。Amazonを利用せずに販売する事業者は、Amazonと同じレベルの配送スピードを実現し、いつ消費者の元に届くのか正確に把握していなければならない、というプレッシャーにさらされています


さらに、最近は数十分以内に届くオンデマンドデリバリースタートアップが世界各地で登場し、スピード配送の競争が加熱しています。一方、そんな中、メルカリは「ゆっくり宅配」という「急がなくて良いものはゆっくり運ぶ」というコンセプトのサービスを発表しました。用途によって緊急性が求められる荷物、必ずしもそうでない荷物は分かれるため、もしかすると今後「あえてゆっくり」というトレンドも広がっていくかもしれません。


シリーズDラウンド(2021年9月の追加ラウンド)

2022年5月、2度目のシリーズDラウンドという形で、1億2,000万ドル(≒160億円)の資金調達ラウンドを実施。


こちらの記事によれば、同社のソフトウェアを導入する倉庫は1,000施設以上に及び、従業員は過去8ヶ月の間に400名から700名に増加違うニュース記事によれば、Stordは全米に広がる倉庫と輸送のネットワークを束ね、消費者がアメリカのどんな地域から注文しても、2日以内に配送が完了する体制を構築しているそうです。


輸送事業者、フルフィルメント事業者の買収も活用しながら、人口の多い都市だけでなく、文字通り全米に対応している点が同社の強みかもしれません。



競合

順調に拡大しているStordですが、冒頭で記載した通り、この領域は競合が少なくありません。数が多いため、全てを列挙することはできませんが、いくつかご紹介します。


Flexe

2013年にアメリカのシアトルで創業されたスタートアップです。累計2億1,000万ドル(≒270億円)調達。


Flexeは、Stordによく似たビジネスモデルを展開しています。Stord同様、倉庫事業者を束ね、荷主向けにクラウド倉庫サービスを提供しています。Flexeもまた「荷主顧客がAmazonに対抗する」支援を行うと述べています。こちらのサイトによると、同社の従業員は約400名で、2021年の年間経常収益は約1億5,000万ドル(≒200億円)と推定されています。



Project44

2014年にアメリカのシカゴで創業されたスタートアップです。累計で8億1,700万ドル(≒1,060億円)調達。


Project44は、さまざまな輸送手段(陸・海・空)に対応した輸送状況可視化プラットフォームを展開しています。荷主はProject44のプラットフォームを経由して、輸送中の荷物の位置情報を取得することができます。こちらの記事によれば、2021年の年間経常収益は1億ドル(≒130億円)以上、従業員は1,000名以上となっています。売上規模としては、Stordと近いレベルであると考えられます。


FourKites

2014年にアメリカのシカゴで創業されたスタートアップです。累計で2億100万ドル(≒260億円)調達。


FourKitesはProject44のサービスに似ており、荷主はFourKitesのプラットフォームを経由して、運送事業者のパフォーマンスをリアルタイムに見ることができます。現在、230以上の港を監視し、45万社以上の輸送事業者に導入されているそうです。こちらのサイトによると、FourKitesの2021年の年間経常収益は約1億1,400万ドル(≒150億円)、従業員は650名と推定されています。



倉庫の在庫管理状況、フルフィルメントの作業状況、輸送状況をできる限りリアルタイムに把握したい、またそうした物流業務を可能な限りアウトソースしたい、という荷主のニーズは増しており、それを可能にするプラットフォームが、あちこちに登場しています。


こうした、急成長するクラウドサプライチェーンスタートアップの多くは、早いペースで大型の資金調達を実施し、バリューチェーン全体をソフトウェアでつなげようと進めています。また、この過程で、地域的拡大を急ぐために、倉庫事業者や輸送事業者の買収を実施するケースもあります。こうしたプラットフォーマーが、最終的にどのような点において差別化されていくのか、非常に興味深いところです。


今回は、以上になります。

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