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  • Shingo Sakamoto

アメリカの物流スタートアップ SmartHop:小規模トラック運送会社の支援者

今回は、2022年4月にシリーズBラウンドで3,000万ドル(≒40億円)の調達に成功したアメリカのスタートアップ SmartHopをご紹介します。


SmartHopは、小規模トラック運送会社の経営改善に資するインテリジェントソフトウェアを提供しています。SmartHopのプロダクトはどんな課題を解決しているのか、いまアメリカのトラック運送市場に何が起きているのか、そして日本市場で同様のアプローチが成立するか、可能な範囲で考察していきたいと思います。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/自然-道-木-木材-風景-3348420/)



SmartHopの会社概要

SmartHopは2018年にアメリカのフロリダ州マイアミで創業されたスタートアップです。創業者のGuilemo Garcia氏は、元々ベネズエラでトラック運送会社を経営し、かつドライバーとして働いていた経験を持っています。


SmartHopは、小規模トラック運送会社に対して、輸送案件のソーシング、受注案件とトラックの最適な紐つけ(ディスパッチ)を簡単に実行できるプラットフォームを提供しています。それだけではなく、割安な保険加入・燃料調達から車両リース提供まで、小規模事業者が事業立ち上げから経営の改善まで使えるサービスを展開しています。


それでは、SmartHopが提供するサービスを、もう少し細かく見ていきましょう。

①ディスパッチ

SmartHopのプラットフォームの核となるのが、ブローカーおよび複数のマーケットプレイスから輸送案件を統合検索できるエンジンです。このエンジンを用いて検索すると、トラック事業者は、高い報酬の輸送案件を見つけることができるそうです。


事業者がスケジュールや案件を選択すると、プラットフォーム側から最適な輸送計画をレコメンドしてもらえます。例えば、まず都市Aから都市Bまで荷物Xを運び、都市Bでピックアップした荷物Yを都市Cまで運びましょう、といった具合です。事業者が得られる合計収益が最大化されるよう、自動計算されます。

(Source: https://www.smarthop.com/dispatch/)


②スマートペイ

いわゆるファクタリングサービスです。SmartHopのディスパッチサービスを利用しているトラックの依頼に対しては、業界最安の手数料で当日払いのファクタリングサービスを提供します。


③保険

SmartHopが代理店となる形で保険サービスを提供しています。一般的に、トラック保険に入ろうとすると、各保険会社が指定するフォーマットに合わせて個別に書類作成やミーティングを実施する必要があります。SmartHopのプラットフォームを利用すれば、書類が自動作成され、トラック事業者は各保険会社からの見積もりを一度に閲覧することができます。


④燃料カード

SmartHopが提供する燃料カードを利用すると、SmartHopが提携する4万5,000箇所のガソリンスタンドにおいて、割引価格で燃料補給ができます。このカードは、通行料の支払い、車両メンテナンス費用の支払い等にも対応しており、資金管理ダッシュボードに情報が自動連携されます。


⑤リース

トラック事業に参入を考えている人は、適切な運転免許証を保有していれば、SmartHopとトラックのリース契約を結び、すぐに運送サービスを開始することができます。新規参入事業者は、SmartHopでトラックを借り、輸送案件を見つけ、最適なルートを組んでもらい、売上をその日のうちにもらうことができます。



SmartHopの資金調達と事業進捗

次に、資金調達と事業進捗について見ていきましょう。


〜シードラウンド

2019年7月にプレシードラウンドで12万ドル(≒1,500万円)、2020年7月にシードラウンドで450万ドル(≒5億円)を調達。こちらの資金調達ニュースによれば、シードラウンド実施時点で従業員は30名ほど在籍していたようです。


〜シリーズAラウンド

シードラウンドから7ヶ月後の2021年2月、1,200万ドル(≒15億円)のシリーズAラウンドに成功。前回ラウンドを実施した2020年7月から2021年2月というと、アメリカでCOVID-19感染者数が急増した時期です。(以下の図は、アメリカにおける1日あたりCOVID-19感染者数の推移)

(Source: https://www.nytimes.com/interactive/2021/us/covid-cases.html)


COVID-19本格化に伴って巣ごもりが進んだことで、EC需要も増加し(2021年は2020年に比べてEC売上が14.2%増加)、荷動きも活発になりました


旺盛な配送需要の後押しを受けて、SmartHopは事業を成長させました。資金調達ニュースによれば、シリーズA時点で社員は50名、サービス利用トラック台数は100台と書かれています。年間売上高は約40〜50万ドル(≒5,000〜6,000万円)規模とのことです。


シリーズAラウンドのタイミングで、ディスパッチサービスに加えて新サービスをローンチしました。1つが、顧客がトラック燃料や保険商品を安価に調達できるよう支援するサービスです。一般的に、小規模事業者は保有するトラック台数が少ないため、燃料・保険の単価が高くなる傾向にありますが、顧客が保有するトラックを集約するSmartHopが間に入ることで、燃料販売事業者・保険会社に対する交渉力が上がります。


もう1つが、請求書のファクタリングサービスです。1.5ヶ月の売掛債権をSmartHopが買い取り、トラック事業者に24時間以内に支払いを行います。


〜シリーズBラウンド

シリーズAラウンドから14ヶ月後の2022年4月、3,000万ドル(≒40億円)のシリーズBラウンドに成功しました。社員数、サービス利用トラック台数は公開されていませんが、代わりに2021年の実績が開示されました。サービス利用回数1万5,000回以上、顧客の総走行距離1,400万マイル(≒2億2,200万km)です。



アメリカのトラック輸送市場の変化

アメリカトラック協会の公表するところによると、アメリカのトラック輸送は国内貨物輸送に対して重量ベースで72.5%を占めており、金額ベースでは7,323億ドル(≒80兆円)で国内貨物輸送に対して80.4%を占めています。(データは2020年)


トラック輸送市場は巨大である一方、事業者のほとんどは小規模事業者が占めています。具体的には、91.5%の事業者がトラック保有台数6台以下、97.4%が20台以下です。

(Source: ​​https://www.trucking.org/economics-and-industry-data)



日本の市場と比較してみると、日本のトラック輸送は国内貨物輸送に対して重量ベースで91.6%を占めており、金額ベースでは約14兆円で国内貨物輸送の約7割強を占めているようです。


アメリカのトラック輸送市場規模は日本の約6倍となります。また、日本の場合は、55.2%の事業者がトラック保有台数10台以下、76%が20台以下となり、アメリカは日本よりも小規模事業者が占める比率が大きいようです。

(Source: https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/student_2020.pdf)


アメリカのトラック輸送市場は、こういった業界構造も影響しているのか、SmartHopのシリーズBラウンドの資金調達ニュースに「元々、小規模トラック事業者は、バックオフィス業務に忙殺され、また低賃金荷物の輸送によってマイルあたり収益が低いことで経営が圧迫されていた」と書かれています。


一方で、COVID-19によって、トラック運送会社はより緊急的に経営改善を進める必要に迫られたようです。2021年12月にはホワイトハウスから、以下のような声明文が発表されました。

  • パンデミックによって、歴史的な量の輸送需要が発生している一方、港・倉庫・流通センターでの積み下ろし待ち時間が以前に増して悪化している。

  • それによって、長距離トラックのドライバーは、法律で1日最大11時間の運転が許可されているのに対して、平均6.5時間しか運転できていない。トラックドライバーは、荷物を待っている時間は無休であるケースが多く、トラックドライバーの生活は苦しくなり、離職が続いている。


事業者にとって、ドライバーに十分な給与を用意し、採用を進めるために、高単価の貨物を効率的に輸送するという必要性は増してきているようです。


さまざまなプレスリリースや資金調達ニュースを見ると、SmartHopは「事業者の収入を増やす」ことを最も大事なポイントとして認識しているようですが、最大の鍵になっているのはディスパッチサービスだと思われます。ここで、高単価の輸送案件を効率的に組み合わせることができてこそ、事業者の収入が増え、ドライバーを雇うことができ、より多くの輸送案件を獲得する、という好循環に入っていくことができます。



日本市場で同様のアプローチが成立するか

多少の違いこそあれ、日本とアメリカのトラック輸送市場の構造は類似しています。小規模事業者が大半を占めている点、パンデミックによって宅配荷物が増加した点、長い荷待ち時間によって労働環境が厳しい点等は、その一例です。


また、こういった背景から、日本でもアメリカ同様に、深刻なトラックドライバー不足が発生しており、有効求人倍率は過去10年で右肩上がりになっています。

(Source: https://www.mlit.go.jp/common/001242557.pdf)



一方、アメリカと日本の間で少し異なるのは、年齢別の人口バランスです。アメリカの生産年齢人口(15〜64歳)は全人口の約65.5%を占めており、日本の生産年齢人口比率である約59.7%より約5.8%高くなっています。もしかすると、アメリカの方が、労働環境改善や賃金上昇によって、トラックドライバー採用に即時的効果が現れやすい可能性があります。

(Source: https://www.populationpyramid.net/ を参考に作成)



物流を取り巻く問題は複雑で、とにかく事業者収入が増えればすぐに好循環が始まる、という単純な仕組みではないかもしれませんが、事業者の運送効率を上げるソリューションはやはり重要です。

例えば、今回ご紹介したような、いかに高単価の案件をソーシングし組み合わせるか、という「ディスパッチ」は今後も注目が集まりそうです。(この点、IDATEN投資先のシマントは、独自のマルチバリューデータベース技術を応用して物流の配車業務を圧倒的に効率化しており、物流業界の課題解決に貢献しています。)


また、日本でも昨今トラックマッチング(求貨求車)サービスが増えてきていますが、アメリカ市場でも起きているように、個別のサービスが乱立することで、事業者がかえって複数サイトを何度もチェックしなくてはならなかったり、それに伴ってディスパッチ業務が複雑になったり、新たな課題が生まれることもあります。


今回調査したSmartHopのプラットフォームも参考にしつつ、日本の物流課題克服に貢献していきたいと思います。

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フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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