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  • Shingo Sakamoto

スタートアップと現場の「人員削減」

「嫌な仕事は機械に任せて、人間はもっとクリエイティブなことに力を割けるように。」

これは、ここ数年で耳にする頻度が急速に増えたフレーズです。特にディープラーニングの登場以降、従来はできなかったような判別・推定ができる知能ロボットが増えてきたことが関係しているのだと思います。


とても耳心地の良い次世代的なフレーズなのですが、私はその言葉を語る人、語られる文脈など詳細を注意深く聞くようにしています。そもそもクリエイティブという言葉は曖昧ですし、何よりも、その大きな変化を企業で起こすということは、大変な痛みが伴うからです。



産業革命による機械の登場以来、AIの発展によって再び「人間から機械への代替」、というテーマが盛んに話題に上がっています。


ものづくり・物流・建設といった生産現場を持つ大企業における「人員削減・人員配置」について、改めてこのタイミングで考えてみようと思います。


この記事では、こうした業界を相手にB2Bソリューションを提供しようとしているスタートアップの方々向けに、大きなメーカーを経てスタートアップ投資をしている私が知り得る範囲で、大企業内の力学をご紹介しようと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E8%81%B7%E4%BA%BA-%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88-%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85-%E5%8A%9B-3094035/)


企業内での設備投資検討プロセス

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E7%BC%B6%E8%A9%B0%E5%B7%A5%E5%A0%B4-%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%B3-%E5%B7%A5%E5%A0%B4-%E6%A9%9F%E5%99%A8-1651131/)


私は製造現場を持つメーカーで、設備投資の検討を行ってきました。具体的には、新しい設備を導入する時に、投資する金額がリターンに見合うか、ということをさまざまな観点から考えます。


例えば、缶詰を製造する工場があるとします。流れてきた鉄板をプレスで筒状に変形させる機械、底面とフタを鉄板からくり抜く機械、そして溶接する機械、などいくつか設備が並んでいます。これまでは、缶詰が完成してから傷がないか目視検査をしていました。ここで傷が見つかると、傷をとるための切削処理を別枠でするか、それでも難しい場合はスクラップとして溶けた鉄に戻す、という選択をしています。


ここで、ある機械を導入することを検討します。それはこんな機械です。鉄板がプレス機に流れてくる前に超音波を当て、傷の深さ、種類(ひっかき傷、介在物、割れ傷)などから、

  1. そのままラインに流すか

  2. 鉄板の時点で傷の処理をするか

  3. 鉄板の時点で屑化するか、 を判断します。


この設備によって、最初に見つかった傷に対してどういう処理をすべきか、という判断が前倒しになり、余分な加工費用を浮かせることができるようになります。過去の統計値から無駄になっていた加工費用を算出し、設備導入によって何年で回収できるのかを考え、投資の意思決定を行います。


このように、導入前にどの程度コストが無駄になっていて、それが設備導入によってどれくらい改善できるのか、という観点で設備投資の検討を行ってきました。


あくまでこうした検討は一例にすぎず、老朽化したインフラの更新、環境・防災対策、新しいソフトウェアの導入など、さまざまな案件を手がけました。



人件費削減

導入する設備にかかる金額に対して、得られるリターンを計算する時に、「人件費削減」という項目がありました。要するに、これまで人がやっていた作業を機械に置き換えるということです。計算自体はわかりやすいのですが、そこで少し引っかかることがあったのです。それは「あれ、この"削減"した人たちはどこにいくんだろう?」ということでした。


周りの人に聞いてみると、なるほどと思われる回答が返ってきました。それは「本体社員ではなく、協力会社の人員を削減するので、解雇するわけではない」というものです。大きなメーカーは必ずしも現場のオペレーションを会社本体の直社員で回しているとは限らず、2次・3次・4次と協力会社(下請け会社、と表現されることがあります)の社員と協働していることがあります。


管理会計上、そうした方々のコストは労務費としての固定費ではなく、外注費として変動費扱いされていました(つまり、必要作業工数に応じて、従量的に金銭を支払うということ)。そうすれば、大規模なリストラの公募をすることなく、作業請負契約を切れば、ただちにコストを削減することができます。


それはごく当たり前の考え方だったのでしょうが、私の中ではどうもしっくりきませんでした。Smart Manufacturingとは、極限まで人員を減らし、製造原価あたりの人件費比率を下げることなのか。協力会社の方々がゼロになれば、次は直社員が人員削減の対象となるはずで。その場合、そういった方々はどこにいくのか?


もちろん、こうした議論をする時に必ず意見があるように、新しく導入した機械のメンテナンスや、機械に指示を出す監督的な役割など、新しい仕事がどんどん生まれてくるとは思いますが、基本的にコスト削減とは文字通り「一つ一つの要素コストを減らすこと」であり、ものづくりのような物理世界ではそれにも限界があります。


大企業が「人件費削減」をする時の難しさとして、「雇用創出」というキーワードが挙げられます。特に地方に工場群を抱えている企業は、その地域に莫大な雇用機会を提供しており、その点は無視できません。私がいた工場のある小さな街では、街の人口がおよそ10万人いましたが、直社員・協力会社の方々とそのご家族を合わせると、2~3割くらいは関係者だったと記憶しています。そういった背景もあり、街全体が工場の雇用状況に敏感でした。企業数が少なく、雇用の流動性も低いような地域であればあるほど、人員削減がもたらすインパクトは大きなものです。このように、企業によっては簡単に雇用を減らすわけにはいかない、という社内力学が働くことがあります。


もちろん、雇用を守ろうとするあまり、低い生産性のままジリ貧になってしまうことは、営利企業のそもそもの存在意義と矛盾します。ただし、特にスタートアップが大企業向けにソリューションを提供する場合、よっぽどのメリット(これを「10X」と呼んだりします)がない場合、「将来的の現場では、きっとロボットが今やっている人間のジョブを代替するのだから、今ここで導入すべきだ!」という説明では動きません。そこには、現場を持つ大企業が抱える「短期的な雇用の確保」と「長期的な企業成長」という非常に難しい命題が存在しているからです。


どんな企業の、誰の、どんなジョブを置き換えるのか

こうした学びをもとに、私は現場で使えるソリューションを提供しようとするスタートアップから話を聞く時、導入を狙う企業の「シチュエーション」を具体的にイメージするようにしています。

  • その機械(ソリューション)によって売上が増えるのか、コストが減るのか。特に人件費が減る場合、どの階層の、どの年齢層のワーカーの人件費が下がるのか。(できれば役職や等級までイメージする。)

  • 現時点でワーカーが不足しており、今すぐにでもその機械(ソリューション)が必要なのか。それとも、ワーカーは十分にいる状態で、彼らをそのジョブから追い出すことになるのか。

  • ワーカーのどんなジョブを機械に置き換え、そのワーカーが次にどんなジョブを行うか。また、クライアントはそのようなジョブの流動性を生み出せるような企業か。


細かすぎるかもしれませんが、それくらい現場を持つ産業における雇用創出機能は大きな意味を持っていると考えています。


また、こうした背景もあり、売上が増えるソリューションの方が、受け入れられやすいように思います。例えば、ある機械を導入すればプロダクトの販路が増え、コストも増えるけれど粗利はきちんと確保できる、こういったアプローチの方が検討する側のハードルは低くなります。


一方で、スタートアップ(に限らず全てのビジネスチャンス)は、常に顧客の課題からスタートします。だからこそ、わかりやすいコスト削減にたどり着きやすいのも事実です。それでも近年は、受発注を最適化して黒字を保証する製造業プラットフォームや、ドローンを活用してこれまでリーチできなかった場所に物を届ける物流ソリューションなど、売上にコミットするようなスタートアップも徐々に増えてきています。



コスト削減ソリューションでも、人ができるような"単純な"ジョブを機械に置き換える、というのはリーンな立ち上げが難しいケースが多いです。その場合、なぜ人間を置き換える必要があるのか、クライアントに短期的な10Xがあるのか、という納得感が欠かせません。例えばロボットの場合、初期は「人間ではどうしても遂行が難しいあるいは危険な」ジョブを深掘っていくことが大切です。


・人間の処理「速度」を明らかに超えられる、24時間止まることなく「動き続ける」

・人間が届かない「高さ」で動く

・人間が耐えられない「温度」の中で動く

・人間の目では見抜けないほどミクロな「サイズ」のものをあつかう

・人間の耳では聞き分けられない「音域」をあつかう

・人間の舌では判別できない「味」をあつかう


逆に、そこまで絞らないまま、「人間はクリエイティブな仕事に専念する」と言っても、具体的な話が前に進まないことがあります。人間は、(a)ある時は物を仕分け、(b)時としてミスをした後輩にアドバイスし、(c)ユーモアによって職場を盛り上げ、(a')また物の仕分け作業に戻ることができる、極めて優れた存在です。


人間に対する最大限の畏敬の念を持ちつつ、まずはどうしても人間が不足する現場から、あるいはどうしても人間の身体・知能では扱えないジョブから、段階的にソリューションを提供することが大切なのだと思います。そして(ここが重要なのですが)、人間から機械へとジョブを変更させる場合は、そのワーカーが次にどんな役職で何を担えば組織にプラスになるか、という点までクライアントと一緒に深堀って考えるコンサルティングが必要になるでしょう。そうしたアプローチこそ、「短期の雇用確保」と「長期の生き残り・成長」という、現場を持つ大企業が抱える課題を根本から解決しようとする戦略になります。


IDATEN Venturesでは、まさにこのように「現場」を持つリアルな産業において、顧客の現場課題を解決し、経営課題まで踏み込んでソリューションを提供するスタートアップへの投資・支援を通じて、真の業界アップデートを実現できるよう尽力してまいります。



IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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