皆さんご存知の通り、現在、COVID-19という名のウイルスが各方面で猛威を振るっています。
その結果、実体経済へのダメージも発生し、生命的にも、経済的にも、全く油断ならない状況が続いています。
そのダメージを総称して、コロナショックと呼ぶことにします。
本記事は、このコロナショックを切り抜けるために、同じく世界経済に大きなダメージを与えた直近の悲劇、リーマンショックからの学びを活かそう、という試みのもと、自分の考えの整理のために、書いています。
そもそも、リーマンショックとは何であったでしょうか。
リーマンショック
リーマン・ショックとは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称である(出典)
さて、ではなぜ米国の投資銀行が経営破綻したことによって、世界全体の株式市場が落ち込んだのでしょうか。
まずは、そこを改めて整理することで、現在のコロナショックとの類似点あるいは相違点を洗い出し、何か今後の対策につなげることができないか、考えていきたいと思います。
リーマンショックが発生する前、米国では住宅価格の高騰が続いていました。
その要因の一つが、サブプライムローンと呼ばれるものでした。
サブプライムローン
サブプライムローン(米: subprime lending)とは、主にアメリカ合衆国において貸し付けられるローンのうち、サブプライム層(優良客(プライム層)よりも下位の層)向けとして位置付けられるローン商品をいう(出典)
このサブプライムローンのおかげで、今まで住宅を購入することができなかった(=住宅を購入するためにお金を借りることができなかった)層が住宅購入できるようになり、結果、住宅に対する購入需要が高まることで、2006年あたりまで住宅価格が上がり続けました。
でも、当たり前のことですが、いくら購入需要が高まっても、いつかその需要に限界がやってきます。実際、2007年あたりから住宅価格は下がり始めました。
いわゆる、住宅バブルの崩壊です。
サブプライムローンを使って住宅購入していた多くの人は「このまま住宅価格が上がり続けるから、適度なところで住宅を売却して、儲けることもできる」と考えていたのですが、気づけば、その住宅を売却できる価格(=市場で誰かがその住宅を購入しようとする価格)が下がってきています。
早く住宅を売却しなければ、下手をすれば自分の住宅購入価格よりも売却価格の方が低くなり、儲けるどころか、ローンを返済できなくなってしまう、と皆が住宅の売却に急ぎます。
結果、住宅価格は下がり続け、ついには、サブプライムローンを返済できない人が続出し、この段階で、そうした人による個人需要が低減したことから、実体経済へのダメージは発生していました。
ところが、さらに悪いことに、当時の金融機関の多くは、このサブプライムローンをもとにした金融商品を開発し、派手な取引をしていました。
サブプライムローンが焦げ付き始めると同時に、その金融商品も立ちいかなくなり、そうした金融商品を多く取り扱っていた金融機関は、大きな損失を抱え込むことになります。
そうして限界を迎えた金融機関の一つがリーマン・ブラザーズで、2008年9月15日に経営破綻をしました。
すると、多くの金融機関はリーマン・ブラザーズと同じようなサブプライムローン問題を抱えていたので、「次はどの金融機関が破綻するのか」と金融機関同士の疑心暗鬼が始まります。
結果、金融機関同士で資金回収が相次ぎ、資金力がなくなった金融機関は自身の顧客(=お金を貸し出している先)から資金回収をせざるを得なくなり、いわゆる、貸しはがしや貸し渋りが多発してしまいます。
これにより、資金繰りが苦しくなった中小企業の経営破綻が相次ぎ、実体経済へダメージがさらに大きくなり、米国経済を一気に冷え込ませることになってしまったのです。
三国志における、かの有名な赤壁の戦いでの「連環の計」ではありませんが、グローバルでつながった経済においては、どこかの国が不調になれば、その他の国も不調になりやすいものです。
ましてや、その不調となった国がグローバル経済の中心的存在である米国となると、その影響は小さくありませんでした。
結果、世界経済は大きなダメージを負ったのでした。
この対応策としてとられたのが、資金不足となった金融機関への国からの資本注入です。
金融機関の疑心暗鬼を払しょくし、貸しはがしや貸し渋りが発生させないように、再び経済を回すことを狙って行われたものです。
これにより、確かに経済は上向きましたが、例えば、ダウ平均株価を見ても、リーマンショック前の水準に戻るまで、およそ1年半の歳月を要しています。
図1 2006年~2011年におけるダウジョーンズ工業平均の推移
上のグラフは、2006年1月から2011年12月まで5年にわたる、各月初のダウ平均を示しています。
もともと、住宅バブルの崩壊もあって2007年後半からダウ平均は下がり始めていましたが、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻ともに、半年かけて一気に$7,062.93まで下がっています。そして、その安値ピークから1年かけ、2010年3月1日に$10,856.63にまで戻っています。
リーマン・ブラザーズ破綻の日から半年も株価が下がり続けたのは、実体経済へのダメージが徐々に深刻化したせいだと考えられます。
公的資金を注入して金融機関の救済のあたったものの、時すでに遅し。
既に先行された貸しはがしや貸し渋りで破綻した企業が続出してしまっており、それが失業率の悪化につながり、それが個人需要の低下となり、さらなる企業の破綻につながり、という悪循環に陥ってしまったのでした。
その悪循環が出尽くすのに半年かかり、そこから1年かけて回復してきた、ということだと思われます。
リーマンショックからの学びとしては、もちろん「住宅価格が上昇し続ける」というような根拠がなく危険な前提に立った貪欲な金儲けを追わない、というものもありますが、より転用化可能性が高い学びとしては、
① 連鎖的な経済ダメージを生み出す要因(リーマンショックにおいては金融機関の資金不足)を早期に解消する
② 経済的にどこかが倒れたら連鎖的に他も倒れてしまう密結合ではなく、状況に応じて柔軟な切り替えが可能な疎結合の状態を維持する
というものではないでしょうか。
この学びを、足元のコロナショックに、どう活かしていくべきか、考えていきたいと思います。
今回のコロナショックの原因は、冒頭でも触れた通り、2019年12月に中国の武漢で原因不明のウイルス性肺炎として最初の症例が確認されたCOVID-19ウイルスです。
感染力が強く、その上、感染しても発症するまで数日を要することから、感染者が無自覚でウイルスを媒介してしまう危険性があるものであり、さらに致死率も決して低くはなく、2020年4月7日時点で、世界で確認されている感染者数だけでも141万人以上、死者数8万人以上(出典)、しかも現在もその数字が増え続けている、という恐ろしいウイルスです。
このウイスルを封じ込めるため、各国は人の移動を制限し、人から人への感染を最小化させようとしているにも関わらず、です。
今回、そうした人の移動の制限が実体経済を停滞させてしまい、それが直接、経済ダメージにつながっています。
この点が、金融機関の資金不足から始まったリーマンショックとは大きく異なりますが、この先、停滞した経済から連鎖的な経済ダメージを生み出してしまうか、ここで食い止めるか、そこにこそ、リーマンショックからの学びを活かしたいところです。
そして実際、各国は連鎖的な経済ダメージが発生しないように、一度停滞してしまった経済から企業や個人が資金不足に陥らないよう、次々と資金援助を打ち出しています(リーマンショックからの学び①に該当)
日本も、GDPの2割にあたる108兆円の緊急経済対策を打ち出しました(出典)
これらの緊急対策により、急落した株価も、リーマンショックの時のように半年ほどかけてダラダラと下がり続けず、現時点で持ち直しているように見えます。
ただし、そもそもの原因であるCOVID-19が終息しない限り、どこまで持ちこたえることができるか分かりません。いつまでも人の移動を制限し続け、そこから生じる経済損失を国が補填し続けるわけにはいきません。
無理な補填にばかり頼っていては、やがでどこかで限界を迎え、再び底が抜けたバケツのように、経済は2度目の大きな落ち込みをしてしまうことになってしまいます。
それを防ぐためにも、全員一丸となってCOVID-19の終息を早めていきたいところです。
人との接触を控える、手洗い・うがいを徹底する(COVID-19に感染しない、媒介しない)、それでいて経済をなるべく止めないように適切な消費・経済活動を続ける、ということが重要でしょう。
後者の文脈で、今、人との直接的な接触をすることなしに、経済活動を行うことができるようなサービスや技術に、注目が高まっています。
ビデオ会議システム(例えばZoom、直近はセキュリティ問題の指摘もあり株価が下がってきていますが、2020年1月末に$76.3/株でったものが2020年3月末には約2倍の$146.12/株にまで高騰)や、クラウドソーシング、その他オンライン系でサービス提供する企業の業績は高まっています。
私が専門とするスタートアップ投資の世界においても、やはり、そうしたオンラインで何らかのサービスを提供する企業への注目が高まっています。
COVID-19の発生地となった中国においては、各国に先駆けてCOVID-19による混乱が収束し始めており、経済活動の復調が観測されています。
なかでも、スタートアップ投資の領域においては、人の移動を可能な限り制限したロックダウンで大きな影響を受けた製造業や教育業において、人と人が直接接触することなく製造や教育を推進できるような次世代製造業やオンライン教育を展開するスタートアップへの投資が活発化している、という報告もあります(出典)
これは実はリーマンショックからの学び②にも通じるものがあり、オンライン化(あるいはデジタル化)されていることで、モジュール化が効きやすく、何かあったら柔軟に切り替えていきやすいものとなっていきます。
昨今、こうしたデジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれることが多かったですが、残念ながら、平時はなかなか進まなかった部分があります。
皮肉にも、今回のコロナショックでデジタルトランスフォーメーションが一気に進む部分がでてくると思います。
こういった風刺も出てきています。
今回のコロナショックは、そうした意味で、スタートアップ投資にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
ちなみに、リーマンショック時、スタートアップ投資の世界はどうなっていたかということを、最後に見ておきたいと思います(出典)
図2 2006~2012年におけるラウンド別のスタートアップ資金調達件数
興味深いことに、シリーズA~シリーズCはリーマンショックが発生した2008年後半以降、全般的に2009年、2010年と資金調達件数を落としていますが、シードにおいては、むしろ件数が増加しています。
その背景として、出典記事の著者 Gené Teare さんは、下記の考察を述べています。
「2006年のAWS登場、2007年のiPhone登場で、クラウド×モバイルという技術的なフロンティアが拓かれ、そこから、魅力的な未来を描く新たなシードが多く立ち上がったから」
このころ、シード期であったスタートアップといえば、例えば Airbnb(2008年創業)、Uber(2009年創業)、Stripe(2010年創業)など、まさにクラウド×モバイルによって、シェアリングエコノミーやモバイルフィンテックなど、新たな未来を創り出した革命児たちです。
今、足元にはAI関連技術、3Dプリンティング技術、量子コンピューティング、5G、ドローン、AR/VR、ブロックチェーン、ゲノム編集技術など、多くの新しい技術が実用化段階に入ってきています。
今回のコロナショック以降、人と人とが直接接触しなくても経済活動が回る仕組みの確立、デジタルトランスフォーメーションが加速するでしょう。
その中で、どんなシードスタートアップが、どんな技術を駆使して、どんな未来を描くのか楽しみでもありますし、シードベンチャーキャピタルとして、この転換期の一助になりたいと、強く思っています。
でもその前に、何よりも健康が大切です。
まずは、全員一丸となって、COVID-19の早期終息に向けて全力で取り組んでいきましょう。
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