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  • Kenta Adachi

合成思考とその使用例(短距離を速く走るための思考実験)

私は、ベンチャーキャピタルを運営すると同時に、短距離走もやっています。


さて、前回のブログでは、分解思考を用いて、短距離を速く走るための思考実験を行いました。


おさらいですが、分解思考とは、全体としてつかみどころがない問題に対して、その問題を、自分が具体的に何かを考えることができる細かさにまで分解して、考える糸口をつかむ思考方法です。


そこから導かれた、短距離を速く走るための仮説は、下記の通りです。


①離地と接地をなるべく早くする
②足は地面に対して45度で上げる
③足は地面に対して最短距離でズドンと落とす

これだけでも、実践しうる仮説ではありますが、ここから先、さらに仮説の解像度をあげるために用いるのが、合成思考です。


合成思考とは、課題を分解していった先、それ以上の分解を思いつかずに行き詰った際に、視野を広げ、あえてその分解結果を別の要素と合成することで、さらなる分解余地を生み出す思考方法です。


幾何学の問題を解く際、補助線を引くことがあるかと思いますが、その補助線こそ、合成思考のイメージです。そこにないものをあえて付け加えるという、一見、遠回りをすることによって、新たな思考の糸口を導くものです。


実は、前回のブログにおいても、少しだけ、合成思考を使っていました。それは、途中までは片脚だけで考えていた系を、それだけだと思考が行き詰るため、両脚で考え直した際のことです。


その結果、上記②や③の仮説を得たのでした。


ではここから、本格的に合成思考を用いて、さらに仮説の解像度を上げていきましょう。

合成思考で解像度をあげる対象となる仮説は、そのままでは実際のところ、何をどう実践すればよいのか分からない仮説になります。


そもそも仮説というものは、何か課題を解決するために実行あるいは判断できる方法を割り出すためにあります。となると、何らか実行・判断できなければ、仮説の意味がありません。


先ほど、仮説の解像度という表現を使いましたが、まさに、具体的な実行・判断につながるかどうかが、仮説の解像度にあたります。だからこそ、そのままでは実際のところ何をどう実践すればよいのか分からない仮説に対して、合成思考を用いて、解像度を上げていくことになります。


上記①~③の仮説のうち、分かりにくいのは②と③かと思います。


②足は地面に対して45度で上げる
③足は地面に対して最短距離でズドンと落とす

地面に対して45度と言われても、走りながらそれをどうイメージすればよいのか?

同じく、地面に対して最短距離と言われても、走りながらそれをどうイメージすればよいのか?

そのあたりの疑問を解消し、実践できる形へ落とし込んでいきます。


そこで、足と、何か他の要素とを合成していきます。ここでは、走ることにおいて最も重要な「身体そのものの移動」と合成していくことにします。


例えば、100 mで目標とするタイムを 10"99 に設定するとしましょう。これを速さの単位で表現すると、


9.10 m/sec ( = 100 m ÷ 10.99 sec )


になります。

さて、前回のブログで説明した通り、


速さ = ストライド × ピッチ

です。

ここに、自分の最適ストライドあるいは最適ピッチを代入します。それらを仮に、ストライドは 2.00 m/step 、ピッチは 4.55 step/sec としておきましょう。


9.10 m/sec = 2.00 m/step × 4.55 step/sec

なお、最適ストライドや最適ピッチは、なかなか自分だけでは割り出しにくいです。

そこで、話が大きくそれてしまいますが、ここで、自分の最適ストライド、最適ピッチを割り出す簡易的な方法も記しておこうと思います。


必要なものは、ストップウォッチと、メトロノームアプリをダウンロードしたスマートフォンかスマートウォッチです。ワイヤレスイヤホンがあれば、なおよいです。


どのメトロノームアプリでもいいのですが、それを起動し、まずは適当なピッチで音を鳴らしてみます。基本的にメトロノームアプリは、BPM、つまり Beat Per Minute (1分間当たりビート数) の単位でピッチを変えることができます。最初は、BPM = 240 ( 240 ÷ 60 = 4.00 step/sec に相当 ) に設定してみましょう。


そして、例えば 100 m を、その BPM に合わせてピッチを刻み、全力で走ります。その際、ストップウォッチで自分のタイムも測ります。そのタイムを、どこかにメモしておきます。


次に、BPM = 250 で、同じ計測を行い、結果をメモします。

次に、BPM = 260、270、280、、と同じことを続けます。


こうすると、恐らく、BPMをあげていくたびに最初はタイムが良くなっていくかと思います。自分の最適ピッチに近づいている証拠です。ところが、ある一定のBPMを超えると、今度は逆にタイムが悪くなっていくかと思います。自分の最適ピッチから遠ざかっている証拠です。


(もちろん、何本か走ると、疲労の影響もタイムに現れますが、、)


一般的に、ピッチをあげるほどストライドが短くなりますが、ストライドが短くなる効果よりもピッチが大きくなる効果が勝てば、結果的にタイムはよくなります。それが、BPMをあげていくたびにタイムが良くなる現象です。しかし自分の最適ピッチを超えて過度にピッチを大きくしすぎると、今度はストライドのロスを吸収しきれず、結果としてタイムが悪くなってしまいます。


さて、こうして分かった、自分が最も速く走ることができたBPMを、自分の最適ピッチとします。


自分のおおよその最適ピッチが分かれば、さらにその付近でBPMの上げ下げを細かく切って、より精度高く、最適ピッチを割り出すこともできます。


(この手法は一度計測したらおしまいではなく、健康診断のように定期的に計測することで、常に自分の最適ピッチを把握しておくようにすることが望ましいです)


なお、お気づきの方もいるかと思いますが、こうしてメトロノームを使って自分の最適ピッチを割り出す方法も、実は合成思考に基づいています。


「最適ピッチは何だろうか?」という、自分の身体だけではそれ以上、考えることができなかった疑問に対して、メトロノームという他要素を合成し、BPM毎に細かく記録をつける、という分解思考を可能にしたのでした。


さておき、こうして割り出した自分の最適ピッチが、BPM = 273 だったとしましょう。BPM = 273 は、ピッチとして 4.55 step/sec になります ( = 273 ÷ 60 )。

そして、その際の 100 m の記録が、10"99 だったとしましょう。それを、速さ=ストライド×ピッチの式に当てはめた結果が、先ほども書いた、下式になります。おもしろいことに、メジャーを使わなくても、ビデオ撮影しなくても、結果的に最適ストライドが分かりました。


(なお厳密には、スタート期の影響を排除するために、加速走で計測したほうがよりよいです)


9.10 m/sec = 2.00 m/step × 4.55 step/sec

だいぶ、話がそれてしまいましたが、上式のケースにおいて、仮説②と③、つまり足を地面に対して45度であげ、最短距離で落とすとはどういうことか、考えていきたいと思います。


地面に対して動いていない(=立ち止まっている)時、足を地面に対して45度の角度をつけて上げることは、それほど難しいことではありません。鏡か何かを見れば、すぐにできます。


しかし、短距離を全力で走っている際、足を地面に対して45度の角度をつけて上げるというのは、かなり難しいことです。なぜなら、走っていると、足だけではなく身体全体も前に進んでいるからです。


足を上げ始めた離地の瞬間に、足を地面に対して45度の角度をつけて上げても、足が頂点に達するまでの間に、足を含む身体が前に進んでいることから、実際の足の軌道は45度よりも浅い角度を描くことになり、分解思考に基づく思考実験の結果に照らせば、ストライドの観点から損をしてしまいます。

では、走っている際には、どれくらいの角度をつけてあげればよいのでしょうか?


(物理学の投げ上げ問題になぞらえると、砲台そのものが地面に対して一定速度で進んでいる際に、どの角度で砲台から玉を打ち出すと、玉を最も遠くまで飛ばすことができるのか、という問題になります)


足を離地してから頂点に達するまでにかかる時間は、ピッチが 4.55 step/sec であることを考えると、1 sec ÷ 4.55 step = 0.22 sec になります。


(片方の足が設地する際に、もう片方の足は頂点に達するためです)


今、 9.10 m/sec で進んでいるため、上記の間に身体は 9.10 m/sec × 0.22 sec = 2.00 m 進むことになります。そうです、まさにストライドと同じ距離です。


ここで、地面から離れた足がどこまでの高さに上がるかということも、考慮に入れておきましょう。だいたい、腰の高さあたりまで、足は上がります。

日本人男性の平均身長である 1.7 m ほどを基準にとれば、腰の高さはだいたいその半分の 0.85 m と考えてよさそうです。


これらを合成して考えると、なんと、実は足を地面から離す際、真っすぐ上に(地面に対して垂直に)上げたとしても、相対的に足の軌道は地面に対して45度よりも浅くなってしまうことが分かってしまいました。

ですから、実際の走りにおいては、変に「地面に対して45度で足を上げよう」とするのではなく(それだと足の軌道が低くなりすぎる)、感覚としては、足を真上へ、イメージとしては「踵を尻に向けて真っすぐ上げる」くらいが、合成思考を使った思考実験の結果、よさそうだということが分かりました。


② 足は地面に対して45度で上げる → 踵を尻に向けて真っすぐ上げる

感覚的には、ストライドを伸ばすには、足を低い角度で前に前に出したほうがよさそうですが、実は逆で、足を真上に上げるような感覚の方が、ストライドを獲得しやすい、という結果です。


次に、足を地面に対して最短距離でズドンと落とす、という仮説③についてです。


これについては、これまで考えたことを逆向きに考えることになるため、先ほどとほぼ同じ考えが展開されることから詳細は省きますが、定性的に述べてみます。


文字通りに足を真っすぐ下ろすと身体が前に進んでいるうちに足が後ろへ流れてしまい、足は身体の後方で接地することになります。この際、足の軌道は地面に対してかなり遠回りになっており、ピッチを著しく損ねます。


さらに、接地足が身体に対して後ろにあるため、そこから踵を尻に向けて上げようとすると、足の打ち出し角度がなおさら45度より浅くなり、ストライドも損ねる、というバッドスパイラルにはまります。


だから、足を下す際は、感覚としては足を自分の前に前に押し出すイメージが大切であることが分かります。それくらいでちょうど、実際の足の軌道が地面に対して最短距離に近いものになります。


身体の前方に設置された、ちょっと低めのハードルを、足でバキバキ踏み倒しながら進んでいくような感覚、といったほうが分かりやすいかもしれません。


③足は地面に対して最短距離でズドンと落とす → 足を自分の前に前に押し出すイメージで下ろす

いかがでしょうか。前回のブログの通り、分解思考でも一定程度の仮説を得ることができましたが、その仮説を実践するにあたって行き詰まりを感じた際には、こうして合成思考を使うことで視点を変え、より実践しやすい仮説にたどりつくことができました。


①離地と接地をなるべく早くする
②離地の際、踵を尻に向けて真っすぐ上げる
③接地に向かう際、足を自分の前に前に押し出すイメージで下ろす

ここまで、あくまで短距離を速く走る、というテーマで分解思考と合成思考を使ってみましたが、もちろんこれらは、他のいろいろなテーマにも使うことができます。


この2つの思考方法と、課題として仮説との関係は、下図のようなイメージです。

課題に対する実践・判断可能な仮説が地下に埋まっている水源で、そこにたどりつくために分解思考で掘り下げていき、行き詰った場合には、掘り進む道筋を合成思考でずらし、そしてまた掘り進める、という感覚です。


こうして得られた仮説を当初課題にぶつけ、実践・判断することでまた新たな課題を発見するでしょうから、分解思考・合成思考を駆使して引き続き掘り進める、というものです。


何かアプローチしたい課題などある場合、ぜひ一度、使ってみてください。


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