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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

ブルーイノベーションの上場目論見書からドローンビジネスの事業開発を考察する

2023年11月8日、ブルーイノベーションという企業が、東証グロース市場への上場承認を発表しました。上場日は2023年12月12日〜18日のいずれかを予定しているそうですが、実際に上場すると、ドローン関連事業を主軸とする企業による国内市場への上場案件としては、ACSL(2018年12月に現東京グロース市場に上場)に続く2社目となります。


今回は、ブルーイノベーションの上場目論見書から、ドローン市場における事業開発のヒントを得よう、というモチベーションで調査していきたいと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/ドローン-飛行ドローン-3198324/)


ドローンビジネスにかかる期待

Google Trendsで「ドローン」というキーワードを調べてみると、2014年ごろから検索回数が増え始め、2015年にはピークを迎えます。その後、いったん落ち着いたものの、じわじわと検索回数は増え、現在も世間の関心は衰えていないように見えます。

(Source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3&hl=ja)


2015年は、外資系ドローンメーカーの新製品発売、国際ドローン展の開催、新興ドローンメーカーの設立等、「2015年はドローン元年」と言われるのにふさわしいイベントが並んだ年でした。また、2015年末には航空法が改正され、飛行禁止区域や罰金の設定等、官民が協力しながら法整備も進み、ビジネス用途としてのドローン活用期待に拍車がかかりました。それ以来、実際に活用は進み、いまでは空撮・測量・点検等の領域で、ドローンが活躍するようになっています。


市場の将来性は多くの人に期待される一方で、「実際にドローンを用いてどのような事業がビジネスとして成立しているのか」「そのビジネスはこれから大きくなるのか」と具体的に考えていこうとした際に参考になる情報は多くありません。というのも、ドローン関連の事業を中心に据える企業で、公開情報を開示する義務のある企業(上場している企業)は、ほとんどないためです。


前置きが長くなりましたが、こういった背景もあり、ブルーイノベーションの上場、およびそれに伴う事業数値の公開というのは、ドローン市場で事業成長を目指す企業にとって、非常に重要な参考データとなると思って筆を執っています。



ブルーイノベーションの事業内容

ブルーイノベーションは、設備点検・物流等の業務を人間から代替することを目標に、ドローン・AGV(Automatic Guided Vehicle、無人搬送車)等の自律移動ロボットを遠隔制御・統合管理するソフトウェアの開発を中心事業としていますが、ソフトウェアを開発して提供するだけでなく、自ら自律移動ロボットを用いた運用サービスを提供しています。


特に、ドローンを用いた点検業務に注力しており、製鉄所・石油化学プラント・水力/火力発電所、ゴミ処理場等の屋内施設を中心に、250ヶ所以上の現場で50台以上、同社のドローンが稼働しているそうです。


屋内施設を中心に」と書きましたが、ブルーイノベーションが強みとしているのがまさにその点で、一般的なドローンが飛行できない非GPS環境でドローンによる点検業務ができるようにドローンをカスタマイズする技術力を売りにしています。


具体的には、顧客の特殊環境に合わせてセンサの選定を行い、それを市販のドローンに後付けするだけで安価に非GPS環境対応が可能になります。センサを搭載すると、同社が開発するアプリとドローンが連動し、遠隔で飛行制御ができるようになります。(もちろん、GPS環境の飛行ニーズにも対応できるようです)


ブルーイノベーションは自社でハードウェア開発は行わず、顧客の環境や点検対象に合わせて、センサの選定・組み込み、および制御ソフトウェアのチューニングを実行します。そういう意味では、ドローン飛行インテグレーターのような存在と言えるかもしれません。

(Source: https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202311082101.pdf)


ドローン点検が事業の中心ではあるものの、それに加えて、教育・物流・新領域(目論見書の中では「ネクスト」と記載されている)で事業を展開しています。個人的には、同社が展開する「教育事業」が他事業を円滑に進めるための推進力となっていると感じます。この点は追ってご説明します。

(Source: https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202311082101.pdf)


物流はまだ実証実験フェーズですが、物流サービスそのものを提供するのではなく、物流サービスが普及した際に必要となるであろうドローンの発着場所(ドローンポート)で用いられるシステム開発を行っています。具体的には、東京都江戸川区・江東区、静岡県伊豆町、高知県香南市、大分県日田市で実証実験を実施しています。


顧客は国土交通省・地方自治体・ドローン物流サービスプロバイダー(大手自動車メーカー)で、ドローンポート開発・導入実証実験のコンサルティング料あるいは業務受託料で収益を上げています。


まだ全体の収益に占める物流事業の割合は少ないものの、国土交通省とともに国際標準規格に則ったシステム構築を進めており、今後ドローンポートが増えてくると、ブルーイノベーションのシステムがスタンダードとして利用される可能性は高くなりそうです。2023年6月には、150kg以下の物流ドローン用ポートの国際標準規格(ISO5491)取得に成功しています。



ドローンを「空のロボット」と考え、「地上のロボット」でも同社の技術やノウハウが活かそうという切り口で展開しているのがオフィス清掃ロボット事業です(これが「ネクスト」と表現される事業)。同社は、ここでも自社でハードウェアを開発することはなく、iRobot社という既に実績のあるメーカーのロボットを活用しています。顧客はオフィスビル・商業施設・ホテル・飲食店等の施設で、「ルンバ」(ゴミ収集)や「ブラーバ」(拭き掃除)といった既成ロボットを複数台同時に運用できる、という価値を提供しています。


この領域で特にポイントだと思ったのが、目論見書に書かれている「複数フロアのある(施設)」という箇所です。清掃ロボット領域の顧客課題として、ブルーイノベーションは「既存の清掃ロボットは、エレベーター移動に関して、人の手を介在させる必要がある」と定義し、「一台のロボットにフロア移動をさせるのではなく、各フロアに配置したロボットを同時に制御する」というソリューションを提案しています。


現在の事業モデル構築に至るまで

ブルーイノベーションのスタートは、現社長である熊田貴之氏が、お父様(熊田知之氏)が1999年に設立した有限会社アイコムネット社内で、大学院在学中に研究していた海岸防災コンサルティングサービスを2001年に開始したのがきっかけとなっています。


熊田貴之氏が海岸防災コンサルティングサービスを行う中で、災害直後の空中写真を撮影する海岸モニタリングシステムを東京大学と共同開発することになり、ドローン事業に参入することになりました。2013年に株式会社へと改組し、社名もアイコムネットからブルーイノベーションに変更しました。


現在の事業モデルにつながるものがつくられたのが2017年3月です。ブルーイノベーションは、東京電力ホールディングスと共同で、電力設備を自動点検する「ドローン飛行支援システム」を開発しました。


また、大きな転換点となったのが2019年です。スイスのFlyability(2014年創業)という新興企業と業務提携を行い、狭小空間の飛行に最適な球体ドローンによる屋内点検ソリューションをスタートさせました。同じ年には、Flyabilityが開発する全製品の日本販売に関する独占販売契約を結びました。


先ほど、「顧客が導入するのは市販のドローンでよい」と書きましたが、実態としてブルーイノベーションが提供しているのはFlyabilityのドローンのみのようです。というのも、このFlyabilityとの関係は、目論見書の「事業等のリスク」という章で登場するのですが、そこには「Flyabilityが提供するELIOSというドローンが現時点では屋内点検可能なハードウェアとして優れているが、今後、他に優位性がある屋内点検ドローンが出てきた場合には切り替えることも可能」と書かれているためです。


ブルーイノベーションにとってのリスクは、Flyabilityと締結している独占販売契約の更新ができない場合、Flyabilityの製造が何らかの理由で困難になった場合、あるいはモノはできていても物流の観点で調達ができない場合が考えられます。


自社でハードウェアを開発しないという戦略は、スピード感は生まれる一方で、特定のサプライヤーに依存する場合は事業上のリスクにもなり得ます。そのリスクを軽減するために複数のサプライヤーを確保する戦略も考えられますが、その場合は該当ハードウェアの技術的難易度が低いケースが多く、ハードウェアが持つ希少価値は弱まる可能性が高いと思います。ハードウェアが関わるビジネスは、ハードウェアの希少価値とサプライチェーンリスクの絶妙なバランスが重要になり、非常に難易度が高いと感じます。


話は戻りますが、2020年には「プラント点検上級操縦技能証明書」を取得し、2021年5月に送電線点検用ドローン自動飛行システムの提供を開始しています。2022年1月には、TOPPANエッジと共同でAGV自動巡回点検ソリューションの提供を開始しました。このあたりで、現在のブルーイノベーションの事業モデルにかなり近づいたと言えると思います。


ブルーイノベーションの強み、独自性

目論見書を読む中で、私がブルーイノベーションの本質的な強みだと思ったのは、ハードウェア・ソフトウェア等の技術的な部分よりも、「ヒト」にまつわる事業展開力です。より具体的にいうと「ドローン操縦パイロット」を「どう確保し」「教育し」「収益を上げるか」という点の戦略と実行力です。


ブルーイノベーションがドローンにまつわる「ヒト」に関連するどのような強みがあるのかご説明する前に、ドローン教育の市場構造を簡単にご紹介いたします。


現在、産業用途で運用されているドローンのほとんどは地上パイロットによって操縦されています。そのため、ハードウェア・ソフトウェアがいかに優れていても、完全自動操縦にならない限り、操縦パイロットが必要になります。そういった背景もあり、日本全国にはドローンスクールと名のつく専門学校のようなものがいくつもあります


ドローンスクールは、自動車の世界でいう教習所のようなものです。自動車の場合、教習所によって教え方に少しずつ違いはあるものの、基本的な部分はほとんど変わりません。例えば、左折するときには「巻き込み確認を行い、車線の左側に車両を寄せ、減速しながら歩行者を確認しながら曲がる」等、基本は統一されています。そして、教習所にはたいてい、左折を学ぶ、右折を学ぶ、駐車・高速道路走行を学ぶ、等の同じような教育プログラムがあります。


ドローンの世界でも同様に、ベースとなる教育プログラムがあり、各ドローンスクールはプログラムに従って教育を提供することで、正式なパイロットとしての資格を発行することができる、という仕組みになっています。


日本には、JUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会)という団体があり、パイロットの資格に関するルール整備を主導しています。なお、UASはUnmanned Aircraft Systemの略で、無人航空機システムを指しています。JUIDAは2015年10月からスクールの認定制度を始め、今では、日本全国に275校の認定スクールが存在します。


JUIDA認定スクールを開校する条件には以下の3つがあり、これらを満たせば誰でもスクールを開校することができます。


1)法人格があること

2)施設(座学会場、屋内飛行場、屋外飛行場の3カ所)が用意できること

3)JUIDA認定講師を用意できること


3つ目のJUIDA認定講師というのは文字通りJUIDAが認めた講師ですが、面白いことにJUIDA認定講師ライセンスの取得を支援するスクールもあり、ドローン教育という市場の裾野の広さが窺えます。


こういったドローン教育市場の構造において、ブルーイノベーションはJUIDA認定スクールの管理を受託する、というポジションを取っています。具体的には、JUIDA認定スクールで実施する教育プログラムの作成、講師の育成、認定資格の設計支援等を行っています。ブルーイノベーションは、JUIDAから、JUIDA登録会員数(2023年9月時点で27,697名)、ドローンスクール数(275校)に応じて、継続的な収入を得ています。


またJUIDAとは、スクール運営だけではなく、パイロット管理に必要なシステムの提供という関係でもつながっています。あるパイロットにドローン操縦を依頼する場合、「そのパイロットがどのような教育を受けてきたか」「技能のレベルはどの程度か」「操縦実績はどれくらい豊富か」というデータが必要になりますが、ブルーイノベーションはJUIDAに対してこれらのデータを蓄積・管理・参照できるパイロット管理システムを提供しています。


さらに、ブルーイノベーションは、JUIDAを通じて、パイロットに対しても直接システムを提供しています。2022年12月には改正航空法が施行され、ドローン飛行時に飛行日誌の作成が義務化されましたが、ブルーイノベーションはユーザーに対して、飛行日誌を簡単に作成できるソフトウェアを提供しています。


これまではベーシックなドローン操縦に関するJUIDAとの連携をご紹介してきましたが、もう1つ、ブルーイノベーションがJUIDAとともに力を入れているのが「応用教育」です。自動車の世界では、普通自動車免許を取得したからといって、すぐにタクシー運転手になれるわけではありません。あるいは、重量トラックを運転するためには普通自動車免許だけでは不十分で、特殊免許を取得する必要があります。


ドローンの世界でも同様に、「一般的なドローンの操縦はできる」という前提で、「ドローンを活用して送電線点検を実施する」ためには特化した応用講習を受ける必要があります。そこで、ブルーイノベーションはソリューション特化型の応用教育プログラムを作成し、JUIDAが発行する操縦技能証明証の作成支援を行っています。その代表例が、2020年にJUIDAが発行した「プラント点検上級操縦技能証明証」です。ブルーイノベーションは、この証明証の発行プロセス設計に深く関わりながら、自らその技能証明証を取得し、プラントメーカーに対して点検サービスを提供しています。同社は、これまで、林野庁・大手通信キャリア・電力施設メンテナンス会社を顧客とするドローンソリューションに特化した教育プログラムの作成、および技能証明証の発行支援に携わった経験があるそうです。



こういった教育サービスを提供することで、ブルーイノベーションは10万人近くのパイロットとつながっており、ドローン点検の実証実験や受託運用を行う際に、パイロットを確保しやすい構図をつくることができています。


だいぶ説明が長くなってしまいましたが、ブルーイノベーションの強みは、目論見書に掲載されている以下の循環図に凝縮されていると思います。

(Source: https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202311082101.pdf)



事業数値推移

売上と経常利益だけピックアップして、2018年12月期〜2022年12月期をまとめてみました。この5年間の平均売上成長率を算出してみると、116%でした。

(Source: 目論見書から筆者作成)


なお、想定売出価格が1株あたり1,300円で、発行済み株式総数が3,829,351株なので、公募増資前の想定時価総額は約49億8,000万円となります。


2022年12月実績の売上が約9億800万円なので、売上に対する想定時価総額の倍率は約5.5倍となります。


この倍率にはさまざまな要素が影響を与えていますが、1つ重要な指標として挙げられるのが、同社も目論見書の中で強調している「ストック型売上比率」(売上に占めるストック型売上の比率)だと思います。


ドローン点検・物流・オフィス清掃の3事業は、まず実証実験で技術検証を行いながら業務委託料として売上を計上し、その後、顧客の要求に応えられることが証明できればソフトウェア利用あるいはロボット運用の継続的な契約形態に移行していく流れになっているようです。前者がフロー型売上、後者がストック型売上になります。また、この過程でロボット販売というフロー型の売上が発生していると思われます。


なお、目論見書の表現を見る限り、前述の教育サービス売上の多くがストック型売上になっていると思われます。


同社の公開情報によると、ストック型売上比率は、2021年が22.8%(1億6,600万円)、2022年が27.2%(2億4,700万円)、2023年第3四半期実績が29.6%と上昇傾向にあります。


今後さらにストック売上を上げていくためには、「いかに実証実験をスムーズに完了できるか」「いかに複数の実証実験を同時並行で走らせることができるか」に加え、一度実証実験フェーズを通過した顧客の拠点拡大が鍵になりそうです。特に、送電線やプラント等は、全国各地に拠点が存在するため、例えば千葉県の工場で効果が確認できれば、神奈川県の工場でも使ってみよう、となる可能性があります。


物流事業やオフィス清掃事業はもちろん、ドローン点検もまだまだ実証実験フェーズにある案件が多そうなので、上場してから、スピーディにストック売上を増やせるかどうかが試されていくタイミングかもしれません。


同社の今後の事業開発は、ドローンスタートアップにとっても重要な参考情報になりますので、今後も動向をウォッチしていきたいと思います。


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