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  • Shingo Sakamoto

レーダーセンサー技術を扱うユニコーン企業:Vayyar

2022年6月、レーダーイメージングセンサー技術を開発するVayyar(「バイアー」と読みます)というイスラエル発スタートアップが、シリーズEラウンドで1億800万ドル(≒150億円)調達しました。今回の資金調達によって評価額が10億ドルを超え、ユニコーン企業と称されるようになりました。


同社のセンサー技術は、ヘルスケアから自動車まで、幅広い分野で採用され、Vayyarは各分野におけるリーディングカンパニーの最終製品に組み込まれています。


今回は、「センサー」という要素技術を扱いながら、さまざまな市場のニーズを発見し応えてきた同社の事業進捗を追うことで、技術系スタートアップの方々の参考になれば幸いです。


なお、記事の中で、為替レート(ドル・円)は2022年6月27日時点のものをベースに計算しています。

(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/コミュニケーション-インターネット-1439187/)


Vayyarの会社概要

Vayyarは、2011年にイスラエルで創業されたスタートアップです。創業当初は、無線技術を用いた乳がんの早期発見を理念に掲げていました。今では、ヘルスケアにとどまらず、自動車・小売・スマートホーム・ロボティクス等の領域でも同社の技術が採用されています。


同社の強みは、4Dレーダーイメージングセンサーと呼ばれる技術にあります。特に、水平方向・垂直方向の両方を広範囲にカバーできる超広視野、20cm〜300mまでさまざまな距離の対象物認識、および点群生成の精度・速度に特徴を持っているようです。


創業メンバーは、Raviv Melamed氏、Miri Ratner氏、Naftali Chayat氏の3名です。創業者兼CEOであるMelamed氏は、イスラエル国防軍でレーダー・通信技術分野のプロジェクトに従事した後、R&D部門のVice Presidentを務めていたイスラエルの半導体メーカーがIntelに買収されたことをきっかけに、Vayyarを創業する2011年まで約7年間Intelで通信分野を牽引した人物です。現在VayyarでR&Dを統括するRatner氏と、CTOを務めるChayat氏は、Alvarion Technologiesというイスラエルの無線通信技術を扱う企業でR&Dの要職を務めた経験を持っています。



Vayyarのユースケース

具体的に、Vayyarの技術がどのように利用されているのか、見ていきましょう。


自動車

Vayyarによると、ヨーロッパで実施されている新車の安全性テスト「EuroNCAP」(European New Car Assessment Programme、ユーロエヌキャップ)は年々審査基準が厳格化しており、いまではCPD(Child Presence Detection、幼児置き去り検知)OSM(Occupant Monitoring System、乗員監視システム)等、車内の状態を高精度に認識することが求められています。


そういった背景もあり、自動車に搭載されるセンサーの数は増加傾向にありますが、システム構成が複雑になる、開発に時間がかかる、等の課題も生じています。VayyarはシングルチップでCPD・OSMを含む複数要件に対応できるセンシングソリューションを提供しています。Vayyarのレーダーセンサーを用いれば、最大48個のアンテナからキャッチした無線をエッジで機械学習処理することができ、自動車メーカーはシステム構成の単純化とコスト削減を両立することができるそうです。


また、車内だけでなく、車外のセンシングにも利用されています。同社が車外センシングにおいて掲げる「XRR」ソリューションは、「X」が「S」hort・「M」iddle・「L」ong、「RR」が「Range Radar」に対応しており、シングルチップで20cm〜300m先の対象物を認識できるようになります。


こうした車内外の状況を高精度に検出する同社のセンサーは、自動車メーカーがEuroNCAPで安全性ポイントを獲得するために重要な技術の1つとなっているようです。


ヘルスケア

同社のセンサー技術は、高齢者の見守りにおいても活用されています。例えば、介護施設・自宅における高齢者の転倒検知・入眠検知・夜間徘徊検知・トイレ検知等で利用されています。


カメラではなくレーダーを活用するメリットとして、対象者のプライバシーが保たれること、また居室内の照明条件によらず認識可能であること、が挙げられます。例えば、バスルーム・トイレのような密閉空間内における転倒は、周囲の人に気づかれにくいというリスクがある一方で、カメラで常にモニタリングされるのは避けたい方が多いと思います。


Vayyarは、センサーとセットでクラウドサービスを高齢者施設のケアマネジャーに提供しており、施設スタッフの見回り負担を軽減してくれます。


小売

Vayyarのセンサーは小売でも利用可能です。以下の画像は、スーパーマーケットの天井に取り付けられたセンサーが把握している店内の状況です。(実際はカメラでないため画像で表すことはできず、あくまで理解しやすいように画像となっている点にご留意ください。)

(Source: https://vayyar.com/)


顧客の動き、商品の在庫量に関する情報をセンサーが取得し、販売員は手元のタブレットを通じて、どの商品をどこに補充すべきか、レジ対応人員を増やすべきか、等の判断に役立てることができます。


高齢者の見守り同様に、カメラを利用しないことで顧客のプライバシーが確保されること、また、カメラに比べてデバイスの価格を抑えられる点がメリットとして考えられます。


セキュリティ

同社の技術は、税関・イベント等のセキュリティチェックでも利用可能です。これまで、こういったシーンでは金属探知機が利用されることが多く、金属以外の武器を見抜き切れない、といった課題が残っていました。


同社のレーダー技術を利用すると、金属のみならず、セラミック・ガラス等のさまざまな素材・形状の武器を検出することができ、かつ、それを対象者のプライバシーを侵害することなく実施できるようになります。



こうしたユースケース紹介の中で、たびたび登場する「プライバシー保護」というキーワードは、これからのテクノロジー利用において非常に重要な考え方だと思います。2021年4月、EUは公共空間でカメラ画像による顔認証システムを用いた警察捜査を原則禁止しましたが、こうした動きはヨーロッパに限らずアメリカでも進んでいます。カメラと違い、レーダーセンサーが取得する点群データは、人間が見たところで何を表しているのか判別が困難で、プライバシーを保護したまま対象のヒト・モノを高精度検知できるポテンシャルを秘めています。


ちなみに、IDATEN Ventures投資・支援先のQuantumCoreは、レーダー反射波から人物特定・バイタルセンシング等を高精度に実現する技術力を有しています。例えば、カメラを用いることなく、オフィスで勤務する人の健康状態小売店における人流を解析するPoCを実施し、成果を出しています。



Vayyarの事業進捗と資金調達について

この章では、Vayyarがどのような事業進捗を見せてきたのか、資金調達の歴史と合わせて追っていきます。


〜シリーズA

2012年8月、シリーズAラウンドで1,200万ドル(≒16億円)調達しました。創業から1年経過したシリーズAラウンドの時点では、Vayyarはまだ創業当初の乳がん診断を事業テーマとしています。資金調達ニュースでは、ほとんど情報が公開されておらず、Battery Ventures、Bessemer Venture Partners、Israel Cleantech Venturesが投資家として参画したと書かれています。


〜シリーズB

2015年12月、シリーズBラウンドで2,200万ドル(≒30億円)調達しました。Walden Riverwood Venturesがこのラウンドをリードし、全既存投資家が参加しました。


この時点で、同社の事業領域に変化が見られます。シリーズBラウンドの資金調達ニュースには「Vayyarの強力なセンサー技術は、ガンの検出、ロボット工学、およびスマートホーム産業に革命をもたらす。」と紹介されています。どの分野かは明かされていませんが、この時点でFortune500の企業でVayyarのセンサーが使用されているそうです。


〜シリーズC

2017年12月、シリーズCラウンドで4,500万ドル(≒60億円)調達しました。シリーズBラウンドに引き続き、Walden Riverwood VenturesがシリーズCラウンドをリードし、引き続き全既存投資家が参画しています。


この時の資金調達ニュースを見ると、乳がん診断に関する記述は見られず、スマートホーム・自動車・小売・ロボット等が事業領域として紹介されています。同社のレーダーセンサーが、「物質を透過すること」「広い視野をセンシングできること」「プライバシーに敏感な場所で使えること」を強みとして、多くの企業に必要されていると書かれています。


〜シリーズD

2019年11月、シリーズDラウンドで1億900万ドル(≒150億円)調達しました。このラウンドをリードしたのは、アメリカの多国籍コングロマリット企業Koch Industriesが運営するベンチャーキャピタル Koch Disruptive Venturesです。また、引き続きこれまでの全既存投資家が参画しました。


こちらの資金調達ニュースによると、事業領域はシリーズCラウンドの時から変わっておらず、スマートホーム・自動車・小売・ロボット等と紹介されています。


〜シリーズE

2022年6月に、シリーズEラウンドで1億800万ドル(≒150億円)調達しました。シリーズDラウンド同様、Koch Disruptive Venturesがリードしました。


Vayyarの公式ブログを見ると、各事業分野において着実な事業進捗があり、それらを根拠に資金調達を成功させたようです。


例えば、自動車分野ではイタリアのPiaggioというメーカーのオートバイに、VayyarのARAS(Advanced Rider Assistance Systems、ライダーの周辺に潜む危険を察知する安全運転支援システム)が標準搭載され、量産が進んでいます。また、Vayyarは日本・ベトナムの自動車メーカーともシステム供給契約を締結しており、車内外のセンシング技術として採用されています。


ヘルスケアの分野では、家電メーカーHierと協業しています。Hierは、高齢者向けIoT・スマートホーム製品にVayyarのレーダーセンサーを組み込み、特に中国市場をターゲットに高齢者施設に提供を進めています。


スマートホームの分野では、VayyarはAmazonとパートナーシップを締結。Vayyarのセンサーが居室内で転倒を検知すると、Alexaが緊急連絡先に自動で連絡するか確認し、介護スタッフに自動で通知がいく仕組みになっています。



Vayyarからの学び

これからさらに事業拡大していくであろうVayyarですが、ここまでの調査を通じて参考になる点を改めてまとめてみます。


市場のニーズとメッセージング

元々は乳がん診断という比較的絞られた事業テーマで始まったVayyarは、市場探索の手を緩めず、医療よりも素早くフィットする領域を見つけました。それが、スマートホーム・自動車分野です。


汎用性の高い技術であるからこそ、「何にでも使えそう」な一方、「便利そう」で終わってしまうリスクもある、難しいテーマです。


同社は、技術開発を進める中で、自社技術の特徴を明確に言語化し、各市場に合ったメッセージを打ち出しています。例えば、自動車分野では「広い視野角」「高い透過性」「シングルチップで幅広い距離に対応」、ヘルスケア・スマートホーム分野では「プライバシー保護」「照明環境に関係なく認識可能」等です。


何がキラーメッセージとなるか、その価値を提供できる自社の本質的な強みは何か、を追求する重要性を改めて感じます。


パートナーシップの活用

そして、フィットする市場において、リーディングカンパニーとパートナーシップを結ぶことができている点が強みです。


それが実現できている理由の1つとして、技術的対応力の高さが考えられます。こちらの記事によると、在籍している約330人の従業員のうち8割以上がエンジニアであり、パートナーからの高い技術要望にしっかり応えることができているのではないかと思います。同時に、特定の自動車メーカーやスマート家電メーカー等から投資を受けてはおらず、独立的な立場からさまざまな企業と協業する可能性を残していいます。


また、グローバル展開を進めるために、株主のネットワークもうまく利用しているようです。特にシリーズD〜EラウンドをリードしたKoch Industiresは、世界各地にネットワークを持っており、同社の出資以降、地域的展開が一気に進んだようです。



今回はこれで以上になります。IDATEN Ventures投資先には、本日ご紹介したようなユニークで競争力のある技術を扱うスタートアップがいくつもありますので、もしご興味をお持ちの方はぜひホームページもご覧ください。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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